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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第4章 新たなる敵
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第16話 メリナの選択。新しい旅路。

 一夜明けて、孤児院にはすっかり日常が戻っていた。今日も子供達が騒ぎ合い、フィオレの注意の声が飛ぶ。

 そんな中、昨晩勝手に抜け出したヒュース達は教会内の掃除を命令されていた。



 あの後、ひとしきり互いの温もりを確認しあってから、「それはそれとして」とフィオレは子供達を解放し――重い拳骨を食らわせた。

 それはもうとてつもない物で、はたから見ていた草太達も思わず身を震え上がらせたものだ。

 そうしてフィオレは怒りを滲ませた顔で、口をぱくぱくさせるヒュース達に一週間の罰労働を命令したのであった。



「えーん、まだ殴られた所が痛むよ……」

「ヒュースがあんなこと言わなければこんな目にあわなくて済んだのに……」

「お、俺のせいだって言うのかよ!?」

「そこ、口を閉じて真面目に働きなさい!」

「「「「は、はーーい!!」」」」



 フィオレの絶対監視の元、ヒュース達は教会の中を駆け回るのであった。



 そんな喧騒を扉越しに聞きながら。

 草太は個室の床に正座していた。彼の前には椅子に座ってジトっと草太を見下ろすリフィアの姿がある。

 一晩寝たことと、魔力が回復した草太が回復魔法を大量にかけたこともあって、その傷はすっかりと癒えている。

「……あのー、リフィアさん。なんで俺は呼び出されるなりこんな姿勢になっているんでしょう……」

「……」

 草太は威圧感を出すリフィアに、恐る恐る尋ねる。



 リフィアはため息をついて、草太の瞳を真っ直ぐに見た。

「……今日こそは教えてください、ソウタ。あなた達と、アテナのことを」

 その言葉に、草太は目を見開く。

「なん……で、そんなことを……」

「昨日の戦いで、アテナの人外的な強さを目の当たりにしました」

「こんの駄女神……!」

 素知らぬ顔でベッドに座るアテナを草太が睨むと、アテナは下手な口笛を吹いて顔を逸らした。



「……ソウタ。まだ、教えてはくれないのですか。……私ごときには、あなた方の秘密を、伝える必要はないということですか?」

 悲しげに呟くリフィアを見て、草太は慌てて言い募る。

「ちがっ――ああもう、このままだとタイミングを見失いそうだったから丁度いいか……」

 頭をかいて、草太は自分たちのことを話し始めた。




「異世界……アテナは、本物の女神……!?」

 草太の話を聞き終え、リフィアが混乱した様子で頭を抑える。

「信じてもらえないのは分かる。……けど、全部本当のことなんだ」

「いえ、あまりの情報の多さに目眩がしただけです……」

「リフィア、黙っていてごめんね。いつか話そうとは思っていたんだけど……」

 アテナの隣に座る花奈が、リフィアに頭を下げた。



「顔を上げてください、ハナ。信じてもらえないかもしれないから黙っていた、というあなた達の感情に非はありません……とは言え、私も昨日のアテナの再生を見ていなかったら信じてはいなかったでしょうが……」

「リフィア……」

「話してくれて、ありがとうございます。これで、皆さんの輪に加わることが出来た気がします」

 草太が呼びかけると、リフィアはすっきりとした笑顔を見せた。



 その表情に、三人がほっと笑みを浮かべる。

 そんな三人を置いて、リフィアは椅子から立ち上がり草太にゆっくりと近づいていく。

「あの、リフィアさん……?」

「……本当に、寂しかったんですから……」

 リフィアは草太の前でしゃがみ、草太の顔に両手を当てて小さく呟いた。



「り、リフィア……? 一体何を……」

 花奈の質問には答えず、リフィアはそっとその顔を草太に近づけていき――。

「ちょちょちょちょちょーーー! リフィア、ストップ、ストーーーーップ!」

「あんた何してんの? 何してんの!?」

 花奈とアテナが顔を真っ赤にしてリフィアに待ったをかける。だが、リフィアは止まらない。



 一方の草太は何が何だか分からないまま固まっていた。

 草原を駆ける爽やかな風の香りが鼻をつき、目の前にはエルフの綺麗な顔が広がる。

 そうして、リフィアの唇と草太の唇が重なり合おうとしたその時。



「――なーんて」

 リフィアはぱっと草太から顔を離した。

 三人が呆気にとられて固まる。

「私を仲間外れにした罰ですよ」

 人差し指を唇にあて、リフィアはいたずらっぽく片目をつぶった。



「「り、り、り……リフィアーーーー!!」」

 からかわれたことに気付いた花奈とアテナの絶叫が上がり。

「…………おっそろしい奴だな、お前は」

 顔を真っ赤にした草太が、小さく呟いた。



「ふふ、最高の褒め言葉ですね」

 それを見て、リフィアは心底楽しそうに微笑むのだった。



 そんな一悶着を終え、草太達はメリナと一緒にギルドに赴いていた。昨夜捕獲したジョネスにかけられていた懸賞金を貰うためだ。

「冒険者ソウタさん、ハナさん、リフィアさん、アテナさん、そしてメリナさん。この度はあなた方の多大なるご活躍により、『殺戮道化』を捕縛することが出来ました。……よって、ここに霊銀貨十枚を進呈致します!」

 うおおおおおおお!! と周りの冒険者達から歓声が上がる。自分達が貰った訳でもないのに元気な奴らだ、と草太が呆れていると、職員が更に言葉を重ねた。



「そして、この度の功績を讃えて、皆さんには『青』の冒険者の称号を与えることにしました!」

「おおおお、やった!」

 これには草太も素直に喜んだ。元々『黄』だったため三段階の躍進だ。『金』の冒険者にぐっと近づいたことになる。



 想像以上の報酬を手に入れ、草太達は大満足でギルドを後にした。

 昨夜の話が伝わっているのか、道行く人々がにこやかに声をかけてくる。ようやく、この街での柵が解けた気がした。

 けれど同時に、草太達は次の場所に旅立たなければいけない。



 神代武器『ルージェン』の奪還と、『黒の巨人』の討伐。彼らの主目的は変わっていない。

「……なぁ、ソウタ達は、もうすぐでこの街を出るのか?」

「そうだな、早ければ明日にでも出発する予定だよ。次は東の国『オスクル王国』に行くつもりだ」

 メリナの質問に、草太は少し考えこんで答えた。



「オスクル……ってことは、サラス大陸から出るつもりなのか?」

「俺達が追っている奴の手がかりがそこで見つからなかったら、そうなるな」

「……そっか」

 メリナはそれ以上何も言わず、無言で歩き続けた。

 草太達は、黙ってその様子を見守り続けるのだった。




 その晩。子供達が寝静まって静かになった孤児院で、フィオレが一人本を読んでいた。

 と、扉から軽いノックの音が聞こえる。

「はーい、どうぞ」

 フィオレが答えると、扉が静かに開けられた。



 そこに立っていたのは、メリナだった。真剣な表情でこちらを見てくる彼女を見て、フィオレは「ああ、決めたんだ」と心の中で呟いた。

「どうしたの? 眠れなくなっちゃった?」

「子供扱いすんなってーの」

 フィオレが笑いかけると、メリナは苦笑した。なんだかすっかり大人になっちゃったな、とフィオレは少し寂しくなる。



 メリナの顔は、もう『孤児院の長女』ではなく『冒険者』の物だった。

 ――だから、メリナが何を言おうとしているのか、フィオレはもう分かっている。



「――フィオレ、あのさ。……あたし、ソウタ達についてくよ」

 そして、メリナは真っ直ぐにフィオレを見つめ、そう言った。

「……そう」

「あたし、やっぱり親父に会いたい。生きてるかわかんないけど、死んでるかもしれないけど……でも、あたしは……」

「うん、うん……」

「あたしは親父に会って、今のあたしを見てもらいたい! あいつが守った『宝物』が、今もこうして生きているってことを、あいつに知ってもらいたい!」

「……うん」

「……だから、だから……! ごめん、フィオレ……! あたし、孤児院を捨てるのと同じことを……!」

 メリナは小さな顔をくしゃくしゃに歪めて、涙を一粒流す。



(いつもの破天荒さはどこに行ったのかしら……)

 フィオレは笑って、椅子から立ち上がる。メリナに近づいて、涙を必死に堪えている彼女をそっと抱きしめる。

「……捨てたんじゃなくて、選んだんでしょ」

「……!」

 フィオレのその言葉に、メリナは息を呑む。フィオレに聞かされた父親の話の中で、メイブルがリアーネに語っていた言葉。



「それでいいのよ、メリナ。いつまでも自分を抑えないで、やりたいようにやればいいのよ。あなたが選んだ道を、私は否定しない。……だって」

 フィオレは抱擁を解いて体を離し、メリナの顔を見つめる。



「――だって、私とあなたは家族なんだから」

「フィオ、レ……」

 フィオレの声は優しく暖かく。そっとメリナのことを包み込んだ。



 もう止まらない。止められない。溢れ出す涙を止める術を、メリナは知らない。

「……ぁ、ああああ――」

 小さく、小さく嗚咽をこぼす少女の体を、フィオレはもう一度ぎゅっと抱きしめた――。




 翌朝。孤児院の前には、草太達や孤児達が並んでいた。

「ソウタお兄ちゃん、もう行っちゃうのー?」

「ああ。短い間だったけど、ありがとな」

「お姉ちゃん達、また来てくれる?」

「うん、きっと」

「ええ、また遊びに来ますよ」

「ま、あんた達がそんなに来て欲しいなら来てあげないこともないけどね?」

 寂しそうにする子供達の頭を撫でながら、草太達は穏やかに笑う。



 そして、その横には。

「お前ら、フィオレに迷惑かけんなよ! 特にヒュースとアイナ。お前らは私の次に歳上なんだから、ちゃんと下の子の面倒みるんだぞ」

 子供達にいつものように笑いかけるメリナが居た。



「うん、メリナ!」

「……ほんとに行くのかよ」

 メリナの指示にアイナが頷き、ヒュースは不満そうに口を尖らせた。



 そして何を思ったのか、ヒュースがと草太の前に躍り出る。

「どうした?」

「…………」

 怪訝な顔で草太が尋ねると、ヒュースは悔しそうに顔を顰めながら。



「お前、メリナに手を出したら許さないからな!! 泣かすんじゃねぇぞ!!」

 ズビシッ! と指をさして怒鳴った。顔を真っ赤にして、少し恥ずかしがってるようにも見えるひゅーすを見て、草太は目を丸くする。

「………あ、あーあー」

 そして、ヒュースが何故自分を目の敵にするのか、その理由がようやく分かって、草太は間抜けな声を出して何度も頷く。



 次に、草太は笑った。

 子供らしい純粋な理由に。そんな簡単なことに気付かなかった自分に。

 そして、そんなことは有り得ないと言い聞かせるかのように。

「わかったわかった。安心しろって」

 草太は笑いながらヒュースの頭をがしがしと撫でる。少し撫でたところでヒュースは草太の手を不満げに払いのけた。



 後ろでは花奈達が「若いっていいわねぇ」なんて年寄りめいたことを言っているが、それには触れないことにした。

「――皆さん、準備は出来ましたか?」

 と、子供達の間からフィオレが前に進み出た。



「はい。本当にお世話になりました」

「こちらこそ……あんなに大金を頂いてしまって……」

 花奈が笑いかけると、フィオレは困り顔で笑う。

 ジョネスを捕獲したことで得た賞金の内の半分、つまりは霊銀貨五枚を草太達はこの孤児院に寄付することにした。



 稼ぎ頭のメリナを引き抜くので、これからの孤児院を支える資金が必要と思ったからだ。

 提案したのは花奈だが、草太達も異論はなかった。メリナとフィオレは最後まで頑なに拒んでいたが。

「ま、一宿一飯の恩ってことよ」

「……はい! ほんとうに、ありがとうございます!」

 アテナが自慢げに笑い、フィオレはようやく吹っ切れた笑みを浮かべた。



「それじゃ、いつまでもここに居ると出るのが惜しくなっちゃうので……今日まで、ありがとうございました!」

「さようなら、旅の御方。あなた達の行き先が、光に溢れていますように」

『さよーならー!!』

 草太達が頭を下げると、フィオレと子供達が笑顔で手を振る。



 草太達は歩き出す。新しい場所を目指して。

 とどまる者と歩き続ける者の間隔が、少しずつ開いていく。

 遠ざかっていく。メリナの背中が、どんどんと離れていく。

 フィオレは、黙ってそれを見ていた。メリナは振り返らない。彼女の選んだ道を、進んでいく。



「――メリナ!」

 それは無意識に、口をついて出ていた。

 突然呼び止められて、メリナはきょとんとした顔で振り向いた。



 なんで引き止めてしまったのか。これじゃあいつまでも、いつまでたってもメリナが外に出られないのに。

 そして、どうしてか、昔の記憶が今になって蘇る。




『私、将来は孤児院を経営したいんだ』

『こじいん?』

『うん、メリナみたいに親がいない子を集めて、みんなで家族になるの! 誰も寂しくない、そんな場所を作るの!』

『いいな、それ! じゃああたしはその孤児院の一番最初の家族だな!』

『――え?』

『フィオレがお母さんで、あたしが一番上のお姉ちゃん! な? すっげー楽しそうだろ!』




 幼いメリナが、フィオレに屈託なく笑いかける。ずっと、ずっと一緒だった大切な義妹(いもうと)

「――ぁ、その……げ、元気でね」

 フィオレは自分でも分かるくらいにぎこちなく笑った。メリナはそれを見て――フィオレに向かって駆け出す。



 そしてがばっとフィオレに抱きついた。勢い余って、尻餅をつきそうになる。

「わぷっ、ちょ、メリナ!」

「フィオレ、昨日フィオレに言われたことで、一つ間違っていることがあったんだ」

「え……?」

 耳元で囁くメリナの言葉に、フィオレは目を見張る。



「あたし、自分を抑えたことなんて一度もないぜ。みんなと笑って、フィオレが叱って……あたしは、ここでのそんな日々が、さいっこ~~~~~~~~に楽しかった! 胸を張って言えるよ。――あたしは幸せだったって!」

「!!」

 フィオレの瞳が潤む。ずっと耐えてきたその壁が、メリナの言葉であっという間に破られる。



「あたしは、みんなと――フィオレと家族でいて、本当に幸せだった!!」

「私も……私も幸せだった!!」

 フィオレは泣いた。誰にも見せたことない母親の涙が、差し込む陽の光にきらきらと輝く。



 そうして、しばらく抱き合った後。フィオレがメリナを引き離し、反転させてとん、と背中を押した。



「――行ってらっしゃい、メリナ」

「――ああ。行ってくるよ、フィオレ」



 メリナは駆け出す。光の指す道を、父親へと繋がる道を。



 草太達に追いつく手前で、メリナは孤児院を振り向いた。



「親父に会ったら、一番に報告するからなーー!」

 朝日に照らされ、メリナの笑顔が、きらきらと眩しく輝いた――。


読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字報告がありましたら遠慮なくお願いします!



四章はこれで完結です!



新章である五章は10月19日(金)に投稿します!

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