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第四十話

 周囲に軽く視線を巡らせる。あんまり顔を動かすと怒られるのであくまで軽く、ね。

 美術室は一クラスの人数が作業しても余裕が出来るようにスペースをかなり広く取られてて、作業に集中できるように部員たちもそれぞれのペアで散らばっている。なので、内緒の話をしていたところでよっぽどこちらに集中して聞き耳でもたてていない限りは聞き取られることも無いだろう。まあ、聞かれたところで特段に隠さなきゃいけないようなことでもないし、せいぜいが思春期特有の病気が治り切っていないと思われて私の精神に多大なダメージが発生するだけである。はあ、やっぱりやめようかなあ?


 「ねえ、木下君」


 「・・・なんだ」


 「あの・・・、あの時のスケッチブックに描かれていたのってとんがり豚トロさんの絵だったよね?」


 「・・・ああ、そうだな」


 「あれを描いたのって木下君・・・だよね?」


 「そうだ」


 だよねだよね、ここで「いやー街中で偶然会っちゃってさあ、スケブお願いしたんだよね。いつも持ち歩いてて良かったわ」とか言われたらそっちの方がビックリだし、誰だよコイツってなるもんね。

 まあそれはさておき、言質取れましたね。あの時はチラッとしか見れなかったし、間違いないとは思っていたけれどもそれでもあくまで私の推測でしかなかったし、こうしてバッチリ本人の口から確認を取ることが大事だよね。

 


 「ということは・・・、木下君も豚トロさんのファンだったんだね!?しかもこっちの世界に来てまでトレス絵を描いちゃうくらいの!」


 「・・・は?」


 呆気にとられたような顔をしているけれど私には分かっているんだからね。ここまでで判明している事実!いち、私も木下君も転生者である。に、私の認識でも木下君の認識でもとんがり豚トロさんはこちらの世界に居ない。さん、豚トロさんの絵を木下君が持っていて描いたのも自分であると証言している。ほら、以上で証明だよ。


 「そっかそっかぁ、あのね木下君ってどう見ても男の子なのになんで『キュンパラ』みたいな乙女ゲームのこと知っている風だったのかなって思っていたんだけれど、豚トロさんのファンだったならそっち方面から知っていたんだね。あのゲームのキャラデザも豚トロさんだったもんね」


 「おい・・・」


 「あ、そうだ!あのゲームのこと知っているのなら作中で使われてたスチルなんかも描けないかな!?私も豚トロさんのキャラデザだからってパケ買いしたんだけれどね、実際にプレイする前に転生しちゃったからストーリーとかも全然知らなくて、何よりイラストが一枚も見れなかったことの口惜しさと言ったら」


 「ちょっと待て」


 「チラッとしか見れなかったけれど木下君の絵、すごい上手かったもんね、もう本人が描いたんじゃないかってくらいに──」


 「止まれ、阿呆が」


 ベシンとそれなりに痛くはないが軽くもない衝撃を頭に受けてハッと我に返る。つい結構な勢いで捲し立ていたようで周りの部員たちの視線もこちらに集まっているしでなんだかちょっと、かなりいたたまれない。


 「十分経った、交代だ」


 さっきまでの私の剣幕を何事もなかったかのようにスルーするとクロッキー帳を脇に置いて適当にポーズを取って座るとそのまま無視を決め込んだかのようにしてしまう。

 こちらからの注文は受け付けてくれるようで少しばかり座り方を修正してもらってから描き始めると周りの温かい目をした部員らも自分たちの作業に戻ってゆく。


 「・・・あの絵はトレス絵じゃない、俺の絵だ」


 「え?」


 交代で勢いが削がれたのと我に返ったときの気恥ずかしさで話を続けることが躊躇われたまま無言の空間が形成されて少し、ポツリと呟かれる木下君の声。


 「だから、ファンなんかじゃなく、俺が本人だと言っている」


 「木下君が、とんがり豚トロさん、ですか?」


 ま・さ・か、のご本人様でした!せっかく、同志!が出来たと思ったのに。ああ、いや、それはどうでも良くて、ファンとかトレス絵とかめっちゃ失礼なこと言った気がする!


 「ごめんなさい!ご本人様とは露知らずファンだのトレス疑惑だのととんだ失礼を、豚トロさんの絵が大好きでいつも豚トロさんの絵がアップされていないかって張り付いたりもするくらいで、だからこちらの世界に来て探しても居ないことに落胆して、でもまたあの絵が見られて、見られるかもって舞い上がってしまいまして」


 「いや、そこは気にしなくていい、が──なんでいきなり敬語になっているんだ?」


 「え?だって、ファンでしたし、年上ですし?」


 年上だよね?まさか学生の身の上でゲームの作成に関わっていたとか漫画みたいな話にはなっていないよね?


 「ファンや年上と言ってもそれは前世の話だろう。今は同い年で同級生だ、タメでいい」

 

 「あ、はい。いや、えっと、わかり・・・わかった、うん、そうする」


 まさかまさか、だよね。ゲームの制作サイドの、しかもキャラデザをしていた豚トロさんがこちらに転生してきて同級生になっているだなんて。この話、玲奈さんは知っているのかな?教えたら驚いてくれたるするのかな。

お読みいただき、ありがとうございます。

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