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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第4章 新たなる敵
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第6話 ノルスタジアでの日々③

「……で、あれはどういう力なんだ?」

 ゴブリンの亡骸から討伐証明になる『小鬼の角』を集めながら、草太はメリナに尋ねた。

「んー、説明するって言ったけどあんまし詳しくも言えないんだよな……悪いな」

 メリナは困ったように頭を掻いて苦笑する。

 草太はその答えに反論することはなく、「そうか」とだけ呟いた。

(冒険者……いや、戦う者にとっては情報が命綱だ。迂闊に喋ることは自殺と同じ……メリナの態度は当然のものだな)

 花奈達もそれがわかっているから何も言わない。



 だとすれば、自分達で邪推するか、メリナが草太達を信頼して口を開いてくれるまで待つしかない。

(……まあ、単なる好奇心で聞きたいだけだしこの件は深く考えないようにするか)

 ゴブリンの角を切り落としながら、草太はそう結論付けた。



 『小鬼の角』を回収し終えて、草太達は岩場の陰に車座にって座った。

「あとは毒ムカデだけだね」

「そうだな。この魔物は一体倒せばいいから楽なもんだ」

「どこらへんに出没するんだ?」

 草太が聞くと、メリナはおもむろに周辺の地図を開いた。



「ノルスタジアの西側には草原と岩山、そして湿地があるんだ。毒ムカデはここの湿地にいる」

 メリナが指すのは今いる岩場から南側にある大きな水たまり印だ。

「湿地ですか……足を取られないように注意しましょう」

「この魔物は湿原に身を潜めながら獲物が来るのを待つ。迂闊に入らないほうがいいな」

「対策はどうするの?」

「毒ムカデは乾燥をひどく嫌うから、ハナに炎魔法を使ってもらっておびき出そうと思う」

「わかった、それでいこう」

 メリナの作戦にうなずき、草太達は岩場を後にした。



 大きな石ころなどを避けながら南下すると、次第に草木が見え始めてきた。

「もう少ししたら湿原が見えてくるぞー」

 メリナの言葉を聞いたアテナがひゃっほーと走り出す。

「あ、おい待てよ!」

 それを見てメリナが慌ててその後を追う。



「子供が二人……ですかね」

「にぎやかで楽しいね」

 駆け出す二人の背中を眺めながら、リフィアと花奈が暖かく笑う。



 やがて、メリナの言う通り草太達の眼下に広大な湿原が広がった。辺りには多種多様の鳥や体の大きな虫などが見える。

「おお、中々いい景色だな」

 ちょうど草太達が高台にいることもあって、湿原を見渡すことができる。カメラでもあれば何枚か写真を撮っているところだ。

「毒ムカデは今も身を潜めていると思う。多分他の魔物が寄り付かないあの辺り……ハナ、やってくれるか?」

「わかった。――【イグニスウィンド】!」



 メリナの指示に従って、花奈が魔法を展開する。

 メリナの言った周囲に赤い熱球のようなものが現れる。よほどの高温なのか、その周囲が陽炎のようにゆらめいている。

 突如現れた熱球に周囲の魔物や生き物達は警戒しながら後ずさっていく。

 周りにいた動物達が十分に離れたことを確認し、花奈は【イグニスウィンド】を解放した。



 ボワっと低い音とともに熱球が破裂する。炎で焼かれたような高温の風が離れている草太達のところまで届いた。

 炎系と風系の『混合魔法』【イグニスウィンド】。広範囲に熱風を起こす魔法だ。

 熱と風圧で敵をおびき寄せる魔法のため攻撃力はほとんどないが、花奈が使うと話は違ってくる。

 まともに受けた生物は喉が乾涸びて最悪死に至ることだろう。



 熱風に頬を叩かれ、額に汗をかく。

「ほんとにすごい威力だなぁ」

「これでもだいぶ抑えてるけどね」

「マジですか……」

 感心していた草太は、返ってきた花奈の言葉に困惑の表情を浮かべる。



 結構な距離が離れているこの場所まで魔法の余波が届くことでさえ凄まじいのに、手加減していると言われてしまったらもう何も言えない。

「……あ、なんかあそこの水面が動いてるわよ」

 と、アテナが熱風の渦巻く中央を指した。

「お出ましだ! 行くぞ!」

 メリナは『マヴロスキア』を引き抜きそのまま崖を駆け下り始める。



「うへえ、さすがは『半』熟練冒険者だ」

 迷いなく崖を駆け下りるその様子を後ろから眺め、草太は顔をひくつかせながらその後を追う。

「えええ、ここ降りられるの……?」

 一方花奈は足がすくんだ。滑り落ちるとしても、ゴツゴツとした崖をみて滑り台の様にはいかないと本能で悟る。



「仕方ないわねー……ハナ、しっかりと捕まってなさい!」

「へっ――わ、きゃあああああああ!?」

 躊躇う花奈を、後ろからアテナが抱えてそのまま滑降する。異世界にきて初めてとも言える花奈の大絶叫が響き渡った。



 ほぼ直角の斜面をなんなく降りきったアテナは、優しく花奈をその場におろす。

「あ、アテナちゃん……!」

「あー、ご、ごめんなさい……?」

 涙目で睨みつける花奈にアテナは冷や汗をかきながらしどろもどろに謝る。



 そんな二人の背後に【風舞脚】を使って難なく――むしろ優雅にリフィアが降り立った。

「私もそっちが良かった~~~!!」

「その、提案する前にアテナが行ってしまったので……」

 泣きつく花奈にリフィアが困り顔になる。



「面白い連中だなー」

 その様子を見ながら、草太の隣にいるメリナがけらけらと笑う。

「まあその分、厄介事も多いんだけどな」

 その言葉に草太は疲れた顔で苦笑した。



 と、その時。

「シェアアアアアアアアアアア!!」

 湿原の沼から金切り声が響いた。

「!」

 先程までの緩い雰囲気から一転、草太達は武器を構え臨戦態勢に入る。



 果たして、彼らの目に映ったのは巨大なムカデだった。

 赤黒い甲殻に覆われた五メートルほどの体躯に、『百足』という名に相応しい夥しい数の黄色い足。

 顔には巨大な牙を持ち瘴気のようなものが出ている。

「あれが……」

「ああ、最後の討伐対象――毒ムカデだ!」

「キシャアアアアアアアアアアアアアア――!」

 ふたたび、湿原に巨大なムカデの咆哮が響き渡った。



「リフィアと花奈は後方から支援を頼む。メリナは俺とアテナと一緒に前衛でいいか?」

「問題ないぜー」

「うし、行くか!」

 草太の言葉を合図に、一行は泥化した地面を走り出す。



「キシャアアアアアアアアアアアアアア!」

 毒ムカデは自分に近付いている人間がこの忌々しい熱風を生み出したことを悟り、威嚇の叫びを上げる。

「【氷結弓】!」

 走りながらリフィアが毒ムカデに向けて氷の矢を放つ。



 凍てつく鏃は正確無比に毒ムカデの体に当たるが……。

「くっ……硬い!」

 身を覆う甲殻に防がれ、毒ムカデに効果的なダメージを与えることは出来ない。



「シャアアアアアアアアア!」

 攻撃に苛立った毒ムカデが体をたわませ、次の瞬間草太達に向けて突貫する。

「アイギス!」

 だが、アテナの持つ白銀の盾により完璧に防がれた。

「ァアッ!?」

「そらそらそら!」

 その隙にメリナがマヴロスキアで毒ムカデの体を何度も斬りつける。



 毒ムカデは対象をメリナに向けて瘴気を放つ毒牙を剥いた。

「こっちだ! 【ジャイアントキリング】!」

 よそ見をした大ムカデに、草太が巨大化したリコシフォスで切りかかった。



「ギシャアアアアアアアア――!」

 胴体を真っ二つに斬られ、毒ムカデの巨体が湿原に崩れ落ちた。

「……終わりか? 随分と呆気ないな」

 リコシフォスを二回左右に振って、草太は拍子抜けした様子で呟いた。



「ソウタ達がいるとは言え、確かに簡単すぎたな……あれ?」

 メリナが同調しながら息絶えた毒ムカデを眺める。そして、あることに気がついたように眉をひそめた。

「どうしたの?」

「よく見てくれ。こいつの体、傷が多すぎる」

「どれどれ……確かにね。何かに噛まれたような傷や、踏まれたような痣……そしてこれは……火傷かしら?」

「つまり、俺達と戦う前にこの毒ムカデは別の何かと戦ってたってわけか」

 アテナと草太で毒ムカデの死体を囲み、うーんと首を捻る。



 その後ろで、メリナが息を飲んだ。

「この火傷……まさか……!」

「メリナ、どうかしたの?」

「みんな早くここから逃げるぞ! アイツが来る!」

「「「「あいつ?」」」」

 焦燥に駆られるメリナの注意喚起に草太達が首を傾げたその時。



「ルォオオオオオオオオオ――」

 彼らの背後から、不思議な鳴き声が聞こえた。

「なん……だあれ……」

 振り向いて、草太は目を見開く。



 水しぶきを上げながら湿原を凄まじい速度で駆け抜ける黒い何か。

 体長は毒ムカデより少し小さい三メートルほど。短く太い四足を忙しなく動かし、巨大な口を開けている。体表は光を反射して光沢を放ち、ときおり小さな稲妻のようなものが走っている。



 それは、巨大な山椒魚(さんしょううお)だった。山椒魚は「ルォオオオオオオオオオ」と鳴き声を上げながら、真っ直ぐに草太達の所に向かってきている。

「なに、あれ……」

「この湿原最強の魔物……『|黒雷≪こくらい≫山椒魚』だ!」

 花奈の唖然とした呟きに、メリナが呻くように叫んだ。



「ルォオオオオオオオオオ!!」

 大山椒魚は走ってきた勢いを衰えさせず、そのまま体当たりを敢行した。

「っ!!」

 標的となったアテナがアイギスを構えて真正面からそれを受け止める。

「アテナちゃん!」

「大丈夫よ! ……なかなかいい特攻してくるじゃない!」



 アイギスで山椒魚を食い止めながら、アテナは右手のパルテノスを握り直す。

「でも、相手が悪かったわね!」

 そして、神速の閃きと共に大山椒魚の体を貫いた。



「ルォオオオオオオオオオ!!」

 黒雷山椒魚は悲鳴をあげて後退する。今の一撃でかなりの痛手を負ったはずだ。

「なんだ、大したことないじゃない」

「油断するな! こいつはその名の通り、雷を使う!」

「……待て、それって」

 メリナの注意を聞いた草太が顔を青ざめさせたと同時に。



「ルゥオオオオオオオオオオオオ――!!」

 黒雷山椒魚がぶるっと身震いした。

 次いで、発光。稲光が走り、何かが爆ぜるような音。

 避ける間もなく、足元の水を伝って電流が草太達の体を襲った。



「~~~~~~~~~ッッ!!」

 頭が棍棒で殴られたような震撃。全身を駆け巡るしびれ。重い速攻に、草太達は悲鳴をあげることさえ出来ない。

「やっべ……こんな奴も居るのかよ……!」

「ウルォオオオオオオオオオオオ!!」

 草太が顔を顰める。黒雷山椒魚は雄叫びを上げながらもその場から動こうとはしない。

(もしかして、放電の反動で動けないのか……?)



「お前ら、動けるか……」

「ちょ、ちょっときついかも……」

「不覚を取りました……」

「ああもう、なんなのよ……!」

「くっそ……」

 草太が様子を確認すると、花奈達も同様に麻痺状態に陥っていた。



「花奈、すぐに避難用の岩場を作って、それから皆の麻痺状態を解いてその上で待機しておいてくれ。……【キュアー】」

 草太は花奈に指示を残して、自分の麻痺を解除した。

「そ、草太くんは……?」

「やられっぱなしじゃ悔しいし、反撃してくるよ」

 その言葉と共に、草太は湿原を走り出す。



「ルォオオオオオオオオオ!!」

 警戒した大山椒魚が前足を振り上げて草太を踏み潰そうとする。だが、動きは緩慢だ。

「おらぁ!」

 その隙に距離を詰めた草太は見せびらかしになっている土手っ腹にリコシフォスを突き刺した。

「オオオオオオオオオオオ!!」

 黒雷山椒魚が痛みに呻く。それでも厚い脂肪に防がれて致命傷に至ってはいない。

「くらえ!」

 草太は手を止めることなく大山椒魚に剣の連撃を浴びせる。大山椒魚の黒い体に無数の切り跡が刻まれていく。



「ォオ!」

 短く吠えた大山椒魚がリコシフォスに噛み付いた。

「げぇ!?」

 がっちりと白刃取りされてしまい、リコシフォスを握っている草太は動けなくなる。

 そのまま黒雷山椒魚はぶんと首を横に振り、草太を空中に放り投げた。



「ちぃっ!」

 舌打ちをしながら空中で体勢を立て直し、湿原に着地する。

 その時草太が見たのは、少し距離が離れた黒雷山椒魚が再び雷を纏う姿だった。

「させるかよ! 【呼ぶは土・堅固なる土槍・ロックランス】!」

 またあの放電をやられてたまるかと、草太は土魔法で攻撃する。



「グルオオオオオオオオ!」

 土槍を浴びた黒雷山椒魚が野太い悲鳴をあげた。だが、それでも止まらない。

「――ルォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「がああああああ!?」

 再び山椒魚が放電し、草太の全身に電流が走る。痺れと共に体の自由がきかなくなる。



「……へ、それでもこの距離ならお前は止めをさせないだろ…!」

「グルゥ……」

 前と同じで山椒魚は追撃を仕掛けてこない。視界が霞む中で草太は不敵に笑った。

「それがお前の敗因だ! ――花奈!」

「【バーニングランス】!!」

 花奈の詠唱と響き、黒雷山椒魚に灼熱の炎槍が直撃した。



「グォオオオオオオオオオオオオオ――……」

 今際の嘶きを上げて、大山椒魚は重い音とともに湿原に倒れ伏せた。

「……はぁ、ようやく終わったか」

 もう一度【キュアー】をかけて麻痺を解いた草太は、小さく息をついた。

「草太くん!」

 一息つく草太の元に、花奈達が駆け寄る。



「おー、お疲れさん。花奈が俺の意図を読み取ってくれてよかったよ」

「もう、何も言わずに無茶して!」

 笑いかける草太に、花奈はぷりぷりと頬を膨らませた。

「ソウタが時間を稼いでいる間に安全圏に移動したハナが魔法の準備をする……全く、無茶苦茶よ」

 アテナも呆れ顔で首を振った。



「まあまあ、終わりよければ全てよしさ」

「こいつ反省してないぞ」

「一度ソウタの突っ込み癖を矯正する必要がありますね……」

 笑いながら宥める草太を見て、メリナとリフィアもため息をつく。



「悪かったって。それよりさっさと戦利品を回収してノルスタジアに戻ろうぜ。ここに留まっていたらまた別の魔物に襲われてもおかしくない」

 草太の言葉に、少女達は不満顔になりながらも渋々従った。



 軍隊ガエル、ゴブリン、毒ムカデ、そして黒雷山椒魚。大量の魔物を討伐したことによって、かなりの利益を得ることが出来た。

 街に戻ったメリナがその換金額に大いに喜んだことは言うまでもない。


読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字報告がありましたら遠慮なくお願いします!



三日連続投稿の最後になります!次話は月曜日か火曜日に投稿する予定です!

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