第四十一話
「それで?」
「へ?」
「へ?じゃなくでだな、この話題を出してきた目的は何だ?と聞いているんだ。俺の素性を探りたかっただけか?」
「え?あ、ううん、違うよ。確かにあの絵の出所を知りたいとか、木下君自身が転生者本人か確かめたいっていうのも本当だけれども、本題っていうか言いたいことは別にあって」
「・・・俺が転生者本人かどうか確かめたかった?そんなこと確かめてどうするというんだ?」
「うん、木下君が私のことについて誤解している部分があるなって思ったんだけれども、もし木下君じゃなくて身近な人が転生者だったとしたら、その人ともお話をしたいなって思ったから」
もし転生者が木下君自身じゃなくて木下君のご家族とか身近な人が転生者で、木下君に私の事を忠告していた。とかだったのなら木下君の誤解を解くだけじゃ足りないかもしれないと思ったんだよね。余計なトラブルを巻き起こさないためにもその人ともお話をしないといけないと思っていたけれど、それは取り越し苦労だったみたいだね。
「誤解だと?」
「誤解っていうか何ていうか、ほら、スケッチブックを届けた時とか美術館で会った時とか言ってたじゃない。『俺を攻略するつもりだったのなら諦めろ』とか『成松君を狙うんだったら玲奈さんに気を付けろ』とか」
「ああ、言ったな。それで?攻略するつもりは無いから俺の言っていることは誤解だとでも言いたいのか?」
ちょっとだけ表情に険が出てきたかな、警戒されているっぽいね。まあ、ヒロインに転生した人間がこんなこと言い出しても信じられないっていうのも分からなくもない。
でも、その言い方だと半分正解で半分不正解なんだよね。
「私が誤解だって言いたいのは”ヒロイン”としてとか、”プレイヤー”として攻略する気は無いよってこと、そもそも私、前世で「キュンパラ」を買ったはいいけれど結局プレイできずに転生しちゃったからね、攻略するしないの前にシナリオの内容とか攻略方法とか分かんないし」
玲奈さんだったら知っているんだろうけれど、多分、聞いても教えてくれないだろうしね。まあ、仮に教えて貰えたとしても、だからといってどうこうするつもりも無いのだけれども。
この世界が「キュンパラ」というゲームに似た世界、ゲームを元にした世界だとしても、こうしてみんながみんな、自分の思うままに生きている以上は現実の世界だ。なのにゲームの通りに行動すれば攻略できる、なんていうのは思い上がりであろうし相手に対してとっても失礼なことだと思う。
「攻略する気が無いだと?だったら何故こんな話をする必要がある?関わる気が無いのなら放っとけばよいだけだろう?まあ、決めつけられていたことが気に食わんというのなら謝るが」
「え?別に関わる気が無いだなんて言ってないよ、こうやってお話をしようって思ったのは木下君にあんな風に誤解されてちゃ仲良くなれないなって思ったからだもの」
「はあ?だったら誤解でも何でもないだろう」
「大違いだよ、言ったじゃない”ヒロインやプレイヤーとしては”って。私は私、前世の記憶を持つプレイヤーでもヒロインとしてでもない、森山華蓮という一人の人間として攻略対象でもなんでもない木下直昌君という一人の人間と仲良くなりたいんだもの」
「木下君だけじゃないよ、成松君や智也くん、稔君とも仲良くなりたい。それだけじゃなくて玲奈さんや那月ちゃん、由美や沙耶香にクラスメートのみんな。せっかく知り合えたんだもの険悪な仲になるよりも仲良しになれた方が平和だし素敵だよね」
なんかすごく恥ずかしいこと口走っちゃってる気がするけれども構うものか、だってまごうことなき本心だし。
それに、ポカンとした表情をする木下君だなんて、レアなものを見れたのだし良しとしよう。うん、良し!
「あ、でも最初からそう思っていた訳じゃないよ。最初の頃──前世の記憶を思い出した頃は余計なハプニングに巻き込まれない様になるべくゲームのキャラクターには関わらない様にしようってビクビクしてたし。」
なにせイベントの中身とか全く分からないし、それなのに私なんかが襲い来るハプニングの嵐に対抗できるだなんて思わなかったし、今も思わない。
「特に木下君なんてねえ、入学式では豪快に居眠りしているし起こしたら睨まれたし、その後も朝一の授業では大体寝ているしでもう、不良とかそういう怖い人なのかって思ってたから尚更にねえ」
「・・・この体は異様に朝に弱いんだ。それに、起こされるとやけに不機嫌になるのも自覚してる。入学式の時は相手がお前 だったこともあって余計に態度がキツかったかもしれない、悪かったな」
でも、同じ部に入部してからは意外と面倒見がいいってことも分かったし、ちょっとぶっきらぼうにだけれども雑談を振ればしっかりと返してくれるしで、怖い人なんかじゃないってことは知っている。
今もそう、ニヤニヤと少しだけ意地悪な口調で言ってみればばつが悪そうにそっぽを向いて言い訳をしながらも謝ってくれる、耳まで赤くしながらね。
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