第4話 『金』の冒険者からの依頼
空が茜色に染まる頃、草太達は大きな時計塔の前に集まった。
「……お前ら、一体何をしてたんだよ……」
集まった仲間達の姿を見て、草太は頭を抱えた。
「えっと……店員さんにおすすめされて……」
最初に口を開いたのは花奈だ。いつものローブではなく、フリルのついたワンピースに水色のスカートと、現代の少女のような格好になっている。正直かなり似合っているが、草太はその服についているロゴを見逃さない。
「それ、『クラーラ』っていう高級服飾店のだろ。いくらしたんだ?」
「…………」
ギギギ……と花奈がゆっくりと目をそらす。
「こっちの目を見なさい」
「あの、金貨十五枚……」
「じゅ……!?」
つまり、上下合わせて十五万円相当の服ということだ。いつも〇ニクロで服を買っている草太からしたら目眩がする数字だ。
「……その、変じゃないかな?」
当の花奈は出費に関して特に問題は感じていないようで、窺うように草太を見上げてくる。
当然似合っているので草太は正直にそれを言わざるを得ない。
「めっちゃ似合ってるよ……はい次!」
ぱあっと顔を輝かせる花奈は放っておいて、草太はメリナの方を見た。
「メリナは……何をしてきたんだ?」
草太よりかなり背が小さい少女の服には、様々な返り血がついていた。
「いやー、最初はこの街をぶらついてたんだけど、【アビステンペスト】を使い慣れておきたいなーと思って……」
「外に出て、魔物狩りに行ったってわけか……」
たははーと笑うメリナを見て、草太はため息を着く。美少女に返り血がついているのは軽くスプラッタなのでさっさと【クリーン】をかけて綺麗にする。
「はい次!」
次に草太が見たのはリフィアだった。彼女は唯一地面にうずくまり「うー、うー」と呻いている。
「お前は何があったんだ……」
「船って、馬車よりもっと揺れるんですね……」
「船酔いかよ!」
青ざめた顔で呟くリフィアに、草太は思いっきりツッコんだ。
「最初はよかったんですが、何度も乗るうちに……うぷっ」
「は、吐くなよ!? いや、吐くならちょっとした待て!」
草太は【ウェアハウス】を開いて未使用の『道具袋』を取り出してリフィアに差し出す。
「吐くならこれに吐け。いくら履いても大丈夫だから」
「あ、ありがとうございます……」
花奈がリフィアの背中をさすり始めたのを見て、草太は「んで最後!」とアテナの方を向く。
「お前の抱えているそれはなんだ……」
ビキニアーマーに身を包む女神が引きずっているのは、事切れている巨大な雄牛だ。
「これ? ちょっと決闘してきたのよ。その戦利品でもらったの」
「『もらったの』じゃねーよ!」
「いやー他の参加者の出番を奪っちゃったのは少し申し訳なかったかもしれないわね!」
「……わかったわかった。ほれ、俺の【ウェアハウス】に入れておけ」
頭が痛むのを抑えて、草太はアテナの目の前に【ウェアハウス】を開く。
「あんがと」
アテナは短くお礼を言って雄牛を投げ入れた。
「……ていうか、散々文句言ってるあんたの後ろにいる二人は誰なのよ?」
入れ終わったアテナは、それまで草太の後ろでやり取りを見守っていたアルビダとティーチを見て眉を顰める。
「ああ、こっちの男がティーチ、こっちの女がアルビダ。アルビダは『金』の冒険者で、ティーチも『銀』の冒険者らしい」
「「「「『金』!?」」」」
草太の説明に、アテナ達が驚愕に目を見開く。
「ういっす。アルビダだ。ソウタに手伝って欲しいことがあったから声をかけた」
「アルビダ姉御の部下、ティーチです。以後お見知り置きを」
「ちょっと、あんたが一番厄介事を持ち込んでるんじゃない?」
アテナが草太に掴みかかる。ほかの三人も擁護する気がないのかその様子を傍観していた。
「ま、待て! 一応この二人の話を受けた理由があるんだよ!」
「ふーん、言ってみなさい」
「『黒の巨人』の手がかりが掴めるかもしれないんだ!」
「ええ!? それ、本当なの!?」
草太の言葉に花奈が反応する。
「ああ。どうやらこの街で、『黒の巨人』が何か企んでいるらしい。……ここは人目もあるから、別の場所に移ろう」
アルビダ達の案内で、草太達は小さな居酒屋に入った。
「ここは酒がうっまいんだー! 大将、麦酒特大を七つ!」
「お、アルビダじゃねーか。はいよー」
常連っぽく店に入るなりアルビダが店主にオーダーする。
「アルビダ、俺達まだ酒飲めないんだけど……」
「あ? まだってなんだよ。お前ら全員十二にもなってないってのか?」
「…………いや、なんでもない。飲んだことがないってだけだ」
アルビダが不思議そうに尋ねてきたので、草太は首を振った。
「この世界では、十二歳からお酒が飲めちゃうんだね……」
「文化が違いすぎる……」
小声で話しかけてきた花奈に、草太は辟易とした表情を返した。
個室に通され、草太達は長机を囲んで座った。
「……それで、今回の件に『黒の巨人』が関わっているって本当ですか?」
「せっかちだねぇ……酒が来てからでもいいだろ?」
「ご、ごめんなさい……」
座るなり質問してきた花奈に、アルビダはゆったりと寛ぎながら顔をしかめて見せる。
「いや、姉御は酒が入るとまともじゃなくなりますし、さっさと説明したほうがいいです」
「ああそうかい! 全く、口の減らない部下を持ったもんだ……」
ティーチが横から諭すと、アルビダはうんざりとした様子で草太達の顔を見る。
「まず、『黒の巨人』と『アンスロコーラ』の関係だな。これは簡単で、クリシュ大陸で悪さをしているあの連中の対応に、私達上級冒険者が駆り出されるからさ」
「連中の戦闘力はなかなかに高く、一般の兵士や下級の冒険者では対処できないですからね」
「んで、まだあいつらの名前も知らないころからアンスロコーラの冒険者と『黒の巨人』はたびたびぶつかってきたわけだ。正体がわかったのも、お喋りな奴がこぼしてようやくわかったってだけなんだけどな」
アルビダとティーチがかわるがわる説明するのを、草太達は黙って聞く。
「んで、今回のやつだがね……恐らくあいつらは戦争を引き起こしたいんだと思うね」
「戦争……」
「オスクルの交易を妨害したとなれば、国を動かす貴族たちの敵意は間違いなく我々に依頼してきたノーシェン連邦に向けられます。そうなればノーシェンと同盟を結んでいるアンスロコーラを巻き込んだ戦争を起こせるのです」
「奴隷の密輸はあくまで油を撒くためにすぎないってことね」
「その通りです」
「つまり、密輸を止めるのは隠密にやらなきゃいけないってことか」
「そうそう、物分かりがいいがきんちょだねえ」
「あたしは十六だ!」
アテナの確認にティーチが、メリナの確認にアルビダが頷く。
「しかし、なぜ今回の首謀者が『黒の巨人』だとわかったんですか? あの者達の狡猾さなら証拠も残さないでしょうに」
「ノーシェンの生き残りから聞いた話から、とある人物が関わっていることが分かったからです」
「とある人物とは?」
「……『黒の巨人』には、首領以外に幹部が三人いる。そいつらは組織内から『災厄』と畏怖されているらしよ。今回ノーシェンを襲ったのはその内の一人、『鋼鉄』のハガラって男だ。お調子者だが、かなりの猛者だね」
「今姉御が言った情報や『黒の巨人』の名前はすべてそのハガラが自分から喋ったものなんですよ」
「異名に反して口が全然固くない……」
ハガラに関する説明を聞いて、草太は呆れ顔になった。
「まあ私も何回も戦っているんだが、奴は強いというより狡猾だね。今回の事件を企てたのも十中八九ハガラだ」
「ハガラ、か……」
覚えておこうと草太が呟くと、個室の扉が開かれた。
「へいよー、麦酒七つおまちー」
「ひゃっほおおおおおおう! 来たねぇ!」
持ち込まれた酒に、アルビダが顔を輝かせる。
「んじゃ、かったるい話は終わりにして……成功を祈ってかんぱーい!!」
『か、かんぱーい……』
はしゃぐアルビダに巻き込まれるように、草太達は大ジョッキをカキンとぶつけ合った。
居酒屋で二時間ほど飲み食いをし、草太達は街をふらついていた。
「うぅーん……頭がくらくらするよ……」
「なるほど、お酒とはあのような飲み物だったのですね。エルフには酒を飲む習慣が無かったので新鮮な体験でした」
「あー! やっぱり久々の酒はいいわねぇ! ディオニュソスの手作りには負けるけど!」
「んぁ……ソウタぁ……もうちょっとゆっくりぃ……」
酒に強くない花奈が頭を抑え、かなり強いリフィアが興味深げに呟く。
アテナは飲みなれているのか満面の笑みで、メリナに至っては草太の背中でぐっすりと眠ってしまっている。
「まさか飲酒するとは思わなかったな……」
草太も強い体質だったようで、顔も赤くならずにため息をついた。
「アルビダが紹介してくれた宿屋はこの辺りですよね?」
「そうだな。今日はさっさと宿に入って寝よう」
居酒屋を出た後、アルビダとティーチは梯子をするとの事で草太達と別れた。その時に二人が使っている宿を紹介してもらったのだ。
『私の証を見せれば、この時間でも入れてくれるよぉ』
顔を真っ赤にしてべろんべろんに酔っ払ったアルビダは、そう言って草太に『冒険者の証』を押し付けた。
(俺達が悪人だったらどうすんだ……)
呆れながらも、草太はアルビダ達の厚意に甘えることにした。
「あ、ここじゃないかしら?」
アテナが通り過ぎかけていた建物の看板を見て足を止める。
建物はレンガ造りで丈夫そうな見た目だ。看板には無骨な字で『黄金の酒場亭』と書いてある。
スードで泊まった『やすらぎの宿』とは全く違うタイプの宿のようだ。
「ティーチのくれた地図の場所とも一致しているし、ここだな」
草太は頷き、看板のかかっている扉を開けた。
玄関口は開けていて、天井うには豪奢なシャンデリアがかかっていた。壁には海の壁画がいくつも飾られており、床には青色の絨毯がしかれている。
「結構いい宿じゃない」
「ええ。居心地が良さそうです」
アテナとリフィアが感心しながら周りを見渡していると、奥から一人の女性が現れた。
「姉御、おかえりなさい。今日は早かったですね……って、あれ?」
緩い部屋着のような服を着た女性は、草太達を見て怪訝な顔を浮かべた。
「こんばんは。ここに泊まりたいのですが」
「えぇ? こんな時間に新規のお客さんか……」
草太の言葉に、隠す様子もなく女性は不満そうな表情を浮かべる。
「草太くん、アルビダさんの……あれ見せなきゃ」
「ああ、そうだった」
リフィアにおぶられた花奈からの指摘で、草太はアルビダの『冒険者の証』を取り出した。
「これ、アルビダに見せろって言われたんですけど」
「これ、姉御の『証』じゃない!? あの人はほんと、こういう所が雑というか……」
女性は呆れ顔で肩を落とし、書類をめくり始める。
「姉御の紹介だから構わないけど……今は生憎部屋がほとんど埋まっちゃっているのよねー。空いているのは二人用の小部屋が一つと貴族用の大部屋だけだし……」
「ああじゃあ、どっちも使わせてください。俺以外の四人が貴族用で、俺が小部屋に泊まります」
「え、いいの? 夜の営みは大丈――」
「そんなのないから大丈夫です」
草太は食い気味に否定する。
「そう……貴族用の値段は一人金貨十枚よ。小部屋は銀貨十枚。出せる?」
「これで」
「ふーん、霊銀貨を持ってるなんてやるじゃない」
女性は草太が卓上に置いた霊銀貨を見ながら感心したように呟く。
「じゃあこれが鍵ね。明日の朝食は六時から八時の間だから、遅れないように。お風呂は一階に大浴場があるからそこを使ってね。そのお風呂もあと二時間ぐらいで閉めるから、入るなら早めにすること。ほかに質問はある?」
「いや、大丈夫です」
「ん。……ああ、私の名前を言うのを忘れてたわね。私はロロネ。『黄金の海賊団』の元団員で、今は見ての通りこの宿屋を経営しているわ。今後ともご贔屓に」
「ありがとうございます、ロロネさん。俺は草太です。こっちのまな板がアテナ、そっちの金髪がリフィア、リフィアの背中で寝ているのが花奈、俺の背中で寝ている小さいのがメリナです」
「まな板って言ったわよね今」
悪意ある紹介をした草太の脇腹に、アテナがグーパンを入れる。
「はいよ。んじゃ、ゆっくり休んでねー。部屋にはそこの階段から上がれるから、三階まで登ってちょうだい」
ロロネの指示に従い、草太達は部屋に向かった。
三階に上り草太と女性陣に別れ、それぞれの部屋に入る。
「ふいー疲れた……」
ベッドに身を投げると、草太の体は途端に倦怠感に包まれた。酒臭い体は新鮮ながらもあまり良いものではない。
(さっさと風呂入って寝よう……)
あくびをしながら草太は着替えを用意して、一人大浴場へと向かったのであった。
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