閑話6
「ねえ、それって___で使われていた曲じゃない?たしか、OPの他にも作中でもちょくちょく流れてたわよね」
一人で気を抜いていたせいか、まさか人に聞かれているなんて思わなかった私はひどくビックリしたことを覚えています。
「江里口さんもあのアニメ見ていたのね、私も___は好きだったわ、あの年のアニメの中では一番の傑作よね」
私が好きだったアニメのことを好きだって言ってくれたのが嬉しかったり、あの宇都宮先輩がアニメを見ていることが驚きだったり。とても遠くに感じていた学園中の憧れの存在がいっきに身近に感じられて、つい捲し立てるように話しかけてしまっていることも気付かない程にのぼせ上ってしまいました。
「あ、ごめんなさい。宇都宮先輩の誕生日パーティだっていうのにこんな話で引き留めてしまって・・・」
「うふふ、いいわよ、私も久々に思う存分に発散できたもの。あの学園じゃあこういった話題は挙げることもできないものね、私も同好の士がいてくれて嬉しいわ」
学園の中では初等部の低学年の頃までならまだしも、高学年に上がるころには漫画やアニメは幼稚なものとして話題に挙げるのも憚られるような空気が醸成されていてとてもではありませんが漫画やアニメが好きだなんて言い出せずにすこし肩身の狭い思いをしていたのです。なのに、私の感情任せのお話にも気を悪くすることも無く、お友達になりましょうとまで言ってくれました。
「これからは那月ちゃんと呼んでもいいかしら?そのかわりに私のことも名前で呼んでくれて構わないわよ」
「あ、はい。えっと・・・玲奈・・・様?」
「やあね、様付けは勘弁してちょうだい、まるで本物の悪役令嬢みたいじゃない。お友達になってくれるならもっと親しみを込めてくれたものが嬉しいわ」
「? あの、じゃあ・・・お姉様ってお呼びしてもいいですか?」
私が好きだったあのアニメ、そのお話の中で主人公の女の子が特別に仲のいい先輩のことをそう呼んでいて、学校に通うことも出来なかった私はそんな関係にとても憧れていて羨ましくて、宇都宮先輩のことをどうお呼びしたらって考えているときについ脳裏に浮かんだことが口に出てしまっていました。
私の提案にちょっとだけ目を見張った後に、「___みたいね?」と揶揄うような表情でそう呼ぶことを許してくれた玲奈お姉様。
誕生日のパーティの主役が一人を相手にそうも長く時間を割ける訳も無くそれから程なく玲奈お姉様とはその日はそれでお別れして、特別でフワフワした感覚はその日のベッドの中まで続いていました。
(あれ?あのアニメってこちらでは一度も放映されていないよね?だったら、何で玲奈お姉様はあのアニメのことを知っていたんだろう?)
眠りにつく前のひととき、やっと冷めてきた頭に浮かんだその疑問は、それから間もなくあっさりと解消してしまいました。
「他の人には話さない」、両親と交わしたその約束を破ってまでの勇気と覚悟を胸に突き付けた疑問に、玲奈お姉様は拍子抜けするくらいにあっさりといろいろな事を教えてくれました。
前の世界の事、「私もそうなんだよ」ってその世界でどのように暮らしていたか教えてくれました。私が前の世界のでの生活のことを話したら抱きしめてくれました。
今の世界の事、ビックリしました。この世界がゲームの世界で、智也がとっても重要なキャラクターで私もそのゲームに登場しているらしくて。
私がそのゲームの事を全く知らないと伝えたらそのことに驚いたみたいで少し考え込んでいるみたいでした。
でも、本当にビックリですよね。智也はなんだかぽわんぽわんとしていて、双子の私でも何を考えているのかときどきわからなくて、とてもじゃないですけど誰かと恋愛関係になることが想像できないのに。その智也に(ゲームの中ですが)あまあまでらぶらぶな恋人が出来るなんて、その人はどんな人なんでしょうね?
玲奈お姉様が高等部に進学されて少し経った頃、その人のことを教えてくれました。
私達と同じような境遇の方で、以前玲奈お姉様が言っていたような電波?な人でもなくて、「きっと那月ちゃんとも趣味が合うから仲良くなれると思うわ」と教えてくれました。
それから程なくして、智也からもしばしばその人の名前を聞くことがあって。人見知りというかなんというか、人の好き嫌いについては動物的というか本能的なところのある智也に初対面からそれほどまでに懐かれる人に私もムクムクと興味が湧いてきました。
どんな人なんでしょうか、智也の恋人候補?ということならもしかしたら私の本当のお義姉様になってくれるかもしれないってことですよね?仲良くなってくれるでしょうか。
今日は定例の職員会議です。中等部も高等部も部活動や委員会は全てお休みで下校の時間はみんな一緒です。玲奈お姉様から「昇降口に向かったよ」って連絡が来ました。はしたないですけど待ち伏せしてしまいました。胸がドキドキします。
お読みいただき、ありがとうございます。




