第6話 海を眺める暇もなく
朝食を終え、草太達は作戦会議をした後に外に出た。
向かう先はこの街の命とも言える港だ。
「アルビダ曰く、そこに奴らの拠点があるらしい。俺達は拠点を調査または殲滅する役割だ」
「でも当てもなく探し回る訳にはいかないだろ? なんかいい方法でもあるのか?」
草太の言葉にメリナが首を傾げた。
「一応アルビダ達が事前に調べていたみたいで、人目につかない所、普段奴隷交易に使われている所、現在誰も使っていない所などなどが数ヶ所あるらしい。そこに怪しい奴らがいないか調査するんだ」
「りょーかい」
草太が説明すると、メリナは納得したように頷いた。
「んじゃあ行くか」
「港行きの舟はあそこから乗れるみたいね」
「舟、ですか……」
昨日船酔いしたリフィアが浮かない表情になった。
「まあ、そんなに時間はかからないだろうし、昨日ほどひどい状態にはならないんじゃないか?」
「うぅ……エルフの誇りのためにも、昨日のような失態はおかしません」
深刻な表情をしながら、リフィアは自分に言い聞かせるように呟いた。
結果として、リフィアは今回もダメだった。
「き、気持ち悪いです……」
「リフィア、楽な体勢でいいからね?」
口元を手で抑えながら青ざめるリフィアを、花奈が介抱する。
「うーん……リフィアがここまで船に弱いと、この先どうなるか心配だな」
「大陸を渡る時なんて相当ひどいでしょうね」
「いっそのことリフィアだけ置いていって、向こうに着いたらソウタが迎えに行けばいいんじゃないか?」
「それいいな」
「二人とも、その案はリフィアが可哀想だから駄目だよ?」
メリナと草太が残酷な話し合いをしていると、花奈が冷たい笑みを浮かべながら諌めた。
五分ほどしてリフィアも大分回復し、五人は埠頭に出た。
「「わぁ……」」
海を見たことがないというメリナとリフィアが、目の前に広がる雄大な景色に息を呑んだ。
「これが、海……」
「果てが見えません……」
「ふっふーん、二人とも呆気にとられているわね」
「なんでお前が得意気なんだよ」
感動している二人の後ろで、草太はアテナの言葉に呆れ顔を浮かべた。
「でも、すごい綺麗だね……日本の海とは違った物に見えるよ」
「俺はそういうのはわかんないな」
「あはは……」
「地中海はこの数倍綺麗だけどね! あんた達にも見せてあげたかったわ!」
「お、誰のせいで見れなくなったんだ?」
「すみませんでした」
調子に乗るアテナを、草太がぴしゃりと黙らせる。
「……さて。海もいいけど、そろそろ探索に出よう」
『はーい』
草太が呼びかけると、海に魅了されていた少女達はどこか気の抜けた返事をした。
船着場から北の方角に、数多の巨大な倉庫が並んでいる。他国から輸入したもの、逆に他国に輸出するものなどがここに保管されているのだ。
「止まれ! ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
当然警備もされている。草太達は倉庫地区に入る手前で冒険者数名に止められた。
「俺達は『金』の冒険者アルビダの指示でこの辺りの調査に来ている。名前はソウタだ。……道を開けてくれ」
「『海賊女帝』の……」
「そういや、なんかそんな話聞いた覚えがあるな」
「今朝ギルドの職員が説明してた奴だろ」
「なるほど……何か証明できるものは無いのか?」
「これでどうだ?」
草太は冒険者達の前にアルビダの『冒険者の証』を出した。
「……わかった。通っていいぞ」
「どうも」
草太達は軽く会釈をしながら、冒険者達の間を通る。冒険者達は何故か兵隊のように並んでいた。
「ところで、なんの調査をするんだ? この先には怪しいものなどないと思うが」
ちょうど五人が真ん中の辺りに来たところで、冒険者の一人が尋ねてきた。
「あまり無関係の人に教えられることじゃないんだ。悪いな」
「……へぇ。それはもしかして、『黒の巨人』ってやつか?」
「なっ……!」
冒険者の言葉に、草太達は息を呑み――。
その喉元に、刃物が当てられた。
「――!」
いつの間にか、草太達は敵に囲まれていた。先程まで冒険者を装っていた者達が、草太達を取り囲み臨戦態勢に入っているのだ。
草太の前にいた男が底意地の悪い笑みを浮かべる。
「クク、迂闊だったなあ。ソウタ……だっけか? お前は俺達がお前のことを知らないと思っていたみたいだが、こっちはちゃ〜んと認識しているぜ?」
「……お前ら全員、『黒の巨人』か」
「そのと〜り! 俺様はハガラ。『黒の巨人』の『災厄』が一人、『鋼鉄』のハガラだ!」
「なるほど、アルビダが言っていた通りだ。随分とおしゃべりな奴だな」
「ハッハァ! どうせ俺の喋ったことなんてお前らが聞いても意味ねえからなぁ」
「殺すから問題ないってことか」
ハガラを見据えながら、草太が低い声を出す。
「その通り!」
「ハガラさん、ソウタは生かしておかなきゃダメなんですよ」
「んあ、そうだったな。……というわけで、ソウタは俺達とともに来い。お仲間とはもう会えないから、今の内にお別れの言葉でも伝えておきな」
部下に訂正されたハガラは、草太の周りを歩きながら不快な言葉を発する。
「……」
その言葉を聞きながらも、草太は冷静だった。『黒の巨人』が冒険者のフリをしていることは、起きうる事態として警戒していたからだ。
草太はメリナに目配せをし、メリナが頷くのを確認してハガラに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「お別れの言葉を言うのは、まだ早いみたいだけどな」
「強がるなよぉ。周りには俺達とお前達以外に誰もいねぇ。助けを呼ぶことなんて出来ねぇぜ?」
「そうだな、助けを呼ぶことは出来ないな。だったら、俺達の手でこの状況を打開するまでだ」
「ハッハァ! この状況からどうやって! お前ら五人の末路なんて、とっくに決まってんだよぉ!」
「五人……? おかしいな。俺の目に映る仲間の数は三人だけなんだが」
草太のその言葉を聞いて、ハガラは嘲笑を崩した。
「……おい、もう一人のチビはどこに行ったぁ!」
「あ、あれ……? 確かに捕まえたはずなのに……」
「てめぇ、あのガキをどこに逃がした!?」
メリナを捕らえていた男にハガラが詰め寄る。だが、男は化かされたかのように戸惑うばかりだ。
呆気に取られる『黒の巨人』の者達の耳に、少女の怒り声が響いた。
「チビでもガキでもねぇ! あたしはメリナだ!!」
「ぐあっ!?」
草太を羽交い締めにしている男の即答に、メリナが『マヴロスキア』の柄を叩き込んだ。
男は呻き声を上げ、突如の衝撃に思わず草太の拘束をゆるめる。
「おい馬鹿、何やってる!」
ハガラが怒鳴る時には、既に草太は男を倒していた。
「ちいっ! 今すぐにソウタとメリナとかいうガキを捕らえろ!」
ハガラの支持に従い、手の空いている『黒の巨人』
の手先が草太に接近する。
「お前らじゃあ役不足だ!」
草太は言い放ち、リコシフォスを閃かせた。
一瞬の剣技に、群がっていた男達が音もなく倒れた。
「ハ、ハガラさん……」
その隙に『幻影暗夜』を使ったメリナによって、花奈達が拘束を解かれる。一瞬の逆転劇にハガラの側にいる男が声を震わせた。
「……なるほど。確かにあいつの言った通り腕は立つようだなぁ」
「大人しくお縄につけ。ここからお前らが勝つ術はない」
リコシフォスを構え、草太はハガラを睨む。だが、窮地に立たされているはずのハガラは余裕の態度を崩そうとしない。
草太は本能的に、危険を察知した。狡猾な『黒の巨人』が、ここで終わるはずがないと。
そして、草太のその危機感は、とある人物によって証明される。
「さすがですわ、ソウタ。私が認めた殿方はそうでなくては」
声が響く。忘れられない、血に塗れた高貴な声が。かつて、草太が敗北を突きつけられた声。草太に恐怖と痛みを教えこんだ声。
振り向き、草太は表情をより険しくさせる。
「メアリ……!」
宿敵の姿が、そこにあった。
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