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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第1章 ビギナーズ
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第5話 異世界チュートリアルその2

 【白魔法】。簡単に言えば便利魔法である。

 例えば望遠の魔法、行ったことのある場所にすぐに行ける魔法、知覚能力を引き上げる魔法、指定したものを捜す魔法などなど……。

 その呪文の数は数百から千に登ると言われているが、全容は明らかになっていない。

 

 というのも、【白魔法】は誰にでも使えるわけではない。基本的に一人につき一つ、またはそもそも一つも使えないのが殆どだ。

 稀に複数の【白魔法】を扱える者もいるが、本当に稀である。

 また、白魔法は多くの場合子孫に遺伝するので、先祖代々続く家宝的な認識を持っている人も多い。


 そんなわけで、【白魔法】はそれを使える者にとってはプチ【唯一魔法】なのだ。それ故に【白魔法】を使える者は死ぬまでそれを隠匿する者が多い。


「【アナライズ】! ……うーんやっぱりだめかぁ……」

 呪文を唱えた花奈が、何も起きなかったことを見てがくりと肩を落とした。

「これで三つの【白魔法】に失敗したことになるな。……よし、森園さん一回代わろう。もし森園さんが【白魔法】を使えたとしても、それを探すには今は時間が足りないからな」

 それを見た草太が慰めるように優しく声をかけた。


「うん……う〜使えたら色々便利そうだったのになぁ……」

 花奈はまだ少し名残惜しそうに、グリモワールを草太に渡した。ページをめくりながら草太が苦笑する。

「まあまた今度な。……よし、試してみるか」


 草太の提案で、現在二人は【白魔法】を練習している。しかし、花奈の結果は芳しくなかった。幾つかの【白魔法】を試したのだが、どれもが不発に終わってしまったのだ。

「私、『大魔導師』なのに……魔法のエキスパートなのに……」

 未だに悔しがる花奈。どうやらかなりの負けず嫌いらしい。


「森園さんは魔法のぶっ飛び威力があるからいいだろ。……【アナライズ】……うおっ!?」

「草壁くん!?」

 呪文を唱えた草太が突然仰け反った。それを見た花奈が慌てて駆け寄る。


「あー、大丈夫、平気。ちょっといきなりでびっくりしただけだから。……でも、多分成功した、かな。なんか目の前にゲームのステータスウィンドウ見たいのが出てる……」

 すぐに体勢を立て直した草太は、訝しげに目の前の何も無い空間を見つめた。


「本当に!? どんな感じなの?」

「まあ、予想の通りだ。【アナライズ】は鑑定スキル系……自分や相手の力量がわかる魔法みたいだな」

 草太は目の前に現れたウィンドウを見て、そう言った。

 ウィンドウには体力や魔力量、魔法を使える属性などが載っている。なぜか現在の身長や体重も書いてあった。


「そっかー、草壁くんすごいね!」

「まあ、一応『天使』なんで」

 笑顔で褒めてくる花奈に、草太も冗談混じりで返す。

 と、花奈が思いついた様に手をポンと叩いた。

「ねえ、それで私のことも調べてみて?」

「うん? ああ、いいけど……【アナライズ】」


 草太は軽い調子でもう一度呪文を唱えた。ちなみに【白魔法】は魔法の名前を唱えるだけで発動できる。

「おお、今回も成功だな。どれどれ…………おっ? も、森園さん、【唯一魔法】を一つ持ってるぞ!?」

「ええ!? 【唯一魔法】って普通亜人族のものなんじゃ……」


 驚き目を見開いた草太の言葉に、花奈も驚愕の声を上げた。

「例外もあるってことなんだろうな……えーと名前は、【魔力即時回復】……魔法なのか、これ? それで効果は……『唱えると、消費した魔力を一瞬で回復する』」


「「………………」」

 一瞬時が止まり、


「「はああああああああああああ!?!?!?」」


 二人の叫び声で再び動き出した。

「ちょっと待てこれって魔法使い放題ってことか!? これ唱えたら魔力切れとは永遠にさよならってことだよな!?」

「そ、そうなの!? さすがにそれは無いかなーって思ってたけど、やっぱりそうなの!?」

 興奮が最高潮に達し、大声で喚く二人。ここに誰もいなかったことが幸いだろう。

 ひとしきりうおーとか、わーとか叫んだ後、草太がその場に座り込んで、片手で顔を覆った。


「は、ははは……すげー、森園さん、アンタすげぇよ……」

「く、草壁くん? なんか落ち込んで無い?」

「べ、別にぃ!? 『なんだこのチート羨ましい!』なんて思ってませんよ!?」

「……思ってたんだね」

「……はい」

 どうやら興奮のあまり、草太のキャラが少し崩壊しているようだ。


「ふう……落ち着け俺。まずは深呼吸をしよう。スーハースーハー」

「く、草壁くん?」

 草太の動揺っぷりに、やばいこれ病院に行かないと……って病院なんて無いじゃん! と花奈が一人悩んでいる間に、ようやく草太は落ち着きを取り戻した。


「ふう……、しかしすごいなぁ。やっぱりちょっと羨ましい」

 もう一度【魔力即時回復】の効果を読んだ草太は、小さくため息をついた。それを見た花奈が話題を変える。

「ま、まあまあ。【アナライズ】では他にどんなことがわかるの?」

「え、ああ。後はステータスみたいなものと身長たい……ぶふぉ!?」


 話しながら草太は視線を右下――先ほど草太の身長体重が載っていた箇所――に向けて、そこに書いてあるものに吹き出した。その草太に花奈が慌てて声をかける。

「草壁くん!?」

「だ、大丈夫大丈夫! ギリギリ大丈夫!」

「な、何が!?」


 草太は慌てて【アナライズ】のウィンドウを閉じた。

 被術者の体格の項目には、まあお約束のように花奈のスリーサイズが書いてあった。ギリギリ見ていないが正直罪悪感は消えない。

 

 ごまかすように草太は話を再開した。

「……まあ、結果として【白魔法】の一つを使えたわけだな」

「…………うん」

 疑わしそうに見てくる花奈から、草太は視線をそらす。


 というか、花奈はもう草太が吹き出した理由に勘付いているのかもしれない。冷や汗をかきながら、草太は花奈のきを逸らそうとする。

「じ、じゃあ次はこの【ウェアハウス】っていうのを試してみよう! これはかなり便利な魔法みたいだぞ」


「……どんな効果があるの?」

 心なしか冷たくなった声音で花奈が問う。

「えーと、いくらでもものを入れられるらしい。あれだよ、ド○えもんのポケットだよ」

「へえ……それは確かに便利そうだね?」

「だろ?」

 花奈の機嫌が少し良くなる。それを見た草太は早速魔法を使うことにした。


「【ウェアハウス】」

 すると、草太の前に、黒紫色の空間が出現した。試しに石を一つ入れ、しばらくしてから取り出してみる。

「うん、成功だな。森園さんのグリモワールもここに入れておくか? 重そうだし」

「……そうだね。それだと楽そうかな」

 花奈が微笑みながら頷いた。


「さて、とりあえず二つの白魔法を使えたことだし、次は召喚魔法を試してみるか」

 草太はぱらぱらと魔導書(グリモワール)のページをめくり、召喚魔法のページを開いた。


 そこには、ご丁寧に召喚用の魔法陣が描かれている。本当に便利な魔導書(グリモワール)だ。

「えーと、この魔法陣を地面とかに描いて、自分の魔力を流せばいいのか。……この魔法陣描くのめんどくさいなぁ……森園さん手伝っ」

「私は召喚魔法使えないから、ちゃんと自分でやらないと駄目だよ、草壁君?」

「は、はい……」


 どうやら少し機嫌は良くなったものの、花奈はまだ完全に草太を許したわけでは無いらしい。草太は背中に汗をかきながら、魔法陣を描き始めた。


 魔導書(グリモワール)の指示に従い、数分かけて完成した魔法陣の決められた位置に立つ。そして、右手をかざし、魔法陣に魔力を注いだ。

 すると、魔法陣が青白く輝き始めた。

「おお……」

「成功したの?」

「いや、最後までやってみないとわかんないな……【名も無き友よ・我が魔力を糧に・ここに顕現せよ・コールメイト】」


 草太が召喚魔法の詠唱を完成させると同時に、魔法陣の光がカッと弾けた。その眩しさに、二人は思わず目を瞑った。

 光はさらに輝きを増し、瞼の裏に白が充満する。


 やがて、次第に光が収まっていき、遂には完全に消えた。

 二人が恐る恐る目を開けると、そこにいたのは――


「「!?」」

「初めましてだにゃ! オイラは猫の頂点にして最も賢く、最も旅好きの魔物、ケットシーだにゃ!!」

 薄黄色の体毛を何かの服で包み、二足で直立している、しゃべる猫だった。


「……えーっと、お前はケットシーっていう魔物なのか?」

 草太がおずおずと尋ねると、可愛らしい声でケットシーは元気良く答えた。

「そうにゃ! オイラは誇り高きケットシー。幸運をもたらす超いい猫にゃ!」


「お、おう。喋る猫ってなんか落ち着かないな……」

「オイラを喚んだのはあなたかにゃ?」

「ああ、そうだ。召喚魔法を使ってみたんだよ」

「なるほどにゃ……」

 するとケットシーはなぜか少し表情を翳らせた。

「ん? どうした?」


「……オイラは、知恵も回って、主人に幸運をもたらす、それはそれは高スペックな魔物にゃ」

「自分で高スペックって言うか……」

 呆れ顔で草太が呟く。


「でもオイラは非力にゃ。召喚獣に真っ先に求められるのは、戦う力の無い召喚術師を守ることにゃ。けど、オイラにはそれが無いんだにゃ……」

「……お前、もしかして召喚されるたびに、そんな感じのこと言われて、いらない子扱いされてきたのか?」

 草太の問いに、ケットシーは無言で頷いた。


「戦えない奴なんていらない、非力なお前は不要だ……いつも、そんなことを言われてきたにゃ」

「……」

「だから、あなたもオイラと契約を結ぶのはやめといた方がいいにゃ。絶対に損をするにゃ」


 ケットシーは寂しそうに、そして悔しそうに目を伏せた。


「……いや、俺はお前と契約する」

 草太の言葉に、ケットシーはその大きな瞳を丸くした。


「にゃ!? 何を言っているにゃ!? 話を聞いてたかにゃ!?」

「ああ、全部ちゃんと聞いてたぞ。それを踏まえてだ」

「あ、ありえないにゃ! オイラみたいな非力な魔物をどうして……」

「まず、誤解しているみたいだから言っておくけど、俺は正直戦力には困っていない」

「にゃ!?」

 ケットシーはわけがわからん! と言った表情になる。

 おそらく、戦力を必要としない召喚術師など、前代未聞なのだろう。


「それに俺は召喚術師じゃなくて、天使っていう職業なんだ」

「て、天使……!? 神々の恩恵を受け、戦いに秀で、あらゆるものを凌駕するというあの……!?」

「ちょっとオーバーな気もするがその天使だ。だから、俺一人でもぶっちゃけ戦えるし、隣にいるこの人も超チートだ。だから、お前は戦わなくていい」

「ふにゃあ!?」

 ケットシーが戸惑いのあまり、変な声を出した。


「でも、俺たちはこの世界の常識には疎いんだ。わけあってな。だから、話すことができて賢いお前が居てくれると助かると思う。それに旅好きなら、俺たちが初めて行く場所の情報を教えてくれるだけでも十分だ」

「……」

「お前の知能は、立派な武器だよ。その武器で、俺たちを助けてくれないか?」

「にゃ……」

「戦いは俺たちで、情報はお前が。どうだ?」


 ケットシーは、少し考えるように瞑目し、ぱちっと目を開いた。

「わかったにゃ。まさかそんなことを言う召喚者がいるとは思わなかったにゃ」

「契約するか?」

「もちろんだにゃ!」


 ケットシーはそう言って、草太のことをじっと見据えた。

「契約の証たる名を、オイラにくださいにゃ。それで、契約は完了にゃ」

「名前か……」

 草太は数秒思案顔でうつむき、得意げに考えた名前を宣言した。


「よし、じゃあねこたろーとかどうだ!?」


「…………にゃ?」

 草太の出した名前にケットシーが目を白くする。


「も、もう少しカッコいい名前がいいにゃ……」

「なるほど、かっこいい名前か……じゃあ、ねこすけは?」

「却下にゃ! ネーミングセンスなさすぎにゃ! もっと、もっといい名前は無いのかにゃ!?」


 どうやら草太のネーミングセンスはかなりひどいらしい。ケットシーはすでにちょっと涙目だ。

「えー、失礼だな……じゃあきいろは?」

「ストレートすぎるにゃ!」

「にゃんたろう」

「ねこたろうと大して変わんないにゃ!」

「文句多いな! あ、じゃあ、たけしは?」

「誰にゃ!? な、なんでそんなのしか出てこないんだにゃ……」

「そんなのとは失礼な……じゃあ、やまぶきは? 体毛から連想したんだけど、きいろよりはマシだろう?」

「やまぶき……うーん、もう一声欲しいにゃ」

「なんて注文の多いケットシー!」


 呆れたように叫ぶ草太にケットシーが猛抗議する。

「名前は大事にゃ! これからその名で呼ばれるんだから、おかしいのは嫌だにゃ!」

「うええ……それじゃあ」


「キットとかどうかな?」


 草太が次なる案を出そうとした時、ずっと黙っていた花奈が声を出した。

「ええー、なんか微妙じゃ無いか? そんなんじゃこいつは喜ば」

「それにゃ! オイラはそれがいいにゃ!」

「あれ!?」


 予想外の展開に、草太が驚きの声を上げた。そんな草太を無視して、ケットシーは高らかに宣言した。

「オイラは今日からキットにゃ! それ以外は認めないにゃ!」

「なんだそれ!? ……あーもうわかったよ、キットな、キット。それじゃあ契約を結ぶぞ」

 草太は不本意な決定に渋々頷いてから、魔導書(グリモワール)の『召喚契約』の部分を開いた。


「えー、魔法陣の中にいる魔物の額に手を置いて……【汝の名はキット・我が魔力に誓い・汝の力を行使せよ】」

 ケットシーの額が青白く輝く。光が収まると、ケットシーの額には、三つのひし形のような紋様が浮かんでいた。

「よし、契約完了。俺は草太。草壁草太だ」

「ソウタ……」

「私は花奈だよ、森園花奈。よろしくね、キット」

「ハナ……」


 ケットシー改めキットは噛み締めるように二人の名前を復唱し、

「……オイラは幸運をもたらすケットシーのキットにゃ! ご主人とその仲間よ、よろしくにゃ!」

 嬉しそうに、満面の笑みを浮かべ――


 たところで、横からがっと抱きしめられた。


「ふにゃ!?」

「も、森園さん?」

 キットを抱きしめたのは花奈だった。


「…………いい」

「え?」

「か、か、か」

「か?」

「かわいい〜〜〜〜〜〜!!! なにこれ! なにこのもふもふ! すごい! 私、猫をもふもふするのに憧れてたのー!!」

「ふにゃあーーーー!?」


 花奈はまるで、タガが外れたように、キットを抱きしめ撫で始めた。わけがわからずキットが悲鳴を上げるが、それでも止めない。


 キットは涙目で懇願するように草太に助けを求めた。

「ご、ご主人! 助けて欲しいにゃ!」

「……まあ、別に減るもんじゃ無いしいいんじゃね?」

「ご主人〜〜〜〜!!」

 草太は二、三歩後ずさりながら、苦笑いでキットに手を振る。


 今キットを取り上げたら花奈がまた不機嫌になるかもしれない。

 逆にこのままキットをもふらせておけば、先ほどの草太のやらかしを許してくれる可能性もある。


(許せ、キット!)

 生贄にしたことを心の中で謝りつつ、草太は苦笑いで幸せそうな花奈と、花奈にもふられてすでにぐったりしているキットを眺めていた。



 花奈のもふもふは、その後十五分ほど続いた。

読んでくださりありがとうございます!

誤字脱字報告、感想お待ちしてます!

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