第9話 一時の安寧
更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ございません!
戦いを終え、倉庫街は本来の静かな空気に戻っていた。
「アルビダさん、これはどういう状況なんですか!?」
騒ぎを聞いて駆けつけたギルド職員が、アルビダに詰め寄る。
「あーまあ、ちょっとした喧嘩があってな……」
「『ちょっとした』で済まされる被害状況ではないのですが!」
アルビダが曖昧に答えると、職員の女性は辺りを見渡して悲鳴を上げた。
『黒の巨人』の幹部であるハガラ達との戦いで、いくつかの倉庫が多大な被害を負った。その中に保管されていた物資なども全ておじゃんになってしまっている。
「とにかく、今回の事件で出た損害はきちんと支払ってもらいますからね!」
「そ、そいつは勘弁してくれよ!? 私達だって正当な理由があったんだよ!?」
「オスクルの経済を担うヴェネールの倉庫をめちゃくちゃにしていい正当性があるはずがないですよ!」
「……姉御、ここは一度退きましょう。俺がなんとか援助をもらえるようにオルナスに頼んでみます」
「くっそ……ハガラの野郎は絶対に許さないからねぇ!」
アルビダが悲鳴を上げているのを横目に見ながら、草太は数十人はいる獣人達に囲まれていた。
ハガラの唯一魔法によって足止めされた草太だったが、幸い足に纏わりついていた鋼はリコシフォスで何度か叩くことで砕くことができた。
急いで花奈達と合流したら、現状のように獣人が縋るように草太に群がってきたわけである。
「俺の白魔法【スティール】で、こいつらの首輪を外すってことか」
「うん、できそう?」
花奈が伺うように顔を覗き込んできたので、草太は安心させるように頷いた。
「魔力にはまだ余裕があるし、なんとかなると思う。……ちょっと耳を貸してくれ」
「え、あ、うん」
何故か顔をほんのり赤らめる花奈に顔を寄せ、草太は小声で囁く。
「みんな、かなり怯えている。俺の魔法の性質上、一人ずつしか首輪を外すことしかできない。当然、後続に回される人ほど不安は大きくなるだろう。だから、花奈達にはそういう人達のケアを頼みたい」
「……わかった」
花奈が頷いたことを確認し、草太は獣人達に向き直った。その中の一人、草太に一番近くにいる狼人の男を指さす。
「それじゃあお前から順番に首輪を外していく。待っている奴らは不安だろうけど、暴れないで静かにしておいてくれ」
草太の言葉に、獣人達は怯えながらも静かに従い始めた。
「よし、【スティール】――」
草太はそれを見て、近くにいた獣人の首輪から順に外していった。
港にしばらく草太の詠唱と魔法の輝きが続いた。
(単純作業だからある意味楽だけど、こんなに多いとさすがに骨が折れるな)
厳密に数を数えていたわけではないが、すでに二十人ほど首輪を外した。それでもまだ半分に行くかどうかというところだろう。
(先を見ると気が滅入りそうだし、今は無心になろう)
「次ー」
草太は疲れを見せないようにしながら、待っている獣人に声をかけた。
「……ん?」
と、草太は自分が呼んだ人物の頭にケモミミが生えていないことに気づいた。
ただの人間である少女は、ひときわ怯えた様子で草太の前に立つ。
「……君は獣人じゃないのか?」
「は、はい。幼い頃にノーシェンで拾われて……」
「ごめん、余計なことを聞いたな」
訳ありな口ぶりに草太は表情を固まらせた。
「い、いえ! 種族が違う僕を、皆暖かく受け入れてくれたので……不自由は感じていません」
「そうか、それは良かった。その暖かい生活に、すぐ戻れるようにするよ」
「あ、ありがとうございます!」
それ以上草太は少女と会話はせず、速やかに『隷属の首輪』を取り払った。
そうして更に時間が過ぎ。
「ふぉあああああああ!! つっかれたーー!」
ようやく獣人達全員の首輪――総数六十三個を【スティール】で解除し終えた草太は、疲労感と共にその場に仰向けに倒れた。
「お疲れ様です、ソウタ。アルビダから頂いた水です」
「おーリフィア、ありがとう」
草太はリフィアから貰った瓶に入った水を一息に飲み干した。
「魔法使っただけでそんな疲れた顔してんじゃないわよ、情けない」
「お前、労いの言葉とか無いのかよ……」
アテナが呆れ顔でそんなことを言ってきたので、草太は一層疲れた表情を浮かべる。
「花奈なんていつもあんたより魔力を消費してるのに涼しい顔してるじゃない。情けないと自分で思わないの?」
「チート持ちの花奈と比べるなよな。……そうだアテナ、外した『隷属の首輪』を一つ残らず破壊しておいてくれ」
「女神の私にそんな雑務をやれって言うの?」
「……足に石括りつけて沈めるぞ駄女神」
「返り討ちにしてやるわよクソ童貞」
一触即発の雰囲気に、リフィアはやれやれとため息をつく。
「お前らやめろよなー。問題は解決したんだし、もうちょっと明るくいこうぜ」
睨み合う草太とアテナの間に、メリナが割って入る。
「ソウタ、壊すのはあたしがやっておくよ」
「助かるよ、メリナ。どっかのアホ女神とは大違いだ」
「わ、私だってやらないとは言ってないじゃない!」
メリナに微笑みかける草太を見て、何故かアテナは顔を赤くして張り合った。
メリナとアテナが積み上がった『隷属の首輪』を壊していく様子を見ながら、草太はぽつりと呟く。
「あいつ、ほんとにめんどくさいな」
「そこがアテナの魅力ですよ」
「……そんなもんかぁ?」
草太は隣のリフィアに懐疑的な視線をむける。だが、リフィアは至って真面目な表情を崩さない。
「ええ。アテナは不器用で面倒臭い人……神ですが、そここそが彼女の長所だと思います」
「……俺には分からないな」
「いつか分かりますよ、ソウタ」
そう言って笑うリフィアに、草太は曖昧な表情を返すしかなかった。
すると、後ろからアルビダが草太の肩を叩いた。
「ソウタ、獣人達を救ってくれて感謝するよ」
「アルビダ。もう職員との話はいいのか?」
「何割かは私達が負担することになっちまったねぇ……」
「俺達も暴れたんだし、いくらか出すぞ」
「いや、巻き込んだのはこっちなんだし気にしないでいいさ。あんたらにはいい働きをしてもらったからね」
「懐が広いな、さすが船長」
草太の褒め言葉に、アルビダは「当然だろう」と笑う。
「……あの獣人達はどうするんだ? 街中には入れられないだろうし、かといって倉庫の中に匿うのもアレだし……」
「そこは心配いらないよ。ティーチ!」
「はい、間もなく到着すると思います」
草太の懸念を聞いたアルビダが、隣に立っていたティーチに呼びかける。ティーチは海の方を向いて、その一言だけを呟いた。
つられるように草太とリフィアも沖の方を向き――そして、驚愕に目を丸くした。
「あ、あれは……!?」
「海賊船だ……」
海を進む巨大な帆船。それがゆうに十もあった。先頭を進む船には、銃を加えたドクロが描かれている。
「あれこそが、あたしの可愛い部下達……『黄金の海賊団』の船さ!」
驚愕する草太とリフィアを見ながら、アルビダが誇らしげに笑った。
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お待たせしてしまい本当にすみません!




