第4話 異世界チュートリアルその1
今回も長いです。すいません……。
目を開けると、草太は草原を突っ切る道の上に立っていた。
辺りを見回すと、大小様々な岩が点在し、遠くの方には鬱蒼と茂る森が見え、鳥のさえずりが聞こえてくる。上を見ると、見慣れた青色の空が広がり、太陽のようなものも見つけられた。
大きく吸い込んだ空気には、普段味わうことのない自然の香りが感じられ、今まで車の排気ガスや、タバコの煙を吸い込んでいた草太の肺に、癒しをもたらした。
「ここが異世界か……」
「なんだかまだ信じられないね……」
感慨深そうに草太が呟くと、隣から同じく感動を孕んだ花奈の声が聞こえた。
視線を向けると、花奈は小さく口を開き、きらきらと目を輝かせている。
体感時間ではつい一時間ほど前まで、ビルに囲まれた、こことは全く違った風景の中で生きていたのだ。感動するなという方が無理である。
二人はしばらく無言で辺りに広がる景色を見渡していたが、不意に草太が口を開いた。
「……それじゃあ、俺はこっちから行くから。森園さんも元気でな。またどこかで会えるといいな」
「うん………………えっ?」
まだ景色に見入っていた花奈は、適当に頷こうとして止まった。慌ててすでに背中を見せて歩き出そうとしている草太の腕を掴む。
「ま、待って草壁くん! 一緒に行かないの?」
首だけを回した草太は、さも当然といった顔だ。
「そりゃそうだろ。ぶっちゃけ俺たちはソロでも余裕でやっていけるくらいの力があるんだし、組むメリットがない。それに森園さんも俺と一緒なんて嫌だろ」
「そんなことないよ!! ここは今までとは全く違う異世界なんだし、二人でいた方が絶対安全だよ! それに……わ、私、草壁くんと一緒にいるの嫌じゃないよ!」
花奈の強い眼差しに、さすがの草太も多少圧された様子で。
「そ、そうか。それもそうだな。なら、しばらくよろしくな」
と言ったのだった。
「さて……それじゃあこれからどうする?」
「……どうしよう?」
二人は何も無い草原を見渡して、困ったように呟いた。なにせここは文字通り異世界だ。
土地勘も無ければ、自分達が今どこにいるかもわからない。地図も持っていないので、どこに向かうべきかもわからないという、八方ふさがりの状態だ。
「……とりあえず、そこの岩にでも座って落ち着いてゆっくりと話そう」
近くの大きめの岩を指しながらの草太の提案に、花奈も頷いた。
岩に腰掛けた二人は、ふー、と安堵の息を吐いた。
「しっかし参ったな。こんな何も無いところに転生させられるとは。……畜生あの駄女神め」
「そんなこと言ってると罰が当たっちやうよ?」
アテナの顔を思い出して、不満顔になった草太を、苦笑いしながら花奈がたしなめた。
「あいつもそこまで暇じゃないだろ。……でも、俺たち以外誰も居ないってのはやっぱり困るな……地図もないし……ん? 森園さん、どうした?」
「ふ、二人きり……………はっ! ううん、なんでもないっ」
なぜか少し顔を赤くしていた花奈は、草太の問いかけに慌てて首を振った。草太は大して気にせず、話を続ける。
「そうか? ……それにしても、本当にどうしようか……。人が通るまで待つか?」
「あ、それなら誰かが通るのを待つ間、私たちがどんなことをできるのか確認してみない? 何が出来るか知っておくのは重要だと思うし」
花奈の提案に草太はすぐに賛成した。
「お、いいね。森園さんは『大魔導師』だっけ。魔法のエキスパートなんだよな」
「うん、それでこの世界の魔法はこの、グリモワール? に書いてあるんだって」
花奈はそう言って、少し黒ずんだ赤色の魔導書を開いた。
辞書並みに厚い魔導書に、草太が少し目を丸くする。
「それ、すっごく分厚いけど、この世界にはどんだけ魔法が存在するんだ?」
「えーと、ちょっと待ってね……この世界の魔法は八つの属性――炎、水、風、土、雷、光、闇、白――に分けられるんだって。それで、難易度は初級、中級、上級、最上級の四つに分けられるって書いてあるよ」
「最初の七つは大体予想つくけど、最後の白魔法ってなんなの?」
「白魔法は、あまり戦闘には向かないけど、色々と便利な魔法なんだって。遠くの方を見たり、身体能力を上げたり」
「あー、そういう系か。確かに使いこなせると便利そうだな」
草太は花奈の説明に納得したように頷いた。
「ところで、魔法は基本的にみんな使える物なのか?あと、魔力が切れるとどうなるんだ?」
「ちょ、ちょっと待ってねっ。んー……その属性に適正がないとダメみたい。二つの属性が使えると並みの魔法使い扱いらしいよ。あと、魔力が切れると、すっごく眠くなるみたい。最悪、その場で気絶しちゃうって」
「なるほど、それは注意しなきゃな……て言っても魔力量とか、わかんないけど」
草太はうんうんと頷いてから、困った様に頭を掻いた。
「そ、そうだね……。あとは……私達にはあまり関係ないけど、『唯一魔法』っていうのがあるんだって」
「唯一魔法?」
聞き慣れない単語に、草太が首をかしげる。
「うん。主にあ、亜人族? の人たちにしか使えない魔法なんだって。普通の人が覚えるのは本当にレアケースって書いてある。例えばじ、獣人族? の【限界突破】、エルフ族の【精霊魔法】、竜人族? の【竜化】とかがあるんだって」
ラノベを読んだことがないからか、花奈はところどころつっかえながら説明した。
「ふーん、ほぼ亜人族専用の魔法なのか。確かに俺たちには関係ないな。他には何があるんだ?」
「えっと、召喚術ってのがあるね」
「あー、なんか名前だけで想像ついた。モンスターを召喚できるやつだろ」
「うん、まさにそれかな。でもこれもあんまり関係ないのかな?」
「多分な。とりあえず、色々な魔法を実践してみようぜ」
草太はすくっと立ち上がると、花奈に手を差し伸べた。
「え、あ、うん」
花奈は少し顔を赤らめながらもその手を取って、立ち上がった。
「じゃあ、あそこにあるでかい岩を練習台にしよう。とりあえず簡単な魔法からやってみようぜ」
「う、うん。……じゃあこの【ファイアボール】ってやつから……っていうかこれ、普通に英語だね?」
「英語だな」
「……なんでなの?」
「……きっと、深い理由があるんだよ」
「「……」」
二人はこれ以上詮索するのはまずい気がして、黙り込んだ。
「じ、じゃあやってみるねっ」
「お、おう。思いっきりいけ!」
「……【呼ぶは炎・赤き弾丸・ファイアボール】」
花奈が右手を突き出し、呪文のようなものを唱えると、手のひらに火の玉が生まれた。それを見て草太が歓声をあげる。
「おお、すげー! 本当に魔法だ!」
火の玉は徐々に大きくなり、ついには花奈の手の平より二回りほどの大きさになった。
その火の玉は出来上がった途端に、花奈の手を離れて、十メートル先にある大岩に猛スピードで向かって行った。
数秒後。
ドパァン!
乾いた音ともに、火の玉が当たった五メートルほどの岩が爆発四散した。
「「………………え?」」
草太と花奈が揃って口をぽかんと開ける。【ファイアボール】の威力は、二人の予想を遥かに凌駕していた。
「はぁ!? なんだ今の! ぜんっぜん初級魔法の威力じゃないだろ!!」
「で、でもっ! ここに初級魔法【ファイアボール】って書いてあるよ!?」
花奈が開いて見せたグリモワールをまじまじと見ると、確かに【ファイアボール】は初級魔法に分類されていた。
「確かに……けど、あの威力は反則だろ、ク○ボーどころかク○パだって一発で倒せるぞ」
「もしかして魔法って、すごく危険なものなのかな……」
草太の発言には触れずに、花奈が少し寂しそうに呟いた。
「……じゃあ、今度は俺がやってみるわ。森園さん、グリモワールかして」
「あ、うん」
花奈からグリモワールを受け取ると、さっきの岩と同じくらいの大きさの岩を見据えて、草太は丁寧に呪文を紡いだ。
「【呼ぶは炎・赤き弾丸・ファイアボール】」
すると、今度は草太の手の平サイズの火球が出来上がった。火の玉は草太の手から離れると、狙い違わず大岩に直撃した。
しかし、今回は岩は粉々にならなかった。せいぜい三十センチ程の穴が開いたくらいだ。
それを確認して草太が一つ頷いた。
「やっぱりか」
「え?」
「多分、森園さんの魔法の威力が異常に高いんだ。多分本来の【ファイアボール】は今の俺のやつより少し弱いものなんだと思う。……だから森園さん、今度はめっちゃ手加減して魔法を唱えてみて」
「う、うん」
草太の提案に、花奈は素直に頷き、再び【ファイアボール】の詠唱を始めた。
「【呼ぶは炎・赤き弾丸・ファイアボール】」
心なしか小さくなった声の後に、花奈の手より少し大きいぐらいの火球が放たれた。パァンと音がなったが、岩が破裂することはなかった。
「わ、ほんとだ……」
「よし、成功だな。森園さんはこれから緊急時以外はなるべく魔法を手加減して撃った方がいいな。正直、あんな威力をポンポン撃たれたら大惨事だ」
「う、うんわかった! 次の【ウィンドボール】はちゃんと手加減して撃つね!」
さすが才色兼備の優等生。学習したことをすぐに実践するようだ。
生徒にものを教える教師になった気分で、草太は花奈を見て微笑んだ。
一時間後。草太たちの周りの草っ原は、二人の魔法によって深さ数メートルまで地面が抉れたり、無数の氷柱が生えたり、草が焼け焦げていたりしていた。
草太も練習には参加したが、この怪現象の主な要因は花奈だ。
「すっごいな……これが魔法か……。いや、森園さんがすごいのか」
草太は呆れたようにつぶやき、近くの林をみた。四本の木が、幹に穴を開けて倒れている。
この内一本が草太の【ウィンドランス】によって、三本が花奈の【ウィンドランス】によって倒されたものだ。つまり、花奈の魔法の威力は、単純計算で草太のそれの三倍ということになる。
「それにしても、威力は置いといて、俺たち二人共七属性の魔法を使えたな。さすが『天使』と『大魔導師』ってところか」
「そうだねー。草壁くんの言う通り私達の能力ってすごいんだね」
独り言の様に呟く草太に花奈が嬉しそうに返した。
「……けど、光魔法の【スタンフラッシュ】だっけ。あれはマジでヤバかったな」
「ご、ごめんね?」
草太が眉間を揉むと、花奈が慌てて謝る。
光魔法の練習で、花奈がなんの警告もせずに目潰し用の魔法を使ったのだ。間近でそれを受けた草太は地面を転がり、「目がぁっ! 目がぁぁぁっ!!」と悶えていた。
ちなみに、使用した本人も目を覆ってなかったためまともにくらい、ここまでオーバーリアクションではなかったが、顔を両手で覆ってぷるぷると小刻みに震えていた。
「そ、その、次は草壁くんが貰った剣を見せてよ!」
花奈は話題のすりかえを試みた! 草太は簡単に乗ってきた!
「ああ、そうだな」
草太は花奈の言葉に頷くと、リコシフォスを鞘から引き抜いた。金色の刀身が、太陽の光を浴びて美しい輝きを放つ。
「うわぁ……、なんだか、見てるだけですごいってわかるよ。神々しいというか」
「まあ、一応神様からもらったものだからなぁ。確かにそんな感じするよな」
感嘆のため息をもらす花奈に同意して、草太はリコシフォスを片手で振ってみる。あまり重みは感じられないので、少し長いバット感覚だ。
それを見た花奈が少し目を見開いた。
「それって、そんなに軽く触れるの?」
「うん。振ってみる?」
「う、うん」
草太が片手で差し出したリコシフォスを、花奈も片手で受け取ろうとして。
「ふわっ!?」
と、腰を曲げた。
「ど、どうした!?」
「く、草壁くん、これ、すっごく重いよ……! 両手でも持てそうにない……」
「ええ!? おかしいな、俺は片手で楽に……」
苦しそうな表情の花奈の言葉に、慌てて草太が剣を取った。
……片手で。軽々と。
「「…………」」
沈黙。
「……これが、異世界補正っていうやつか……」
「異世界補正って?」
「あーえっとー、異世界転生モノラノベに多いんだけど、日本にいた頃より身体能力とかがめっちゃ高くなってることかな。あと、森園さんの魔法みたいに強力な能力を持ったり」
「へー!」
草太の説明に、花奈が感動したように声を上げた。
その様子を微笑ましく思いながら、草太は次のステップに移ることにした。
「それじゃあ次は【白魔法】をやってみようぜ」
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