全日本剣道選手権大会
全日本剣道選手権大会の決勝戦、警視庁に勤務する松田聖人はこの大会三連覇を目前としていた。
小学一年生から父親の影響で始めそれからというもの剣の道を極めんと日々過酷な練習に励んだ。
時には血尿が出るほどの猛練習の甲斐あり最年少優勝を21才と1カ月で二年前に達成し、前年までに2連覇、大会記録樹立の三連覇に向けてそれからも過酷な練習を日々反復で行いここ最近では練習でも後れを取る事はなかった。
一緒に剣道を始めた幼馴染の同じ年の春野美鈴も応援に駆け付けていた。
「聖人頑張れ、後一勝」
そして試合時間となった。互いに向かい合い、お互いに礼をする。3歩前に出て構えながら低い位置に身を置いて相手に礼を尽くす。そして剣先を交えた。
「はじめ」
主審のあいずで試合が開始される。お互いに立ち試合が開始した。
両者向かい合い会場は緊張に包まれ、打ち合う竹刀の打突音が響いていた。
決勝戦の相手は同じく警察関係の島津久紀、聖人より3才年上の26才で何度か手を合わせた相手だった。
3分が経過した頃だった。聖人は相手の隙をみて上段から面を放った。見事一本先取
で有利な状態で試合を運んだ。
(あと1本で優勝か)
聖人は疲れもあったが3連覇のかかる試合でモチベーションは非常に高かった。
続く試合も2分で無事に一本取る事となり、聖人の三連覇が達成となった。悲願の史上初の3連覇を達成した聖人はまた一つ大きく成長した気になっていた。
試合会場を後にし美鈴と一緒に歩いていると美鈴が言った。
「ヒーローインタビューをします。松田聖人選手今のお気持ちをお聞かせください」
「なんだよ急に。びっくりしたじゃないか」
「てへっ」
「来年の4連覇に向けて明日からも変わらず精進いたします」
「よろしい」
二人はお祝いにご飯を食べに行くこととなり、前から行きたかったレストランに向かっていた。
人通りの少ない交差点を渡っていたその時突如猛スピードで走ってくる乗用車があった。
気付いた時にはすでに遅く衝突すると思われたが車が衝突する直前二人はまばゆい光に包まれた。痛みはない。しかしそこで二人は意識を失った。
インテル地方シルウィア王国、聖人が気が付いた時には体が生まれたばかりの赤ちゃんになっていた。
「あなた名前はどんな名前にする?」
「光を意味するルークスにしようじゃないか」
「決まりね。ルークス強くなるのよ」
声の主は転生した聖人の父親となるシルウィア王国カリド候の10代目であるソルス・グラディウスと母親となるルナ・グラディウスだ。ソルスはそんな妻を見て一言。
「シルウィア王国で1、2を争う剣の使い手の俺の息子だ。強くなるにきまってる」
それを聞いたルナは負けじと話した。
「私だってシルウィア王国で1、2を争う魔術師の家系の1人よ、魔法も日々訓練させます」
「剣と魔法か~私も魔法が苦手なわけではないからな。もちろん両立してもらう」
「それならいいわ」
聖人は思った。
(俺の今後の名前はルークスかそれにしても魔法?ここは異世界なのかな?美鈴ももしかしたら転生したのかもな)
ルークス・グラディウスとしての聖人の人生が始まろうとしていた。
そして3年の月日が流れた。ルークスは父から今日貰った木剣で素振りをしていた。
「ひゃくにじゅういち、ひゃくにじゅうに」
あれから父ソルスも母ルナも全く泣かないこどもを不思議には思っていたが手のかからない才能のあるこどもだと内心誇らしかった。しかも木剣を与えたとたんに素振りを繰り返すルークスを見て二人は将来王国一の使い手になるのではないかと期待の眼差しで見ていた。
「貴方、ルークスは本当に才能があるわ。魔法もそろそろ勉強させようかしら?」
「そうだな。まさか与えたとたんに100を超える素振りをするとはな。物覚えが良さそうだから魔法も教えていかないとな」
ルークスは松田聖人の頃、美鈴と一緒に勉強も頑張り文武両道を目指し勉強も剣道も必死になって行っていた。
有名進学高校に美鈴と一緒に進学し高校でも勉強を頑張り都内でも有名な大学に進学し勉強と剣道ができることから警視庁に就職することになった秀才であった。
美鈴は美鈴で同じ大学を卒業してから都内でも有名な進学校の教師となったのだった。
(この世界は父と母の話では危険に満ちている。また会えるかもしれない美鈴を守るため前世以上に飛ばして行くぞ。まぁ美鈴の事だから守る必要もないぐらい頑張ると思うけど)
「ルークス少し手ほどきしてやろう」
父ソルスが素振りを頑張るルークスを見て言った。
「胸を借りるつもりで挑んで来い」
「はい、父上」
ソルス・グラディウスはシルウィア王国でも有名な剣士だった。
魔法も得意で主に超身体強化の魔法が得意でほとんどの剣士を一瞬で倒すぐらいの力量がある剣士であった。
「とりあえず防戦をするから木剣で好きなように挑んで来い」
ルークスは嬉しかった。松田聖人であった頃も厳格な父親であったが剣の腕も立つ達人の息子として手ほどきを受け今世でも王国1、2を争う剣士に育てられることを。ルークスは隙のない父の構えを見て思った。
(さすがよく分からないけど王国で1、2を争う剣士、全く隙が無い)
「父上いきます」
ルークスは上段切りを放ちそれを父ソルスが簡単に受け止める。胴を狙った剣も見事に防がれる。ルークスはそれから30分父と剣を交えた。
「本当に才能があるわね貴方」
「あぁまだ初めてなのに基本が出来ている。ルークス身体強化の魔法を教えてやる。少し近くに来なさい」
父ソルスはルークスを近くに招きルークスに向けて魔法を体に流した。
「ルークス何か感じるか」
「はい。父上からだが熱く感じます」
「これが魔法だ。術式を唱えることでお前も使えるようになる。いくかよく聞け。強化の神レオニスよ我が身を強化せよ」
父ソルスの体を魔力が被い気配が変わるのをルークスは感じた。父は続けて話した。
「ルークスお前もやってみろ」
「はい父上。きょうかの神レオニスよわがみをきょうかせよ」
魔力がルークスの体を包み込み体全体から力が湧いてくる。
(これが身体強化の魔法か)
「よし強化されてるな。その状態でもう一回模擬戦をやるぞ」
それから1時間の間、父ソルスに剣の手ほどきを受けた。身体強化していない状態と違って疲れもあまりなく体力まで強化されているのが分かる。
(これなら前世以上に強くなれる)
「よしルークス、初日にしては良くやった」
「ルークス次は明かりをつける魔法を教えてあげるわ」
「ルナ、そんなにいきなり詰め込まなくとも」
「父上、覚えとうぞんじます」
「そうか」
「いくわよ。ルークス。光の神アウレアよ明かりをともし給え」
少し暗くなり始めた。夕刻に母の手を中心に明かりが灯った。
「ルークスもやってみなさい」
「はい母上、光の神アウレアよあかりをともしたまえ」
魔法を唱えた瞬間ルークスの右手を中心に明かりが灯る。それを見た母が言う。
「魔法の才能もあるようね。さすが私の息子だわ」
その日以来、素振りと父との模擬戦を行い、母からは魔法を教えてもらうそんな日々が続く事となる。
そんなある日のこと日課となった素振りと父との模擬戦を終えた後、母から提案があった。
「ルークス攻撃魔法を教えてあげるわ」
「こうげきまほうでありますか」
「そうよ付いて来なさい」
母ルナに連れられてグラディウス家の剣の訓練場を後にし、今度は魔法の訓練場に連れて来られた。
「ルークス。ここの壁はね私の魔法で超強化されているのそうそうの魔法では破壊することは出来なくなってるのよ」
「そうなのですか」
「みておきなさい。火の神イグニスよ火球を放ち給え」
母ルナの右手から火の玉が発射され目の前の壁に当たり炎を散らして消えた。
「ルークスもやってみなさい」
「はい、母上、火の神イグニスよかきゅうをはなちたまえ」
ルークスの手からも火の玉がはなたれ壁に炎を散らし消えていった。
「よくやったわ。今後は色々な攻撃魔法を教えてあげるからね」
「はい」
(しかしこの世界凄いなまるでゲームの世界みたいな事がこんなに簡単にできるなんて)
「明日から勉強も始めます。シルウィア王国カリド候領で有名な学問の先生に習う事になるからちゃんと勉強するのよ」
「はい、分かりました。母上」
翌日、学問の先生であるカリド候領子爵の妻であるナナ・アエスタースがやって来た。
ナナはシルウィア王国中央高等学校を優秀な成績で卒業し、カリド候領高等学校で教師として働き今は定年した女性である。
銀縁眼鏡をした青色の着物を着ている女性がルークスに自己紹介をしてきた。
「これからルークス様をご指導させて頂くこととなったナナ・アエスタースといいます。まだ幼いとはいえカリド候主となられる方、ビシバシ指導させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「まずは簡単な数学から教えていきます。1+1は?」
「ナナ先生かんたんすぎます2です」
「正解。簡単?それならば15+12は?」
「27です」
「3才でこの暗算ができるなんてすごいわね。学問の才能があるかもしれない。今簡単に答えたのはシルウィア王国中央小学校でも3年生ぐらいのレベルですよ」
(学問も頑張るから飛び級して早く美鈴を探せる体制を作っておかないと)
「ナナ先生かけざんもできるであります」
「まさかそんなはずはないわ。2×6は?」
「12であります」
「うそ。天才ね。12×15は?」
「180であります」
「うそ。まさかそんな」
それからしばらく別室の応接室にて母ルナとナナは話をしていた。
「ルナ様、ルークス様は天才です。数学に関していろいろ質問してみたのですが高等学校レベルです。他の教科も教えたらすぐに覚えてしまいます。私が思うに早いうちにシルウィア王国中央小学校に出してもいいレベルだと思います」
「魔法と剣の才能だけでなく学問まで才能があるというのですか?これは早く主人に伝えなくては。ちょっと主人を呼んできます」
「貴方~」
ルナは部屋を出るとソルスの部屋へと走って呼びに行った。
「貴方。ルークスは学問まで才能があるって3才だけどしばらくしたらシルウィア王国中央小学校に出してもいいレベルらしいわ」
それを聞いたソルスは驚きを交えた声で言う。
「なんとそれは本当か?それならば早いうちにシルウィア王国小学校に行く準備をしなければ。ナナ先生はまだいるのか?」
それから三人でルークスの将来について話し合った後、ルークスは3才という幼さでシルウィア王国中央小学校へ入学させることとなる。ルークスに父ソルスは言って聞かせた。
「ルークス剣の修行はいつでもできる。まずはシルウィア王国中央小学校へ行ってきなさい。修行は毎日するようにな」
「はい父上、はやくそつぎょうできるようにがんばるであります」
かくしてルークスは3才と言う若さでシルウィア王国中央小学校へと入学することが決まるのであった。
(美鈴。俺と同じ目に会っているのならこの世界のどこかにいるはず。必ず探し出して世界は違うけど俺が守ってみせる)
ルークスはそう心の中で誓うのであった。
善は急げとルークスは入学まで間近となったシルウィア王国中央小学校のある首都シルウィーへと向け馬車に揺られ向かうのであった。
これから始まる学校生活にルークスは思いを馳せるのであった。