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第三十話



 「あれ?」


 相方にカウンター業務を任せて返却本を棚に戻してまわっている時にソレに気が付いた。


 「スケッチブック?名前は・・・無いか」


 忘れ物らしきスケッチブックがポツンとテーブルに取り残されている。周りを見渡してみるも持ち主らしき利用者も見当たらない。棚戻し作業のついでに見回っていた感触では閉館時間も近いので利用者の数も少なくその数少ない利用者も机に向かって読書なり自習なりをしていて少なくともこのスケッチブックの持ち主はもう図書室内に居ないんじゃないかなと思う。

 見つけたからには放っておくことも出来ないので全ての本を片付けてからスケッチブックを持ってカウンターに引き返すと流石にこの大きさのものは目立つもので、相方もすぐさまに私の手にあるものに気が付いたようだ。


 「あれ、どうしたのそれ、忘れ物?」


 「うん、そうみたい。ただ、名前が・・・ね」


 カウンターの中に戻り相方にもよく見えるように表、裏とひっくり返して見せる。


 「中は確認したの?」


 「いや、それはちょっと・・・」


 流石に学園内に持ち込んでいるものに見られて困るような内容があるとも思えないけれど、本人の許可なしに勝手に中を見るのはどうなんだろう。私は特にそういうのは気にしない──見られたところでありきたりな風景画や静物画がならんでいるだけだし──けれども、自分の作品を他人に見られることをひどく嫌がる人も居るし。

 まあ、結局のところその人の物なのか確認する時に中を見ないといけないんだろうけどね。

 学園内でスケッチブックを持ち歩く人物か、今日美術の授業で課題でも出てたのか美術部員か・・・ってさっきまで木下君が来てたじゃないか。そう言えばこれが置かれていた机は美術関連の棚の近くだったし、木下君が来た方角もそっちからだった気がする、多分。


 「それの持ち主、木下君かもしれないからちょっと確認してくるよ」


 「木下?ああ、美術部だっけ、来てたんだ。わかったー、じゃあ別の人が名乗り出てきたらそう伝えておくよ」


 

 今日の活動内容は聞いていなかったけれども一先ずということで美術室を覗いてみれば、木下君を発見。よかった、今日は室内で活動していたみたいだ。

 

 「木下君」


 普通に室内に入っていってもよかったと思うんだけれども、なんとなく今週は部活動を休んでいるという事情からか入口から声をかけて木下君を呼び寄せる。

 

 「森山か、どうした?」


 「ああ、うん。これなんだけれど──」


 「あ!?」


 木下君の?──と、言い切る間も無く取り出そうとしたスケッチブックに心当たりがあったのか、短い気付きの声を上げつつ私の手からソレを受け取ろうと──奪い取ろうとした。

 タイミングが合わなかったのか目測を誤ったのか、つまるところスケッチブックは木下君に手渡されること無くトサリと地面に落ちた、閉じたままではなくあるページを見開きで。

 そこに描かれていたものは風景画や静物画ではなく人物画で、それもデッサンやクロッキー等の美術の時間に描くようなものでもなく、ある意味見慣れた──アニメやゲーム等で使われるようなキャラクターデザインのものだった。



 唐突だけれどもここで前世と今の世界の差異を少しだけ。

 まず、国名や地域の名称にわかる範囲での違いはなく、時代はほんのちょびっとだけこちらが未来。

 前世の世界も今の世界も、辿ってきた歴史に大きな差異は無く、興った国々や支配者の名前に違いも無く年代も一緒で、だから前世の記憶が覚醒してからでも歴史の授業で混乱せずに助かっているんだけれども。

 ただ、大きな差異はなくとも小さな差異はあるもので、例えば成松君や玲奈さん、彼等の実家は超が付く大家で、手掛けている事業はその業績や動向をニュースを見ていればかなりの頻度で目にする我が国を代表する世界でも有数の大企業だったりするんだけれど、前世ではその名前を聞いたことは無い。いや、確かに前世の私は世界の経済情勢に明るいとは言えなかったけれども、それでも受験生ということもあったのだしニュースはそこそこ見ていたのだよ。

 まあ、その辺は置いておいて、活躍している企業、人物──芸能人や著名人等、それと流行しているテレビドラマやアニメ、ゲーム、漫画なんかにも結構差異は見られる、ということはそういったものに絵や音楽を提供しているクリエイターにも違いがある訳で。

 で、何が言いたいか、というと。私は開かれたスケッチブックに描かれていたキャラクターデザインの画風に見覚えがあって、それが今世の、ではなく前世のことで。

 前世で好きだった絵師さんがこちらでも活動していないかと探してみたけれど見つからず、どうやらこちらにはいないのかと落胆していたその人の絵が目の前に、「キュンパラ」のキャラクターデザインも手掛けていた人の絵が。


 「これって、とんがり豚トロさんの?」


 「ッ!? その名前をどうして!?」


 「それはだって、私の好きだった絵師さんの一人で──って、あれ?」


 最初、目にしたときは何でこんな名前をって不思議に思ったものだけれど、特徴的な名前は探しやすくて、こちらでは活動していないっぽいと分かった時は落胆して、でも今、目の前にその人の絵があって?


お読みいただき、ありがとうございます。

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