第13話 『災厄』
草太と花奈がノックをすると、中から「入りな」とアルビダの声がした。
「来たぞ」
「ああ、わざわざ呼び出して悪いね」
草太が声をかけると、机に座って書類に目を通していたアルビダが顔を上げた。
「そういう事務仕事は苦手だと思ってたよ」
「一応あたしがいない間にクリシュ大陸で何かあったか把握しておかなきゃいけないからねえ。苦手ってのは当たりさ」
草太の軽口にアルビダはやれやれと首を振る。
「まあ座んな」とアルビダに促され、草太と花奈は近くにあった椅子に腰を下ろした。
「呼び出した理由は『黒の巨人』についての情報交換だっけか」
「ああそうだね。特に、ソウタと因縁が深そうだったメアリって女について聞きたい」
「あいつか……正直俺もよくわかってはいないんだ」
「それでもいいさ。長いこと『黒の巨人』を追ってきた私達だが、あんな女は見たことがなかった。それに……あの女は危険だ。私のカンがそう言ってる」
「……あいつは狂ってる。人を殺すことになんのためらいもない」
草太は自分の服をまくり上げた。
そこには横一文字に大きな傷が痛ましくついている。花奈が隣で目を伏せ、アルビダが目を見開いた。
「前にあいつにつけられた傷だ。なんとか一命は取り留めたけど……致命傷だった」
「……港での戦いを見ていた獣人達に話を聞いたところ、メアリはあんたに固執しているようだった。それに、ハガラとも同等の立場にある様子だったとね……メアリの狙いはなんだと思う?」
「……前に戦ったときは、あいつは『死闘』を望んでいるようだった。血で血を洗うような……激しい闘いを」
「戦闘狂、か……。さしずめソウタは、そのメアリに見初められたってところかい」
「ああ。殺し合いの相手としてな」
「なるほどねえ……それじゃあ、今まで姿形を表舞台に出さなかったメアリがここにきて急に姿を現したのはなぜだと思うんだい?」
「……『黒の巨人』の計画が完成しつつあるのかもしれない」
「……ぞっとしないねえ。奴らの計画が上手くいったらいったいどうなるってんだい」
アルビダは憂鬱そうに首を振る。
その時、ずっと黙っていた花奈が口を開いた。
「……あの、アルビダさん」
「ん、なんだいハナ?」
「巨人に関する文献は残っていないんですか? その、この世界で巨人はどういう存在なのか……私達は何も知らなくて」
「巨人ねえ……あれはおとぎ話や英雄譚にしか存在しないものさ。実在したという記録もない。神代武器や古代武器が眠る迷宮にだって、巨人が現れたことはない」
「架空の存在……じゃあ、『黒の巨人』という名前は……」
「アンスロコーラの冒険者達の中では、それは何かの隠喩だと言われているね。英雄譚に出てくるような化け物を名前にしてんだ。世界征服でも企んでるんじゃないか?」
「そう……なんですか」
花奈は戸惑ったまま口を閉じた。
「……『黒の巨人』は、各地で人々を襲っている。それはなぜだと思う、アルビダ」
「……それもまだわかっていない。人々を殺すことに何の意味があるのか……奴らの野望になんの関係があるのか」
「俺は、『黒の巨人』が何かを復活させようとしているんだと思う」
「復活? 何を?」
「――巨人だよ」
草太の言葉を、アルビダは「バカバカしい」と鼻で笑った。
「さっきも言っただろう? 巨人は大昔の人間が考えた架空の怪物さ。実在した証拠なんてどこにも……」
「実在していないという証拠もないだろ?」
「それは……」
草太の言葉にアルビダは言葉を詰まらせた。
「アルビダ、人が死ぬことや、人の負の感情……もっと単純に人の血とかでもいい。そんな巨人がでる英雄譚を調べてくれないか? あるいは、神話に詳しい人物を紹介してくれるでもいい。俺の仮説は間違っているかもしれない。でも、あの組織に常識は通じないんだ。俺達が知らない世界の秘密を知っているのかもしれない」
「……」
「アルビダ、頼む」
「……ああ、わかったよ。心当たりのある人物がアンスロコーラにいるから、話を聞いておくさ」
「……ありがとう」
「じゃあ今度はこっちが情報を渡す番だね。これを見な」
アルビダが筒状にした紙を草太に投げる。しっかりとキャッチして開くと、そこには三人の似顔絵が乗っていた。その中には先日港で戦ったハガラの姿もあった。
「これは……」
「それが、『災厄』と呼ばれる『黒の巨人』の幹部さ。似顔絵だから多少は違う所もあるかもしれないけどね」
草太と花奈は顔を寄せ合ってその似顔絵を注視した。その下には彼らの特徴が書かれている。
「『鋼鉄』のハガラ。港であったからわかっていると思うが、そいつは物を鋼に変える【唯一魔法】を使う。口は軽いが狡猾で、油断は禁物だね」
「躊躇なく獣人達を肉の壁にしましたもんね」
「ああ。その隣のごつい男が『致命』のゴリアテ。とにかくこいつは逆境に強い。他の金の冒険者が以前追い込んだんだが、それまでとは比べ物にならないほどの力で逃げたらしい」
「主人公みたいな能力だな……」
「やってることは極悪人だけどねぇ。こいつが一番人を殺している。油断しない方がいいよ」
「そうですね……最後のこの女の人は?」
「そいつは『甘美』のエリザベート。吸血鬼の末裔って噂だね。幹部の中では一番情報が少ないが、その実力は折り紙付きさ」
「吸血鬼の末裔ねぇ……なんでもありだな」
「この三人が要注意人物ってことですね」
「そうさ。言っておくけど、サラス大陸に居たような連中と同じだと思わないことだね。こいつらは、くぐり抜けた修羅場の数が違う」
「分かった。注意しておくよ」
それから何分か会話をして、草太と花奈は船長室を後にした。
「もっと強くならないとな」
「うん。……誰にも負けないくらいにね」
「……だな」
花奈が草太の顔を見上げながら笑い、草太も頷くと同時に笑みを返した。
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