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第三十五話

 降りる予定の停留所の名前が車内アナウンスが聞こえてきたところで今まで読んでいた文庫本に栞を挟んでから降車ボタンを押す。窓から車外に目を向ければ道行く人たちは皆、半袖やノースリーブなどの涼し気な装いをしていても尚滴る汗を拭ったり、ペットボトルから水分を補給したりと十者十様に暑さに辟易としているようで、あと数分もしないうちに自分も冷房の効いた車内から放り出されるかと思うと気が遠くなりそう。

 私の気が遠くなろうが外の暑さに絶望しようがバスの運転手さんには関係の無いことで、バスは何事もなく停留所に到着し、酷暑地獄へ数人を吐き出すとそのまま走り去っていってしまった。

 早速とばかりの暑気のお出迎えは強めに効いていたバスの冷房とのギャップもあってか、一層に暑く感じられてすでに肌にはじっとりと汗が浮かんできている。夏休みまではまだ数週間もあるというのに、今からこの暑さでは夏本番では如何ほどなんだろうか。

 まあいつまでも外にいても暑いだけなので、さっさと目的地に向かうとしましょう。目的地についてしまえば中はまた冷房が効いているだろうしね。



 今、私が目的地に設定し目指しているのは市の運営する図書館だ。並の図書館より豊富な蔵書を誇る清鳳学園の図書室に委員会の仕事でとはいえ一般の生徒よりは余程多く足を運んでいるのに休日にまで市の図書館に向かう理由は、率直に言って試験勉強のためだったりして。

 清鳳学園では来週の頭から、というか明日から一週間を使って期末試験が繰り広げられるのでその対策のために図書館の自習室を利用しようと向かっているわけなんだよね。

 普段であればエアコンの効いた自室からわざわざ暑い中図書館へ出向くなんてことはしないんだけれども、その頼みの綱のエアコン様が壊れてしまっては致し方なしなのである。

 一応、修理の依頼は出しているのだけれども、急に暑さが増したせいか設置工事や私と同じような故障の修理依頼で業者さんの予定が埋まっているみたいで修理に来られるようになるのに数日かかると言われてしまった。そのことで苦情なんかが殺到しているのか終始申し訳なさそうにされてはこちらとしても文句は言いづらいので、修理の人が来るまではエアコン無し生活で我慢なのである。

 不幸中の幸いというか夜間はまだまだ気温は涼しめで寝苦しいということは無いし、平日の日中なら学園の校舎は全館冷暖房完備なので問題ないのだけれども、流石に休日の日中は如何ともし難し、と。これが試験前とかで無ければ居間でゴロゴロしてるという選択肢もあったのだけれどね。居間で勉強をすればという意見もあるかと思うけれど、休日の居間は夫婦の語らいの場になっているので普段ならそれほどでもないんだけれど勉強に集中するには少々難があるんだよね。まさか、勉強するから出ていけとも言えないし、言わないよ。

 バス停から図書館までは徒歩で五分程、方向は違うけれど似たような距離に鉄道の駅もある為か休日ということもあって図書館の利用客はそれなりに多く、他の学校でも試験の日程が近いのか学生っぽい年代の占める割合が大きいかな。

 そんな図書館に向かう人たちの中にとても珍しい人影を見つけてしまったよ。一瞬、脳内に声を掛ける、掛けないの選択肢が浮かび上がってきたけれども、どちらかを選択する前に相手もこちらに気付いたようで、こちらに寄ってきてしまった。


 「や、森山さんも図書館で試験勉強?」


 「こんにちは、そのつもりなんだけれども。”も”っていうことはそちらも試験勉強をしに来たの?」


 問い返しはしたものの、正直、成松君が試験勉強をするために図書館を利用するというイメージが湧かない。いやまあ、図書館を利用したら悪いってこともないし、私の勝手な人物像というか偏見みたいなものなんだろうけれどもさ。

 

 「そうなんだよね、普段は勉強するのに図書館を利用することなんて無いのに──あ、グループ学習で何度か使ったことはあるよ、個人の話ね。で、今日は何故か朝から無性に図書館に行きたい気分になってて、で、試験前だしついでだから自習でもしようかなって。森山さんはここの図書館はよく利用するの?」


 「私も普段は勉強は部屋でやる方かなあ。今日はたまたまというか、部屋のエアコンが故障しちゃってて避暑兼試験勉強といったところ」


 道端で話をしていても暑いだけなので、そのまま連れ立って図書館に向かう。入館したところで「それじゃ」って分かれるわけにもいかず、利用目的も同じなので一緒に自習の出来るスペースに移動して隣り合った席を確保。まあ、お互い勉強目的なのだし、世間話をするような場所でも場合でもなし黙々とお互いの勉強を進めるだけなんだけれども。

 

 「ちょっと資料を探してくるね」


 小一時間ほどそうして自習を勧めたところで成松君に一言断ってから席を立つ。成松君にはああ言ったのだけれども実際は別の目的があったりして。まあ、なんだ男の子相手には大っぴらには言いにくいよね。

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。

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