第九十六話
今日は朝から知り合いに鉢合わせる日らしい。
玲奈さんと別れて校舎に向かうべく校門をくぐってすぐに声を掛けられた。振り向くとそっくり同じ顔をした二人組がこちらに歩き寄ってくるところだった。
「おはようございます、華蓮お姉様、木下先輩」
「おはよ」
「あれ、二人ともどうしたの?」
挨拶を返すこともせずについ頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出してしまったのは、それだけ二人の出てきたところが意外だったから。
清鳳学園の高等部と中等部は敷地は別だけれども、校門はここにある一つだけで、途中で分かれ道になっていてそれぞれの校舎へと向かう形になっている。だから、二人がここに居ることは本来なら不思議なことでも何でもない。
不思議に思ったのは、二人が歩いてきた方向が校門ではなく中等部の校舎がある方から、それも通路じゃなくて脇にある茂みから。
二人は私たちに追いついてきたわけじゃなくて、一度、中等部の校舎に向かうか到着してからこちらへ引き返してきたことになる。しかも、道じゃないところを。
「さんぽ」
「私はその付き添いですね、それだけじゃないですけど」
言葉少なな智也くんと丁寧な口調な那月ちゃん。並んでいると髪型と服装くらいでしか見分けがつかないくらいそっくりなのに、内面は全然違うんだなって思うとおもしろい。
「散歩ってわざわざ茂みの中を?」
「ですよね?ほらやっぱりあんなところを通るなんて変なんじゃない」
「おかしくない、ふつう」
そのまま二人で言い争いが始まってしまう。争いというより小さな猫がじゃれあっているような微笑ましさがあるけれども。那月ちゃんは私や玲奈さんと話すときはとっても丁寧に話してくれるけれど、さすがに双子の相方である智也くんとは砕けた話し方になるみたい。
二人の様子を見ているときょうだいって良いなあって思う。前世も今も一人っ子だからこうやってじゃれあえる相手がいることが少し羨ましい。
「那月ちゃん、他にも何か用事があるんじゃ無かったの?」
二人のじゃれあいをいつまでも眺めていたい気持ちもあるけれど、今は登校の時間帯だ。高等部の校舎は割と近いけれど、中等部の校舎までは少し遠い。流石にまだ遅刻するほど切羽詰まってはいないけれど、ここで無駄に時間を潰していては中等部の校舎に戻るまでに急がなくてはいけなくなってしまう。他に用事もあるらしいことを言っていたのだし、もし時間のかかることだったらなおさらだからね。
「あ、そうでした。華蓮お姉様」
「え、私?」
那月ちゃんの用事があったのは私にだったらしい、でも心当たりがないのだけれども。
何かあったのかなあ、なんて考えいていると二人は居住まいを正してから頭を下げた。
「あけましておめでとうございます。挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
「おめでとう」
わざわざそのためにこちらにまで来てくれたらしい。電話では話はしていたし、新年の挨拶も交わしてはいたけれども、こうして年が明けてから顔を合わせたのは今日が初めてで、改めて挨拶に来てくれるだなんて本当に律儀な子なんだな。
「あけましておめでとうございます、那月ちゃん、智也くん、今年もよろしくね」
「あけましておめでとう、二人共。わざわざ律儀なことだな」
私達も二人へと新年の挨拶を返して頭を下げる。
「教室にまで押し掛けるのも気が引けていたのですが、ここで会えて良かったです。あ、でも玲奈お姉様にもご挨拶しないといけませんし、どちらにしても教室にまで行かないといけないですね」
「あ、玲奈さんだったらまだ校門の前に居ると思うよ」
「そうなんですか?それならそちらに行ってみようと思います。教えていただきありがとうございます」
「またね」
お辞儀をする那月ちゃんと手を振る智也くんにこちらも手を振り返してお見送り。二人はまた何か言い合いながら校門の方へと向かっていった。
「ふふ、那月ちゃんと智也くん仲良しさんだね。私、一人っ子だから羨ましいなあ。なお・・・木下君も一人っ子だったよね?兄弟とか羨ましいとか思ったこと無・・・い?」
二人を見送ってから直昌君へと振り返ってみれば今度は気のせいじゃなく呆れた様な表情と目が合った。え!?今のやり取りで何か私が呆れられるような要素ってあったっけ?
「・・・いや、なんでもない」
少し間を置いてから首を振ると、そのまま歩き出してしまう。あれ?何だかちょっと不機嫌になっているっぽい?なんだろう、双子とのやり取りのなかに直昌君が不機嫌になるようなことって無かったとおもうのだけれども。
「行かないのか?」
「あ、ごめん待って」
頭にはてなを浮かべていて立ち止まっていた私を少しだけ先に行ったところで振り返った直昌君に小走りで追いついて隣に並ぶ。
機嫌は少し下降したけれども、怒っているってわけじゃあ無いのかな?
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