第十二話
一波乱あるかという予想を裏切り、何事も無くハイキング当日へ。
正直、玲奈さんがこちらの班に合流してきたことで、取り巻き?の彼女たちから絡まれないにしても一言くらいはなにかあるんじゃないかとも思ってたんだけれども、今日まで彼女たちからも玲奈さんからも接触なし。平穏なのは喜ばしいけれども嵐の前の静けさとかいうやつじゃないよね?
「──という予想というか、懸念をですね、してたんですけれども」
「あははは、そういう展開って、小説なんかだとありがちだわね。まあ、やらないって言うよりやらせないわよ、釘も刺しといたしね。それでも馬鹿やるってんなら、友達やめさせるわよ」
現在は私と玲奈さんとで並んで山を目指せて歩いているところで、班決めのときにも言っていたように、話したいことがあるということで、二人には少し前を歩いてもらっている。
私のぶっちゃけ話を軽快に笑い飛ばして否定してくれる玲奈さん。やめ”させる”というあたりに力関係が透けてるなあ。でも、釘を刺してくれていたってことは、そういう可能性もあったってことだよね。
「あ、でもストーリー的にそっちのルートのが面白かったかも?で、勝彰あたりに助けさせればフラグも立つし。あの娘たち勝彰のファンだからダメージでかいわよ」
「そんなことになってたら、私、逆恨みからのいじめられルートまっしぐらじゃないですか。」
「釘を刺すまでもなくやらなかったと思うけどね、流石に付き合い長いし、影でそういうことするような娘だったら今まで残れてないわ。でも、もしそうなってたら完全に『悪役令嬢宇都宮玲奈とその取り巻き』になってたわね」
「あー、えっと、玲奈さん──宇都宮玲奈ってやっぱり悪役令嬢だったんですか?」
「ストーリーは知らないんだったっけ。そうよ、ゲームの中じゃ華蓮のことをいびりにいびりぬいたバリバリの悪役令嬢だったんだから。だから、もしかしたらこっちでも華蓮と対立する未来もあったかもね」
「はあー、やっぱりというかなんというか、定番ですもんねえ。あ、もしかして他のキャラも?」
「純粋な”悪役”は私だけねえ、ライバルのいないルートもあるから他に三人なんだけど、そうねえ、”正統派ライバル”と”強烈ブラコン”と”コミカル担当の悪役”ってところかしら」
「どれも定番といえば定番ですね」
「そうね、私達みたいな中身の有無に関わらずゲームと同じように育っているかは分からないけどね」
「あ、それです、それも聞きたかったんですよね。同じクラスの木下君なんですけど、ゲームの時からあんな風に居眠りしてたんですか?」
気になっていたんだよね、クール系のキャラのはずなのに実際は極度の寝坊助さんだもんね。ゲームの中でもあんなんだったらどういうストーリー展開になってたのか非常に気になりますね。
「・・・あの居眠りはゲームの中では無かったわね、ただ性格は概ねゲームの通りなんじゃないかしら?」
他のキャラとはストーリー的な繋がりも無かったしで、あまり親しくはないらしいので細かい性格まではわからないとのこと。
木下君の居眠りゲームとは関係が無いみたいだね、でも性格自体はゲーム世界と大きな差異は無い、と。玲奈さんによると成松君のゲームでの性格はシナリオの影響が大きいって話だからかな。性格形成に影響するほどのシナリオを改変するなんて玲奈さんも大胆なことするよね、どんなことがあったのかは教えてくれなかったんだけれどもね。
「木下を気にするってことはそちらを攻略するつもりなのかしら?勝彰のことは飽きちゃった?私としては勝彰をおススメするんだけどな」
「な、何を言っているんですかゲームじゃないって玲奈さんだって言ってたじゃないですか、攻略もなにもありませんよ!成松君のことにしたって、単なるクラスメート相手に飽きるも何もありませんし、そもそも玲奈さんって成松君の婚約者なんですよね?なんで、そんな風に私に推してくるんですか?」
玲奈さんが成松君の婚約者だってことは由美たちに聞いた話なんだけれど、成松君って容姿は抜群に良いし、成績も新入生代表を務めるくらいに優秀で実家も超が付くほどのお金持ちで、私の勝手なイメージでは常に女の子に取り囲まれている姿を想像してたんだけれども、入学してからそれなりに日数も経つけれどそういった場面に出くわしたことがないから不思議に思って聞いてみたんだ。
で、出てきた話が二人が婚約者同士でお互い仲も良好、玲奈さん自身のスペックと宇都宮家の実力もあって成松君にちょっかいをかける女子はもう内部生にはいないらしい。
「婚約者って言っても親同士が言ってるだけで何が何でも結婚しなきゃいけないわけじゃないもの、本当に好きな相手が出来たらいつでも解消してかまわないって言われてるしね」
「だからって何で私とくっつけようとするんですけ?仲が良いって噂で聞いてますよ、嫌いってわけじゃないんですよね、そのまま結婚しても良いと思いますけれど」
「好きか嫌いかで言えば好きよ?でも、転生した時点で中身三十を超えてたし、年の離れた従弟や甥っ子のような親戚のチビって感覚なのよね。で、勝彰にはちゃんとした相手をってお節介を焼こうとしたときに相手をどうしようかってなると、ほら、ヒロインちゃんなら?ゲーム中で勝彰のハートを射止めてる訳だし?相性いいかなって」
「それってゲームの中の純粋なヒロインならってことですよね?私にはもう、転生者としての記憶が混じっちゃってるんですよ、ゲーム中のヒロインとは別物だとは思いませんか?成松君との相性?もわかったもんじゃないと思いますけれど」
「それもそうねえ」
口では納得したようなことを言いながらもフフンとした笑顔、くっそう、なんだその見透かしたような「私、分かってますよー」みたいな顔は、あんたの中身は世話焼きおばちゃんか!




