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第二十二話

 「私は森山華蓮、高等部から入学の一年生だよ」


 「おお、がいぶせい。トモヤ、さんねんせい、です」


 軽い自己紹介を交わしペコリと頭を下げると珍しいものを見るようなキラキラした目でこちらを見てくる。初等部から中等部へは持ち上がりのみで外部受験は無いので転校生が来た時のような感覚なのかな。

 


 「江里口は森山の事を知らずに隣で昼寝をしていたのか?」


 「? うん」


 こちらはこちらで珍しいものでも見るような目をしている、多分に呆れ成分が混じっているようだけれども。それはいいんだけれども、視線が智也くんではなくてこちらに向いているのはなんでだろうね。

 

 「木下君は智也くんとは仲がいいのかな?なんだか親し気な感じがするんだけれど」


 「ん、そうだな。実家同士の付き合いもあるし、知らない仲、ではないな。・・・少なくとも他の連中よりは」


 「うちとナオマサのおうちはなかよし。ナオマサはマブダチ」


 お互いの実家が主催するパーティを行き来することが多く、年も近いことでそういった時間に一緒に行動するうちに懐かれたらしい。補足で説明してくれる口調は少しつっけんどんではあるけれども、まんさらでも無さそう、かな?


 「ナオマサとカレンもなかよし?」

 

 「そうだね、クラスも部活動も同じだからね、仲良くはしたいかな」


 学園生活での大方を占めるであろう場所で顔を合わせることになるのだから、険悪な間柄になるのは出来る限り避けたいところ、同じコミュニティに属する以上は仲はいいことに越したことはない・・・んだけれども、智也くんに聞かれた瞬間の表情を見るに前途はなかなか厳しいかもしれない。

 


 少し長めに話し込んでしまったのか冷えてきたらしく「くちっ」となんとも可愛らしいくしゃみが聞こえてきてその場はお開きとなった、智也くんはまだお話をしたいと言ってくれていたのだけれども、そのせいで風邪をひかれては大変だ、ということでなんとか説得してくれた、木下君が。

 そして現在、美術室に戻る為に木下君と連れ立って歩いているのだけれども、なんだかこちらを見られているような気がする。いや、「気がする」というか滅茶苦茶見られてますね、もの言いたげな感じです。


 「な、なにかな?」


 「いや・・・あっさりと懐いたな、と」


 圧力に耐えかねて聞いてみればなんとも要領のえない回答で。いや、言っていることは分かる──初対面のわりには仲良くなれたかなと思っていたけれども、木下君がそう言うならばうぬぼれではないと考えていいみたいだね。──のだけれども、ただそれだけの感想の割には視線の量というか、圧がですね。 

 結局、そう言ったきり自分の考えに没頭してしまって、たまにブツブツと独り言をもらす程度でその声量も小さくてとてもじゃないがはっきりと聞き取れるようなものではない。

 その状態は部室に到着するまで維持されたままでそのまま解散となったのだけれども、私が智也くんと仲良くなれたことってそこまで意外なことだったのかな。


 「お疲れ、初日の感想としてはどうだったかな?」


 「あ、部長。そうですね、こう時間を取れたのは久しぶりだったので、とっても充実しました」


 前世でも今世でも直近の記憶と言えば受験のことが真っ先に上がってくる。当然ながらのんびり絵を描いてすごすような時間なんて取れようはずもなく、久しぶりの趣味の時間はとても充実したものだった。

 そのことを正直に報告すると満足したようでウンウンと頷くと、「正式入部はいつでも受け付けてるからね~」と言い残していった。

 そういえばまだ仮入部だったっけ。一応、候補は他にもあったけど、もうここに決めちゃっていいかな。元々第一候補だったのだし居心地も良さそうだし、やっぱり絵を描くことが好きだなって再確認もできたことだし。仮入部の期間は最大で一カ月だけれども、期間をフルに使わないといけないということも無いので決めたのなら早々に正式入部したところで問題ない。

 


 日曜日、私は今、待ち合わせのために駅前に来ています。と、言ってもここ数日で彼氏が湧いたり生えてきたなどということもなく色めいたモノでは無いのですが。

 稔君と再会したときに言っていた「お茶でもしながらゆっくりと話そうよ」という約束が早々に実現しただけのこと。

 再会してからもちょくちょくと学園で顔を合わせることもあるものの、クラスが違うとなかなかまとまった時間を取ってゆっくりと話すという機会も頻繁にあるものではなく、こうして休日に待ち合わせることとなった。

 十年近い時間を経ての再会ともなれば積もった話の層は厚く学園の休憩時間に顔を合わせた程度で話しきれるようなものでもなく、お互いの友人の目や耳もあれば突っ込んだ話もしにくい。

 とりわけ私には解決できていない疑問を抱えているわけなんだけれども、学園内でそのことを聞いて、それが他の人の耳に入れば正直、私の正気を疑われかねないのであれから聞くに聞けずでいたりする。

 気にし過ぎなんだとは思う。これが他の人の事だったのならここまで気にしないんだけれど、稔君の場合は事情が異なってくるから、出来れば今日の内に解消しておきたいなって思っている。


 

 

お読みいただき、ありがとうございます。

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