表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/119

第十話

 改めて周囲を観察してみる。

 目の前にイビキかいて爆睡中のイケメンが一人、イビキとはいっても小さなもので体育館中に響き渡るようなものではないのが救いかな。

 周囲はチラチラと気にはするものの一向に行動に移す気配は無し。

 ただ、さすがに最前列ということもあって檀上でスピーチをしている学園長にはバレバレのようで視線はバッチリ此方に向いているし、その笑顔も引きつり気味でいらっしゃる。

 それと、教師の席の方から偉そう且つ厳しそうな推定教頭とか学年主任とか役職に就いてそうな先生がこちらを睨んでる。その視線が「はよ、起こせや、ゴラ!」と口より雄弁に語っていたりで、出来れば誰か席変わってほしい。

 もしこれがゲームの中だったら攻略キャラの導入イベントな感じで選択肢出てるよね。「起こす」「起こさない」って。クール眼鏡キャラの導入イベントとしては徹底的に間違ってると思うけれども。

 ゲーム攻略として考えるなら関わる気が無い、攻略する気が無いなら単純に「起こさない」を選択すればイベントは何事も無く推移してフラグが立つことも無くそのキャラも勝手にフェードアウトしていってくれるもので、私の望みとも合致する展開なんだけれども。


 「ねえ、ちょっと」


 覚悟を決めて声を掛けるのと同時に肩のあたりをトントンと突く、私だって眠気を我慢しているというのに目の前でグースカ寝られると腹が立つ。ピクリと反応はするものの起きるような気配はない、なかなか手強い。

 周りの私を見る目が勇者を見る民衆のソレなんだけれども、どういう意味なのか凄く不安なんですが。起こすと何か不吉なことでも起こるんですかねえ!?


 「あのー、もしもーし?」


 「・・・ふが?」


 初志貫徹、毒を食らわば皿までの精神で今度は少しだけ大きめに肩をゆすってみる。

 想いが通じたのか通じなかったのか、目覚めた様子の木下君。・・・どっちかっていうと起きてくれなかった方が良かったかなーとも思わないでもない。

 一瞬、キョトンとした感じの後に周りを見渡すと、視線を向けられた生徒が顔を青くして横に振ってこちらに目線を向けてくる。

 

 「・・・・・・世話を掛けた、アリガトウ」


 「・・・いーえ」


 お礼を言うならその目をやめて!?視線に誘導されて自分を起こした犯人を突き止めると、たっぷりと溜めを作ってからお礼の言葉を告げてきた。めっちゃ不機嫌な表情で。

 


 その後は木下君も寝ることなく式次第は恙なく進行してゆき新入生代表の挨拶へと。


 『新入生代表、成松勝彰』


 「はい」


 おー、誰が代表を務めるのかと思ってたら成松君だったのね。

 朝早くから用事があるって言っていたのはこれの事だったのかな、リハーサルか何かでもやっていたのでしょう。

 流石、攻略対象者は格が違ったといったところか、成績優秀品行方正はステータスの一つですよね。目の前に残念ステータスな攻略対象者がいますけれども。

 いや、目の前の彼にしても行動というか態度はアレだけど、スペック自体は優秀な可能性はまだまだ高いのか。態度は悪いが高スペックっていうのもお約束の一つだもんね。

 


 短すぎることも無く、長すぎてダレることも無い。そんな絶妙さ加減にもスペックの高さを披露しつつも代表挨拶を終える成松君。

 キリっとした表情はやっぱりとってもカッコイイと思います。その証拠に周囲の女子生徒の視線や挨拶を終えた瞬間に吐き出された吐息の熱量たるや。それでも騒ぎ出す声が無いのは良家の子女が多く集まる学園ならではといったところかな。

 


 それにしても、玲奈さんはアレを攻略してみたらと言っていたけれども、やっぱり無理でしょうアレは。

 周りの反応を見るに積極的に動こうものなら即、校舎裏で包囲殲滅陣の洗礼を受けること間違いなしでしょうよ。

 『キュンパラ』のストーリーは知らんが、攻略対象と急接近からの校舎裏へのコンボは乙ゲーのお家芸をいうかお約束みたいなものだろうし、それを踏襲する度胸は私には無いよ。

 


 その後もこれといってハプニングがあろうはずも無く入学式は無事、終了し体育館を出た後はだらけた空気の中バラバラと教室へ、休憩を挟んでちょっとしたHRをやって解散という流れ。

 外部生と言うアウェーな私は絶賛ボッチで教室までの道のりを踏破中であったのだが、その行く手を阻む人影が・・・って、さっきまで会場で隣にいた子等だね、名前は知らんけどれども。


 「や、勇気あるね、キミぃ。私は物部もののべ由美ゆみ、由美って呼んでね。で、こっちが──」


 「在郷ざいごう沙耶香さやかだよ、よろしくね」


 「あ、森山華蓮です。私のことも華蓮でいいよ」


 簡単な自己紹介を経た教室への道すがら、勇気ある発言の意味を説明してもらった。

 まあ、だいたい分かってたことだけど、内部生の間では木下君の寝起きの悪さは有名な話で、暴力等を振るうようなことはないもののあのクールな容貌で睨まれるのは女子はもちろんのこと男子でも恐ろしいらしく内部生で彼を起こす強者はもはや居ないそう。

 クールキャラ改め暫定寝坊助キャラと判明した木下君。これで五人中二人にゲームでの人物説明との性格の齟齬が出ている訳ですが、この世界では大規模な性格改変でも行われたんでしょうかねえ。

 木下君に睨まれたのはちょっと怖いけれども、早速女の子の友達ゲットできたし、これは幸先のよいスタートを切れたと言ってもいいんじゃない?

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ