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第十五話

 「お弁当の事、ごめんなさい」


 「いやー、流石に森山さんが謝ることじゃあ無いでしょう。悪いのは彼女たちだよね」


 こちらの謝罪の言葉に対して帰ってきたのは否定の言葉。いやー、まあ私だってそう思いはするんだけれどもね、だからって──


 「今更、あの子たちを探して追っかけて責任取らせようっていうのも何かが違うというか、猶更に拗れて面倒くさそうというか、喧嘩両成敗と言う言葉もありますし?」


 ──私に一切の責任が無いかというと、それも違うと思うんだよね。一方的に難癖をつけられていただけどはいえ、揉め事の当事者であることには違いはないのだし、思惑はどうであれ、仲裁に入ってくれようとしていた相手が損害を被ったのなら、被害者面して知らんぷりを決め込むなんて、少なくとも私には無理だわ。


 「──という訳なので、私の精神安定のためにもお詫びをさせていただきたいのですが」


 お詫びとは言っても、こんな山の上にコンビニの様な商店などあるわけもなし──彼等のような人種がコンビニなんかを利用しているかは分からないけれども、玲奈さんは普通に使ってそうだよね──彼のお亡くなりになったお弁当の代わりに差し出せるようなものといえば一つしかないわけでして。


 「でも、そうすると森山さんがお昼抜きになっちゃうよね、それはちょっと」


 彼からしてみれば、クラスメートのお弁当を巻き上げる感じなのだろうし受け入れがたいということは重々承知はしているけれども、こちらとしても自分のトラブルに巻き込んでおいて、昼食抜きになった相手を前にして平気でお弁当にパクつけるほど図太くないし、そんな状態で食べたところで味も分からないし、喉を通るとも思えない。


 「せめてもの妥協案として、半分ずつで」


 当事者間での落としどころとしてはこんなところだろうか、あとは他人から見てどう見えるか・・・なんだけれども──。



 「流石、華蓮ね。ヒロインの称号は伊達じゃないということね。男を墜とすなら胃袋から、基本は大事よね」


 ──まあ、こう見られますよね、わかってた。


 「トラブルに託けて手料理を振舞って餌付けする。基本よね」


 「トラブルに便乗して成松君に近づこうとする身の程知らず」。第三者から見たこの件における私の評価はそんなものなんだろうね。私自身の意向など窺い知ることなど為しえない傍観者から見ればこのような解釈に至るというのも宜なるかな。

 火種にしかならない評価を受ける行動は慎むべし。分かってる、理解していますとも、入学時に掲げた指針なんだもの。

 だからと言って、仲裁に入ろうとしてくれた礼とお弁当を台無しにしてしまった謝罪を一通りしてあとは知らんぷりっていうのはちょっと、人としてどうなのかなあって、ちょっと無責任じゃないかなって思ってしまう訳でして。


 「あの、玲奈さん?この件にそういった意図はありませんからね?理解してわかってくれてますよね?」


 第三者からの評価というか誤解は甘んじて受け入れるしかないにしても、一番誤解されたら不味い人くらいには弁明はしておかないと。「わかってるって」と言ってくれてるし、大丈夫なんだろうけれども、そのニヤついた表情からは本当に理解してくれているのか不安しかない。



 玲奈さん曰くの餌付けの成果はどうかって?まあ、上々と言ったところでしょうか。

 由美たちに合流して事情を話したところ、じゃあということで一品ずつ提供をしてくれたのだけれど、場に居た人数がそれなりだったので結構な量がお皿に載ることになって、結局元のお弁当よりも豪華なお弁当になってしまったのはご愛敬。

 「じゃあ、僕がそっちを食べれば」との成松君の提案は、「お前はそれ(私のお弁当)を食ってろ」との鶴(玲奈さん)の一声で押し流されてしまった。

 最初の一口こそ遠慮が見られたものの、すぐに完食され、「美味しかった」とのお褒めの言葉もいただけたので、お詫びのつもりで差し出したものが口に合わなかったらとの不安も杞憂に終わって一安心といったところかな。

 私の方はと言うと、元のお弁当を凌駕する山を築いたお皿を前に太刀打ちなどできるはずもなく、ある程度満足したところで提供者たちの了解を得て、歓談の合間に皆でパクつくことに。

 最終的にクラスの殆どがこの場に集まっていたようで、本日の目的である「生徒同士の親睦を深める」については概ね達成できたのではなかろうかと。


 

 後日、気が向いたときに作ってくるお弁当を物欲しそうに窺ってくるのでおかずなんかをおすそ分けしたりして、段々とそれを見越してお弁当を作る際のおかずの量が増えてきたあたりでクラス内における「私が成松君の餌付けに成功した」ことが既成の事実に相成りましたとさ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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