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これはプロローグの前の話。

それは唐突だった。父が戦死し、母が病死し、残された僕は告げられる。

 

「あなたが、次世代の魔王です」と。

 

 その時の僕の年はまだ生まれて八年。八歳だ。八歳。未成熟で、世界をまるで知らないがきだ。それなのに、魔王なんて代役が務まるとでも?

 バカじゃないのか? って今はそう思うね。でも、その頃の僕はたいそうバカで、純真で、向上心があって、責任感があった。父が死んだとき、とても悲しかったが、それを支えるのは誰でもない息子の僕だ。そんな使命感のもと、僕はその時、頷いたのだ。

 

「うん! 僕頑張る!」

 

 もし、もしだ。僕を魔王に指名したそいつが、悪人で、僕を利用しようとしていたなら、魔界は混沌の時代となり、僕はそいつの傀儡になり下がるしかなかっただろう。

 まぁ、そいつは忠誠心がめっぽう強く、そんな邪な気持ちは無かったが、欲望が渦巻く魔界だ。何があったっておかしくはなかった。

 

 閑話休題。

 

 とまぁ、なんやかんやあり、ここで、僕は魔王となった。魔王の直結の息子だったこともあり、反対派も多かったが、賛成派が少々うわまり、僕は歴代最小年の魔王となってしまったのだ。

 

 まぁ、これが僕のミステイクな道のりだったのだろう。もう、その先の道なんてなく、お先真っ暗状態になってしまっている。

 と、いうのも、皆様はひきニートなんて言葉を知っているだろうか。

 働く意欲もなく、家にこもってだらだらと怠惰な日々を過ごす。これがひきニートであり、僕の事だ。

 

 きっかけを思い起こせば、根幹となるのはやはり魔王に若くしてなってしまったというのが理由だろう。魔王になり、私益だけを目的とするやからが僕に近づいてきたり、魔王の責務で、反乱軍を殲滅するための戦いによく出ていたので、その惨劇をまじまじと見てしまったり。

 要は現実を知ったってことなんだ。現実は当たり前に厳しく、どうしようもないほどに残酷と言うことを。

 まぁ、しかし、これらは些細な理由にしかならないだろう。やはり、一番の理由となるのは、「暗殺されかけた」「誘拐された」が僕を対人恐怖症にさせ、ひいてはひきニートにさせた最もの理由だ。

  暗殺されかけたのは、魔王の責務でへとへとになっていた十一歳のときだ。

 戦争を終え、その撤退途中に、仲間にまみれていた敵の工作員が、刃渡り二十センチはあるであろう短い魔剣を僕の右胸に刺してきた。最初は何が起きたのか理解できなかった。しかし突如来る熱い痛みに、口から吐血。それだけで、刺されたのだと理解した。

 僕は乗っていたダッシュドラゴンの背中から、ずるりと落ち、意識を暗転させることとなる。そのぼやけている視界ではにやけている工作員がいた。これが、僕の初めて死を覚悟した出来事だ。

 まぁ、このあとすぐにこの工作員はこちら側の幹部に瞬殺され、僕はすぐさま治療されて、なんとか一命をとりとめたらしい。

 誘拐のことは、思い出したくない。

 

 とまぁ、こんなこともあり、僕は周りが怖くなって、十二歳の頃から自分の部屋に引きこもるようになってしまった。それから早二年半月、僕は十五歳になろうとしていた。ズルズルと引きこもりを続けている。

 

 このままでいいのか? と問われたら勿論このままではダメだと思う。でも、しかし、楽なのだ。この自堕落な生活が。手放したくない。

 と、そう思いながら、ジュースを飲んでいるとき、大きなノックの音ともに、怒鳴り声にも似た声が聞こえてきた。

 

「魔王様! 今日の今日こそはこの部屋から出てもらいますぞ!!」

 

 この声はゲルマンだ。代々魔王の側近として働いている僕の現側近だ。

 僕を魔王に指名したのも、こいつなのだ。

 

「まーおーさーまぁーー!! 出てください!! このままではしもじものものに示しがつきませんぞぉ!!!」

 

「だぁ! うーるーさーいー!! 僕は魔王やめるって何回も言ってるだろうが!!」

 

 そう、もうやめたいのだ。魔王など。

 

「それでは、...それではダメなのです...! 先代の魔王様もおなげきになりますぞ...!」

 

 父さんは、もう死んでいる。死者がどう嘆こうとも勝手だ...。

 

「もう一度来ます。その時はどうか外にでるご決断を」

 

 そう言って、ゲルマンは足音を遠ざけていった。

  

 暫く、シーンとなり、またドアの方からトントンと小さくノックがなった。

 

 次はなんだ。と、思っていたらドアの方からかわいらしい声が部屋に入ってきた。

 

「ま、魔王様。お食事をもって参りました!」

 

 この声は僕のメイドであるサキュバスの少女のものだ。

 僕は魔力で扉の鍵を開けた。

 するといつも通りに、彼女はヒョコッと出てきて部屋に入ってきた。

 

「今日はケルビーのエグゾディア風でございます」

 

 彼女は持ってきた食事をてきぱきと用意する。

 彼女は僕の部屋に入ってこれる、数少ないと言うか、唯一の存在だ。

 

「そ、それで魔王様...」

 

 歯切れ悪くもじもじと彼女は言う。何のようなのかわかっている。わかっているので、僕は両手を広げた。

 

「ほら」

 

 そう僕が言うと、彼女は恐る恐る僕の首に腕を回す。

 今やっている行為は決して愛の行為ではない。これはサキュバスである彼女の食事なのだ。

 サキュバスは主に異性の精気をすいとって生きながらえる。吸い取り方はさまざまで、このようにハグから精気をすいとる方法もあれば、キス、性行為などの方法もある。

 

 それよりもまた胸が大きくなってないか? 彼女はあまり気にしていないのだろうか?

 

 僕も年頃だ。気になってしかたがないっす。 

 

 まぁ僕の煩悩はさておいて、彼女も苦しい過去を持っている。僕よりかも苦しい過去を。

 それなのに何故彼女はこのようにして他人と普通に接することができて、こんなに仕事に頑張れるのだろうか。

 

「いつも、ありがとうユリム」

 

 僕は自然と声が出てしまっていた。

 彼女は少々目を見開いて、僕を見た。しかしすぐに柔和な笑顔となり、僕の耳元で囁くのだ。

 

「魔王様。私はいつも魔王様に助けられていますよ。ありがとうございます」

 

 その声はとても聞き心地がよくて、透けるような声だった。

 そのあとはひとしきりに抱き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

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