第三十七話
成松君に御馳走になったお昼は目が飛び出る!というほどではないけれども、それでもランチメニューとしては少しお高めかなという価格帯で、上品なお店の内装と相まって、普段、友達とお昼を済ませる時なんかは「チャチャっとファストフードでお手軽に」派な私としては本当にこんなところでお昼奢ってもらってもいいのかなと内心ビクビクものだったりして。そのあとちゃっかり三段アイスまで頂いている人間の言ではないかもしれないけれど。あ、日替わりランチの夏野菜たっぷりの冷製パスタは大変美味しゅうございました。
お昼ご飯とデザート替わりの三段アイスをしっかりと平らげたあとはまた自習スペースに戻ってテスト勉強の再開です。
午後からは午前中のような出来事もなくテスト勉強は順調な進捗を見せた。所々で詰まりそうなところを成松君に教えてもらったりしながら・・・、逆に私から教えてあげるような場面は皆無だったわけで、お昼含めて今日一日お世話になりっぱなしな気がしないでもない。いや、気の問題でなく厳然たる事実としてお世話になりっぱなしだし何かお礼でも考えておいた方がいいよね。
「・・・んんぅ」
一区切りが着いたところで前のめり気味だった姿勢を反らして伸ばせばパキパキと小気味良い音がする。家を出る時点ではもっと気軽にやるつもりだったのだけれども、一緒に勉強する相手がいることで張り合いがでたのか思いのほかしっかり集中できたみたいだ。
ふと隣を見てみれば空席でいつの間にか席を離れていたみたいで、そういえば何か飲み物でも買ってくるとか言っていたっけ、などと考えいると──。
「お疲れさま」
「ひゃわっ!」
労いの言葉と同時に首筋へ感じた冷たい感触に思わず変な言葉が出てしまった。・・・うう、油断した、周りの視線が痛ひ。耳まで赤くなってることを自覚しながら元凶を睨んでやればゴメンゴメンと謝りながらもしっかり笑ってるし。笑ってやがるんじゃないやい、ちきしょうめえ。
まあ、差し出されたペットボトルには罪はありませんのでしっかり頂きますけれども?あ、因みにここの図書館の自習スペースはペットボトルとかしっかり蓋のできるものに限って飲食というか飲み物については持ち込みが許可されているよ。
図書館を出たところで鬱陶しくなるような暑気にお迎えされる。時間は三時を少し回ったというところで外はまだまだかなり暑いのだけれども、閉館時間まで粘ったところでそれほど涼しくなるわけでもなし、丁度集中力も途切れてきたということで臨時のお勉強会はお開きにした。決してあのまま自習スペースに居づらくなったとかそういう理由ではないよ。
「暑いのに、わざわざ出てくることないのに」
「まあまあ、好きでやっているんだしいいじゃないの」
バスで来た私と違って行きも帰りも車だというのでここでお別れだねと言ったところバス停まで送ると言って成松君と二人でバス停までの長くはない道程の途中。
最初は家まで車で送ってくれると言ってくれたのだけれど、そこまでしてもらうのも流石に申し訳ないかなという気がしたのでそこは遠慮したら、ならバス停までは送らせてよと言う。暑いのだからとか、バス停から戻る分二度手間になるだとか理由を付けて遠慮してみたものの、のらりくらり?とかわされて結局、俺がやりたいからと押し切られてしまった。こちらも本気で嫌だとかではなくて、してもらいっぱなしなのは申し訳ないという程度なのでそこまで言われたらもうお願いしますと言うしかないかなと。
そうして二人で歩いていると行きの時には気づかなかった看板が目に入ってきた。ああ、そういえば今週からだっけ。
「ごめん、成松君。せっかく送ってくれてるのに申し訳ないんだけれど、ここまででいいや」
「え!?急にどうしたの?」
「うん、アレを見ていこうかなって」
アレと言って指を差したのは図書館の隣に併設されている美術館の展示のお知らせで、テストが終わったら行こうとチェックしていたのだけれど、今丁度目の前に居るのだしせっかくだから寄っていきたくなってしまった。
看板で大きく広告されている画家はずっとこの地域に根差して活動をされている方で全国的にも評価が高く、今はある芸術大学で客員の教授をされている方だ。
なんでこんなこと知っているかっていうとファン、というかとても好きな画家のひとりだから、ってことになるのだけれど、ここでちょっと面白いことがあるんだよね。
この画家の方のファンになったきっかけというのは子供の頃に両親に連れられて美術館で見た絵に一目惚れをしたというだけのことなのだけれど、それは今の私のことでもあり、前世の私のことでもあるんだよね。
もちろん、時期も場所も違うのだけれども、子供の頃に見た絵は、好きになった絵は、絵を描くようになったきっかけは同じという前世と今の私の共通点なんだよね。
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