第四話
倒れ込むヒロインの正面にヒーローとくればその後に待ち受けるは一緒になって倒れ込んだ拍子にあわやラッキースケベな展開が!?と危惧するものの、とさり、と軽い音とともにあっさりと受け止められてしまいましたとさ。
ちらりと見た感じでは結構、線の細そうな体形に見えたものだけど、こうして受け止められて実際に接触してみると服の下に隠された肉体は華奢とは程遠く、それなりに鍛えられていることが窺えますね!
一応、私の方もヒロインに転生したものの矜持として体型維持には気を遣っていますから?理想的な体重は維持できていると自負していますよっと、その辺りのスペックはかなり高いらしく前世の涙ぐましい努力の軌跡に較べれば努力というのも烏滸がましい程度はありますが、その辺は流石のヒロインちゃんと言ったとこか。
その甲斐もあってか一緒に倒れ込むという惨事にまで発展することは防がれた訳です。まぁ?主人公と攻略キャラが縺れて倒れてラッキースケベなんて展開は男性向けのギャルゲー用のイベントにこそ相応しいのであって乙女の夢の詰まった乙女ゲームのイベントには相応しくなく、こうして受け止められて感じる男性の頼もしさにドキッとする方が正しい展開なのでしょうよ。
ちなみに、倒れ込む際に聞こえてきた乙女ゲームのヒロインどころか乙女そのものとしてもどうなの?ってレベルの悲鳴は幻聴です。私には何も聞こえなかった、いいね?
「あっぶなぁ、おい、大丈夫か?」
「はっ!?いえ、あの、大丈夫です・・・」
うわっ、間近で見るとあり得ないくらい整った美形だわ。掛けられた声で軽い現実逃避に妄想へと発展しそうな取っ散らかった思考を一旦収めつつ顔を上げれば、前世で一目惚れした二次元がそのまま三次元になってどアップに。
収まりかけた思考がまたパニックを引き起こしそうな感覚に後押されて慌てて離れようとするも、受け止められた際に掴まれた肩に置かれた手はそのままで、一向に体が離れる様子もない。いや、私は離れようとしてるんだけどね?なんだか腕に力が入らないというか、決して超イケメンとの接触がもったいなくて離れたくないとかいう訳じゃないんだよ?
こちらがなにやらうごうごしているのを相手も察してくれたのか、肩に置いていた手でもって体勢を直してくれる。結構、無理な体勢でもたれ掛かっていたらしく、あのまま自分で離れれていたらへたり込んでしまってたかもしれない。
実際のところ、ビックリし過ぎて腰が抜けていたのか手を放してもらった瞬間にへたり込みそうになって再度、抱えなおされる。なんだ、この密着プレイは、は、恥ずかしい。
「はうぁ・・・。か、重ね重ねすみません・・・」
「いや、いいよ。俺の方もちょっとした役得だし?」
あれぇ?なんか、反応が軽い?っていうか気安い?成松勝彰って俺様系って紹介されてなかった?もっと、こう「俺様にもたれ掛かってくるとは、いい度胸だなあ?」みたいな反応が返ってくるもんだと思ってたのだけれども。ゲームと性格が違うのかな?いや、実際のゲーム内でどんな性格だったかは知らないだけれどもね?
「で、いつまで往来で抱き合ってんの?朝早くとはいえ、ずっとやってたら人目も増えるわよ?」
「あのなぁ、お前のせいだろうが。いきなり他人を押し倒すとか何考えてんの?」
「ナンノコトカナー」
通り一遍どころか、立ち絵の隅にちょこんと載った断片程度の情報で、それでも感じる違和感に自分の知る情報との差異について考察(現実逃避とも言う)に耽る私の頭の上を飛び越えて交わされる言葉の遣り取りに逃避を試みていた意識を現実へと引き戻す。
どうやら、私を押し出してくれやがりました犯人様は逃走もせずに、未だ背後にてこれまでの経緯を見物されておられたらしい。
犯人の面を拝んでやろうとふり返ると、これまたとてもとてもな美人さんが。っていうかこの人、どこかで見たことあるな?これくらいの美人さんだと見かけたらちょっとやそっとじゃ忘れないと思うんだけれどもどこっだっけか。
ああ、あれだ、取説で見たんだ。敵役だかライバル役だかみたいな感じで成松勝彰の隣に載ってたんだわ。名前はたしか「宇都宮 玲奈」で、成松勝彰の婚約者だとか。婚約者とか、割とベタな配置だよね。
・・・婚約者、なんだよね?ゲーム的に言ってもライバルキャラとか悪役キャラとか、そんな立ち位置なんだよね?なんで、そんな人が、こんな私と攻略キャラの出会いイベントみたいなことを起こそうとする訳?
「私のことよりも、その娘、いつまでも抱きかかえてないで、立てないなら休めそうなところに連れて行ってあげたら?」
「ああ、もう、分かってるよ。お前、後で説教だかんな」
「はいはい、覚えてたらねー」
婚約者なのかどうかはともかく、実際に気安い間柄なのだろうと思われる遣り取りが交わされるなか、数少ない情報を頼りに多少なりとも準備をしていた覚悟とは全く違った方向へとひた走る現実に目を白黒させていると、ヒョイとでも擬音がつきそうなくらいにあっさりと軽く抱え上げられてしまいましたよ、私。
読んでいただき、ありがとうございます。