第十三話
「内緒話は終わったの?」
一人でニヤニヤしている玲奈さんを置いて歩調を速めて前を歩く二人に追いつく。
内緒の話と言うか聞かれると恥ずかしいというか正気を疑われかねない話ではあるのでこの辺は曖昧に笑って誤魔化しておきたいところかな。
「前にも思ったけど、あの玲奈さんといつの間に内緒話なんかするような仲になったのさ」
「あーっと、うーん。・・・入学式前にちょっとだけ話す機会があって、お互い共感を感じたというか、同じ趣味が発覚したというか・・・」
「同じ趣味?華蓮と玲奈さんで?」
「うん、まあ、その辺はあまり突っ込まないでくれると助かるかなあ、なんて」
「ふーん?」
疑問符を浮かべながらもこちらの要望通り、それ以上には詮索してこない辺りいい子だなあと素直に思う。
転生者繋がりなどは当然言えるはずもないけれども、同じ趣味(乙女ゲーム)についても聞かれない方がいいんだろう。
ネットなどで調べた結果、転生前の世界に比べて今の世界は乙女ゲーム──恋愛ゲームに対する認知度が今一つ低いみたいだし、私みたいな一般家庭出身ならともかく玲奈さんみたいな上流階級出身でその手のゲームをプレイしているって知られる影響が──って、こちらでもやってるかどうかなんて分からないか。私自身も前世のことを思い出してから数カ月程度ということもあって手を出していないし、思い出す前にも遊んだことは無い。
申し訳程度には調べてみたものの触手が動くようなタイトルも無く、そもそもその手のというかゲームをしたいという欲求自体が薄いというか。
「それよりも、気になっちゃうからこの際聞いちゃうけれど、由美さぁ、玲奈さんと何かあるの?」
「へ!?ああ、うーん、なんていうかなあ」
「いや、さあ、班決めの時も思ったんだけれど、なんか、玲奈さんに含みがあるのかな?って、あ、勿論言いにくいことだったら言わなくてもいいんだけれどもね?少し気になっただけだからさ」
ああ、聞いちゃったよ、この際ってどの際だよ。でもやっぱり気にはなるんだよ、どちらか一方とだけ仲良くするんならともかく、今のところどちらとも付き合いをやめる気は毛頭無いし、深刻な問題だったらそれなりの配慮をする必要とかあるもんね。
「ああ、別に嫌ってるとか、険悪だとか、そういうことじゃないから。そこのところは安心してよ」
取りあえず、私の心配するような事態にはないっていないけれども、含みがあるということについての否定は無し、と。深刻な軋轢とか対立とかじゃないんならこれ以上立ち入るのも良くないかな。
「由美ちゃんが素直になれないだけだもんねえ」
「ちょっと!?沙耶!?」
「なによう、ホントことでしょお」
「うぐっ、もう・・・。自分が大人げないっていうか、子供なのは自覚してるし!この話はもうおしまい!」
「あん、待ってよお」
話を打ち切るとずんずんと先に進んでゆく由美。その耳が赤いのは話の内容にか、はたまた・・・か。
それにしても、この二人って仲良いね。何というかお互いの事分かってる感というか、これが幼馴染ぱぅわーというものなのかな。
いいもんだなあ、幼馴染。ちょっと羨ましいかも。・・・まあ、私にも幼馴染のようなものは居るというか”居た”んだけどね、引っ越してからもう何年も会ってないもんなあ。まだ再会してないけれど、この学園に居る筈なんだよねえ。それとなくチェックしてるんだけれども、それらしい人物に行き当たらないんだよね。
その後、だらだらと話に花を咲かせながら山頂の自然公園へ。途中、玲奈さんの取り巻きの子達の班が合流したり、成松君の班が──玲奈さんがちょっかいをかけてなし崩し的に──合流したりで、なんだか大所帯に。山道というかハイキングコースに入っていたので車の通りも無く、一般のハイキング客などもいなかったので先生からも指摘は無かった。親睦を深めるというオリエンテーションの趣旨にも沿ってるし問題なしとの判断なんだろう。
外部生だから新顔ということで気を遣ってくれたのか、なんだかんだで私が話題の中心いることが多かった。とは言っても、個人的な私生活のことはまだ時期尚早か、外部の中学校の様子はどうだったかとか、このオリエンテーションが終われば部活の勧誘が始まるから部活はどうするのかとか健全な学生らしい話題に終始していたけれども。お嬢様の集まりのわりには運動系が多かったのは意外だったかな。
いろいろと話題を振ってくれたのが功を奏したのか、取り巻きのお嬢様方とも男子諸君(成松君含む)ともそれなりに打ち解けることができたんじゃないでしょうか。
睨まれてたことを気にしてたって玲奈さんにバラされた訳だけれども、お嬢様方からは「いきなり突撃したところで警戒されるだけだから止めておけ」と忠告したにも関わらず構わずに突撃を敢行した玲奈さんを睨んでいたのだと笑って返された。真相を知った玲奈さんは頬を膨らませていたけれども、美人のむくれ姿ってなんか可愛いね。
山頂に到着したら丁度いい時間だということでお弁当タイムだそうで、内部生は流石のベテランの貫禄で見晴らしのいい場所を取ってくれるというので、お言葉に甘えて私はちょっとお花摘みへ。
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