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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第1章 ビギナーズ
7/90

第6話 ド○クエで最初にスライムと戦うやつ

バトル回です。

グロ描写があります

「――で、だ。早速だけどここがどこだかわかるか、キット?」


 岩に座り直した草太は、花奈にようやく解放されてぐったりしているキットに話しかけた。

「……にゃ。ここは……おそらく三つある大陸の一番西、サラス大陸の『フェリア王国』領南部にゃ」

「なるほど、わからん。まあ当然だけど。じゃあ、ここら辺に村か街とかないか?」


「ふむむむむ……。確か、あの北の森を進むと、幾つかの村があるにゃ。森を抜けると、『スード』という街に着くにゃ」

 キットはそう説明しながら、森の方を指した。

「歩いてどれぐらいかかる?」

「半日くらいだと思うにゃ」

「そうか……」


 今太陽は南天している。スードの街に着くのは夜になってしまうだろう。

「今日は途中の村に泊めてもらうしかないか……な……いや、待てよ」

「どうしたの、草壁くん?」

 急に言い淀む草太に、花奈が怪訝そうに尋ねた。

「……俺たち、金持ってないよな」

「あ」


 サアーっと二人の顔から血が引く。

「にゃ!? 金を持ってないって、どうやってここまできたにゃ!?」

「あー、いや、色々とな……しかし参ったな、これは野宿か?」

「野宿ってなんだか本当に冒険者みたいだね」


 どこか楽しげに話す二人。外で寝るのは不安だが、いかにもファンタジー! という憧れのようなものもあるのだろう。

 だが、現実は甘くない。キットの冷ややかな声が二人の耳に届いた。


「……二人とも、寝袋は持っているのかにゃ?」

「「!!」」

「外で寝るなら、魔物が襲ってこないように見張りをつける必要があるにゃ。普通に眠れるとは思わないにゃ」

「「っっ!!」」

「それに、この時期の夜は冷えるにゃ……寝袋もなく耐えられるかにゃ……?」


「……やべえ、早く行こう!」

「で、でもお金が無かったら泊まることも……」

 焦って立ち上がった草太に、花奈が慌てて言うと、草太は達観したように、遠くを見て言った。

「……土下座でもして頼もう。きっと受け入れてくれるさ」

「そ、そこまで!?」

「そこまでだ! 背に腹は代えられない! よく考えたら初日から心休まらない野宿とか嫌だ! ……じゃあキット、道案内を頼む」

「了解にゃ」


 草太と花奈は、四時間ほどいた草原から、ようやく始まりの一歩を踏み出した。


「……そういえば、森園さんって、猫好きなの?」

 森の中を歩いている途中、草太はふとそんな疑問を口にした。

「え、あ、うん。私、マンション住まいだったから、ペット禁止で……。でも、猫は好きだから憧れてたんだ」

 花奈は照れ臭そうに頬を掻いてはにかんだ。

「だから、さっきはつい……」

 花奈はおずおずと、草太を挟んで反対側にいるキットを見る。


 キットは先程花奈にもふもふされてから、当たり前だが警戒しているようで、決して花奈と目を合わせようとはしない。今も、草太の陰に隠れるようにしている。

「あう……」

 そんなキットの様子に悲しそうに呻く花奈を見て、草太は苦笑いを浮かべた。


 さらにしばらく森を進んだところで、ふいにキットが声を上げた。

「……ご主人、何か見えないかにゃ?」

「え?」

「前のほうで何か……」

「あ、あれ煙じゃない!?」

 キットの言葉に、花奈が続く。


 目を凝らすと、確かに前方で灰色の煙が上がっていた。

「……確かあそこに一つ村があったはずにゃ」

「……これは、イベントフラグか!?」

「いべ……?」

「あ、いや。でも、もし村が襲われているなら急いだ方がいいな」

「草壁くん、走ろう?」

「ああ」

 そう言い残して、草太は走り出した。


 ――ボルトもびっくりの速度で。


「「えっ…………」」

 同じく走り出そうとしていた花奈とキットは、しばらく固まり、呆然とどんどん小さくなる草太の背中を見送っていた。


 ♢


 火の手が上がる。獣の雄叫びと、それに対抗するかのような男たちの怒号と、女子供の悲鳴が渦巻く。

 獣除けに焚いていた松明は、その効果を出す前に、あっという間に襲撃者に倒され、辺りに燃え移っていった。


「おらあ!」

 青年が、目の前の大きくて黒い獣の脳天に、槍を突き刺した。

「グギャルゴォ!」

 その獣は一つ鳴いてドスンと地に伏せた。『それ』が動かないことを確認した青年は辺りを見回した。

「……くそっ! 数が多すぎる!」

 そして、憎々しげに呻いた。


 ここ、『ドリ』という村では、人々は狩猟で生きている。狩った獲物の肉を食べ、皮を売り、油を燃料としている。

 それ故に、この村の住人は、森が命の恵みを与えてくれる場所であると同時に、こちらの命を刈り取る場所でもあるということを十二分に熟知している。


 ――しかし、村の歴史を紐解いて見ても、こんなことが起きたことはない。

「ありえねえだろ! 風爪熊の群れが村を襲うなんて!」

 泣きそうな声で、青年が怒鳴った。


 風爪熊。この森に生息する魔物の頂点に立つ生物で、長い爪からは風魔法が放たれ、獲物を切り刻むという恐ろしい魔物だ。

 しかし、この熊は基本的に四〜五頭と小コミュニティで生活する。今回のように約四十頭の風爪熊が現れるのはおかしいのだ。


「リュー! 無駄口叩いてないで仲間の援護だ!」

「うっせえ、ガルド! わかってんだよ!」

 リューと呼ばれた青年が苦々しげに、怒鳴ってきた青年――ガルドに返した。


 この村の男は約六十人。通常風爪熊一頭に割くべき人数は四人。どう計算しても足りない。

 焼け石に水だが一頭に対する人数を二人にして、一度に当たれる人数を多くしている。


 だが、そうなると必然、殺られる確率が跳ね上がる。


「ぐああっ!!」

「おいっ! ――う、うわぁぁぁぁ!!」

 そうこうしている内に、また新たな犠牲者が生まれた。

「くそっ! 勝てるわけないだろ、こんなの!!」

 吐き捨てて、リューは今仲間二人を倒した風爪熊へと駆ける。


 絶望的な状況と、次々に倒れていく仲間の姿に、彼は冷静さを失っていた。


「リュー! やめろ、戻れ!」

 そのため、もう一頭の熊が横から迫っていることに気付けなかった。


「グルアァアアア!」

「あ……」

 リューの口から、小さな声が漏れた。

 ゆっくりと、ひたすらゆっくりと風爪熊の爪がリューに迫る。数秒後に自分を切り刻むであろうそれから、リューは目を離すことができなかった。


「リューーーーーーーー!!!」

 友人が自分の名を呼ぶ声が聞こえた。しかし、もう動けない、間に合わない。

 風爪熊の凶器がリューの体を切り刻もうとし――!


 そのまま、ピタッと止まった。


「……え?」

 死を覚悟していたリューは、予想外の出来事に目を瞬いた。

 と、風爪熊が血を吹き出して横に倒れた。


 その後ろにいた人物――つまり、この熊を屠った人物を見て、リューは目を見開いた。


 黒髪黒瞳の少年だ。服はこちらが不安になるくらいに薄い黒の上下に黒の外套。その右手には、熊を斬った金色の剣が握られている。


「大丈夫か?」

 少年が尋ねる。そこに気負いはなく、いたって平静な声だ。

「あ、ああ……」

「この熊たち、全部倒しちゃっていいんだよな?」

「え、あ、ああ」


 少年の突拍子の無い質問に、無理だと答える暇もなく空返事をしてしまった。

「了解了解。……しっかし森園さん達遅いなぁ……まあいいか。異世界の初陣だ、思い切り行こうぜ、リコシフォス」

 少年の言葉に答えるように、剣がきらりと輝いたように見えた。


「【呼ぶは炎・灼熱の紅槍・フレイムランス】」

 草太の口から落ち着いて紡がれた呪文が、紅き槍となって具現化する。

 三本現れた槍が、一頭の風爪熊の巨体を燃え上がらせた。断末魔を上げて絶命する熊を尻目に、草太は新たな風爪熊に狙いをつける。


 最初の風爪熊こそリコシフォスで倒した草太だが、それは背後からの不意打ちだったからこそだ。

 いくらチート補正を持った草太だからと言って、まだ剣を握って一日も経っていないのだから、単純に剣を振るうだけではむしろ命取りだろう。


 そんなわけで、草太は魔法メインの戦いにすることにした。近くに風爪熊がいて、魔法を唱える暇が無い時だけリコシフォスの出番だ。

 それでも、腐っても女神からもらったものだけあって、その威力は絶大だ。一薙するだけで、面白いように風爪熊が倒れていく。


「んー、さすがだな。……絶対アイツに感謝なんてしないが」

 ドヤ顔のアテナが脳裏に浮かんだ草太は、その苛立ちを風爪熊にぶつけることにした。

 先ほどからもう五体倒したが、元々の数が多いからか一向に数が減った気にならない。

「グルアア!」

と、草太から少し離れた位置にいた風爪熊が、爪を振り上げた。


「……? 何を?」

 彼我の距離は約五メートル。届くはずが無いと、草太は一瞬そう思った。

「グルアッ!!」

「っ!?」

 振り下ろされた熊の爪から、三つの風刃が飛んできた。慌ててリコシフォスを横にしてガードする。


「マジかよ……さすが異世界。熊が魔法使って来やがる」

 感心する草太の横から、さらに別の風爪熊が襲いかかる。

「グルルルルルルァ!」

「させるかよ!」

 その熊の喉辺りにリコシフォスを突き刺し、素早く引き抜く。

「お返しだ。【呼ぶは炎・灼熱の紅槍・フレイムランス】!」


 さらに風の斬撃を飛ばしてきた一頭に、炎の槍をお見舞いする。

「グギャァ!」

 紅い槍に貫かれた風爪熊は、体を燃え上がらせて地に倒れた。

「「「「グラアアア!!」」」」


 そこでついに他の熊達も草太を危険視し始めた。近くにいるものから次々と草太へ襲いかかる!

「やべえ!? 【呼ぶは光・視界覆う輝き・スタンフラッシュ】!」

 草太の手の中で、光が弾けた。二、三時間前に花奈に食らわされた目潰しの魔法だ。

 もちろん、草太自身は目を覆っている。だが、熊達はまともに食らってしまったようだ。


「「「「「「「グギャァァァァァ!」」」」」」

 見ると、近くにいた風爪熊だけでなく、遠くにいた何体かもまともに食らったらしい。呻きながら、ウロウロとさまよっている。草太の狙いは大成功だ。


「何だいまのぉ!」

「前が見えない!」

「目がぁ、目がぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ……近くの村人達も巻き込んでしまったようだが。安心してください、命に別状はありませんよ!


「隙ありぃ!」

 草太はおろおろしている熊達を次々と斬り伏せた。そして、猛ダッシュで離れた所にいる熊達に向かい、躊躇うことなく命を刈り取る。


 その時だった。

「っ!」

 草太の横合いから、風の刃が飛んできたのは。

 とっさに前に転がり攻撃を躱した草太は、素早く起き上がって風刃の飛んできた方を見遣る。


 そこには、一際大きな黒い風爪熊がいた。

「……お前が、ボスか?」

 草太の問いに、熊は雄叫びで答える。


「グラァァァァァァァァァァァ!」

 ビリビリと空気が震える。思わず、草太は一歩後ずさりした。

 この熊は明らかに格上だ。その立ち姿が如実にそれを物語っている。草太のほおに、ツゥと汗が垂れた。


(これが、異世界。命のやり取り。……そうだ、日本と違ってここでは弱者も敗者も等しく死ぬ。……それは、この先も同じだ。こんな熊より強い魔物はいくらでもいるだろうし、人の悪意だってあるだろう。だったら――)


「これくらい倒せないと、こっから先やっていけないよなぁ!!」

 草太は弱気になった自分に叱咤激励を送る。


 相手との距離は七メートルほど。おそらく、魔法を唱えている暇は無い。

「行くぞ!」

 その結論に至った草太は、強く地面を踏み込んだ。たちまちに、風爪熊と自らの距離が縮んでいく。


「グラァ!」

「おああ!」

 左下から逆袈裟に斬りあげたリコシフォスが、熊の左手の爪によって防がれる。が、受けた爪がそのまま吹っ飛んだ。


「グギャァ!?」

 さすがに予想外だったのか、ボス熊が驚きの声を上げた。その隙を、草太は見逃さない。

「そこだ!」

 手首を返して、ボス熊の脳天をカチ割ろうと、上段からリコシフォスを振り下ろした。


 しかし、ボス熊もそうやすやすとやられてはくれない。その巨体には似合わない俊敏な動きで、草太の攻撃を躱す。

「ってぇ〜!」

 から振った草太は、思いっきり地面に剣を振り下ろしてしまい、その反動に呻き声を漏らした。

 

 その草太に、ボス熊の爪から放たれた風刃が襲いかかる。慌てて横に避けた草太の前に、読んだかのようにボス熊が爪を振り上げていた。

「ぐっ!?」

 咄嗟にリコシフォスでガードした草太に、重い衝撃が襲った。小さな声が漏れる。

 それでも、ボス熊の攻撃は止まない。左手は爪が半分になっていようとも、殴るぐらいなら問題無いらしく、左右からボス熊の猛攻が続く。


 だが、草太も防ぐことだけならできる。チート補正のおかげか、両眼はしっかりとボス熊の動きを捉え、攻撃が体に届く前にリコシフォスで防ぐことができている。


「グ……グラァ!!」

 ついに、焦れたボス熊が右手を大きく振り上げた。開いた右脇を、草太は見逃さない。

「がら空きだぜ!」

 頭上に掲げていたリコシフォスを引き、右脇に斬りつけた。

「グギャラァァアア!」


 痛みに思わずボス熊の動きが止まる。その隙を、狙わないわけが無い。

 リコシフォスを両手で持ち、大上段に構え、もう一度ボス熊の頭に狙いを定める。


「チェストおおおおおおお!!!」

 そして、狙い違わず、ボス熊の巨体を斬りおろした。

「グ、グラ……」

 ボス熊は力なく声を漏らし、そのまま大きな音と共に倒れた。


「かはあ……きつう……」

 草太はいつの間にか詰めていた息を吐き出すと、額に出来た玉のような汗を拭った。休みたいところだが、まだ熊達は残っている。

「他に、やりたい奴、いるか?」


 いないでほしいなぁ、逃げてほしいなぁと思いながら、草太は周りにいるはずの風爪熊達を見回した。

「あれ?」

 しかし、そこには生きている熊達は一頭もいなかった。どれも黒く焼け焦げている。


 呆然としていると、「お疲れ様、草壁くん」という声と共に、ポンと背中を叩かれた。

 そこで草太は、こんなことができる人は草太の知る中で一人しかいないと気付いて、背後の人物に、確認の意味で尋ねた。


「これ、森園さんがやったの?」

「うん、草壁くん危なかったんだよ? 他の熊達が普通に狙ってたし」

「まじか……ありがとう」

 草太は振り返り、後ろの仲間、花奈に笑いかけた。


「しっかしまだ結構数残ってただろ? よくこの短時間で倒せたな」

「なんか火の玉をたくさんイメージしたら、沢山の【ファイアボール】ができたよ?」

「マジかよ……さすがチート……」

「草壁くんだってそうでしょ!」

 あんな激しい戦いの後とは思えないような和やかな会話をする二人に、村人達が唖然とする。


「あれ、そう言えばキットは?」

「こ、ここにゃ〜〜」

 草太の問いに、なぜかヘトヘトになったキットが草むらから出てきて答えた。


「どうしたんだよ?」

「ご主人もお仲間さんも速すぎるにゃ! ついていけないにゃ!」

「最初は一緒に走ってたんだけど、このままじゃ遅いなと思って置いていっちゃったの」

「なるほど、キットは体を動かすのが苦手なんだな」

「いや二人が異常なだけにゃ……」


 そんなほのぼのとした会話を繰り広げる草太達に、村人の一人が恐る恐る声をかけた。

「……あの、風爪熊達を全部倒してくれたんですか? もう、風爪熊達はいないんですか?」

「ああ、はい。あの、それで二つほど頼みたいことが……」

 草太がすべてを言い終わる前に。

『ワアアアアアアア!!!!!!!!』

 

 村人達の大歓声が、森中に響いた。


読んでいただきありがとうございます!

誤字脱字報告、感想お待ちしております。


草太には魔法剣士的な戦い方をしてもらおうと思います。多分、このスタイルは変えません。


花奈の活躍はもう少しお待ちください。

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