05 現代の魔法少女がサービスカットを行うようです
「よし、これでとりあえずは大丈夫なはず…」
部屋に駆け込んで、気が付けば眠っていたのに目が覚めてみれば外はすでに朝を迎えていた。
昨日は確かに布団にもぐりこんだのは夕方だったけど、決してよるというほどではなかったはず。
「それほど疲れてたんだろうね」
そう言ってくれたアヌビスさん。
部屋を開けるとそのすぐ近くにはリバテープと消毒液が置かれていたのでリバテープだけ傷があった場所に張って下に降りた。
アヌビスさんは昨日急に部屋に帰った私を心配してくれていたようで、私が顔を見せると安心したように大きなため息をついた。
「あの、ご心配おかけしてすみませんでした…。昨日はそのまま眠ってしまって」
「ああぁ、いや構わないよ。きっといろいろなことが起こったせいで疲れていたんだろう。おなかが減っただろうと思って今日の朝は少し多めに作っておいたよ」
「ありがとうございます…」
机の上には確かに量の多い料理が並べられていた。
そのいい匂いを嗅ぐと昨日から何も食べてないおなかが勝手に悲鳴を上げる。
キュー
「ははっ、ほら、早く食べよう」
顔を真っ赤にしてもおなかがすいているのは事実なのでおとなしく席に着く
「召し上がれ」
「…いただきます」
そっとスプーンでスープをすくい口元に運ぶ。
香辛料のきいたとてもいい匂いがさらに空腹を刺激する
「あ、おいしい…」
少し集めといえるぐらいだったけど、特に深みというものがあるわけでも特別なスパイスが効いているわけでもない。
なのに、その一口でしておいしいと思えるものがそのスープの中にあった。
どこか、とても懐かしい味…。
「気に入ってもらえたようでうれしいよ。ほら、まだまだあるからたくさん召し上がれ」
「いやー、しかし、本当にたくさん食べたね…。お代わりいる??」
「いえ、さすがにもうおなかいっぱいです…」
ついつい次から次へとお皿に手が伸びてしまい、あれほどたくさん乗っていた料理のお皿も全部きれいになってしまっている。
その食欲にアヌビスさんもすこしびっくりしているみたい。
…ちょっと恥ずかしいな。
「じゃ、朝食も済んだことだしかたずけでもしますか」
「あ、今度こそは手伝わせてください!」
汚名万来、じゃなかった汚名返上のためにも今度こそはちゃんとやらなくては。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です!」
腕まくりをして水場の前に立つ。
今回はけがをするようなものもないし大丈夫だ、と思う。
「本当の本当に?」
「だから、大丈夫ですって!」
昨日のこともあってかアヌビスさんはとても心配そうに隣でそわそわしている。
むしろ、そっちのほうが大丈夫なのかと聞きたくなるほどだ。
(アヌビスさんって、結構いいっぽい人そうだよね…)
昨日の会話の中では時に怖くも感じたけれど今はそんな気配みじんもなくてむしろおせっかいな親戚のおばちゃんのような感じすらもする。
しばらく隣で私が食器を洗うのをじっと見ていたけど、無事けがもなく全部洗い終えると「ほ…」と、小さなため息をついていた。
むしろため息をつきたいのは私のほうなんですけど…と思ったのはここだけの話。
「じゃ、僕はこれから少し用事で外に出かけるけどあまり危ないことはしないでね」
「はーい。わかりました」
玄関先でアヌビスさんを見送って、一人家に残される。
「にゃー?」
「あぁ、あなたを忘れていたわ。ごめんなさい、ラフちゃん」
足にすり寄ってきた子猫のラフちゃんをそっと両手で抱える。
「む、ちょっと臭うわね…」
どこか野性味あふれるにおいに思わず眉を顰める。
「って、そういえば私も昨日からお風呂入ってないじゃん」
そうおもって、家の中を少し探索してお風呂場を探す。
意外とそれはすぐに見つかった。
一階の廊下のすぐわきに扉があってそれを開けるとシャワーのついたお風呂場があった。
「着替えはないけど、まぁアヌビスさんもいないし別にいいよね」
お風呂を勝手に使っていいかどうか少し迷ったけど昨日アヌビスさんは家にあるものはある程度勝手に使っていいって言ってたし別に大丈夫だろうと思うことにした。
「ほら、ラフちゃんあんたもこっちきなさい」
これからどんな目に合うのか予想がつくのか扉を開けようと必死に爪でひっかくラフちゃん。
どんな不思議素材なのかわからないけど木製の扉に傷がついていないのでそのまま抱き上げる。
「うん、やっぱりすこしにおうわね…」
すでに脱衣所で服を脱いだので今の私は生まれたままの姿。
「あ、これもはがしておかないと」
指から絆創膏を外してごみ箱の中に入れる。
「ほーら、あんたも観念しなさい!」
「にゃー!」
どたばたと胸の中で暴れるラフちゃんをなんとか抑えつつお風呂場に入る。
「よし、じゃあいくわよー」
人肌程度に温かくなったシャワーを思いっきりラフちゃんにぶっかける。
「あれ、あんまりおどろかない…」
てっきりさっき以上にあばられるのかと思ったら少し当たって驚きはしたみたいだけどむしろさっきよりおとなしくなっている。
「私的にはそっちのほうが楽だけどなんだか拍子抜けね…」
おかれていたシャンプーでラフちゃんの体を洗う。
何で洗えばいいかわからなかったのでとりあえずの処置である。
「ほれほれ、ここが気持ちいのかー」
口や目に入らない程度に気を使いつつラフちゃんの体に泡をこすりつけていく。
そしてさっきまでとても暴れていたラフちゃんはといえば今ではまるでマッサージで儲けているかのように気持ちよさそうに目を細めている。
「はい、きれいになった!」
しばらくして泡を洗い流すとそこには獣臭さの消えたこぎれいな一匹の猫。
「じゃ、私も自分の体洗うからすこしおとなしくしててね」
そういってすでにラフちゃんを洗う過程で泡だらけになってしまった体や髪を洗っているときだった。
「って、着替えの服がないじゃない!!」
そう、着替えの服がないのだ。
洋服どころか下着の一枚すらない。
「ま、別に今家には誰もいないからどうでもいいか」
そりゃあ男に人に見られたら恥ずかしいけど今家にはアヌビスさんはいないし、着替えはなくてもタオルはあったからしばらくはそれを巻いて過ごしてればいいやという結論に至った。
「はい、私もきれいになったし、上がろうかラフちゃん」
すでに水が怖くとも何ともないのかシャワーからの水しぶきで遊んでいたラフちゃんを抱えて脱衣所に出る。
「ほーら、またじっとしててね~」
タオルでラフちゃんの体を拭いていく。
ついでに私の体もある程度拭いたらさっきまで来ていた服を眺める。
「やっぱりこれも一回洗ったほうがいいわよね…」
少し汗のにおいがするそれを今もう一度来なさいと言われるとあまり着たいと思わないのは当然のことなので。
「よし、洗濯しちゃおう!」
記憶はなかったけど、洗濯板と石鹸の使い方走っていたのか。なんとも都合のいい記憶である。
とりあえず風呂場に服を持ち込みごしごしと洗う。
ラフちゃんは洋服をひっかいてしまうかもしれないので外に出している。
「ふふーん、フフフーん♪」
鼻歌を口ずさみながらごしごしと生地を傷めないように力を込めて洋服を洗っていく。
泡が立ち、膨らんで浮かんでは割れて散っていく。
「せっかく体拭いたのに二度手間になっちゃったな…」
びしょびしょ泡泡になってしまった自分の体を見つめてそうこぼす。
「ま、いいか」
もう一度タオルを取り出して体をふき、大き目のタオルで体を隠す。
「いちおう、念のためにね」
外に出て、物干しざおとハンガーがあったのでそれを使って洗い立ての洋服と、タオルを一緒に干す。
「しっかし、やっぱり周りは森森森。木や草しか見当たらないわね…」
まるで森の中のポツンと空いた空間の中にこの家が建っているかのようだ。
「なんで私あんなところで倒れていたんだろう…」
遠く、小さくてっぺんだけ見える塔らしきもの。
そのふもとで私は眠っていたのだとアヌビスさんには教えられた。
「ま、考えても仕方がないし、とりあえず家の中に戻りますか」
誰か森の中に人がいるとは思わないけど、今の私はタオル一枚まいただけの姿。
日の光で温かくて気持ちいけどあまり外にいるのが好ましくない姿だというのはよくわかっているつもり。
「さて、なにしようかな…」