第二十四話
適当にいくつかのお店を廻って基本、冷やかしつつもたまに買い物したり。で、いまはゆっくりお茶タイム。
大通りを一本外れたところにひっそりと看板を出していた喫茶店。席数は少ないけれども狭苦しいという印象は無く、清潔感のある落ち着いた内装にゆったりとした音楽が流れていてここの空間だけ時間がゆっくりになっているみたい。まさに大人の隠れ家といった風情でなんだか自分も一つ大人になったように思えて不思議だ。
この辺にはよく遊びに来ていたんだけれども、今まで入ったことが無い、というかこんなところに喫茶店があることすら知らなかったよ。勿体ないことをしていたと思ったものの、中学生時代に発見していても子供が背伸びしようとしているみたいで浮いちゃうか(今なら似合うのかと問われても困るけれど)。
「はぁ~、静かで雰囲気のあるお店だよね、稔君よく知ってたね」
「うん、お父さんに連れてこられてね、それ以来お気に入りでこっちの方に来たときは大体よってるかな」
そういって紅茶を飲む姿はどこからどう見ても良家のお嬢様だ。先ほど注文するときにどれを頼んでいいのか分からずに困っていたところを軽く好みを問答しただけで代わりに注文してくれたのと合わせて同い年の筈なのに一回りも大人びて見える。出てきた紅茶はとっても美味しいです。
というかこのお店のメニュー、紅茶一つとっても”紅茶”なんて単純なメニューじゃなくて茶葉を指定して注文するシステムでブレンドもしてくれるとかなんとか。二つか三つくらいなら聞き覚えのある茶葉もあるけれど、いざそれがどんな香りでどんな味かと言われたらさっぱりだ。今までの人生で紅茶といったらペットボトルかティーバッグしか飲んだことがないんだから仕方ないじゃないか・・・今度勉強してみようかな。
「あはは、そう言えばそんなこともあったっけ」
昔話に花が咲く。小さい頃に渡されたサプライズなプレゼントに文句を言えば笑い飛ばされてしまった。
夏休みも佳境を超えたころ、プレゼントと言って渡されたクッキーの缶、わあいクッキーだあってテンション上げ上げで蓋を開け、びっしりと敷き詰められたセミの抜け殻の一つと目があった瞬間に投げ捨てた。こっちがギャン泣きする中、稔君は稔君でせっかく集めたのにって拾い集めながらこちらにつられて大号泣。最終的にお互い大泣きしながらの大ゲンカで一週間は口を聞かなかったっけ。
仲直りにって稔君が小母さんに持たされたクッキーが抜け殻の入っていた缶と同じ銘柄で、未開封なのに開けるのにやたらと勇気を振り絞ったのも今ではいい思い出だと思う。
「それにしても、ホントに服の趣味変わったね。あの頃はスカートなんて一度もはいたことなかったのにね」
ちらりと先ほどまでの戦果の紙袋を見ながらこぼす。性別については深く考えないようにしようと決めたけれども、性別云々は別にしてもその変化はやっぱり気になる。十年も経てば服の趣味の一つや二つは変わったところでおかしいことなんてないけれども、元気溌剌少年と深窓のご令嬢では方向性が真逆に近い。いったいどんな心境の変化があったのかも気になるところだ。
「んー?そうだねぇ、その辺りはお父さんの影響かな」
なんでも小母さんの結婚相手の実家が服飾関連の事業を営んでおり──ってアレか、服飾関連で円城寺っていったら最大手の一つに数えられる総合ブランドのあれか──、稔君のお父さんになった男性もデザイナーをしていて稔君をモデルにしていろいろと着せ替え人形にさせられたそうな。
「最初の方はボクも抵抗あったんだけどね、そのうちこっちの方が自然になってきちゃった」
そう言ってテヘりと笑う稔君、ああもうホント可愛いなあ。
それから稔君が引っ越してからの事をお互いに報告しながら話題は現代へ。
「へえ、蓮ちゃんは美術部に入ったんだ、そう言えばお絵描きとかよくしてたっけ。ボク?ボクは文芸部だよ」
それはまた、なんとも今のイメージにぴったしというか。しかし、私がいくら泣こうが喚こうが幾度となくカエルやバッタなどを捕まえては懲りずに見せにきたあの元気溌剌な少年は何処へ行ったというのだろうか、本当に。
それからも昔の事や今の事、あっちこっちへと飛んだりしながらも話題が尽きることは無かったのだけれど、気付けば窓の外は赤くなっていてそろそろ帰ろうかということになってお店の外へ。
あとは家に帰るだけとなって駅前の広場を目指して歩いていたはずだったんだけれども、今、私はとっても困惑しています。
駆けつけてきてくれたお巡りさんにハンカチで目元を拭いながらも事情を説明する幼馴染。隣で一緒に事情を聴かれているはずも、起きた事実を消化しきれずにただ困惑する私。そして足元、地面にはチンピラ、いまどき珍しくも全身全霊で「俺、不良お!」と主張するかのような二人組が完全にのびて横たわっている。
もう一度言います、私、困惑しています。
どうしてこうなった。
お読みいただき、ありがとうございます。




