表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第3章 新たな旅の始まり
55/90

第7話 ドラグ山の戦い①

めっっっっっっっっちゃ遅くなりました……待ってくださっていた方々には本当に申し訳ないと思っております。


 ――魔法使いにとって一番大切なことはなんだと思う?


 フェリア王国にいたとき、エミリアから言われた言葉を花奈は思い出す。

「大切なこと……ですか?」

「そう。言い方を変えると心構えみたいな奴ね。ハナはなんだと思う?」

「えっと……詠唱を間違えないこととかですか?」

「うん、近いわね。でももっと根本的なものよ」

「?」

 答えがわからず、花奈は首を傾げた。


「『常に冷静でいること』。それが魔法使いにとって一番大切なことよ」

「冷静でいること……」

「花奈はあまり自覚が無いかもしれないけど、魔法の制御って言うのは結構難しいし繊細な物なのよ」

 意味を把握しきれていない花奈を見て、エミリアが補足する。


「だからほんの少しの焦りが、魔力の暴発につながって仲間たちにも被害を及ぼす。あなたはただでさえ魔力が多いんだし、魔法が暴走したら酷いことになるわよ」

「……」

 エミリアの説明に、花奈がごくりとつばを飲み込む。


「そういうことを起こさないために、魔法使いは常に冷静でいなきゃいけないの。理解できたかしら?」

「……はい。よく覚えておきます」

 エミリアの瞳を見つめて、花奈は頷いた。




 回想を終え、花奈は目の前の竜王を睨んだ。

 体長は十メートルほどの巨躯。以前戦ったレッドワイバーンよりも鋭い爪と牙をもっている。

 仁王立ちする紅い竜は、抑えきれない殺意を抱き花奈達を見下ろした。

「先手必勝――!」

 花奈の隣で草太が呟き、烈風のごとく飛び出した。


「AAAAAAAAAAAAAA――!!」

 呼応するように竜王が叫び、鋭い爪を振り上げた。

「――ッッ!」

 その竜王の側頭部に、リフィアの放った矢が撃ち込まれた。不意打ちにより一瞬竜王の動きが止まる。


「そこだッ!」

 その隙に草太が竜王に肉薄し、リコシフォスを脚に叩き付け、斬られた竜王の傷口から赤い血が飛び散った。

「GYAAAAAAAAAAA!!」

 竜王は痛みに悲鳴を上げながら、翼を広げ空に退避する。


「花奈!」

 花奈の鼓膜に、草太の声が響く。わかっている。草太が飛び出した時から、花奈は魔法を準備していた。

「【アイスストーム】!」

 空に避難した竜王の周りに、魔力の奔流とともに冷たく激しい風が生み出される。


 水系上級攻撃魔法【アイスストーム】。対象の周囲に吹雪を起こして攻撃する魔法だ。

 風の流れが竜王に牙をむく。

「GOAAAAAAAAAAAAAAA――!!」

 凍てつく猛吹雪が竜王に直撃し、ドラグ山一帯に響き渡るような絶叫が上がった。


 手ごたえを感じ、花奈は内心でガッツポーズをとった。一か月前の自分の魔法よりも格段に威力が上がり、完成も早くなっている。自分は成長しているのだと、確かに感じられたのだ。

「花奈、追撃を頼む!」

「わかった!」

 草太の指示に、花奈は魔法の詠唱を始める。


「……っ、いけない! 二人とも、危険です!」

 だが、その途中でリフィアの鋭い声が響いた。

 同時に、竜王の周りに渦巻く吹雪の中で何かが紅く煌めいた。

「花奈!」

「きゃっ……」

 草太の声とともに、花奈の視界が急に横転する。そのまま寝転がったような視界のままその場を離れた。


 次の瞬間、数秒前まで花奈がいた場所に一筋の光線が突き刺さった。そして、光線が当たった地面が真っ赤に膨れ上がり轟音と共に爆発した。熱風と砕けた岩の粒が花奈の体にあたる。

「――っ!!」

 すぐそばで巻き起こる灼熱の渦を見て、花奈は顔をこわばらせた。

「今のって……」

「ああ、竜王のブレスだな」

 花奈の確認に草太が緊張した表情で答える。


 今の攻撃を(ブレス)と言うべきなのだろうか。輝く一条の光線は、ブレスというよりレーザーというほうが相応しいと花奈は思った。

「……あれ?」

 と、花奈は自分の体が浮遊感に包まれていることに気付く。というか、足が地面についていないし、何かに抱きかかえられている感覚もある。


 視線を上げると、かなりの近距離に草太の体があった。

「ちょ!? そ、草太くん!?」

 花奈は自分が草太に抱きかかえられていることに気づき、切羽詰まった声を上げた。

「ん? ああ、ごめんごめん」

 草太は花奈が何に驚いたのかをすぐに察し、一言謝りながら花奈を下した。


(抱っこされちゃっただっこされちゃった……!)

 ぐちゃぐちゃにかき回された感情に、花奈の思考が追い付かない。真っ赤になった顔を見られないように、花奈は草太から顔を隠した。

「花奈、大丈夫か?」

「う、うん……だいじょうぶ、だから……」

 草太が心配して声をかけてくるが、今はそれどころではない。


 深呼吸しながら、花奈は火照った体を落ち着かせる。

「リフィア、そっちは大丈夫か!」

「――私は問題ありません!」

 後ろで草太がどこかにいるリフィアに声をかけている。そこでようやく花奈はまだ交戦中であることを思い出し、意識を切り替える。

(冷静に冷静に……魔法使いは慌てちゃいけない……)


 ようやく元の状態に戻り、花奈は自分が今どこにいるのか確認する。

 大きな岩の陰、ちょうど上空の竜王からは死角になるところだ。咄嗟の判断でこの場所に退避した草太の判断力に、素直に感服する。

「……落ち着いたか?」

「う、うん……ごめんね」

「いや、いいよ。今の攻撃には俺もビビった」

「あ、うん……」

 草太の気遣いで心が痛む。自分は全く関係ないことで舞い上がっていたのだから。


「とりあえずリフィアと合流したいな……でも、竜王がここら辺を警戒しているようじゃ露骨に動けない……」

「私の魔法で気を引こうか?」

「……危なくないか?」

「でも、このままここにいてもブレスをあちこちに撃たれてやられちゃうよ」

「……それもそうだな。よし、頼む」

「うん!」


 頷いて、花奈は岩陰から上空を旋回する竜王の姿を捉える。

 より強力な魔法を撃つために自分の中にある魔力に意識を集中させる。体の中の魔力が循環し、魔法を発動するための準備が完了した。

 竜王は花奈の居場所に気づいていない様子で、あさっての方角に顔を向けている。絶好のチャンスだ。

(よし――)

花奈がもう一度【アイスストーム】を放とうとしたその瞬間。


 上空の竜王がぐるんと旋回し、的確に花奈の居るほうに顔を向けた。

「あっ……」

 「どうして」そう思うまもなく竜王の口腔が紅く輝いた。

「逃げるぞ! 【ゲート】!」

 草太が【ゲート】を使い、ぐいっと花奈の手を引いた。


 次の瞬間花奈と草太は竜王からかなり離れた場所にいた。離れた場所で、ちょうど竜王がブレスを放っている。

「なんで……絶対に気づかれないと思ったのに……」

「まさか……」

 あっけにとられる花奈の横で、草太が厳しい表情で呟く。


「あの竜王、魔力を感知できるんじゃないか?」

「魔力を……?」

「ああ。花奈が魔法を使う直前の挙動を見る限り、匂いとか音とかじゃない別のもので索敵しているんだと思う。……それが魔力だ」

「じゃあ……私が魔法を使おうとしたらその時にばれちゃうってこと……?」

「多分な……これは厄介だ」

 草太が悔しそうに舌打ちする。


「……そうだ、リフィアにもこのことを伝えなきゃ!」

「それもそうだな……でも、ここからじゃ声は届かない……移動するしかないか」

「どうするの?」

「もう一度【ゲート】を使う。【ゲート】なら魔力を感知されてもブレスを吐かれる前に移動できる筈だ」

「……わかった。草太くんの判断を信じるよ」

 花奈と同時にうなずき、草太は【ゲート】を開いた。



「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 草太の魔力を感知し、竜王が空中で咆哮する。

 正確無比な精度で草太と花奈の元に熱光線が発射され、着弾とともにあたり一面を焼き払った。



「ギリッギリだったな……」

 その一部始終を離れた場所で見ていた草太は、ごくりと唾を飲み込んだ。

「竜王が魔力を感知してから攻撃に移るまで五秒って感じだね……」

「ああ。こっちが攻撃するより向こうがブレスを吐く方が圧倒的に早い」

お互いに暗い表情を浮かべ、花奈と草太は物陰で現状を把握し、肩を落とした。



 竜王には魔法を使えない。

 ここまで花奈の魔法やリフィアの精霊魔法主体で戦ってきた草太達にとって、かなり厳しい状況だ。

「……とにかく、今はリフィアと合流しよう。あいつが動いてなかったら、ここから近いはずだ」

「うん、そうだね」

 草太と花奈は、胸の中に生まれた不安から逃げるように、岩陰を伝って移動し始めた。




「し、死にたくない……死にたくないぃ……」

 遠くで響く竜王の咆哮と度重なる爆発音に、盗賊達の唯一の生き残りである気弱な男だ。名をシェルフという。

 シェルフは両手に握る盾と槍を固く握りしめながら、鼠のように岩陰をつたい下山していた。

「俺は、盗賊なんて嫌だったんだ……本当は、商人になって世界中の色んなものに触れたかっただけなんだ……」

 口をつくのは過去への呪詛。現状から目をそむけ、過ぎ去った日々を恨む。


「――そ、そうだ! この盾と槍を売って、それを元手に商売を始めよう……! そうだ、まだ、神様は俺を見捨てちゃいないんだ……!」

 シェルフはひきつった笑みを浮かべながら、音源の反対方向――山のふもとへ向かっておぼつかない足取りで走り始めた。




 山の中腹で、いくつもの爆発音が聞こえる。

「もう、どこにあんのよ……!」

 岩がむき出しになっている山道を駆け上がっていたアテナは、走るスピードをさらに上げた。


 時折辺りを見回して何かを探すそぶりを見せる。

 丸腰で言っても何もできないことは分かっている。だからアテナは探している。

 ――盗賊達が持って行ったはずの『アイギス』と『パルテノス』を。



「アイギスとパルテノスなら、竜王に踏みつぶされたって壊れたりしない……でも懸念すべきは、盗賊の生き残りが持ち逃げしちゃっている場合よね……」

 不安が頭をよぎるが、アテナは止まらず走り続ける。


 とにかく今は自分の武器と槍を探さなければいけない。

 と、アテナは山の上から何かがこちらに受かってくるのが見えた。

「……ん? あれは……」

 目を細めて焦点を絞る。そして、それが盾と槍を持った男であることが分かった。



「み……見つけたあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 興奮を抑えずに叫び声をあげ、アテナはその男――シェルフに向かって全力ダッシュで向かう。

「ひ、ひぃっ!?」

 こちらに向かってくる少女に気付いたシェルフが情けない悲鳴を上げる。

「返せえええええええええええええええええええええ!!」

 小動物のようにおびえるシェルフに、アテナが鬼の形相でどんどん距離を詰めていく。



 アイギスとパルテノスの、仮初の持ち主と真の持ち主が対峙する。

 ――勝負は、一瞬だった。

「ぐぼろぇあ!」

 アテナの握りこぶしが、一切の迷いなくシェルフの頬にぶち込まれた。

 汚い悲鳴を上げてシェルフが錐揉み回転しながら吹っ飛ばされる。



 その拍子に彼が手放したアイギスとパルテノスを拾って、アテナはうめき声をあげながら転がっているシェルフのもとに向かう。

「最後に何か言うことはあるかしら?」

 シェルフの腕を踏みつけて、目を眇めながらアテナは尋ねる。シェルフは完全におびえ切った顔でぶるぶると震えている。

「し、しにたくねぇ……しにたくねぇよぉ……」

 そして命乞いを始めた。



 情けない男ね、とアテナはため息をついてシェルフから離れた。

「死にたくないから行きなさい。ここから離れて、遠くに逃げるがいいわ。……私も、あんたみたいな奴にかまっている場合じゃないしね」

 アテナは吐き捨てるように言い残して、その場を去ろうとした。



 だが。

「――ま、待ってくれ!」

 彼女の細い背中を、震える声が呼び止めた。

「なに? 急いでるんだけど?」

 眉間に皺を寄せながら、アテナは背後のシェルフを見る。


 先程まで震えていたシェルフは、未だに震える足でなんとか立っている状態だ。まるで生まれたての小鹿のようだとアテナは思った。

「……ど、どうしてあんたは、俺を見逃すんだ?」

 シェルフはアテナの視線に一瞬怯むが、震える声で絞り出すように言った。



「……はぁ?」

 質問の意味を図りかねて、アテナは首を傾げた。

「あんたも竜王も、どうして俺を見逃すんだ! こんな、……こんなクズ人間の俺を、どうして見逃すんだよぉ!?」

 極限状態で、動転しているのだろう。アテナがすぐに察せられるほどに、シェルフは目に見えて混乱していた。



「俺は……俺はこれまで何人も人を殺してきた。たくさんの物を盗んで、奪ってきた! 死んで当然だ! 殺されて当然の悪人だ! ……なのに、なのになんで……なんで俺を殺さないんだよ!?」

 尚も一人で語り続けるシェルフを見て、アテナは深くため息をつく。

「……あのねぇ、私は赤トカゲ野郎の気持ちなんてわかんないけど、私があんたを殺さない理由なんて単純よ。殺す意味がないから、ただそれだけ」

「意味が……ない……?」

 アテナの答えに、シェルフは少しだけ目を丸くした。



「私は私の武器が戻ってくればそれで満足だし、ソウタ達に追いついて竜王ってのを倒さないといけないし、その前にあんたなんかにかまってられない。あんたを殺したって私にはなんの利益もないもの。つけあがるのも大概にしなさい」

 淡々と語るアテナの言葉は、シェルフにとって恐ろしく冷たく聞こえた。

 ――つまり、自分にはなんの価値もない。

 目の前の少女はそう言ったのだ。



「……は、はは」

 シェルフは乾いた表情で笑い、力尽きたようにその場に崩れ落ちた。

「そうだったよな……俺には、こんな屑野郎には……価値なんてなかったんだ……」

 人の命と財を奪い、己の欲求を満たしてきた。仲間が殺されていくことから目を背け、一人で逃げだした。

 そんな自分は、死に場所も選べない。選ぶ権利など、初めから無かったのだ。



「……はあ」

 途方に暮れるシェルフを見下ろしながら、アテナはもう一度ため息をついた。

「今のあんたはただの盗人でも、これからのあんたはちがうんじゃない?」

「……!」

 アテナの言葉に、シェルフがはっと目を開く。



「生き残ったのなら……生き続けるのなら、その命をどう使うか考えなさい。……神が許す限り、あんたの命はあんただけのものなんだから」

「……は、はい」

 小柄な少女からあふれ出る威厳に、シェルフは思わず敬語で返事をしていた。

「……うん、がんばりなさい」

 シェルフの返事にアテナは満足そうに頷くと彼に背を向けて走り出した。



 少しずつ遠ざかっていく少女の背中が見えなくなるまで、シェルフはずっと眺めていた。

 やがて、どんなに目を凝らしても少女の姿が見なくなる。シェルフは彼女が向かった方角とは反対の方角に目を向ける。

(この命をどう使うか……か)

 足を踏み出す。過去の自分が剥がれ落ちる音がする。



 シェルフは前に進み始める。

 自身の過去を清算するために。自身の未来を変えるために。



 女神に救われた男が、商人として大成するのはまだしばらく先の話――。







読んで頂きありがとうございます!

感想、誤字脱字等ございましたら是非是非ご報告ください!

頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ