閑話1
玲奈視点
今話と次話でその後本編再会予定です。
私の名前は宇都宮玲奈。本当はもう一つの名前があったんだけど、こちらではその名前で私のことを呼ぶ人が一人も居ない以上、私もその名前を使うことはもう二度とないだろう。あちらでならば家族くらいはまだ呼んでくれているかもしれないが、私があちらへと二度と戻れないのだからやはり私が呼ばれることは無い。
ここまでで察しのいい人ならお分かりかもしれないが、私は俗に言う転生者というものだ。生前と言えばいいのか前世と言えばいいのか、とにかく私がもう一つの方の名前しか持ていなかった頃、ラノベやアニメ、ゲームでそれなりに使い古された題材で、私としても馴染みのある言葉ではあったものの、まさか自分自身が体験しようとは思いもよらなかった。
しかも、転生先が生前にプレイしたことのあるゲームのキャラクター、中でも悪役令嬢と言われている宇都宮玲奈その人へとピンポイントに転生するだなんて、よりにもよってと嘆けばいいのか、お約束がすぎると笑えばいいのか。ヒロインを、とまでは望まないが、せめて他のライバルキャラであったならと気付いた当初はこの身の不幸を呪ったものだ。
悪役令嬢と言えばストーリーのラストでの破滅がお約束の展開であるが、せっかくこの身に待ち受ける破滅の未来を知る機会を得たのだから利用しない手はないだろう。ヒロインには申し訳ないが踏み台を使わず自力で攻略していただくか他のルートを攻略していただきたい。
破滅回避に動くことを決めた私にとって、転生に気付いたのが四歳時点だったというのは僥倖と言えただろう。
私こと宇都宮玲奈が登場する成松勝彰ルートのストーリーの根幹を成す出来事がこの時期に起きる。そこに私が介入することによって流れを変えることが出来るのなら、私の破滅の未来も決定づけられたものでなく、改変可能なものなのだと証明させるのだから。
結論から言えば改変は成功した。そりゃそうだ、原因と展開を知っているのだから。
大まかにこの時期に起こった出来事を説明すると以下の通りだ。
まず、勝彰の母──紗季さんが病気で亡くなった。その一年後に再婚して後妻が入ってくるのだけど勝彰は打ち解けることが出来ず、その後に産まれてくる異母弟とも険悪なまま、ひねくれた性格に育ちゲーム本編に至る。
それもその筈、後妻というのは元々浮気相手で、紗季さんの病状が悪化するように裏から手を回してまんまと後妻の座に収まった。そして、自分が産んだ子供を成松家の後継ぎにしようと画策していたのだから。
──という事実は全くなく、すべては勝彰の勘違い、というか周りのバカな大人が子供の勝彰に好き勝手に吹き込んだ出鱈目だったんだけどね。
実際のところは、紗季さんとその後妻──美幸さん、そして勝彰の父──光彰さんの三人は学生時代からの親友同士で再婚したのも紗季さんの最後の希望からというのが真相で、それをヒロインのお節介によって誤解も晴れ、家族との蟠りも解けていく、というのが勝彰ルートの大まかな流れなのだ。
些細なすれ違いとバカ共の悪意によって縺れに縺れる人間関係も真相を知る第三者の的確なフォローがあれば問題など起きないし起こさせない。
ただの幼女であったなら不可能だったかもしれないが、なんせその幼女の中身は三十を超えた大人なのだ。精神年齢で言えば両親よりも年上なのだ。
歴史の改ざんというほど大げさなモノではないけどゲーム本編への流れからは脱却することには成功し、成松家の家族仲は良好で、勝彰も変にひねることもの無く素のままにのびのびと成長し、ゲーム本編開始時点と比べると誰だコイツ!?レベルで別人へと変貌している。
ゲーム内では憎みあっていた兄弟仲もいまでは立派なブラコンにクラスチェンジ済みだ。ちょっと甘やかしすぎなんじゃないかと心配になるほどだけど、天使な笑顔で「れえなねえちゃ」って呼びかけられたらそりゃもう甘やかすしかないのできっと不可抗力に違いない。
破滅の未来を回避するためにフラグどころか台本そのものをぶち壊しにしてやった。殆どのことは思惑の内の範囲だったけど、想定外なこともあった。
それは私と勝彰の婚約のことだ。私は成松家の家族仲を修復というか壊れることを未然に防いだことで婚約話は立ち消えというか発生自体が無くなるものだと思っていた。
何故なら二人の婚約の話は玲奈側から強引に強引にごりごり押しに押して結んだもので、勝彰側にしても玲奈に興味がある訳でなく宇都宮家の力目当てで受けた話なので、私から提案するつもりも無く、勝彰にしても後ろ盾を得る必要が無くなった以上、婚約話が出てくることは無い筈だった。
さりげなく幼女らしく振舞ったつもりではあるが、フォローを入れたりなんだりで精力的に動いている中で透けるものがあったのか、光彰さんと二人で話す機会が訪れた際に問い詰められて白状させられたついでに婚約の話を持ち掛けられ、ある条件を付けた上で私はその話を受け入れることにした。
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