第三十三話
結局、智也くんたち双子と一緒にお茶をすることになり一路目的のお店へ。
車で移動することは聞いていたのだけれども、お迎えにやってきた黒塗りの高級車を見てやっぱり遠慮するべきかなんて考えもしたものの、上目遣い攻撃に敢え無く陥落してしまった。
ただでさえ、一人でさえ、その魅惑に打ち勝つことは困難だというのに両手側から二対の視線がこう「一緒に行かないの?」って訴えてくるんだよ、勝てる人なんているのかな?私は勝てなかったよ。
「え、ほんとにこのお店に入るの?」
到着した目的地はいかにも高級そうなホテルのいかにも高級そうなカフェで・・・、えっと、今お財布の中っていくら入っていたいたっけ。
「ご心配なさらずとも、お誘いしたのはこちらですから。お会計はこちらで持たせてください」
「え、でも」
「実はここ、実家が経営しているホテルなんですよ」
「ええ!?」
お財布の中身が心配なのは事実とは言え流石に年下の子に御馳走になるのも気が引けるとうかなんというか、僅かばかりの葛藤を乗り越えやっぱりここは遠慮をというところで驚きの事実が。
「たまにこうして様子を見に来ているんですけど、やっぱり身内の意見というものはどうしても甘くなりがちで、だから森山先輩にはお客様としての鋭い視点で意見を貰えたらと思いまして、できれば今後の経営の参考になるようなものを」
ハードル高っ!・・・まあ、これは遠慮せずに何でも頼んでくださいねってことなのかな?じゃあ、お言葉に甘えさせていただこうかな。流石にこんなとろにまできてお水だけで結構です、なんて恰好がつかなすぎるもんね。
はあ、それにしても、実家がこんなお高そうなホテルを経営してるってことにも驚いたけれど、那月ちゃんって凄いしっかりしている子だよね、私よりも落ち着いているかも。双子の智也くんがどちらかというとぽやんとした印象の子だから尚更にそう思うのかも。
注文をしようとメニューを開くもカタカナの羅列でさっぱりだわ、中には予想のつくものもあるけれども大方は名前からじゃどんな品が出てくるか予想もつかない。仕方ないので双子のおススメを教えてもらったりウエイターさんに質問してみたりしてなんとか注文を済ませる。
注文の品が来るまでのひとときに目立たない様にさりげなくキョロリと周囲を見回す。なんだか自分がひどく場違いなところにいるようで落ち着かない。
流石にこれまで一度もこういった高級店を使ったことがないとまでは言わないけれども、それは何某かの記念日や行事があったりというのがほとんどで、学校帰りにちょっと寄っていく、なんてことはとてもじゃないけれど選択肢にすら上らないレベルだよ。だから、なんというか心構えが足りないんだろうなあ。
「華蓮おちつかない?」
「落ち着きませんか?すみません、無理にお誘いしたようで・・・」
「そんなことないよ!こうしてお茶に誘ってくれたことはとても嬉しかったから、ただ、ちょおっとこういう高級なお店は慣れていないかなあって・・・、ごめんね、気を遣わせちゃって」
「そんな・・・!あ、それでしたら今度は森山先輩のお勧めのお店を教えていただけませんか、普段はどういったお店に行かれてるのか気になります」
目立たない様にやっていたつもりが二人にはバレバレだったみたいで気を遣わせちゃった。少し気落ちした感じの様子に慌ててしまう。これじゃあどっちが年上だかわかんないよね。
おススメのお店かあ、この前に稔君と行ったあの喫茶店とか値段もお手頃だったし落ち着ける雰囲気でいいんだけれど、裏道にあるしトラブルに会ったばっかりだしこの二人を連れて行くのはどうなんだろうね。
脳内でいくつかのお店をリストアップしているところでウェイターさんがやってきて注文の品がテーブルに並べられてゆく。
私が注文したものはメニューのカタカナじゃよくわからなかったけれど、まあ普通にチーズケーキだ。ただし、お味の方は双子のおススメということもあって普段食べているようなコンビニのスイーツとは一線を画す美味しさでした、コンビニスイーツもあれはれでとっても美味しいんだけれどね。口当たりのなめらかさが~とか、チーズの風味が~とか月並みな表現しか出てこない自分の語彙力がうらめしい。
「ん~~、美味しい!」
「ん、こっちもおいしい」
普段ではなかなかありつけない味わいに舌鼓を打っていると何故か那月ちゃん側ではなく私の隣に座っていた智也くんからフォークを差し出される。フォークの先に刺さっているのは智也くんが注文したタルト、載っているフルーツは柑橘系っぽい。クリームの甘さに柑橘系の酸味が爽やかでこちらはこちらでとても美味しい。
こちらもお返しにチーズケーキのおすそ分け、口に含むとすぐに頬が緩むさまはとっても可愛いのだけれど口の周りにクリームがついちゃっているね。
紙ナプキンを使って口周りを拭いてあげると目を細めて大人しく拭かれるがままに、うん、綺麗になった。
「そうしているところを見ると、なんだか森山先輩との方が本物の姉弟に見えますね」
お読みいただき、ありがとうございます。




