第7話 再会の激突
遅れてしまい、申し訳ございません!
「なるほどな、ハガラ達が俺のことを知っていたのはお前が教えたからか」
「その通りです。さすがソウタは聡明ですね」
「……竜王をけしかけたのもお前だな」
「ええ。あなたを試させていただきました」
草太の質問に、メアリは悪びれる素振りもなく答える。
「なあ、あの女誰なんだ? ソウタと知り合いみたいだけど」
メアリを知らないメリナが、草太の後ろで花奈に訪ねる。
「メアリ……『黒の巨人』の一員で、草太くんがかつて負けた人だよ」
「ソウタが、負けた……!?」
花奈の言葉にメリナは息を飲んだ。
「……問答はこれくらいでいいでしょう。私と貴方の間にそのようなものは不要なのですから」
「……みんな、ハガラ達の相手を頼む」
「ソウタ、一人くらいは支援に回る方がいいのでは?」
「悪いなリフィア。こればっかりは譲れない。俺はあいつに勝たなきゃいけない。――他でもない、俺のために」
草太は地面を踏み込み大きく跳躍し、メアリが立つ倉庫の上に降り立った。
「好い瞳ですね。貴方はその瞳をしている時が一番素敵です」
「……あの日から、お前を忘れたことは無かった。ようやく、そのニヤけた顔をぶっ潰せる」
「あぁ……素敵……」
メアリは顔を蕩けさせ、大斧を構える。それを見て、草太もリコシフォスを強く握った。
「「――!」」
そうして、一呼吸の後に。
二人の武器が火花を散らして激突した。
「おおおおお!」
草太の切り上げを、メアリは涼しい顔で受け止めた。だが、メアリの斧をリコシフォスが押し上げる。
「っ!」
メアリはリコシフォスを払い、草太の脇腹に蹴りを入れる。草太は攻撃を躱し、もう一度リコシフォスを切り上げた。
メアリはそれを再び防ぎ、頬を赤らめる。
「なんて、なんて素晴らしい進化でしょう! 一月前とはまるで別人ではないですか!」
「良い師匠に巡り会えたからな」
「素晴らしい。いつか貴方のお師匠様も殺してみたいですね」
「やらせねえよ」
草太はリコシフォスを引き、素早い突きを連続で繰り出した。
「重い、重いですわソウタ! あなたの攻撃が、思いが、その剣に全て乗せられているかのようです!」
「本当にお喋りが好きなんだな。すぐに黙らせてやる」
草太は一つ息を吐き。
「【アクセラレーション】」
その唯一魔法を唱えた。
ゴッ!!
轟音と共にメアリの体が弾き飛ばされる。
あの時の戦いよりも、鋭く重い、そして何よりも疾い一撃。
その攻撃をモロに受けたメアリの細い体は、重い音と共に別の倉庫に激突した。
「おーおー、派手におっぱじめるなぁ」
草太とメアリの戦闘を、ハガラは涼しい顔で眺めていた。
そんな彼を花奈、リフィア、アテナ、メリナが囲む。
「こんな美女を侍らせているなんて、ソウタはいけ好かねえ奴だなぁ」
「随分と余裕があるわね。この状況からどうやって勝つつもりかしら?」
「いやぁ、いくら俺でもお前達全員を相手取るのはしんどいな。でも……」
ハガラはそこで一度口をつぐみ。
「――俺の勝ちだ」
軽薄な笑みを、獰猛な殺し屋の物に変貌させた。
ハガラの言葉と共に花奈達が立っていた地面が盛り上がる。
「なに……!?」
突然の事態に為す術もなく、花奈達は鋼鉄の柱に拘束された。自由に動くのは首から上だけだ。
「俺の唯一魔法、【鋼鉄化】だ。自分以外のあらゆる物を鋼に変える」
捕らえた少女達を眺めながら、ハガラは下卑た笑みを浮かべながら静かに語る。
「さて、お前さん達は殺してもいいんだが……かなりの上玉だからこのままどっかの貴族に売り飛ばすのも悪くなさそうだなぁ」
舐め回すようなハガラの視線に、花奈達は嫌悪感を露わにする。
「――まあ待ちな」
そこに、鋭い女性の声が響いた。
「アルビダさん!」
いつの間にそこに居たのか、アルビダとティーチが立っていた。
「げぇっ! アルビダじゃねえか。ここまで俺の事を追ってきたのか? ひょっとしてお前、俺のこと大好きなのかぁ!?」
「相変わらず口の減らない奴だねぇ……」
ハガラの言葉にアルビダは辟易したように首を振り、腰から一丁の銃を取り出した。
それはそこにいる誰もが目を奪われる美しさを持った黄金銃だ。アルビダはそれをみせびらかす様子もなく、銃口を花奈達を捕えている鋼に向けた。
アルビダが素早い動きで撃鉄を引く。途端、鋼柱が粉々に砕け散った。空中に放り出された四人はなんとか地面に着地し、その前にティーチが立ちふさがった。
「ちっ。『魔鋼石』で作られた弾丸か」
「そうさね。うちには良い鍛冶師がいるんだよ」
ハガラがつまらなそうに舌打ちをすると、アルビダはそう言って笑った。
「『魔鋼石』と言うのは、魔力を流し込んだ分硬度が増す魔石です。この系統の魔石の中では、元々の硬度が一番高く、それ故にかなり希少なものになっています」
知らない単語に首を傾げていた花奈達にティーチがそう説明する。
「そ、そんな貴重な物を使わせてごめんなさい……」
「いいんですよ。ハガラと戦うならこれくらいやらなければ倒しきれませんから」
身を縮める花奈にティーチは優しく笑いかける。
「『青』の冒険者四人に、『黄金の海賊団』の船長と幹部か……こりゃあさすがの俺でも無事じゃ済まないかもしれねえなぁ」
ハガラが頭を掻きながらぼやく。
「あーあ、『青』以上の冒険者がいないオスクルなら上手くいくと思ったんだがなぁ……まさか『殺戮道化』を倒した奴らがいるなんて予想外だったぜ」
「なるほどねぇ。それがあんたらがここを選んだ理由かい」
「外国から物資を運びこむのにここが適していたっていうのもあるな」
「ほ、本当におしゃべりだな……」
作戦の内をべらべらと打ち明けるハガラを見て、メリナが呆れ顔で呟いた。
「情報源としてはかなり有用なんですがね……奴の残虐な性格は放っておけば沢山の人が巻き込まれてしまいます」
「故に……ここで倒さなければいけないのですね」
「そうです……ですが、ハガラはここからがしぶとい」
ティーチの言葉に答える様に、ハガラはニイッっと口角を釣り上げた。
「俺じゃあこの戦いは役不足だ。でもなぁ……お前らにはお前らに相応しい相手を用意してあるんだよぉ!」
ハガラが懐から小さなベルを取り出し、リィンと透き通った音を響かせた。
「何をしたんだい?」
「すぐにわかるぜぇ! 食らいやがれ!」
アルビダの問いには笑うだけで、ハガラは鋼鉄の柱を彼女に向けた。
「ちいっ!」
アルビダはそれを素早い動きで撃ち砕き、ハガラに向かって距離を詰める。
「観念してお縄につきな!」
「それはできない相談だぁ!」
アルビダの黄金銃と、いつの間にかハガラの手に握られていた鋼鉄の剣が激突する。
「わ、私たちも加勢しないと……!」
「……いや、待ってください」
動こうとする花奈を、ティーチが制す。
「ティーチさん?」
「……これは、まずいことになりましたね」
ティーチが一人でそう呟いたその時。
倉庫街から、いくつもの人影が飛び出した。
「なに!?」
一心不乱に自分に向かってくる人影を見て、アルビダはハガラから距離を取った。
謎の存在達はハガラの前に立つと、まるで彼を守るかのように構えた。
その頭には特徴的な獣の耳がついており、首には黒い首輪――『奴隷化の首輪』がつけられている。
「あの人達は……!」
「捕まった、ノーシェンの獣人達!」
正体に気付いた花奈とリフィアは険しい顔を浮かべる。
ハガラは一層醜悪な笑顔を浮かべて語る。
「もうこいつらに商業的な価値はねえ。せいぜい俺が逃げるための時間稼ぎをしてもらう」
つまりは、獣人達を肉壁として扱うという事だ。人を人として扱わないその発言に、花奈達は一様にハガラを睨む。
けれど、獣人達の瞳は虚ろで、感情を落としてしまったかのようだ。
(諦めているんだ……どう足掻いても死ぬ状況から、逃げ出すことは出来ないって……)
彼らの心境を思い、花奈は悲しい気持ちになった。罪のない彼らが、ここまで絶望していることがたまらなく悲しかった。
「……ハナ、やるわよ。あの気に食わない男をここでぶっ倒すわ」
「――うん!」
アテナの言葉に、花奈は力強く頷いた。
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