第十一話
入学式から一週間が経過。
自己紹介やら席替えやらイベントとも呼べないような小さなイベントを挟みつつも、8割9割内部生という内訳で騒動など起こりようも無く、予定調和に日常を迎え通常授業も始まっている。
良家の子女が多く通う名門というだけあって、落ち着いた人が多いのか危惧していたほどにはアウェー感を抱くことも無くクラスの中に溶け込めているかなって思う。
成松君や木下君とは殆ど接触らしい接触もなく、クラスメートとしての程ほどの距離感が保たれているって感じかな。というか、成松君の方は大抵、人に囲まれているので接触の取りようが無いというか。
木下君については入学式中に爆睡を決め込んでいるのを起こしたことで一悶着あるかなと警戒していたけど、特に何か絡んでくるということもないし、クラスの用事なんかで話をする際にもこれといって悪感情を抱かれているという印象も無くホッと胸を撫でおろしたというところだ。
入学式の後に由美と沙耶香に聞いたところによると、木下君の居眠りと寝起きの悪さは内部生の間では有名というか共通認識らしく、特段、暴れたりとか絡まれたりとかは無いのだけど、寝ているところを起こすと不機嫌オーラがMaxに溢れ出すのと、彼の実家との力関係もあってか今では起こすような人物は居ないらしい。
実際にここ一週間、一時限目はほぼというか毎日寝ておりまして、教師陣もすでに諦めているのかスルーされているし、起きている間の授業態度は悪くなく成績も優秀というかトップクラスなので問題になっていないとかなんとか。
ああ、そうそう、由美と沙耶香とは木下君のこと以外にもいろいろと暗黙の了解というか内部生独自のルールとかいろいろと教えてもらったことがきっかけで学園内では三人で行動することが多く、おかげで外部生というアウェー感を抱くことも無く二人を通じてクラスにもとけこめたので感謝しきりだ。
由美は快活なスポーツ少女で沙耶香はおっとりのほほんなザお嬢様といったイメージで、性格は正反対そうだけど気が合うらしく初等部からの付き合いだとか。
それで今何をしているかというと、HRの時間を使って来週行われるオリエンテーリングの班決めをしているところだったり。
班決めと言えばボッチにとっては死刑宣告にも等しい拷問の時間だったりするけれども──
「じゃあ、来週のオリエンテーション、ていうかハイキングっつうか遠足だけどな──の班決めをするぞー。つってもまあ、特に人数に制限があるでもなし適当に決めてくれ」
とまあ、我がクラスの担任によるゆるゆるな指示のもとにワイワイと集まっている中、早々に一人班作って提出する剛の者も数名ちらほらと。
「じゃ、この三人でいいよね」
「うん、いいよぉ」
「うう、ありがとうごぜえますだ、由美様沙耶香様。おかげでボッチにならなくて済んだよぉ」
「あっはは、そんな大げさな」
「いやいや、実際のところね外部生なんてまだまだアウェーだもん。内部生どうしの絆には突撃しにくいのよ」
そんな中、二人のおかげで華麗にボッチ回避です、ほんとありがたい。
オリエンテーリングの内容は近くの山とも呼べないような小さな山?丘?の山頂付近にある自然公園へのハイキングというか遠足らしい。高校生にもなってとも思ったけれども、学園の伝統みたいで初等部、中等部、高等部ともに新入生は日を変えて登って親睦を深めるそうな。
二人は当然これで三回目とのことで、公園からの眺めも良くお弁当食べたりするには恰好のロケーションだとか。山頂までのルートはこう配もゆるやかで小学生の体力でも楽々と登り切れる程度なのでのんびり歩いてもそれほど時間もかからないので心配はいらないとのこと。
まあ、親睦目的のハイキングが急こう配のザ・登山なデスマーチだったら洒落にならんわなぁ。
「ねえ、私もそちらの班のお仲間に入れてもらってもいいかしら?」
「え?」
「あれ、玲奈さん珍しい。いつもの取り巻きはいいの?」
「ええ、親睦を深めるためのオリエンテーリングなんだもの、折角だからいつもの顔ぶれだけじゃなくて新しい人とも仲良くしたいじゃない?」
「ふーん?まあ、こっちはいいけど?二人ともいい?」
「私は歓迎だよぉ」
「えっと、うん、二人がいいなら」
経験者から当日の様子のレクチャーを受けたり、バナナはおやつに入りますかとかお約束したりしてたら玲奈さんから参加表明が。
あれ?なんか由美と玲奈さんで何か因縁でもあるのかな?険悪とまでは行かないけれども少しだけ含みのあるようなやり取りだよね?まあ、沙耶香がいつも通りのほほーんとしてるしそれほど深刻って訳でもないのかな?
それよりもだね、気になるんですよ、あちらのほうがですね。先ほど由美が仰ってた玲奈さんの取り巻き?の面々がですね。
「あの、玲奈さん?いいんですかね?本当に、あちらの方々、めっちゃこっち見てるんですけれども」
「いいのよ、ちょっと拗ねてるようなものだから。それにメンバーをガチガチに固定して行動しなきゃいけないってわけでもないんだし、その辺は適当でいいのよ。それにずっと華蓮とお話ししたいと思ってたのよ。だから、いい機会かなと思ってね」
「あれ、華蓮って玲奈さんと知り合い?」
「うん、ちょっと縁があったというか」
ええ、本当にいいのかなー、っていうかどう見てもこれって巻き込まれフラグじゃないの?
さっきまでのほのぼのタイム終了のお知らせですかい。当日何も起こらない、なんてことは無いんだろうなあ。
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