閑話12
今週に入ってから華蓮の様子がおかしい。本人は平静を装っているようだけど、傍から見れば無理をしているのが一目瞭然としている。
新学期に入ってから先週までは学園内での行動を共にしていたアイツとの距離が二学期、いや、入学当初レベルまで戻ってしまっていることと関係あるのだろうか。なんて疑問風にしてみたもののそれ以外に心当たりなんて無いのだけどね。
週末はデートだって浮かれていた筈なのに、そのデートでなにかあったのかしら。
「えっと、告白して、断られただけですよ」
「え!?貴女たち、付き合っていたんじゃなかったの?」
アハハと笑う姿はどう見ても空元気。でもそれよりも、今の発言内容に頭の中は疑問符で占められてしまう。
「そのことなんですけれど・・・」
華蓮の説明を聞いて頭に血を上らせた私はそのままの勢いでアイツに突撃をかけようとするも、華蓮に止められてしまう。なんでこの子がアイツのことを庇うのかしら。
それにしても偽装交際ねえ、よくもまあ、あの男がそんな話を受け入れたわね。いくら見合い話が嫌だからってそんな提案に飛びつくような真似をする奴だとは思えないのだけど。少なくとも、そこらの女子が言い出したところで鼻で笑って済ますわよね。
華蓮の相談に親身になっていたのは知っていたけれど、部屋に上げたり身内のパーティに招待したりしていたとは少々驚きよね。そういえば那月の代わりに華蓮が誘拐された時も、助け出すために随分と必死になっていたと那月も言っていたわね。
付き合っているフリとやらもアイツの方がノリノリで、言い出しっぺの華蓮の方がタジタジとしていたようにも見えていたし、そのくせ本気の告白だけは撥ねつけるだなんて、元々何を考えているのか分かりにく男だったけど、今回ばかりは本気で何を考えているのかさっぱりだわね。
「という訳で、貴方、面を貸しなさい」
放課後になってから、部活がどうのとごねる奴を無理矢理にサロンへと拉致ってきた。
「それで、どういうことなのかしら?」
「それはこちらのセリフだろう。こんなところまで引っ張って来て、どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、聞きたいことがあるから呼び止めたのでしょう。さあ、キリキリと白状しなさいよ、どういうことなのかしら?」
「だから、何のことだと聞いている。何の説明も無しにいきなりどういう事だと聞かれても答えようがないだろうが」
「白々しいわね、本当は分かっているんでしょう、私が貴方なんかに用があるとしたらあの子のことに決まっているじゃない」
「・・・」
「貴方にとってあの子は体のいい弾避けでしかない訳?期待させるだけ期待させておいても所詮は都合のいい使い捨てにすぎないということかしら?自分のことを何様だとでも言うつもりなのかしら?」
こんなことはただのお節介、要らぬ口出しだとは自覚しているわよ。それでも言わずにはいられなかったのだから仕方ないじゃない。
私には華蓮に借りがある。あのクリスマスの日、楽な方へと逃げようとする私が大事な物を失わずに済んだのはあの子のおかげだ。あの子のことだからそんなことを面と向かって言えば真っ赤な顔で首を振って否定するのだろう、けど私だって譲るつもりは無い。
今度は私の番だから、あの子の為に、あの子が幸せになる為にこの私にできることならばどのようなことでもしてあげたい。
「これは俺と森山の・・・、違うな、俺自身の問題だ。野次馬根性で首を突っ込んでこないでくれないか。この場合は世話焼き婆とでも言った方が正しいか」
お、なんだ?戦争でもするか?このヤロウ。いいぞ、買うぞ?私は。
ゴホンッ、口を割るつもりは無いってことね。いいわ、だったら思い知らせてやろうかしら、私がどんな業を背負ってこの世に生まれてきたかを。
だとしたら、まずは情報収集ね。
二学期では私の覚悟の無さからグダグダになってしまったけど、ここがどんな世界で、貴方がどんな人間か思い出させてあげるわよ。
時期も、配役も、ストーリーでさえもバラバラだけど、待っていなさい木下直昌。この私、宇都宮玲奈の本気をもって貴方を立派なヒーローにしてあげるから。
お読みいただき、ありがとうございます。




