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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第5章 いざ、新天地へ!
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第5話 腹が減ってはなんとやら

 『黄金の酒場亭』を朝日が包む。窓から差し込む日の光を浴びて、草太はぱっちりと目を覚ました。

「ふぁ……よく眠れた……」

 体の疲れはすっかりと回復し、酒気も抜けている。この宿のベッドは上等なのだろう。

「後は、久々に一人で眠れたからかな」

 ここ最近はずっと花奈達と同じ空間で眠ることが多かったので、どこかで肩に力が入っていた。しかし、昨夜は一人だったのでリラックスして眠ることができたのだ。

「今度からも宿をとる時はこうしよう……」

 うーん、と伸びをして、草太は女子達を起こすために貴族用の部屋に向かった。



 ドアを二回ノックしてしばらく待つ。少しして「どうぞー」と花奈の声が聞こえてきた。

「おじゃましまーす……うわ、酒くさ!!」

 部屋に入った草太は室内に充満するアルコールの臭いに鼻をつまんだ。

「あ、おはよう草太くん……」

「おはよう花奈。どうしてこんなあれな臭いなんですか?」

「その、メリナとアテナちゃんが昨夜お風呂に入らずに寝ちゃって……今窓開けたんだけど……」

 花奈が困り顔で事情を説明する。現況のアテナとメリナの姿が見当たらないので風呂に行っているようだ。



「それはしょうがないな」

「おはようございます、ソウタ。昨夜はよく眠れましたか?」

「おはようリフィア。ぐっすり眠れたよ」

 苦笑を浮かべながら、草太は部屋の奥から出てきたリフィアに挨拶を交わす。

「この臭いだとあまり眠れなかったんじゃないか?」

「ハナに【ウィンドウォール】をかけてもらって二人との間に壁を作ったので問題ありませんでした」

「隔離じゃねーか」

 涼しい顔でなかなか冷たいことをするエルフに、草太は顔を引き攣らせる。



 なんというか、リフィアは随分と逞しくなった気がした。

「……まあいいや。【クリーン】」

 草太は小さく息をついて、部屋に充満する酒臭さを白魔法で取り除いた。

「ありがとう草太くん。これですっきりしたよ」

「さすがに我慢できなかったからな。アテナ達が戻ってきたら、今日の予定を話し合おうと思う」

「分かりました。それまでこちらで待っていますか?」

「そうさせてもらうか。設備もこの部屋の方が充実してるからな」



 ざっと見回しただけでも、草太が泊まった部屋よりも豪華なことが分かる。

 天蓋付きのダブルベッドが二つ。床にはふかふかの絨毯が敷かれ、奥にはのんびりとお茶を楽しむための椅子と丸テーブルが置かれている。

「アテナちゃん達が戻ってくるまで、そこの冷蔵庫から果物でも食べようよ」

「ああそうだな……ん? 待て、冷蔵庫?」

 花奈の言葉に、草太は眉をひそめる。



「うん、そこにあるやつ」

 花奈に言われた方を見ると、直方体の箱が目に入った。小さな取っ手付きの扉を開くと、中からひんやりとした空気が流れ出る。

「すごいな、本当に冷蔵庫だ……」

 草太は驚いた。この世界に来てから見た食材の保存方法は、地下に収納するか塩漬けにするかがほとんどだったからだ。



「『魔氷石』という魔石を加工した物のようですね。『魔氷石』には魔力を流すと冷気を発する力があります」

「便利だな、魔石って。でも俺の部屋にはこんなのは無かったな」

「今まで見たことないし、高級品なんじゃないかな」

「そうだろうな」

 草太は冷蔵庫に入れられた色とりどりの果物から林檎のような物を手に取り、部屋の中にある台所に向かう。



「魔石の加工か……これはもしかしなくても『マギオラ』の製品なんだろうな」

「うん……私、マギオラがどんな国なのか分からないよ」

「まあ技術ってのは悪事にも利用されるし、侵略国家であるマギオラが技術力があるのはおかしくは無いな。便利な製品を他国に輸出するのも軍事費を調達するためかもしれないし」

 花奈の沈んだ声に、草太は手際よく林檎を剥きながら答える。



「私達はまだあの国のことを何も知らないですからね……」

「そのためにも、これからやる仕事は失敗できないな」

 切り分け、種を取り除きながら、草太は自分に喝を入れる。



「ほい、出来たぞ」

 高級そうな小皿に林檎のようなものを並べ、草太はテーブルに置いた。

 綺麗に並べられた果実に、花奈とリフィアがわーいと群がる。

「『シャリシャリ』ですか。美味しそうですね」

「……何その名前」

「シャリシャリしてる事からついたと聞いてます」

「安直すぎるだろ」

「それにしても、見事な盛り付けですね。エルフはいつも丸齧りしていたので、新鮮です」

「エルフさんって実は結構野蛮なのでは?」

「そ、そんなことないですよぅ」

 草太がからかうと、リフィアは恥ずかしそうに俯いた。



 だがシャリシャリを食べるとすぐにその顔を綻ばせる。

「前々から思ってたけど、草太くんって料理得意だよね」

「まあな。じいちゃんが料理出来なかったから、俺がやるしかなかったんだ」

「へぇ……」

 草太の答えに花奈はもくもくとシャリシャリを食べながら頷く。



 花奈はごくんと飲み込み、草太に顔を向けた。

「前々から気になっていたけど、草太くんってよくお祖父さんのこと話すよね。一緒に住んでたの?」

「そうだよ。十歳の冬からだな」

「へー」

「ソウタのお祖父さんのお話は興味がありますね」

「期待しているような面白い話はないぞ」

 草太はシャリシャリを口に入れて難しい表情を浮かべる。シャリシャリの味は爽やかでとても美味だった。



「じいちゃんのことか……声がでかい人だったよ。比喩とかじゃなく、普通の話し声がでかいんだ。年取ってる割には腰も曲がってなくて体もでっかく感じたな。ばあちゃんが遺した庭をよく手入れしてた」

「草太くんとはだいぶ違うんだね」

「いえ、ハナ。草太も成長したらもっと筋骨隆々になるかもしれませんよ」

「多分ならねえよ」

 花奈とリフィアが呑気に交わす会話を聞いて、草太が呆れ顔で返した。



「あとは、不器用な人だったな。料理はできないし、掃除も大雑把だし……必然的に家事は俺がやらなきゃいけなかったな」

「だからテキパキしてるんだね」

「ま、苦労の賜物だな。こんなもんだよ、じいちゃんの特徴なんて」

「参考になります」

「なんのだよ」

「いいおじいさんなんだね」

「……まあな」

 照れ隠しに草太はシャリシャリをもう一つほおばった。



「たっだいまーー!」

 話が終わったところで、アテナとメリナが帰ってきた。勢いよく扉が開かれ、生乾きの髪のまま二人の少女が笑顔で入ってくる。

「おかえりぃ」

「あ、なんで女の子の聖域にあんたがいんのよ! でていきなさい!」

「へぇ、そんなこと言ってもいいのか?」

 シッシと手を払うアテナの前に、草太は楊枝に刺したシャリシャリを揺らす。



「な、なによ……わ、わたしがそんな果物ごときで……」

 アテナは鼻で笑おうとするが、その目はしっかりとシャリシャリを捉えて離さない。

「あ、ソウタ。あたしにもそれくれよ」

「おーいいぞ。好きなだけ食べるといい」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」

 美味しそうにシャリシャリを齧るメリナを見て、アテナは悔しげに呻いた。



「……しょうがねぇなぁ、ほら」

 それを見た草太がやれやれといった表情でアテナにシャリシャリを差し出した。

「い、いいの?」

「ああ」

 呆気にとられながらもアテナはあーんと口を開き……。



「とでも言うと思ったか」

 まさにかぶりつこうとしたその瞬間。草太がアテナの目の前にあったシャリシャリをひょい、と自分の口に運んだ。

「ん、やっぱうまいなー」

「あ……あ……あ……」

 目の前でシャリシャリを美味しそうに咀嚼する草太を見たアテナの頭の中で、なにかがぷっつんと切れる。



「あああああああああああああああああああああああああああ! ハナ、ハナあああああああああああああああああああ! ソウタがいじめるのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「よしよし」

「私にくれるって言ったのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「悲しかったですよね」

 子供のように泣きじゃくるアテナを、花奈がまるで母親のようにあやす。

「自業自得だろ」

「草太くん、やりすぎだよ」

「す、すんません」

 妙に迫力のある花奈の前では、さすがに草太も顔を引きつらせた。



「ほら、悪かったよアテナ。今度こそあげるから」

 草太は今度はアテナに楊枝ごとシャリシャリを渡した。アテナは疑り深い目で草太とシャリシャリを交互に見る。そうして、意を決して口に運んだ。

「……んまーい! 口の中でシャリシャリと子気味のいい音を立てながら、甘い果汁を存分にあふれ出しているわね!」

「そりゃよかった」

 満足そうに破顔するアテナを横目に、草太は空になった皿を片付ける。




「んで、今日の予定を話そうと思っているんだけど」

「その前に朝ごはんでしょ? 早く行かないと食堂が閉まっちゃうわよ」

「……」

 自分の欲を優先するアテナに、草太はうんざりとした視線を向ける。

「先に朝食を終わらせた方がアテナも大人しくなるでしょうし、ここは食事に向かいませんか?」

「……ま、そうするか。腹が減って泣き叫ばれても困るしな」

「私は赤ん坊か!」

 保護者目線でやり取りをするリフィアと草太に向けて、アテナがうがーっと牙を剥いた。




 『黄金の酒場亭』の一階にある大食堂では、この宿の料理人達による絶品料理を食べることが出来る。評判はかなりいいらしく、朝にも関わらず食堂は賑わっていた。

「あれ、アルビダじゃないか」

 注文したパンと目玉焼きが載ったお盆を持ちながら席を探していた草太は、食堂の隅にいる女海賊に気付いた。

「ぁあ……ソウタか……」

「どうしたんだよ……」

 アルビダが青い顔で手を振り、草太は若干戸惑いを見せる。



「君達と別れた後に朝まで何軒もハシゴしましたからね。ただの二日酔いです」

「ああ、酒臭いのはそれが原因か。ていうか、今晩にでも奴らの基地を叩く予定なんだろ? そんな状態で大丈夫か?」

「姉御は半日ほど寝れば酒が抜けますので、夜には元気な姿になっていますよ」

 涼しい顔で紅茶を飲むティーチが放った言葉に、草太は乾いた笑いを浮かべ、その場を後にした。



(なんだかんだぶっ飛んでんな……)

 草太がアルビダとティーチと話している間に、花奈達が席を取ってくれていた。花奈とメリナの間に座り、パンを咀嚼しながら草太が疲れた顔をしていると花奈が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「草太くん、どうかした?」

「いや、なんでもないよ」

 首を振り、牛乳でパンを流し込む。



(何はともあれ、今晩がキモだ。入念に作戦を練って実行しないとな……)

「あー! アテナ、それあたしのだろ!?」

「嫌いだから残していたんでしょ?」

「好物だから取っておいたんだよ! ああもう、代わりにお前の貰うからな!」

「あっ、メリナ、それはだめ! 食べるの楽しみにしていたのに!」

「二人共、もう少し静かに食事をしてください……」



(大丈夫なんだろうか……)

 同じテーブルで騒ぐ仲間たちを見ながら、草太はため息をつきそうになるのをぐっと堪えた。





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