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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第4章 新たなる敵
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第13話 殺戮道化

 講堂内に、剣と拳がぶつかり合う音が響く。そのたびに子供たちが怯える。

「お前ら、大丈夫だ。もう安心していいからな」

 震える子供たちに、メリナが優しく声をかけた。

 いなくなった四人は全員無事だ。今はそのことを素直に喜ぶ。



(あとは……)

 メリナは椅子を吹き飛ばしながら戦う男を二人見遣る。

(勝ってくれ、ソウタ――!)

 そうして、フィオレがするのと同じように祈りを捧げた。



「ぬぅん!」

「おおッ!」

 ジョネスが拳を振り上げ、草太はリコシフォスを切り上げる。何度目かもわからない硬質な音が、講堂内を満たした。



 互いに譲らない攻防を繰り広げながら、草太は顔には出さないが内心舌を巻いていた。

(こいつの拳……なんて硬さだ!)

 それは、ジョネスの異常なまでに硬い両拳に対して。

 竜の鱗でさえ傷つけるリコシフォスと何度ぶつかっても、ジョネスの拳からは血の一滴も流れない。

(そういう人種がこの世界にはいるのか、または何かの魔法か……)

 ギィン! と大きく弾いて草太は後ろに跳んだ。



「……かなりの腕前ですねぇ、あなた」

「そうかよ、嬉しくないな」

 殺人鬼に褒められても誇らしく思えない。草太は相貌をさらに歪める。

「しかし理解できませんねぇ、それほどの力を持つあなたが、どうして会って数日の子供達を守ろうとするのですか?」

「力を持っているからこそ、力がない人を守るんだろうが」

 ジョネスの問いに、草太は険しい表情のまま答えた。



「ふむ……。その考えはは理解できませんねえ……あなたと私は相容れないようだ」

「うるせえ、口を閉じろ。てめえの戯言に付き合う気はない」

 これ以上話す意味はないと感じ、草太はリコシフォスを構えた。



 だが、道化師のメイクの施された顔に醜悪な笑みが浮かんだ。

「あなたは殺すよりも、大切なものを壊されたときにいい表情を見せそうですね」

 そう言って、草太に背を向ける。



「おい、何して……」

 草太が見咎めるよりも早く。

 ジョネスは檀上へと飛びかかった。その瞳に、呆気にとられるメリナを捉えながら。

「え……?」

 激音とともに、ジョネスの拳がリコシフォスによって受け止められる。



「てめぇ……!」

 体全体にかかる重圧を抑えながら、草太は眦を釣り上げる。

「素晴らしい! 先ほどよりもいい表情になりましたよぉ!!」

「このっ……屑野郎っ!!」

 ジョネスの腹に蹴りを入れて、その場から退ける。



(こいつらをここに残していたら危険だ……!)

「悪い、少し手荒になる」

 固まっているメリナやヒュース達に謝って、草太は彼らの足元に【ゲート】を開いた。

「え、ええええええええええええええ!?」

 メリナの驚声が遠ざかっていったのを確認し、草太はジョネスに跳びかかった。




人気のない廃屋に、転移させられたメリナ達が尻餅とともに着地した。

「いってぇ~~~~! あいつ、一言いえよ」

 ヒュースが尻をさすりながら文句を言う。

「……あいつは、あたしたちを巻き込まないようにするためにやったんだ。理解しろ」

「……わかってるよ」

 メリナが注意すると、ヒュースは面白くなさそうに下を向く。



「メリナ……ソウタお兄ちゃん大丈夫なのかな……?」

 ガットが不安そうにメリナの服の袖を握った。

「……わからない。ジョネスの力はとんでもないものだったし……」

 メリナも自信が持てず小さな声で答える。

「……メリナ、ソウタお兄ちゃんのところに行ってきて」

 と、アイナが急にそんなことを言った。



「何言ってんだ。お前たちを置いて行ける分けねえだろ」

「でも、ソウタお兄ちゃんは僕達のために戦ってくれてて……でも、僕達じゃ何もできないから……」

 リオンがしゃくりながら訴える。

 一番怖い思いをしたのはお前たちなのに、とメリナは目を見張る。

「……行ってきてくれよ、メリナ。俺達はここで隠れてる。もう勝手に動いたりしない」

 ヒュースの強いまなざしを見て、メリナは静かに立ち上がった。



 がしがしと順番に弟達の頭をなでる。

「前科持ちに言われても説得力ねーよ。……じゃ、行ってくる」

 子供達の顔がぱあっと輝く。

 答えるようにメリナも笑い、再び講堂に戻るために夜の路地を駆け抜けていった。





「おおおおおおおおおおおお!」

「ふっ!!」

 大上段から叩き付けられたリコシフォスを、ジョネスは腕を交差させて防いだ。



「なぜ、そこまで怒るのです! 今のあなたは英雄ではなく修羅だ! 『守りたい』という意志とは別のものを感じますよぉ!」

 殺戮道化は笑う。草太の心に入り込んでくる。



 どうして、草太がここまで怒っているのか。

 草太も最初、不思議に思っていた。ここまで彼らに肩入れしてしまうのは何故なのだろうかと。

 けれど、すぐに答えに行き着いた。

 最初に助けてもらったから。匿ってもらったから。共に寝食を過ごした仲だから。



 違う。全部違う。それらはあくまで枝葉に過ぎない。

 草太は、自分を重ね合わせているのだ。他でもない、孤児院で過ごすあの子供たちに。



「親を失って、見捨てられて、孤独に打ち震えていたあいつらにとって、あの孤児院は世界中のどんな場所よりも、幸せが満ち溢れている場所だ」

 訥々と、草太は語る。脳裏に、敬愛する人と一緒に過ごした木造の家が浮かび上がる。



「そこには、一つだって悲劇を持ち込ませやしない。そんな残酷なことを味わうのは、俺だけで充分なんだ。――お前にどんな大義があろうと、罪のない子供達を殺させる資格はねぇ!!!」

 草太はさらに重圧をかける。ジョネスの立つ老朽した床が、みしみしと悲鳴をあげる。



 鬼気迫る表情で語る草太を見て、それでも道化は嗤った。

「それが、あなたの本心ですか……くだらない! 実にくだらない!! 悲劇を持ち込ませない? 人が一番輝くのは悲劇に出会ったときです! その時に彼らを襲う感情の濁流が――この世で最も尊い芸術作品を創り上げるのです!!」

 ジョネスが腕を振り上げ、素早い動きで正拳突きを放った。




「ぐぅ!?」

 リコシフォスで防御したが、衝撃までは殺しきれず草太は講堂の壁に激突した。

 ぶつかった衝撃で大きな穴が空く。

「ってぇ……」

 即座に立ち上がり、草太はペッと血を吐き出した。たえて



「っ、ちぃ!」

 ジョネスが休む暇も与えず迫り来る。彼の腕から放たれる殴打の連撃に、草太は防戦を強いられた。

「得体の知れないものへの『怯え』! 裏切りへの『戸惑い』! 救われぬことへの『諦め』! そして、死ぬ間際に見せる『絶望』! それこそが、ワタシの作品を作る礎!」

 拳を振るう度に、ジョネスは言葉を投げる。



 狂っている。草太はただそれだけを思った。

 ジョネス・キングは『黒の巨人』とはまた違う『異質』な存在だ。自分の感性のみを信じ、それを殺戮へと変貌させている。



 だが、狂人であってもその戦闘能力は本物だ。

 目にも止まらぬ剛腕による連続攻撃。

 一撃一撃が、竜王の攻撃より重い。まともにやり合っていては先に草太の体が壊れてしまう。

「【ビルドアップ】!」

 草太は身体能力を強化して、防御の体勢から真っ向から迎え撃つ作戦に変える。



「ぬぉおおおおおおおおお!!」

「おおおおおおおおおおお!!」

 二人の武人が吠える。轟音が絶え間なくなり響き、夜の静寂を切り裂いていく。



 ジョネスの攻撃は確かに重い――が。

(攻撃が単調だ!)

 どれもが代わり映えのない力任せのごり押し。何度も受け止めているうちに、草太はその型に気付いた。

(右からのフック、鳩尾へのストレート、フェイントを入れて左手でのアッパー。なら次は――)

 体で覚えたその流れに、草太は勝機を見る。



(顔面に向けた渾身のストレート!)

「ふっ!」

「なにっ!?」

 針の穴に糸を通すように、草太は倒れ込むように前にかがみジョネスの攻撃を躱す。

 そのまま重心の流れに逆らわず、大きく足を踏み出して道化師との距離を詰める。



「らああああああああああ!!」

 そして、固まるジョネスの体を逆袈裟に切り付けた。

「むぅぅぅん!」

 ジョネスが呻く。だが、草太の攻撃は止まらない。

 剣を真横に一閃する。剣を肩に振り下ろす。剣を止めようとするジョネスの体を思いっきり蹴りつける。

 ジョネスはそこで遂に怯んだ。ここまでぶつかり合って初めての明確な好機。



「――!」

 無防備になった腹に、草太は静かな気合いとともにリコシフォスを突き刺した。

「がふっ……」

 ジョネスが零した血が二人の間に落ちる。ぽたり、ぽたりと小さな音がやけに大きく草太の耳に残った。

 静かにリコシフォスを抜く。それと同時にジョネスは仰向けに倒れた。



 草太はそれを一瞥して背を向けた。早く花奈達の元に戻らないとと、空いた横穴に向かう。

「ソウタ!」

 と、いつの間に戻ってきたのかメリナがひょっこり顔をだした。

「メリナ、戻ってきてたのか。……ヒュースたちは?」

「安全な場所に隠してきて、待っているように伝えておいたぞ」

「そうか、なら後はみんなと合流して終わりだな」

「ああ! ……それにしてもすごかったぞソウタ! あの『殺戮道化』に勝っちゃうんだもんな」

 興奮した様子でメリナが草太を褒めちぎる。草太は苦笑を返した。



「あんまり晴れやかな気分にはなれないけどな。相手が相手だったし……」

「おーおー、余裕ですなぁ」

「からかうなよ」

 死闘を終えて、メリナと草太が笑いあう。

 全てが終わったと思い込んでいる二人には、死にかけの道化の口から漏れるその言葉が聞こえなかった。



「【その身体(からだ)(しゅ)の礎――」


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