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第三十六話

 資料を探してくると言った手前、手ぶらで戻るのもなんだか恰好が付かないし、資料が欲しかったのも確かなので書架を適当にぶらつきつつ今やっている所の資料を数冊ほど見繕う。

 途中、文学・小説の棚やら美術書・画集の棚やらにフラフラと浮気してしまいそうになったけれどもなんとか気を取り戻して誘惑を断ち切ることに成功。今度、涼しくなったら暇なときにでもまた来よう。

 そうして成松君に告げた本音と建て前?の両方の用事を片付けて自習用のスペースに戻ってくれば自分の席が無くなっていた件について。

 机や椅子が物理的に無くなっていたとかそういう大げさな話じゃなくてですね、単に私が使っていた席が見知らぬ誰かさんに占拠されていましたってだけの話なんだけれどね。私の席に座っている子以外にも、成松君を挟んで反対側の席や、机の正面側にと計三人の娘っ子に包囲されているご様子。

 私が席を離れてから十分ほどしか経っていないというのにこの食いつきのよさよ。おいおい、こんな場所でまで逆ナンかいという呆れよりも、感心が先に来てしまうのは正直、仕方ないんじゃないかなと思う。

 感心やら呆れやらでつい、自習用スペースの入口で足が止まってしまっていた。この図書館の自習用スペースはそれなりの広さを用意されているので、入口から私が使っていた席まではそれなりに距離が開いているのだけれど、それでも彼女たちの話し言葉が断片的にではあるものの聞こえてくる。

 彼女たちも自分たちが今いる場所のことは弁えているのか、多少は声量を落としてはいるものの、元々の場所が場所だけに感情の乗ってしまった声は少々落とした程度ではそれなりに通ってしまうようで、周囲の利用者さん方が若干うるさげにしている。

 私って今からあそこに戻らなきゃいけないんだよなあと思うと回れ右したくなるけれど、筆記用具やらの荷物が人質にとられているのが問題なんだよね。最悪、筆記用具程度なら置いて行ってもあとで成松君に届けてもらうとかすればいいんだけれども、クラス一緒だし。しかしまあ、スマホやら財布やらまで置いていくのはちょっと無理かな、とくればあの空間に突入する以外に選択肢は無いかなあ。

 

 「えぇ~、清鳳学園に通ってるんですかぁ、名門じゃないですかぁ」

 

 「あそこってレベル高いことでも有名ですよね、あ、もしよかったら私たちに勉強教えてくれませんか?」


 「あ、それいいよね。あたしらも来週から試験なんだけど、分からないとこ多すぎでピンチだ~って言い合ってたもんね」


 ううん、今からでも引き返してもいいかな?だって、ここで私が入っていったらとっても揉め事とか起きそうだし、騒ぎになるくらいなら席くらい譲るよ私は、うん。その際に彼女たちに勝ち誇られそうだし、その表情を想像してみると癪に障るのも事実だけれども、騒ぎを起こして今日の炎天下の中に放り出されるよりかは幾分かマシだろうから。

 気分を如実に反映した足取りで向かってくる私に気が付いたのか振り向いた成松君と目が合った。かと思えば、すぐさまその目に悪戯心が宿っていくように見えたのは私の気のせいだろうか。


 「あ、おかえり。ごめんね、”彼女”が戻ってきたから席、空けてくれるかな。それと、今日は”彼女”と一緒に来てるから勉強を教えるってのも遠慮してほしいかな」


 言葉って便利ですよね。その高すぎる顔面偏差値を利用しつつ彼女彼女と連呼しおって、娘っ子たちは勝手に誤解してくれるでしょうね。勿論の事、私はそういう意味じゃないことは解っているし、よしんばそういう含みを持たせていたとしても百パーセント方便だと理解できるので誤解などしませんとも。

 ただまあ、解ってはいても並外れたイケメンから自分に向けて発せられるその言葉の威力はかなりなものでつい赤面してしまいそうになる。してしまっている?経験値が低い(無い)ので相応に防御力も低いのですよ。

 場所を弁えてくれていたのか、イケメンぢからに負けたのか、特に騒ぎになることもなく席に戻ってくれた娘っ子たちに誰にも気づかれない様にそっと安心の息を吐く。去り際にこっちのこと睨まれたような気がするけれども気にしない、気にしない。

 娘っ子たちも席に戻って周囲も落ち着いたところで隣に声を掛ける。勿論、周りに聞こえない程度には声は落としてあります。


 「あっちに混ざっても良かったのに、なんなら私が席を譲っても良かったんだけれど?」


 「それ、わかってて言ってるよね? あ、もしかして怒ってる?」


 「特に私が怒るような理由も要因もなかったと思うのだけれども、そういう風に感じているのだったらこのあと何か奢ってくれてもいいんだよ?」


 「わかった、ちょっと早いけど昼食に行こうか。今の時間ならまだどこも空いてると思うし、勿論、俺が奢らせていただきますよ」


 「ああっと、そういえばここに来る間にアイス屋さんの移動販売やってたよね」

 

 三段アイス、ゲットしました。

お読みいただき、ありがとうございます。

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