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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第4章 新たなる敵
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第7話 誘拐殺人調査

 草太達とメリナが共に冒険に出るようになって一週間が経った。何度か一緒に戦うことで五人での連携にも慣れてきた頃。

 草太達は冒険者ギルドに呼び出された。



 冒険者ギルドには草太達の他にも大勢の冒険者が居た。その殆どが草太が指名手配されていた時に対峙した者達だ。

 疑惑が晴れた後も彼らからの無遠慮な視線がとどまることは無い。なんとなく草太が居心地悪さを感じていると、ギルドの職員が冒険者達の前に立った。

「冒険者の皆様、お集まり頂いてありがとうございます。本日は、皆様にとある依頼をしたいと思っております……ギルド勅令です」

 ざわりと冒険者達がざわめく。



 ギルド勅令とは緊急事態にギルドが直々に冒険者達に依頼を出す物だ。依頼と言ってもそれはほぼ強制で、断ることはまず不可能だ。

「今回の依頼は、現在ノルスタジアで起きている『児童連続誘拐殺人事件』の調査です」

「なんだぁ? そんなこと騎士様たちに任せりゃいいだろうよ」

 職員の言葉に一人の冒険者が不満の声を上げる。他の冒険者達も控えめながら頷いた。



「普通の誘拐事件ならばそれでも良かったのですが……今回の事件、王国政府と我々は『ジョネス・キング』の犯行だと考えています」

 『ジョネス・キング』と言う単語に、冒険者達のざわめきは一際大きくなった。



「『殺戮道化』の……!?」

「あいつはクリシュ大陸の人間では……」

「いや、|サラス大陸≪こちら≫に渡ったと風の噂で聞いたことがあるな」

「これは思わぬ大物狩りになりそうだな」

 草太達の周りにいる冒険者達がそんなことを言い合う。



「……なあメリナ、ジョネス・キングってなんだ?」

「そんなことも知らないのかよ……ジョネス・キングってのは隣のクリシュ大陸で何人も子供を殺した連続殺人犯だよ。捕まえようとした冒険者や騎士が何人も返り討ちになったって話だ。着いた忌み名が『殺戮道化』」

「うへぇ……」

「その人がなんでサラス大陸に?」

 顔を顰める草太に代わって、花奈が質問を重ねる。



「一説によると、アンスロコーラにいる『金』の冒険者達が討伐のために動き出したからってことらしい。ジョネス・キングの力量は『銀』らしいから、流石のジョネス・キングも分が悪くなって逃げてきたんじゃないか?」

「迷惑な話ねー」

 アテナが興味無さげに呟く。



「しかし、既にこの街で何人も罪のない子供達が被害に遭っているのであれば見過ごせないですね」

「…まあ、あたしもあいつらが居るから他人事じゃ無いけどな」

 メリナの瞳には、長女の使命感のようなものが宿っていた。



「――なお、この依頼で有益な情報を下さった冒険者の方には金貨十枚を、『殺戮道化』を発見・討伐した方には霊銀貨を十枚報酬として与えます」

 職員のその言葉に。

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 冒険者達が雄叫びを上げた。

 興奮がギルド内に渦巻く中、草太は一人斜に構えた考えをしていた。



(それってつまり、なんの成果も得られなかったら報酬ゼロってことじゃ……)




 『殺戮道化』の手がかりを探すため、草太達は街に出た。

「気が乗らねー……」

「何言ってんのあんた! 霊銀貨十枚よ十枚! 童貞にはこの価値が分からないのかしら!?」

「うるせーぞ俗物女神。そんなのほとんどギャンブルだろうが。……探すことはいいけど、なんも報酬が出ないのは納得いかねぇ……」

「まあまあソウタ。これも人助けですよ」

「くっ……それもそうだな」

 草太は一つため息をついて気分を切り替える。



「んで、なんか手がかりはあるのか?」

「これから子供の遺体が見つかった廃屋に向かおうと思う」

 草太が尋ねると、メリナは地図を広げた。ノルスタジアの全域を掴める地図上にはいくつかの赤い点がついている。



「この赤い点がジョネス・キングが根城にしていたであろう廃屋を指している。どこも発見された時はもの抜けの空だったらしいけど、何か手がかりがあるんじゃないかと思ってな」

「そうだね、そこに行ってみよう」

 メリナの説明に、花奈を始め全員が納得して頷いた。



 しばらく歩くと、草太達がノルスタジアに入った時にも通った噴水の広場に出た。そこでは前と同じように奇抜な衣装のピエロが観衆を前に様々な芸を見せている。

「おい、行くなよ」

「ぐえっ」

 ふらふら〜とそちらに向かおうとしたアテナのツインテールの片方を草太がぐっと引っ張った。



 カエルが潰されたような声を上げたアテナはキッと草太を睨む。

「なにすんのよこのクソ童貞!」

「一応仕事中なんだからそっちに集中しろ、この阿呆!」

「じゃああんた達だけで調べてきなさいよ! これ見たら追いつくから!」

「お、いいぞ。ならその間に俺達が殺戮道化を捕まえたらその報酬はお前以外の四人で山分けだな」

「ぐぬぬぅ~~~~っ!」



 悔し涙を浮かべるアテナを見て、(そんなに見たいのかよ……)と草太はため息をついた。

「……ん? あれって」

 草太とアテナがいつもの言い合いをしていると、メリナが何かに気づいたように声を漏らした。

「どうしたの?」

「あそこに居るの、ヒュース達じゃねーか」

 メリナの言う通り、孤児院の子供達が目を輝かせながらピエロの大道芸に見入っていた。




 メリナの次に年上のヒュース、草太に頭突きを食らわせたガット、竜王との戦いを目を輝かせて聞いていたリオン、魔法に憧れを抱くアイナ。どの子もこの一週間で見知った仲だ。

「ヒュース! 何やってんだ、勝手に抜け出したら危ないだろ!」

「げ、メリナに見つかっちまった!」

 メリナが声を荒らげると、ヒュースは罰が悪そうに身を縮ませた。



「メリナお姉ちゃん、ちょっとだけ! あとちょっとだけ見せて!」

「アイナ……わかった。後ろで待ってるから、終わったら声をかけてくれ」

 義妹におねだりされて、メリナはため息をついて下がった。

「悪い、ちょっと時間がかかりそうだ」

「構いませんよ。こちらにも子供が一人いるので」

 メリナが頭を下げると、既に子供たちに混ざってピエロの芸に見入っているアテナを眺めながらリフィアが苦笑を返した。



 十分程して、ピエロの演目が全て終わった。拍手に包まれる中、道化は恭しくお辞儀をする。

「面白かったー!」

「ねー!」

「あいつ火を吹いたよ! ひ! ひ!」

 孤児達は興奮冷めやらぬ様子で口々に感想を言い合う。



「……お前ら、今度からは余り外に出るな」

 そんな子供達に、メリナが厳しい顔を向ける。

「今、この街には怖い大人がいるんだ。そいつの標的はお前ら子供達だ……頼む、外に出る時はフィオレと一緒に居てくれ」

 それは、草太も初めて見るメリナの「懇願」だった。



 子供達を危ない目に合わせないように、孤児院の平穏を守るために。

 メリナのそんな様子を見るのは子供たちも初めてなのか、戸惑ってお互いの顔をちらちらと見ている。

「……はい。メリナお姉ちゃんも心配していることだし、一旦教会に戻ろう?」

 固まった空気の中、花奈がぱんぱんと手を叩いて子供達の頭を撫でた。



 子供達はまだ戸惑いながらも元気な声で「うん!」と返事をした。



 その後、ヒュース達を孤児院にまで送り届け、五人は再び噴水広場に戻ってきた。

「悪いな、迷惑かけて」

「全然大丈夫だよ! だからメリナ、そんなに難しい顔しないで?」

「ま、そうだな。一宿一飯の恩って奴だ。子供達の世話くらい構わないさ」

 肩を落とすメリナに、花奈と草太がフォローを入れる。元より、大した負担とも思っていない。



「それでは、気を取り直して殺戮道化の調査を再開しましょうか」

 リフィアの言葉に全員が頷いて、目的の廃屋に向かった。



 噴水広場を後にしながら、草太はそこにはいないピエロを思い出した。

(『殺戮|道化≪・・≫』……まさか、な)

 それは推理とも言えない些細な疑惑。

 首を小さく振って、草太はその思考を頭の隅に追いやった。



 路地裏をかなり進んだ先に、目的地である廃屋に辿り着いた。

 捨てられた木造の建築物は腐敗が進み、所々に穴が空いている。

 扉は剥がれ落ち、玄関の前に転がっていた。

 中も同様にぼろぼろで、歩く度に嫌な軋み音が響く。



「……ここか」

「っ……!」

 そして、奥にある広い一室。残酷な殺害現場に草太達は辿り着いた。

 遺体は既に回収されているが、床や壁には夥しい血痕が付着している。どれほど経っているのか分からないが、室内には血の匂いが充満している。



 草太は眉をひそめ、花奈は口元を覆った。話が確かなら、ここで何人もの子供が殺されたのだ。そして、そんな場所がまだまだある。

「殺戮道化がどんな人間かは知らないけど……なかなか救い難い奴みたいね」

「ええ、許してはおけません」

 アテナとリフィアは憤怒を抑え込んで、静かに呟いた。

「……手がかりを探そう」

 メリナの呟きに従い、草太達は動き出した。



 十五分ほど周りを調べたが、手がかりになるような物は見つけられなかった。

「相手も相当慣れていますね」

「嫌な『慣れ』だけどね」

 メリナの呻きにアテナが忌々しそうに答える。



「ご主人、血の匂いが濃くて判別がつかないにゃ」

 草太に召喚されたキットが、鼻をひくひくさせて首をふる。

「わかった。ありがとな」

 キットを労う草太の横で、花奈が探索用の闇魔法を使う。

「【メモリーコネクション】……だめ、魔法でも分からない」

 だが、確たる証拠も出ず落胆したように呟いた。



「その魔法はどういうものなんだ?」

「対象の物に宿っている人の記憶を読み取るものなんだけど……多分対抗魔法の【メモリーイレイス】を使われてる。不自然なまでにこの家には記憶が残っていない」

「……そうか、一筋縄じゃいかなそうだ」

 これ以上居ても無駄だということで、草太達は外に出た。



 路地裏に差し込む日差しが、少しだけ暗い気持ちを洗い流してくれたような気がした。

「……この調子だと、どの廃屋も同じように証拠隠滅が施されているんじゃないか?」

「そうだな……今日はもう帰るか。あいつらを叱っちゃった分たっぷり遊んでやらないといけないしな」

 草太の言葉に、メリナが孤児院のある方角を見て静かに呟く。



 結局一つも手がかりを得られないまま、五人は孤児院へと戻っていった。




 五人が教会に戻り子供達と遊んでいる頃。

 ぼろぼろになった空き家でジョネス・キングは笑みを零した。

「……何かあったか?」

 近くの古いソファに座るウィルフレドが尋ねる。

「いえ、新たな芸術品を見つけることが出来ましたので……ラモール様に感謝の祈りを捧げていたところでございます」

「なるほど、お前もラモール教徒に相応しくなってきたじゃないか」

 ジョネスの言葉に、ウィルフレドは満足そうに頷く。



 しかし、次には険しい顔でジョネスを睨んだ。

「それでもお前のここ最近の行動は目に余るぞ。遂には冒険者ギルドが動き出した」

「ふっふふふふ……我が芸術には不要な観客ですねぇ……」

「目立ち過ぎだ。少し抑えろ……なんのために俺が【メモリーイレイス】を使ったのか分かっているのか……我々はソウタを捕獲するまで身を潜めておくべきなんだぞ」

「それについてですが、ウィルフレドさん……ようやく彼らへの足がかりを見つけましたよ」

 ジョネスの言葉に、ウィルフレドはぴくりと眉を動かす。



「それは、本当か?」

「ええ。彼らは――」

 静かに、誰にも聞かれないように、ジョネスはウィルフレドに語る。

 ジョネスの話を聞き終えたウィルフレドは、その顔に欲望に満ちた笑みを浮かべた。



「よくやった。早速行動に取り掛かるぞ」

「ワタシはいつでも問題ありません」

 ウィルフレドが立ち上がり、ジョネスが宵闇に不敵な笑みを浮かべる。

「ああ、ラモール様! もうじき選ばれし使徒をあなたの元へお送り致します……!」

 雲に隠れた朧月を見上げて、ウィルフレドは恍惚の表情を浮かべながら笑った。







 夕飯を終え、夜も更けた頃。草太は宛てがわれた一室でリコシフォスを磨く。その頭の中では最近のことについて様々なことを思い巡らせていた。

(殺戮道化……それとあの男を結ぶのは流石に考えすぎだと思うけど、一度調べた方がいいな……後は)

 草太はリコシフォスを磨く手を止める。考えるのは、メリナの事だ。



(しばらく一緒に居るけど、あいつの能力や生い立ちとかは俺は全然知らないんだよな……聞いても濁されるだけだし……まあ俺も異世界から来たって言うことを、メリナどころかリフィアにも黙ってる時点で人のこと言えないんだけどな)

 がりがりと頭を掻いて、草太はリコシフォスを鞘に入れて壁に立てかけた。

 そのまま部屋を出てなんとなく下の階に降りる。



 子供達が寝静まった教会は、日中の騒がしさが嘘のように静かだった。なんとなく、地球にいた頃の家を思い出す。

(ここにいる子供たちも、俺と一緒なんだな。親が居なくて、別の誰かに引き取られた……)

 草太が感慨に耽っていると、聖堂の横にある一室――フィオレの部屋から明かりが漏れていることに気付いた。



 コンコン、と扉を叩くとすぐに「はーい、どうぞ」とフィオレの声が返ってきた。

「失礼します……夜分遅くにすみません、フィオレさん」

「ソウタさん? どうかされたんですか?」

 執務机に座って何か書いていたフィオレは、草太の顔を見て目を丸くした。



「いやぁ、考え事をしていたら眠れなくて」

「……『殺戮道化』のことですよね。……私も、子供達が彼に襲われたらどうしようと不安になっていたところです」

 フィオレはぎゅっと胸を抑える。二十人ほどの孤児達を抱える母親には、この事件は他人事では無いのだろう。

 ――そして、それはきっと、長女であるメリナも同じで。



「……大丈夫ですよ。俺達がいる限り、ここは安全です」

「ソウタさん……ありがとうございます」

 草太が安心させるために微笑むと、フィオレはまだ少しだけ固い笑顔を浮かべた。



 和やかな空気になった所で、フィオレが「お茶を入れますね」と立ち上がった。断るのは無粋だと思ったので、草太は近くにあった丸椅子に腰を下ろす。

「……ソウタさん。メリナは……あの子は迷惑をかけていませんか?」

 お茶を入れながらの唐突なフィオレの質問に、草太は息を詰まらせた。

「……はい、俺達より知識や経験が豊富なので、いつも助かってますよ」

「そうですか……」

 褒めたのに、フィオレは浮かない顔になる。しばらく俯いて、意を決した顔で草太の方を向いた。



「ソウタさん、メリナを……あの子を皆さんの旅路に同行させてあげてくれませんか?」

「え……?」

 突然の頼みに、草太は呆然とした。だが、フィオレの表情は冗談を言っているようには見えない。



「……あの子は、いつまでもここに居てはいけないんです。あの子の願いのためにも……メリナは旅立つべきなんです」

「……どういう、ことなんですか?」

 草太の問いには答えず、フィオレはお茶を淹れたカップを渡した。湯気と共に優しい香りが立ちのぼる。



 執務机に座ったフィオレは、お茶を静かに飲み少しため息をついて――ぽつぽつと話し始めた。

「あの子と、あの子の父親についての話です……」

 それは奇しくも、草太が知りたいと思っていたことの一つ。

 冒険者としても名を馳せた世紀の大盗賊と、その娘として生まれた少女(メリナ)の――小さな小さな昔話。



読んでいただき、ありがとうございます!

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