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04 現代の魔法少女が異常を発見したようです。

「さて、ここで生活してもらうにあたっていくつか注意してもらわないことがあるから、しっかり聞いてね」


「はい!」


私がこの家に居候することに決まってすぐあと、アヌビスさんからの説明会が始まった。


「まず初めにだけど、そこの窓から見えるとおりに、この家は森の中にあるんだけど、そこはいいかな?」


確かにその窓の外にはうっそうと生い茂る木々が見える。

思い返してみれば私が見つかったのは森の御社っていうところらしいし。


「もちろんあの中には僕たちにとって危険な生物もたくさんいる。だからむやみにあっちに近寄ったらだめだ。基本、君の活動場所はこの家の見える周辺に限ると思ってもらっていい。あ、もちろんその代わりといっては何だけどこの家の中だったら基本自由にしてもらっていいよ。部屋にある本は自由に読んでもらっていいし、何か不自由なことがあれば僕に言ってくれれば可能な限り対処するから。何か質問はあるかい?」


そう言ってこちらを見る彼の目はとても透き通っていて、まるでビロードのようだった。

質問、あるにはあるけれど、それは聞いてもいいのだろうか少し悩んでしまうが、やっぱり聞いたほうがいいかなって思ったので聞いてみることにする。


「あの、そ、その犬の頭は、本物、なんですか…?」


どう見たって本物には見えないけど、あまりにその慣れた感覚につい本物なのか思ってしまう。

…そう、私の常識の中では人の頭が犬の形をしている人なんていなかったはず。


「ハハッ!ようやく聞いてきたね」


私の質問に気分を害した様子もないのでひとまずは安心する。

でも、なんでそこまで上機嫌なんだろう…。


「いや、失礼。今までいろんな人にこの姿で接してきたけど初対面で堂々と聞いてきたのは君が初めてでさ。うん、そうこれは作り物。この下にはちゃんと人の頭があるから取って食べたりとかはしないし安心していいよ」





「なんだったんだろうね、あの人…」


あの後軽く家の紹介を受けて、最初に私が目を覚ました場所が私のいる部屋だと教えられて今は子猫と一緒にベットの上で転がっている。


「にゃー?」


「いいや、なんでもないよ。そういえば、あんたの名前はなんていうんだろうね…」


首を見てもそこには名前を記すタグも何もなかった。

いや、そもそもこの猫が飼い猫出ない可能性もある。


「しょうがない、私が名前つけてあげる!」


どんな名前がいいだろうか。

この子は女の子だし、かわいいのがいいな。


「カタラトフ…?」


考えているうちになぜか浮かんだのは、まったくかわいげのない、そんな武骨な名前だった。

「いやいやいや、なんでこんなかわいくない名前思いついたんだろう…」


だからといって、なぜだかその名前を軽視することもできなくて


「決めた、君の名前はラフにしよう!」


カタラトフの中から二文字とって、できるだけかわいく仕上げてみたけど、やっぱりどこか違和感が残るその名前。


「いい?ちゃんとこれからラフって呼ばれたら返事するんだよ?」


「にゃー」


わかったの返事か、それとも知ったこっちゃないとの返事か。

いずれにせよラフは私の手をぺろぺろと舐めている。

ざらざらとしたその舌触りはとてもくすぐったかった。





「あぁ、よかった。まだいたね」


「あ、えっと、アヌビス、さん」


部屋の中でラフとゆっくりとしていると扉の隙間から犬の頭が覗いてきて少し驚いたけど、思い出して見ればアヌビスさんだと分かった。


「どうしたんですか?」


「これから晩御飯を作るんだけど何か食べたいものとかあるかな」



「これを短冊切りにすればいいんですか?」


「うん。ありがとう。それが終わったらこっちのほうも手伝ってもらおうかな」


何が食べたいかって聞かれて、でも自分の好物がいったい何だったのかすら思い出せなくて右往左往していたところにアヌビスさんが一緒に作ってみないかって誘ってくれたから、いま厨房で手伝っているんだけど…。


「危なっかしいなぁ…」


自分でそう思うほどに自分が料理が上手でないことがわかる。

幸いにして指を包丁で切るとかはしてないけど今にも切ってしまいそうで戦々恐々。

刃を入れている野菜も形が不揃い。


「大丈夫、慌てずゆっくりやればいいからね?」


あまつさえ隣で料理を進めるアヌビスさんに心配される始末。

むしろ私は手伝わないほうがいいにゃないかってぐらい私に料理の才能はないみたいだ…。


「はぁ…」


「あ、ほらちゃんと手元見てないとケガするよ!?」


「へ?」


ザクリ


その時の感覚をどうやって表せばいいんだろうか。

ひやりとした感覚がした後、ちょっと体が熱くなってすぐに指先に熱が帯びる。

タラリと、切った指先から赤い液体があふれてくる。


「あちゃー、やっちゃたか…」


「あ、あ、えっと、あの…」


「大丈夫大丈夫、小さな傷だからあわてないで!ゆっくりそのまま指を上にあげておいて。医療道具持ってくるから!」


慌てないでって言った本人が一番慌てているような気もするけど…。


(別にこれぐらい…。あれ?)


いかなる不思議か、包丁で切ったはずの傷口から血が止まり、見る見るうちに傷口も治っていく。

それはまるテレビの逆再生を見ているかのよう。

流れ出た血は戻らなくても、傷口の付近にあった血は吸い込まれるように戻り、ジッパーが閉まるように傷口が消えていく。


「ほら、持ってきたから傷見せて」


「いえ、だ、大丈夫です!」


これは絶対に普通じゃない。

たとえ記憶がなくたってわかる。これは異常だ。


パクリと、指を口にくわえて大丈夫です、大丈夫ですと連呼する。


「ちょっと気分が悪くなったので、部屋に戻ります!」



部屋に戻って、何度指をながめてもそこに傷の一切は見当たらない。

傷跡一つない、真っ白な細い指。

この上をさっき傷が走っていたはずなのに…


傷が消えていく映像が頭に何度も浮かんでは消えていく。


「はぁ、まったく、もうなんなのよ…」


目が覚めて気づけば記憶がなくなっていて。

無事かどうか話わからないけどとりあえずの生活の安心は得られたというのに。

せめてのお手伝いと料理を手伝えばけがをしてそれが瞬時に治ってしまう自分の異常さを知って。


「もう、やだ…」


ベットに転がり、毛布を抱き寄せる。

こんな時こそラフを抱いて眠りたいのに、ラフは今下できっと毛糸玉で遊んでいるんだろう。


ゆっくり瞼からこぼれる何かを頬に感じながらそっと目を閉じると、なにも浮かばない暗闇が浮かぶ。

そっと、ゆっくりと、そのまま意識を手放してしまえれば。

何も考えず、不安を抱えず生きて行けたなら。

せめて、記憶が戻れば。

せめて、体がふつうであったならば。


心の中をいろいろな考えが目まぐるしく回っていく中、ゆっくりと意識が体から離れていくのを感じ、そのまま私は眠りについた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「今のあれは…」


彼女が包丁で指を切り、慌ててリバテープをもって戻ってきてみれば呆然とその指を眺める彼女がそこにいた。

たしかに切ったと思ったその指に一切の傷跡は認められなかった。


「でも、そんなはずは…いや、まさか?」


そう、それはつまりこの短期間で傷が治ったことを示す。

普通の人間ではそんなこと絶対にありえない。


そう、『普通の』人間だったならば、だ。


そして僕は、その『普通でない』人間に心当たりがあった。


でも、それは限りなくあり得ないこと。

いくら願ってもあり得ないと、自分自身が納得した奇跡。


そう、もしや、『彼女の』、『彼の』…。


「にゃー?」


思考に臥せっていると、突然足元から猫の鳴き声がして現実に意識が戻される。


「あ、あぁ、そうか、君の分の食事も用意しないとね。」


体は猫の餌の用意をしつつも、やはり頭はさっきの光景からはなれない。

その『奇跡』がなったとするならば…。いや、でも…。


期待する半面、そんなことはあり得ないと頭が、理性がそう判断する。


「でも、そう考えてみるとどことなく彼女にはその面影が…」






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