第12話 出航!
翌日の午前中、誰にも見送られることなく『黄金の海賊団』の船がひっそりと出発した。広げれた帆が風を受けて前に進む。
「結構揺れるな……」
「こんなに大きな船に乗ったのなんて、生まれて初めてだよ!」
ふらつきそうになってあわててバランスを取った草太の横で、花奈が目を輝かせて船を眺めた。
珍しく少女のようにはしゃぐその姿を草太は微笑ましく思った。
「うぅ……やっぱり私には無理がありました……」
その後ろでリフィアが顔を青ざめさせて弱々しく呟いた。
「まだ出発したばかりだぞリフィア。そんなんで大丈夫か?」
その背中をメリナがやさしくさする。
「うう……すみません、私はやはり奥で横になってきます……」
リフィアは青い顔のまま甲板から離れ、船内に入って行った。
「やっぱ置いてきた方が良かったんじゃないか?」
「草太くん……」
草太が半分本気で言うと、花奈が呆れ顔でため息をつく。
「冗談だよ。リフィアには悪いけど、船に慣れてもらわなきゃ困るしな。今回だけじゃなく、ヴィーシュ大陸に渡る時にも船に乗るんだし」
草太は首を振って呟いた。
「二人とも、あっちには参加しないのか?」
リフィアを見送ったメリナが草太と花奈に声をかける。
メリナの言う「あっち」とは、マストの下で行われている大会のことだ。
「ふっふーん、また私の勝ちね!!」
「ぐあああ負けたあぁぁぁ!」
「この女強いぞ!」
そこでは黄金の海賊団のクルー達とアテナが腕相撲大会を開いていた。
現在十連勝中のアテナが鼻を高くし、自慢げに草太達を見遣る。
「私はちょっと……腕力があるわけじゃないし」
「あたしもそうだなー。ソウタはやらないのか?」
「あいつの鼻っ柱を叩き折りたいってのはあるけど、今はのんびりと船旅を楽しみたいな」
草太も乗船経験がそんなにある訳では無い。そもそも地球に居た頃に遠出をしたことも滅多にないが。
だから、今はこの貴重な体験を大事にしたいと思った。
「向こうに着いたら何が待っているか分からないからな」
「黒の巨人が潜んでいるかもしれないしな」
「それに加えて、コニーやケニー達が所属している組織もだな。なんでかわからないけど、俺達に執着してくるし」
「ラモール教だよね……黒の巨人ですっかり忘れていたけど、あの人達にも注意しなきゃ」
花奈はウィルフレドの顔を思い出して気を引き締める。
「クリシュ大陸ではラモール教が結構流行ってるんだろ? 黒の巨人よりそいつらの親玉とぶつかる方が早いかもな」
「確かラモール教を国教にしている『ペイムール聖教国』があるな」
「……ほぼ確実になんかあるな」
メリナがふと思い出すように言うと、草太は顔を顰めた。
「ソウタ、浮かない顔をしてますがどうかしましたか?」
三人が話し込んでいると、ティーチが様子を伺ってきた。
「いや、船酔いとかではないので大丈夫だ。……ティーチ、ペイムール聖教国って国を知ってるか?」
「え? 知っていますよ。『三大陸連合』に加盟している国ですからね」
(また知らない用語が出てきたな)
草太はティーチが発した言葉に眉を顰める。
「『三大陸連合』ってなんなんですか?」
「サラス、クリシュ、ヴィーシュの三大陸にある主要国家と一部の国が和平条約を結んだ組織ですよ。サラス大陸からはフェリア王国とノルデーン王国、クリシュ大陸からはアンスロコーラ、ペイムール聖教国、アッサヒンリー帝国、ヴィーシュ大陸からはマギオラ、ジャギルス共和国、シアン王国、そして東海の北部にある島国のシルファス王国です。計十ヶ国になりますね」
聞き覚えのある国もあったが、その大半が知らない国で草太は目を何度か瞬かせた。
更にその中にペイムール聖教国とマギオラの名前があるのだから笑えない。
「ペイムール聖教国ってなんか悪い噂とかないのか?」
「いいえ?」
草太の問いにティーチはきょとんとしながら答える。
「あの国は宗教国家ではありますが外交にも積極的ですし、周辺国にちょっかいを出すということも無いですからね」
「そ、そうなのか……」
想定とは違った答えに草太は更に混乱する。
(ラモール教は悪の組織ってわけじゃないのか……? いや、それを上手く隠しているってことも考えられるな)
「……それじゃあ、マギオラはどうなんだ?」
「マギオラですか……ソウタ達も気付いているとは思いますが、黒の巨人との関連性が一番強いと思われる国ですね」
「あの国独自の魔法道具を使っているからですよね」
花奈が確認すると、ティーチは難しい顔で頷く。
「ええ。それもまだ市場に流通していないようなものを彼らは使っています。ただ……」
そこでティーチは少し言いづらそうになりながら、言葉を続ける。
「先程も言ったようにマギオラは三大陸連合に加盟している一国です。なので、十分な証拠が出ない状態では手出しが出来ないんですよ」
「なるほど……ありがとう、詳しく教えてくれて」
「いえいえ」
草太が頭を下げると、ティーチは穏やかな笑みを返した。
「ところで、ティーチはなんで俺達の所に来たんだ?」
「ああそうだ、すっかり忘れていましたよ。もうすぐ昼食なので船内にある食堂まで案内します」
「おお! 飯だー!」
ティーチの言葉にメリナがはしゃぎ始める。外見もあってただの子供にしか見えない。
「それじゃあご馳走になるか」
「ええ、ついてきてください」
ティーチが歩きだし、草太と花奈とメリナはそれについて行く。
(ペイムールとマギオラ……そしてそこにいるラモール教と黒の巨人、か……どっちも一筋縄じゃいかなそうだな)
ティーチから教えてもらったことを脳内で整理しながら、草太は目を光らせる。
(両方共に俺達の顔が割れているわけだし、慎重に行動しないとな……)
草太は緊張で体が引き締まるのを感じ、誰にも気付かれないように小さく息を吐くのだった。
海賊団の料理人が腕によりをかけて作った料理を食べ終え、草太は宛てがわれた部屋に寝転がった。
「はあー美味かった……」
魚料理の味を思い出し、このまま昼寝でもしようかなと思っていると部屋の扉からノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します、ソウタ」
答えると、少し顔色が良くなったリフィアが入ってきた。
「体調はどうだ?」
「少し回復しました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「いいっていいって。それで、何か用か?」
「はい、その……」
リフィアは言いづらそうに入口で固まる。
「入れよ、ここに座っていいから」
草太はベッドに座り、リフィアにも座るようジェスチャーを送る。
「はい、失礼します……」
リフィアが草太の隣に座り、少しの沈黙が流れる。
(船酔いの相談では無さそうだな)
リフィアの表情は真剣で、草太に何か大事なことを伝えようとしているのが分かる。
「遠慮するなよ、聞くだけならタダだからさ」
「は、はい……その、ソウタ。これは私のわがままなのですが……ノーシェンまで獣人達を送る役目を、私達で引き受けたいのです」
リフィアが口にしたのは、少し予想外のことだった。
「クリシュ大陸で終わりじゃなくて、家まで送りたいってことか?」
「はい。その……完全に個人的な理由ですが……」
「理由を聞いてもいいか?」
「……以前私達が戦ったカブールと、彼の奴隷を覚えていますか?」
「ああ……確か、ミレーラって名前だったな」
草太は無表情なウサミミ奴隷を思い出して頷く。
「彼女が……今際に残した言葉に、ノーシェンという言葉がありました。彼女の肩身はせめて、彼女の故郷に埋めたいと……」
リフィアは話しながら『道具袋』から束になった白い毛を取り出した。
「なるほどな……」
「それに私は、卑怯な手を使いなんの罪もない獣人を殺めました。だから今度は、この手で獣人達を守りたいのです」
「……」
「『黒の巨人』を追っている私達にとっては、ノーシェンまで行くのは回り道になるかもしれません。ですが、私はどうしても……」
リフィアはそこで言葉を詰まらせる。草太がそっと背中をさすると、「ありがとうございます」と小さい声で囁いた。
「俺は構わないぞ。ノーシェンにまだ『黒の巨人』の残党がいるかもしれないし。理由を話せば花奈達も納得するさ」
「……ありがとうございます、ソウタ」
「気にすんな、仲間だろ」
ようやく笑ったリフィアを見て、草太も自然と笑い返した。
と、ちょうどいいタイミングで再び扉がノックされた。
「どうぞー」
草太が答えると、今度は花奈が顔を見せた。
「草太くん、アルビダさんが呼んでるよ……って、リフィア!? 草太くんの部屋でなな、何を……?」
「ち、違いますよハナ! 相談があって……」
「後で花奈達にも教えるよ。アルビダが呼んだ理由はなんなんだ?」
「う、うううん? ま、まあいいか……確か、『黒の巨人』について聞きたいことがあるって」
「分かった、すぐ行く。リフィアはどうする?」
「この状態では話に入れないと思うので、自室で休んでおきます」
「ん、分かった」
草太と花奈はリフィアを部屋まで見送り、船内を歩き始めた。
「草太くん、リフィアの相談って?」
「訳あってノーシェンに行きたいんだとさ」
「ノーシェンに……獣人達を見て、ミレーラさんのことを思い出したのかな」
「そうそう。俺は構わないんだけど、花奈は?」
「私も。リフィアがやらなきゃいけないって言うなら付き合うよ」
「そう言うと思ってたよ」
花奈が優しく笑い、草太もニッと笑う。
そうして二人はアルビダの部屋――船長室の前に着いた。
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