第二十九話
目の前の二人組への対応策に必死に頭を巡らすものの上手い案はなかなかすぐに浮かぶものでもなく。
というか、当事者の私が何を言ったところで余計にヒートアップさせるだけになるのは目に見えていて、第三者の介入でもなければ終息しないんじゃないのコレ。
「貸し出しの手続きをして欲しいんだけど」
おお、天の助け!ほらほらお前さん方、私は仕事が忙しいのだよ、さっさとどこかへ退散してくれませんかね・・・って、アレ?声をかけてきた人物を見上げてみれば見知った人物で。
「木下君?」
何となく木下君が図書室を利用するイメージを持っていなかったので意外に思っていることがバレそうな声音が出てしまった。実際には図書委員の当番に入るのもこれで二回目なので珍しい邂逅なのかどうか判らないんだけれどもね。
それに、今日は美術部は通常通りの活動日だったはずで、普段の授業は寝て過ごす癖に部活動はほぼ皆勤賞という学園生活における力の配分を部活動に全振りしているような人物がその活動時間に別の場所に出没してくれば意外に思うのも無理はないと思うんだよね。
「ん?・・・ああ、コレとコレ、あとコレの貸し出しを頼む」
たった今、私の事を認識した、というか私がココに居ることを思い出した。みたいな感じの反応だったけれども大丈夫かな?今週は当番だから部活動の方には出れないって伝言を頼んだよね?ちゃんと伝わってるよね?・・・まあ、原則自由参加だから最悪伝わってなくも平気と言えば平気なんだけれども、不安だなぁ。
まあ、仕事なので手続きは進めますよっと、次の作品の参考にでもするのかな?画集二冊と、あとは普通の文学書、へえこういうのも読むんだちょっと意外かも。
「木下君もこういうの読むんだ」
「なんだ、わるいか?」
「いえいえ、悪くはないけれど、意外かなあって」
「ふん」
意外さを隠さずに口にすれば不機嫌そうに返してはくるものの怒ったような様子はない、これくらいの軽口ならいいあえるくらいには仲良くなれたってことかな。
「ちょっと、こっちをシカトしないでくれる!?」
直前までがなり立てていた二人組の片方がしびれを切らしたのか声を張り上げる、だから声が大きいんですってば。ちなみにもう片方は木下君の登場で熱が冷めたのか立ち去りたそうにしている、そのまま相方を連れていってほしい。
「さっきからうるさいぞ、図書室では静かにしろって教えられてないのか?」
「なんで私たちは入部を拒否られるのにコイツは入れるのよ!?同じ外部生なのに不公平じゃない!?」
おお!?木下君に睨まれようが窘められようが怯むことなく矛先を木下君に変えて噛みつくとは、タフだなこの子。
「・・・誰だ?コイツら」
「え!?いやいやほら、私が仮入部しに行った前日に来た子らがいたって話してたじゃない、その子達だよ」
素で不思議そうにこちらに訊いてきて説明を受けて数秒、やっと「ああ・・・」と思い至ったようで、え?本気で忘れてたの?
どちかというとそっちが当事者で私の方が部外者じゃない?なんで直接の面識がある筈の人が直接に面識のない私に誰かを訊くのかね。
ほら、木下君が天然ボケを炸裂させるから目の前の子が凄いことになってるし、ちょっと女の子としてその形相はどうなのって感じに。
「美術部というのは美術をするヤツの集まりだ、お前らが入部てどうするんだ?」
おう、ド直球っすね。心の底から理解できないといった表情と発言に相手もタジタジだ。
「お前らの入部の可否はコイツも含めて部員の総意だ。不満があるなら俺やコイツじゃなくて部長か顧問にでも言ってればいいだろう」
「さっきも言ったが図書室は静かに利用するものだ。周囲に迷惑かけてんじゃねえよ」
木下君の言葉による連続攻撃か道端のゴミでも見るかのような視線に気圧されたのかやっと周囲のことを思い出したのか室内の大部分の白い目が自分に刺さっていることに鼻白んだ様子を見せる暴走娘さん。
「~~~!!」
何か言いたいんだろうけれど言葉に出ることは無く踵を返し出口へ向かう暴走娘さん。
途中から熱の冷めていたもう片方の子は大分冷静になっていたのか少し顔を青くさせながら周りに頭を下げてから先に出て行った子を追いかけて行った。できれば上手いこと暴走娘さんを宥めてあげてほしい。
「結局、何だったんだアレは」
「私に訊かないでほしい、かな」
「まあ、いいか。コレ、もういいんだろ?」
「あ、うん。ありがとね、助かりました」
本人に助けた意志というか自覚があるかは不明だけれども、結果的に助けてもらったのは確かなのでお礼はきちんとしないとね。
木下君を見送ってからは、図書室内に残っている人たちに騒がせてしまったことを謝罪する。一部睨まれてしまったりもしたけれど、同情してくれた人たちもいて一先ず今回の騒動も終息したということで一安心かな。
「いや~、ごめんごめん。あのプリント、今日が期限って忘れてたわ、先生にも小言食らうしで災難だよね~、って何かあったの?」
ようやく落ち着いたってところでやっと帰ってくる相方の図書委員。なんだかとってもいいタイミングですけれども外でタイミングを見計らっていたってこと無いよね?まあ、いいんだけれどもね。
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