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第三十二話

 ある日の放課後、今日は委員会の当番もなく美術部のほうもお休みだ。サボりじゃないよ、今日は職員会議があるとのことで教職員たちは全員が会議に参加するみたく監督者がいないので部活動は全てお休みになるのだ。

 万が一、監督者がいない状態で怪我をしたりなどの事故があったら大きな問題となってしまう。その点でいくと清鳳学園には”良いところ”の子供たちを多く預かっているので殊更に気を遣っている部分であるらしい。

 という訳で、今日は生徒の活動は必要最低限を除いて軒並みお休み、生徒の皆さんは早めの帰宅を、ということなのですよ。ちなみに、職員会議といっても何か問題が起きたとかではなくて定例のものらしい。

 事前の周知があったので降って湧いたと表現するほどでは無いのだけれども予定が空いてしまっているのもまた事実で、さてこの後どうしようか。

 

 「あ、智也くん」

 

 呼び止めるつもりはなかったんだけれども、放課後の時間の使い方に頭を悩ませながら歩いていたせいか、前方に見つけた見知った顔につい名前を声にのせて呟いてしまう。

 周りには他にも学園生がいてそれなりに喧騒があるなかで呟き程度の小さい筈の声音でも届いたらしくこちらを振り返る。こういう喧騒の中でも自分に馴染みの深い言葉はよく耳に入る、みたいなことを何て言ったっけ、パーティーカクテル効果?だっけ?などと益体の無いことなんかを考えながら結果的に呼び止めたことになってしまった相手に挨拶くらいはしなきゃと意識を戻す。

 ほとんど無意識に顔だけ見て名前を声に出していたけれども、意識が戻ってきて人物の全体像に目がいくようになったところで気付いたけれど、前に会った時と服装が違ってる。智也くんも女の子の恰好をしていたら誰も男の子だって分からないような可愛らしい顔つきをしているけれど、以前会ったときは男子の制服を着ていたように歴とした男の子だ。なのだけれど、今、目の前にいる智也くんと同じ顔をした人物は女子の制服を着ている。


 「ごめんなさい、人違いっていうか、男の子と見間違えるなんてすごい失礼だよね、ほんとボンヤリしすぎだ私・・・」


 「いえいえ、普段からよく間違えられるので気にしていないですよ。さすがに制服を着ているときというのは初めてですけど」


 「う、ほんとにごめんね」


 流石に女の子を男の子と見間違えるなどという失礼に重ねて謝りつつ様子を窺うとコロコロと音がしそうな笑顔でこちらの間違いを気にした様子も無いように見えホッと息を吐く。

 

 「もしか・・・しなくても智也くんのごきょうだいだよね」


 「はい、智也の双子の姉で江里口えりぐち那月なつきといいます、森山先輩」


 「ん、それはウソ。ぼくが那月のおにいちゃん」


 「あ、智也くん」


 後ろから割り込んできた声にふり返ってみれば今度こそ男子の制服を着た智也くんがいた。


 「何言ってるのよ、病院の先生だってそう言ってらしたじゃない。わたしの方が先に出てきたって」


 「ん、おばあちゃんがいってた。あとからでてきたのがおにいちゃん」


 私そっちのけで言い争いが始まってしまった。ただ、お互いやりあい慣れているのか険悪な感じは全くしないうえにお互いのやり取りが可愛らしくて気を抜くと頬が緩みそうになる。

 普通のきょうだいならどちらが上かなんて決まり切っているけれど、その辺、双子になるとどちらが上かというのは永遠のテーマになるのかな。後になってちょっと調べたけれど公式な判定によると先に取り上げられた方がお兄ちゃんないしお姉ちゃんになるみたいだ。けれど、後から出てきた方が上の子という認識も一般の中で根強く、特に年輩の方なるほどその認識が強いみたいだった。まあ、当人同士にとってみればそういった周囲の意見とは関係なしにどちらが上かという争いはあるみたいだね。


 「あ、ごめんなさい。森山先輩のこと無視するみたいになっちゃって」


 「ううん、やっぱり双子だからかな?二人とも仲いいなぁって。それと私のこと知ってたんだね、智也くんから聞いてたのかな?改めて、森山華蓮です。今年から清鳳学園高等部の一年生だよ」


 「はい、智也が人のことを話題にするのって珍しくって、だから是非ともお会いしたいなって思っていたんです。よろしくお願いしますね、森山先輩」


 随分としっかりとした子だね、智也くんがどこかぽやんとした印象の子だから尚更にそう見える。印象だけでどちらがお兄ちゃんかお姉ちゃんかって言われたら那月ちゃんがお姉ちゃんって言われた方がしっくりとくるよね。まあ、智也くん的にはそういった扱いが不本意なんだろうけれどね。

 中等部の方も今日は職員会議の日らしくてみんな校内の予定なしの早上がりで江里口姉弟も姉弟でお茶をしてから帰ろうという話になっていたみたいで、今は待ち合わせ兼、迎えの車を待っていたとのこと。

 その迎えの車もそう時を置かずにやって来てここでお別れかなというところでお誘いを受けてしまった。


 「華蓮もいっしょにいこ」


 「あ、それいいですね!森山先輩、これから予定などありますか?よろしければ先輩もご一緒にどうですか?」


 

お読みいただき、ありがとうございます。

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