第10話 ドラグ山の戦い(終)
こんなに短い間隔で投稿できるなんていつ以来だ……?
「とととととりあえず、花奈達が戻ってきたらこのことを相談しよう……」
目の前の竜王の遺体から目をそらしながら、草太は震える声で呟いた。
今回草太達がアベンテラーから受けた任務は、「竜王を殺さずに沈静化すること」。
だと言うのに勢い余って草太は竜王の脳天をかち割ってしまった。
ルージェンを奪われた汚名を返上するための一番最初の任務で失敗するなど笑えない。最悪、今度こそ死刑になってしまう。
「ザオリクとかないのかね……」
「草太くーん!」
草太が現実逃避をしていると、花奈の声が聞こえた。
「二人とも、無事だったか?」
「ええ。竜王の攻撃が来る直前にハナが魔法で防御をしてくれたので」
「咄嗟に作ったものだったからすぐに破られちゃったけど、その隙にリフィアが後ろに跳んでくれたからほとんど怪我をしなかったんだ」
「そっか。無事で何よりだ」
一度は二人の死を覚悟した草太だったが、こうして無事な姿を見れたことに安堵の息をついた。
「草太くんもお疲れ様……でも、まずいことになっちゃったね……」
「ああ、ほんとにごめん。やらかした」
花奈とリフィアが浮かない顔で草太に近寄る。三人のあいだに重い空気が流れた。
「? あんた達どうしたの? 竜王を倒したんだからもっと喜びなさいよ」
事情をよく知らないアテナがそんな三人を見て不思議そうに尋ねた。
「そんな単純な話じゃないんだよ。俺達が受けた命令は、竜王を殺すことじゃなくて殺さずに止めることだ。これじゃあ失敗なんだよ」
「なにそれ。こんなに暴れていた奴を殺さないなんて、人間は面倒なことをするのね」
「この竜王はノルデーン王国で祀られている存在だ。ぶっちゃけ、宗教的に言えば大元の神様を殺されたようなもんだ。そんなことノルデーンの人達に知られたらやばいだろ?」
「ははーん、大分状況が読めたわ…………って、どーすんのよ!!? あんた何してくれちゃってんの!?」
ようやく事情を理解したアテナが、遅れて慌て出す。
「うるせぇ! こんな化物に手加減なんてできるか! あぁー……ほんとにどうしたものか……」
草太が頭を抱えると、不意に厳かな声が響いた。
「私の命の心配をしているようだが、その心配は必要ないぞ。黒い剣士よ」
「………………え?」
ききなれない低い声に、草太は恐る恐る頭を上げた。
そこには、いつの間にか起き上がっていた竜王がどっしりと構えていた。
「お前……! まだ生きていたのか!?」
復活した敵に四人が身構える。それを見た竜王は、慌てることもなく悠々と口を開いた。
「ああ待て待て待て。私はもう正気に戻っている。これ以上戦う必要は無い」
「……そう、なのか?」
「ああ。……見事だったぞ、人間の冒険者達よ。これほどの深手を負わされたのは数百年振りだ」
(深手どころか頭を切られていたはずなんだが……)
竜王の信じられないほどの生命力に、草太は改めてこの竜王がとんでもない存在だと認識した。
「さすがに頭を割られては死んだかと思ったがな。わっはっはっは」
竜王はそう言って野太い笑い声を上げた。戦闘時からは想像もできない気さくさだ。
「ホントだよ。……ちなみに、あんたを殺すにはどうしたらいいんだ?」
「ふむ……お前達がもう一度私を殺す気はないようだから教えてやろうか。高貴な竜には心臓とも言うべき『核』が七つ宿っている。その七つの心臓を全て潰せば良い。今回の場合で言えば、私が気絶している間にそこの魔法使いが私を跡形もなく消し去っていれば、流石の私でも復活はできなかったであろうよ」
「製作者がバランスをミスったとしか思えないチートっぷりだな」
呆れ顔で草太がツッコミを入れる。
「しかし、一人の人間に核を二つも壊されたのは初めてだ。……まあそもそも、核を破壊された事自体初めてだがな」
「二つ……頭と首ですか?」
竜王の言葉に、花奈が質問する。
「そうだ。一度壊れた核はしばらく元に戻らない」
「それでもしばらくしたら戻るのかよ」
「さすがは竜の王と言うことですかね……」
なんの気なしに語る竜王に、草太とリフィアは辟易した表情で呟いた。
「お前のトンデモ性能はよくわかったよ。それよりも、もう一つ聞きたいことがあるんだ」
「む。なんだ?」
「……お前を狂わせたやつ――今回の事件の首謀者は誰だ?」
草太の問に、それまで緩んでいた竜王の気がピンと張り詰める。
「……黒い装束に身を包んだ女だった。禍々しい巨大な戦斧を担いでいた。そやつが、私に『黒ずくめで黄金の剣を持つ剣士を殺せ』と言ってきたのだ……あの顔は忘れはせん……次こそはその喉笛から喰いちぎってやろう」
途端、竜王から凄まじい殺気が放たれる。自分に向けられている訳では無いのに、草太の背筋に寒気が走った。
「……まあ、あのような失態を犯した私が言っても、価値はないがな」
竜王の殺気が消え、覇気のない声で竜王は呟いた。
「まあそうかもな。……だから、俺達がそいつを倒してやるよ。どうやらそいつは、俺達も用がある奴みたいだしな」
竜王の話を聞いて、草太はある人物を思い描いていた。
――メアリ。
かつて草太が完膚なきまでに叩きのめされ、一度は心を折られた相手だ。
あの薄ら寒い笑顔を思い出し、草太は軽く身震いした。
だが、今の草太はあの時の草太とは違う。
――今度こそ、あいつに勝つ。俺のためにも、この世界のためにも。
「……ふむ、あやつとお前には何か因縁があるようだな。……確かにお前ならば、あやつに勝てるかも知れんな」
「勝つさ。……勝たなきゃ、いけないんだ」
「……因縁浅からぬ相手ということか」
「そんな所だな」
「なになに? あんた女の子怒らせたの? やっぱりあんたはどうしようもないクソ童貞ね! あんたからは鈍感難聴系主人公の匂いがプンプンしてるもの! どうせその子が告白してきた時に『え? なんだって?』とか言って悲しい思いをさせたに違いないわ!」
…………。
ガシィッ! と草太は生意気な笑みを浮かべていたアテナの頭を引っ掴んだ。
「おいてめぇ。口を開けばベラベラとあることないこと喋りやがって。お前はあれか? 俺を怒らせる能力に全数値振ってんのか? これ以上余計なこと言うならその口元縫い合わすぞ」
「いたたたたたたっ! 脳が、脳が割れる! ごめんなさい! 調子に乗りました!」
アイアンクローで頭をギリギリと締められ、アテナは悲鳴とともに謝った。
「ソウタ、さすがにそれはやりすぎですよ……」
リフィアが苦笑いで止めに来たので、草太はぱっと手を離した。
「うぅ〜……頭が縮んだ……」
「よしよし、痛かったね」
涙目のアテナを、花奈が宥める。やはり、このパーティだと草太の意見は通りにくくなってしまうようだ。
「……まあもういいか。アテナは放っておいて、俺達はノルデーン王国に向かおう。出来れば今日中に王都に着きたい」
「一度馬車に戻って、その後この山を超えるとなると……けっこうギリギリじゃない?」
「ならば私がお前達を王都の近くまで運んでやろう」
草太と花奈が今後の予定を話し合っていると、竜王が口を挟んだ。
「え!? 運ぶって……もしかして背中に乗せてもらえるんですか!?」
竜王の提案に花奈が驚きの声を上げる。
「ああ。あまり人目に付く所には下ろせないがな。それでもいいか?」
「ああ、すげえ助かる。準備が済んだらすぐに出発しよう」
草太は竜王の提案に一も二もなく頷いた。
「――よし、御者のおっさんには説明してしてきたぞ。驚いてたけど納得してくれたみたいだ」
【ゲート】から出てきた草太が、待っていた三人に報告する。
ドラグ山の麓にある関所で待たせていた御者に、戦いの顛末や竜王に乗せてもらってノルデーン王国の王都まで運んでもらうことを説明しに行っていたのだ。
「彼もさぞかし驚いていたでしょうね」
「ああ。話を聞いた時には飛び上がるくらいには驚いていたよ」
その時の御者の様子を思い出して、草太は軽く笑う。
「準備は整ったか? それでは出発するぞ」
「ああ待ってくれるか。一個だけ魔法をかけさせてくれ」
「構わんぞ」
「ありがとう。……【インビジブル】」
草太が白魔法を唱えると、途端に竜王の姿が消失した。
「え!? 何が起きたの!?」
「白魔法の【インビジブル】。対象の姿を消す魔法だよ。竜王はちゃんとそこにいる」
「なるほど、人目に触れることを嫌ってのことか。だが、これだと私の背に乗るお前達が周りからは座ったまま空を飛ぶ奇人に見えてしまうぞ」
「ああ、だから俺達にもこの魔法をかけるんだ」
草太はそう言って女子三人に【インビジブル】をかけた。たちまち三人の姿が見えなくなる。
「す、すごい! ほんとに見えなくなっちゃった」
「おお、透明になるというのは不思議な感覚ですね」
「服を脱ぐっていうお決まりの展開はないの?」
「服の上から魔法をかけてるからそういう展開はないぞ」
花奈達が各々の感想を述べる中、草太は自分にも【インビジブル】を唱えた。
「リフィア、俺達を【風舞脚】で竜王の背に乗せてくれ」
「分かりました。【風舞脚】」
リフィアの精霊魔法で、草太達の体が優しい風に包まれふわりと浮き上がる。
リフィアは竜王がいた辺りに狙いをつけて、草太達をゆっくりと下ろした。
「全員乗ったな。では、少し揺れるので注意ておけ」
竜王はそう言いながら、ばさりと翼をはためかせた。浮遊感が生まれる。ゆっくりと竜王の体が浮かび上がり、地面が次第に遠のいていく。
「わぁ……」
草太の後ろに乗っている花奈が、感嘆の声を漏らした。
あっという間に竜王はドラグ山より更に上の空間に移動した。下界が一望できるほどの高度に、草太は恐怖と感動の半々の気持ちになった。
「すごい……空が、こんなにも近い……」
リフィアが手を伸ばしながら静かに感動する。アテナはこの景色に慣れているのか、らしくもなく平然としている。
「風が気持ちいいなぁ……あ、そう言えばお前さ、名前とかないのか?」
草太はなんとなく気になったことを竜王に尋ねる。
「名前か? 私の名前はガリアムスと言う」
「そっか、俺は草太。黒い剣士とか人間とかじゃなくて、今度からは草太って呼んでくれ」
「私は花奈って言います。よろしくお願いします、ガリアムスさん」
「私はリフィアです」
「アテナよ! 特別にあんたに私の名前を呼ぶことを許可してあげるわ!」
草太の自己紹介に続いて、花奈達も自分の名前を言う。
「はっはっは。皆、良い名前を持っているのだな」
ガリアムスは楽しそうに笑って、そんなことを言った。
「ソウタ達よ、我が好敵手達よ。またドラグ山に立ち寄ってくれ。お前達と居ると、面白いことが舞い込んできそうだ」
「それはもしかしたら俺たちにとって厄介事なんじゃないか……?」
「それもまた、命を持つ者の楽しみだ」
草太のツッコミに、竜王はもう一度笑う。
「竜のお友達って、なんだか素敵だね!」
「リフーリの人達に伝えたら、きっと冗談だと笑われてしまいますね」
「竜王を使役するもの……なんだかかっこいいわね!」
「…………ま、こんな俺達で良ければいつでも遊びに来るよ」
「楽しみにしているぞ」
草太が三人の様子に呆れて笑うと、竜王も静かに笑い返した。
風が身を包み、眼下の風景がゆっくりと流れていく。飛行機とは違う、異世界ならではのエアフライト。
竜の背に乗りながら、草太達は空の旅をのんびりと満喫するのであった。
読んでいただき、ありがとうございます!
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