表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/119

第三十八話

 実のところ、前世の世界と今の世界、全く別の世界だってことは「キュンパラ」に関する諸々の差異で判っていることなんだけれども、共通点だってそれなりに多い。

 むしろ、「あ、ここが違うなあ」なんて違いに気付けるのなんて私が生まれる前後何年から十何年くらいから、要はネットワークが普及して簡単に大量の情報に触れることが出来るようになってからで、近代以前のような歴史になっていることみたいな事柄については殆どいっしょなんだよね。もしかしたら私が知らないだけでここが違う!ってこともあるかもしれないのだけれども、教科書に載るような昔の事なんて今となっては確かめようもないし、多少違いがあったとしてもそう大した問題にもならないと思う、多分。

 それで、件の私が絵を描く事に目覚めるきっかけを与えてくれた画家さんやその作品は共通点の方。絵という前世と今で共通の趣味にハマった切っ掛けも同じ人の同じ作品というのもおもしろいと思う。



 「──で、私もこういう絵が描きたいな、と幼少の頃の私は思ったわけなのですよ」


 等というようなことは当然、成松君は知らないし教えられるわけでも無いので取りあえず私が絵を描く切っ掛けになったのがこの画家さんの作品なんだよ、ってなことを説明中なのです。

 送ってもらってる最中に美術館の展示の看板を見つけて寄っていきたいからここまででいいよ、と切り出したところ、「なら俺も付き合うよ」と申し出られて現在、二人並んで鑑賞しながら動機の説明などをしていたりして。


 「へえ、この方の絵を見て・・・。それじゃあ、もしかして進学先は教授の在籍されている芸大を目指していたりするのかな?」


 「ううん、どうだろう?絵を描くことはどちらかというと趣味の範疇だしなあ」


 興味が無い、と言えば嘘になる、かなあ。直接教えてもらえたりしたら嬉しいんだろうけれどもね。でもなぁ・・・、芸大、受験かぁ。


 「もし、そっちの進路に興味があるようだったら百武ももたけ先生に相談してみたらいいんじゃない?確か、あの人もそこの大学の出身で、教授も教え子のひとりだって仰っていたし」


 百武先生というのは我らがクラスの副担任にして美術部顧問の先生のことね。へえ、あの先生の出身校でもあるのか。

 ・・・それにしても、


 「成松君、結構詳しいね? もしかして、お知り合いだったりするの?」


 「教授も清鳳の卒業生で、祖父とは同級生だったみたいでね、その関係で家が後援みたいなこともしているんだ。何度かパーティでお会いしてお話を聞かせていただいたことがあるんだよ」


 おおう、意外なところで意外な繋がりがあるものだね。

 


 あの作品が好きだとか、この作品はここがいいよねだとか、好き勝手に二人だけのプチ品評会を開催しながら順路をゆけば、今回の目的の作品のところまで辿り着きましたよ。

 

 「あれ、木下君だ」


 「ん? ああ、森山・・・に、成松か」


 と、思っていたら意外なところで意外な人物が、というほど意外でもなんでもないか。タイミングというか時期的には意外と言っていいんだろうけれども、実際に私や成松君だってここにいるんだもんね。

 でもまあ、テスト期間直前というこのタイミングで鉢合わせている時点でなんという偶然だ、とは思うけれどもね。


 「すごい偶然だねえ、テスト直前にのんびり美術鑑賞だなんて、余裕ですか」


 「その言葉はそっくりそのままお返しするぞ。のんびりデートしてるお前等には負けるわ」


 「デート違うし、図書館で勉強しようとしたらたまたま一緒になっただけだし」


 「そうか・・・」


 そう言って少しだけ目線を下げて黙り込んでしまう。何かを言い淀んでいる?っぽい雰囲気と言うのかな?


 「森山」


 チョイチョイと手招きしながら名前を呼ぶということは何か内緒の話でもあるのかな?

 

 「成松を狙うのはいいが、”こっちの宇都宮玲奈”は手強いぞ?”ぎゃふん”されないように気を付けるんだな?」


 成松君に聞こえない様に声を落として何を言うのかと思えばそんなアドバイス?で、こっちが何かを言い返す前にさっさとその場を去って行ってしまった。

 ああ、そう言えば木下君には私の事、転生してきた「キュンパラ」のプレイヤーでこっちでも攻略を狙ってる、みたいに思われているんだっけ。誤解なんだけれど、それからも別段対応が変わることもなくて部活でも普通に接してくれていたし実害なかったから忘れかけていたよ。

 言いふらしたりとか何かをするような人ではないと思うけれど、一応誤解は解いておいたほうがいいよねえ。もし何かあったら成松君や玲奈さんにも迷惑がかかっちゃうだろうし。

 

 「・・・森山さん、木下と仲いいね?」


 「えっと、そうかな? まあ、部活も一緒だし、他の男子よりかはよく話すかな?」


 本当はもっとゆっくり見て廻りたかったのだけれども、なんとなく気分も削がれてしまったので今日はもうお開きということでまたテストが終わったら来ることにしよう。

 

 

 

  

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ