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第二十三話

 待ち合わせの場所に到着して時間を確認すれば約束の時間の十分前、よしよしトラブルもなく予定通りの到着だね。

 それから五分と経たずに待ち合わせ相手も駅前に姿を見せお互いに手を振り合う。


 「先に来てたんだ、待たせちゃったかな?」


 「ううん、今来たところだよ」


 「ふふ、なにそのデートのテンプレみたいなセリフは」


 「いやあ、待ち合わせでのお約束かなって、まあ実際にも五分と待ってないよ」


 定番の言葉を交わしつつもウフフと笑い合う幼馴染、掛け合いのテンポが一致するというか十年近いブランクを感じさせないやり取りに改めて再会できたんだなって嬉しさがこみ上げてくる。

 ただし、十年間というブランクの大きさもやはりというかそれなりで、当時との違いというのも見えてはいる。

 今日の”彼女”の恰好は涼し気なワンピースに薄手のカーディガンを合わせたいかにも落ち着いたお嬢様の初夏バージョンといった出で立ちで、駅前の広場に居合わせた人間で彼女の性別を疑うような者は誰一人として居ないだろう・・・私を除いては。

 再会当時、積極的に探していた私からは見つけることが叶わずに、偶然、廊下で鉢合わせた際に”彼女”から声を掛けられてようやく再会が叶ったが、その際に受けた衝撃は結構なモノであった。

 それもそうであろう、私が探していたのは女子制服を着た”彼女”ではなく、男子の制服を着た”彼”であったのだから。

 「円城寺 稔」、乙女ゲーム「キュンパラ」の攻略対象キャラの一人である。女の子が主人公の恋愛ゲームの攻略対象でありその性別は当然ながら「男」である。ゲーム内ではっきりとした性別への言及は無く、全年齢が対象のソフトではっきりと性別に判定のつく描写も無かったそうではあるが、ノーマルな恋愛ゲームでそこまで倒錯的な設定なぞ常識的に考えてするわけがないだろう。


(二次創作では女体化しての攻略対象同士の恋愛モノという作品も数点あったらしいが、性別ままでの絡みの方が圧倒的に多かったらしいというのは、まあ、なんというか嗜みというものなんだろうな)


 そんな人物がどうして女子の制服を着ているなどと予想できようものか。

 再会後に玲奈さんに確認を取ったところ、氏名年齢、私の幼馴染だという関係性、円城寺家の立ち位置などなど”彼女”が「キュンパラ」での攻略対象「円城寺 稔」で間違いないそうだ。

 ただそれらの情報が無かったとしても私が探していた幼馴染もやっぱり男子の制服を着た幼馴染を探していただろう。

 幼馴染が攻略対象キャラの一人であることを知ってからまだ一週間も経っていないが、それ以前より、いや、幼い頃出会ってから再会が叶うその瞬間まで、私はずっと”彼女”を”彼”だと思っていた。幼い頃、今よりもみんなの性別の垣根が曖昧だった頃はずっと男の子のするような恰好をしてスカート姿など一度も見たことが無い。一人称も”ボク”、私のおままごとなんかにも付き合ってくれていたが外を駆け回ることも大好きでサッカーや野球では大活躍をしていた、昆虫採集なんかには私もよく連れ回されたもんだ。

 だから再会する時までずっと”彼女”のことを”彼”と思い込んでいたのだし、未だにはっきりとその変化を受け入れきれずに引きずっているんだと思うのだし、「キュンパラ」という情報がその疑念に拍車を掛けているんだろう。

 


 改めて”彼女”の姿をじっと見る。再会からもうじき一週間、そろそろ折り合いを付ける頃合いだろうか。

 この世界は前世の私がいた世界とは違うがゲームの世界とも違う。いろいろと符合する部分はあるけれどもそれでも違う現実の違う世界だ。

 中身が大人だったとはいえ幼少期の玲奈さんがあっさりと成松家の問題を解決することが出来た。木下君にしても性格やら行動やら他にもいろいろとゲームの頃と差異があるみたいだし、智也くんだった出会ってばかりで分からないけれどもなにかしらの違いがあるかもしれない。なによりも私や玲奈さんという転生者の存在がある。外的な要因に拠らない変化、出生の瞬間からすでに生じる変化もあるということは性別の変化であっても有り得る変化の一つでしかないと。


 「もう稔”君”はやめた方がいいよね」


 「そう呼んでくれるのは蓮ちゃんだけだから、無くなっちゃったら寂しいかな」


 そっとばれない様にため息を一つ吐いてからそう言えば、またそんなこと言うし。わざとなのか知らないけれども、そんな風にはぐらかされるのも疑念を捨てきれない要因の一つなんだけれどな。再会の時もそうであったし、折を見てさりげなく探ろうとしてもウフフと笑って誤魔化されるてばかりで今日まで引っ張ることになっちゃったんだから。

 

 「いつまでもここにいても仕方ないし、どっか入ろうか稔”君”」


 ”彼”であろうと”彼女”であろうと私の幼馴染との関係性が変わることは無い。だったらもうそこに拘り過ぎるのはやめよう、そんなことに時間を浪費しなくても積もる話はいくらでもあって今日一日では足りないくらいなんだから。


 

お読みいただき、ありがとうございます。

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