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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第3章 新たな旅の始まり
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第1話 暇を持て余した神々の会議

新年一発目から9,000字をオーバーしました……

 ここは神々が住まう聖域、オリュンポス。空と雲に囲まれたこの空間で、一人の胸が薄い女神が大きく伸びをした。

「はー今日は何をしようかしら」

 伸びをして息をついたのはオリュンポス十二神の内の人柱、女神アテナだ。今日も今日とて暇を持て余しているようだ。


 アテナはしばらくの間うーんと唸って、なぜか少し顔を赤くして独り言を呟いた。

「……あれからしばらく経ったし、あいつの様子でも見ておこうかな……」

 若干そわそわしながら、されどわくわくもしながら、アテナは高文明なパネルを呼び出して、いそいそと操作し始めた。

「えーっと……スペルクフスペルクフっと……」


 そんなアテナの背後から近づく影が一つ。音も立てずにそろりそろりとアテナに近付いていく。いよいよ触れられるところまで近づいて、その影は間延びした声で呼びかけた。

「アーテーナーさーまっ」

「ヒョウッ!?」

 アテナはすさまじい奇声を上げ、バッと振り向いた。


 そこにいたのは背中に小さな翼を生やした愛らしい幼児だった。その顔には、いたずらっ子のような笑顔を浮かべている。天界の使用人、キューピッドである。

 アテナはニヤニヤ笑いを浮かべるキューピッドを見て、顔を真っ赤にした。

「~~~~~~っの、ノックくらいしなさいよ、このチャラピッド!」

「え~~? しましたよぅ? アテナ様が気付かなかっただけではぁ?」

 ねっとりとからかうように、チャラピッドと呼ばれたキューピッドはすっとぼけた。


「返事がなかったら入ってくるんじゃないわよ……」

「なーに思春期の女の子みたいなこと言ってるんですか。……あ、でもでもぉ、アテナ様の体の一部はかなり子供っぽいのであながちまちが(バキィッ)ぶべらっ!」

 余計なことを口走った命知らずなキューピッドの頬に、見事なフックが決まった。


 殴り飛ばされたキューピッドはぼよんぼよんと雲の床を跳ね、数メートル飛ばされたところで止まった。

「いったたたた……何するんですか……ってあれ?」

 文句を言おうとするキューピッドの頭を、アテナの綺麗な(ただし血管が浮き出るほどに力が込められている)手がガシィッとつかんだ。


「……タルタロスに放り込まれる準備は出来たかしら?」

「ご、ごめんなさいぃいいいいいいいいいいい!!」

 いよいよ命の危険を感じたのか、キューピッドが涙目で謝った。それを見て溜飲が下がったのか、アテナはため息をついて手を放す。


「まったく、あんたも懲りないわね……前もアルテミスにちょっかい出して射殺されそうになってたでしょ」

「いやあ、あの時は生きた心地がしませんでしたねぇ」

 あっけらかんとキューピッドが笑う。どうやらまったく堪えていないようで、相変わらずの様子にアテナは深いため息をついた。


「……それで、何の用なの? 用事があって来たんでしょ?」

「ああ、そうでした! いやあアテナ様をからかうのが楽しくて忘れていましたよ」

「こいつ……」

 額に青筋を浮かべるが、ここで怒ってはいつまでも話が進まないので、なんとか我慢して先を促す。


「(後で殴っておこう)……で、なんなの?」

「はい、今から緊急の十二神会議が始まります」

「はぁ!? 今から!? だって次の会議はもう少し先じゃ……」

「だから緊急会議なんですよぅ。……もうみなさん集まりはじめていますよ。アテナ様も早くいかれたほうが良いのでは?」

「そ、それを早く言いなさいよ! ああもう、行ってくる! 部屋の中荒らすんじゃないわよ!」

 それを聞いて、アテナは慌てて部屋から出て行った。


「行ってらっしゃ~い」

 キューピッドはそれをのんびりと見送り、部屋の中央に出ていたパネルに移動した。

 そこに映る『スペルクフ』という文字列を見て、にんまりと笑う。

「……なぁるほど。ゼウス様の仰ってた通りですね」

 そして、楽しそうな笑顔でパネルをしまうのであった。



(でも、何があったのかしら……何か緊急事態でも……?)

 会議場所駆け足で向かいながら、アテナは今回の事態について考える。

(……まさか、私が勝手にソウタとハナを転生させたことがばれた……?)

 嫌な予感がして、アテナの足を止めた。

「……ふ、ふふふ、まっさかー」

「――おや、アテナじゃないか」

「マッサカ!?」

 横から名前を呼ばれて、アテナはまたもや奇声を上げた。


「だ、誰よ……って、ニケ……」

 横を見やると、長身で黒髪の美女が立っていた。アテナがこのオリュンポスでほぼ唯一心を許している、勝利を司る女神ニケだ。

「なんて声を上げているんだ……随分急いでいるようだけれど、何かあったのかい?」

 ニケは怪訝そうな顔でアテナに尋ねた。


「え、あ、ああそうね。今から緊急の会議があるらしいのよ」

「……へぇ、緊急の会議なんて珍しい」

「そうなのよね……。だから全く準備もできてなくて、急いで向かっているところなの」

「ああ、なるほど。なら急がないとね。引き留めて悪かったね」

「ううん、それじゃあまた!」

 アテナとニケは、長年の友情を感じさせるフレンドリーな雰囲気で言葉を交わし合った。


 そのままアテナが走り去り、それを見送るニケはほんの少しだけ表情を陰らせた。

「……すまないな、アテナ。私は会議があることを知っていたんだ……ほかの神々も……なぜ会議が開かれるのかさえ、ね……」


 それは憂いというより、ほんの少しの寂しさのようだった。

 だが、美しい女神は表情を改め、アテナの向かった方に腕を掲げた。


「門出の時だ、アテナ。……君に、幸運がありますように」



 バァン! という豪快な音ともに、オリュンポス山頂にある会議室の扉が開かれた。

 会議室には大きな円卓とその周りに並ぶ十二の椅子がある。……逆に言えば、それしか無い。

 集中力が無く、遊び人気質な神が多いので、会議に集中できるようにと不要なものを置かないようにしているのだ。


 この会議室では、月に一度十二神達によって会議が開かれる。そこで、地球の様子や他の世界のことなどを話すのだ。

 そんな会議室には、既に三柱の神がいた。


 穏やかな笑顔で円卓に座る豊穣の神デメテル。

 グラスに注がれた赤ワインを嗜む酒神デュオニソス

 そして、三股の鉾(トライデント)を携えた海神ポセイドンだ。


「はぁ、はぁ……なによ、全然集まってないじゃない……あのチャラピッドめ……忘れた分も含めて後で二発殴ってやる……」

 アテナがキューピッドへ恨み言を吐いていると、ポセイドンが近づいてきた。


 ポセイドンは立派に伸ばした髭をさすりながら、からかう口調でアテナに話しかける。

「おうおうおう! どうしたんだアテナ! お前さんがそんなに必死に会議室に入ってくるなんて珍しいじゃあねぇか」

「……別に、遅刻したと思っただけよ。本当はもう少しゆったりと来る予定だったわ」

「相変わらずプライドの高いヤツだなぁ、お前さんは」

「あんたには関係ないでしょ……はぁ、走ったから疲れちゃったわ……水が欲しい」


 アテナが手で風を送りながら言うと、ポセイドンが目をキラーンと輝かせた。

「お、任せろ! 水は俺の得意分野だからな!」

「は? あんた待ちなさいよまさか――」

 何かを言いかけるアテナの頭上から。


 バッシャア! と、水がぶちまけられた。アテナの全身が水浸しになり、ぽたりぽたりとツインテールから水が滴り落ちる。

「ほれ、水だ」

 ポセイドンはニマニマと笑いながら、アテナの肩をぽんと叩いた。


 ……プチッ。

「――ふっざけんなこのクソジジィ!! 信じられない! あんたこの私になんて仕打ちを!!」

「だぁーはっはっはっ! してやったりだわい! いつも生意気な小娘に、一泡ふかせてやったわ!」

 ブチギレるアテナに対し、ポセイドンが高らかに爆笑する。


 いつもの喧嘩風景だった。オリュンポス十二神の仲は中々に複雑で、こういう事が良くある。

 なのでデメテルとデュオニソスは平然と無言でその様子を眺めていた。


「あったまきた! あんたそんなことやってるから器もアソコも小さいのよ! もう伸び代のないアレは諦めて、せめて男の器だけはなんとかしたら!?」

「おおおお俺のアレが小さいわけねぇだろ! 毎晩妖精ちゃん達をヒィヒィ言わせてるぞ!」

「ふん、そんなの演技ってことに気づかないの? 私知ってるわよ、日頃妖精達があんたのアレについてうわさしてることをね! 『ポセイドン様って、声と体と態度は大きいけど、アソコの大きさはちょっと』――」

「だぁあああああ!!? やめろやめろ! 聞きたくない、聞きたくなぁあああい!?」


 アテナとポセイドンが醜い罵りあいを始める。これが彼のオリュンポス十二神のうち二柱と言われても、誰も信じないだろう。

「お前はいつもそうだ! アテナイの支配権の時もオリーブなんていうじっみーな手段使いやがって! どうせアテナイの奴らを脅したに決まってる!」

「あんたまだそんな何千年も前のこと根に持ってんの? 私がそんな卑怯なことするわけないでしょ。ほんとミジンコ程度の器しかない男ね!」


「なにをぅ! こうなったら決闘だ! お前の根性を叩き直してやる!」

「望むところよ! あんたなんてボッコボコにしてやるんだから!」

 アテナが空中から持ち武器を手にし、ポセイドンもトライデントを構えた。

 会議室に、一触即発の空気が満ちた。


「はーい、お二人とも。そこら辺にしておきましょう」

 と、扉からぱんぱんと手を叩く音と、男の穏やかな声が聞こえた。

「「ヘルメス……」」

 その神物(じんぶつ)を見て、アテナとポセイドンは勢いを削がれたように呟いた。


 声をかけたのは、全身を青色基調の服で包んだ、旅の神ヘルメスだった。ヘルメスはにこやかに二人の間に割って入って、二人を諭すように語りかける。

「お二人とも、ここはお互いに引いてください。もうすぐ会議が始まりますし、流石に会議室で暴れるとお父様が激怒しますよ」

「……それもそうね」

「……ヘルメスが言うなら……まあ、アテナ(お前)が強気になれるのも今のうちだしな」


 ポセイドンは意味深なことを言って、デメテルに絡みに行った。嵐のような男だと、アテナは深いため息をつく。

 疲れた表情で、横に立つヘルメスに話しかけた。

「……ヘルメス、あんたお父様の使いでもあるんだし、今日の会議が開かれた理由を知ってるんじゃないの?」

「うーん、まあ知っていますけど……」

 ヘルメスは柔らかい笑顔のまま、顎に手を当てる。


 こういう時に、彼が良くないことを企んでいるということを、アテナは知っている。

 温和で穏やかな印象を与えるが、彼もまたこの魔窟で平然としている神々の一柱なのだから。

「……もうすぐで会議も始まることですし、それまでのお楽しみで良いでしょう。『急いては事を仕損じる』と言いますし」


 案の定、ヘルメスはアテナの質問を曖昧に濁した。こうなったらヘルメスは意地でもアテナの望むように動いてはくれない。

「……そ。じゃあいいわ」

 アテナは何度目か分からないため息をついてヘルメスにヒラヒラと手を振ってその場を離れた。


(『お前が強気になれるのも今のうちだ』か……さっきのポセイドンの言葉が、妙に引っかかるわね……)

 アテナの胸に、嫌な予感が広がる。

 ここ最近アテナがやらかしてきたことにゼウス達が勘づいていたとしたら、今回の会議は自分を裁くための会議で間違いない。


(どうしよう……流石にタルタロス送りとかは無いと思うけど、なんらかの罰はありそうよね……)

 アテナが思考を巡らせていると。


「やあアテナ。愛らしい顔を歪ませてどうしたんだい?」

 軽薄で軟派な声がかけられた。

 その声音で誰が話しかけてきたのか瞬時に理解し、アテナはまたため息をつく。頭が痛むのを感じた。

「……考え事をしていたのよ。そっちは相変わらず呑気そうね……アポロン」


 そう言いながらアテナがジト目で睨んだのは、太陽を司る神、アポロンだった。

 アポロンは金髪の上に乗るトレードマークである茨の冠を惜しげも無く見せながら、ヘルメスとは違った笑みを浮かべ立っていた。


 その笑顔とは、女を落とす笑顔だ。アポロンはイケメンであり、同時に重度の女好きなのだ。

 今日もまた、アテナをナンパしようとしているのだろう。

「相変わらずとは心外だなぁ。私だって考えに耽ることはあるさ」

「どうせ効率のいい女の子の落とし方とかについて考えてるんでしょ。あんたの考えなんて底が知れてるわよ」

「おっと辛辣だねぇ。けど間違っていないのが悲しいところだよ」


 そう言うアポロンの表情は、全然悲しそうではなかった。

「……アテナ、あまり兄様の悪口を言わないで」

 と、そんなアポロンの背中からひょっこり銀髪の少女が顔を覗かせた。

 銀の瞳は責めるようにアテナを見つめている。


「はいはい、あんたの大好きなお兄様に手は出しませんよ、アルテミス」

「す、好きだなんてそんな……」

 銀髪の少女神は若干顔を赤らめて、アポロンの背中に引っ込んだ。


 アポロンの双子の妹であり、彼と同じくオリュンポス十二神に名を連ねる月の女神、アルテミスだ。

 彼女はどういう訳か重度のブラコンであり、それ故に他の男と結ばれることはない。

 アポロンもそれに気づいているのだが、好色な彼にしては珍しく妹には手を出さないのだ。


(なかなか歪よね、この双子は……)

 背中に隠れたアルテミスと、それを楽しそうにあやすアポロンを眺めながら、アテナはそんなことを思った。


「……と、そうだあんた達。今日の会議がどうして開かれたか知っているの?」

「――いいや、私達は何も知らされていないね。君もかい?」

「……ええ。知らないなら良いわ」

 アポロンの崩れない笑みを見て、アテナはこれ以上聞いても無駄だと判断した。


「……もうすぐ全員集まるだろうし、それまで待つことにするわ。あと来てないのはお父様たちと……アレス、アフロディーテ、ヘパイストスね。……あ、なんか嫌な予感がしてきたわ」

「奇遇だねぇ、アテナ。私もだよ」

 アテナが顔を青ざめさせ、アポロンも苦笑いを浮かべた。


 タイミングを見計らったかのように扉が開かれた。それと同時に、やかましい喧嘩が聞こえてくる。

「どうしてだアフロディーテ! 今日は俺と一晩を過ごすって約束していただろ!?」

「ごめんなさいアレス……今日はやっぱりあなたの気分じゃないみたいなの……」

「彼女もこう言っていることだし諦めろ、アレス」

「ヘパイストス~~~!! てめえその面でいけしゃあしゃあと……!」


 入って来たのは三人の神達だった。

 一人は短髪で、日に焼けた上裸を惜しげもなく見せる闘いの神――アレス。

 もう一人は美男美女だらけのこの神界で、異質なまでに醜く爛れた顔を持つ鍛冶の神――ヘパイストス。足の悪い彼は車椅子に座っている。


 そして、そんな対照的な二人の男神に挟まれているのが、世界広しといえど彼女以上の美を見つけることは不可能だと言われるほどの絶世の美女――美の神アフロディーテだ。

 アフロディーテは口論を始めたアレスとヘパイストスを玩具を見るような視線で眺めながら、口元に妖艶な笑みを浮かべている。

「はぁ……またあいつらの痴情のもつれを見させられるのね……」

「ふふ、アフロディーテほどの美女なら仕方がない話だね。あ、もちろん君も同じぐらい素敵だよ、アテナ?」

「はいはいどーも。……うるさいしちょっと止めてくる」

「夫婦喧嘩は犬も食わぬ……と言うけど?」

「私は犬じゃないもの」

 そう言い残して、アテナはアレス達の所に向かった。


 アテナが近づいても、三神の口論は続いていた。しかも、段々とヒートアップしてきている様だ。

「お前の顔じゃあアフロディーテに相応しくない! 今すぐ離れろヘパイストス!」

「断る。彼女は僕を望んでいるんだ。脳筋の君が出しゃばる必要はないよ、アレス」

「なにおう……! アフロディーテ! 君は本当にこんな奴と一晩を過ごすつもりなのか!?」

「……ごめんなさい、アレス……」

 アフロディーテがしおらしい態度で項垂れた。見かねてアテナが割って入る。


「あんたたち、そういうことは誰も居ない所でやりなさい! 騒がしいし、迷惑なのよ!」

「ああん……? なんだアテナか。恋愛の『れ』の字も知らないお子様処女女神は引っ込んでな」

 アテナが喝を入れると、アレスが鬱陶しそうにヒラヒラと手を振った。沸点の低いアテナはこれにカチンと来てアレスににじり寄った。


「はん、お生憎様。そのことは今回と関係ないわ。あんた達の関係性は十分知っているわ。……アフロディーテの独占は禁止しているんじゃないの?」

「ああそうさ。そして今回は俺の番だったんだ。この前までアフロディーテは下界に降りていたから、色々と我慢できないんだよ!」

「うわぁ……」

 正直に欲望を吐露するアレスに、アテナは生ごみを見る様な視線を向けて一歩引いた。


 が、アレスの言葉が本当だとすると、これはアフロディーテに非がありそうだ。

「……アレスはこう言っているけど、本当なの?」

「……」

 アテナの質問に、アフロディーテは俯いたまま答えない。見かねた様子でヘパイストスが割って入った。

「アテナ、あまり責めるような口調で言わないでくれ」

「……この女がこれくらいでへこたれるわけないでしょ」


 たとえか弱い乙女を演じようと、アフロディーテという女神の破天荒さはゼウスでさえ頭を抱えるほどだ。それほど強かな彼女が、本気で落ち込んでいるはずがない。

「……いいの、ヘパイストス。私がいけないのだもの……私の口から、全て話すわ」

 天上の調べのような声で、アフロディーテは首を振った。


 さあ、どんな爆弾発言が飛び出てくるのか。アテナは身構える。

「……アレス、ごめんなさい。今日はあなたと夜を過ごすことは出来ないの……」

 消え入りそうな声で、アフロディーテが呟く。

「それは、どうしてだ!?」

 アレスが詰め寄り、顔を近付けた。


 怯えたようにアフロディーテが後ずさり、一瞬ためらった後、意を決したような瞳でアレスを見つめた。

 そうして、彼女の口から出てきた言葉は……。


「――今夜は、太くて大きいものでかき乱されたい気分なの……あなたの逸物は、その、ヘパイストスのと比べるとどうしても、その……」


 ――とんでもなく残酷な爆弾発言だった。

「「……は?」」

 アレスとアテナがポカンと口を開ける。


「……ごめんなさい、アレス……あなたの顔はとてもいいんだけど、ベッドでのテクはヘパイストスの方が断然上で……」

「ままままままままままままま待て待て待て。お、お前はそんな理由で俺との約束を破るって言うのか……?」

「ええ、ごめんなさい。今日はヘパイストスの気分なの……」

「えぇ……ていうか、え、俺のテクが、え、うそ……」

 完全にアレスが放心してしまった。さすがにこの結果はあんまりだとアテナでさえ思った。


 周りの神々も、同情の視線をアレスに向けている。オリュンポスで一番の不幸者だと言っていいだろう。

「……ま、そういうことだ。大人しく引っ込んでな」

「…………ア、ハイ」

 ヘパイストスの最後の一言で、アレスはその場にへたり込んだ。アフロディーテが申し訳なさそうに声をかける。


「あ、アレス。明日なら大歓迎よ……あなたの猛獣のようなプレイを楽しみにしているわ」

 最早フォローでもなんでも無いことを言い残して、アフロディーテはヘパイストスと共に円卓へと向かった。


 呆然とそれを見送ったアテナは、座り込んでいるアレスを見て気まずそうに体を揺らした。

「……その、アレス。今回は流石にあなたに同情するわ……」

 アテナが恐る恐る声をかけると、アレスがプルプルと震えだした。


 そして次の瞬間。

「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!! アテナてめえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 頭をかきむしり絶叫した。

「は……はああああああ!? なんで私に向かって怒鳴ってきてんのよ!?」


 これにはアテナも狼狽える。が、狼狽えるままではなく、負けじと反論した。

 アレスはわなわなと震えたまま、ビシッとアテナを指差した。

「お前が俺の味方をすれば、ヘパイストスの奴がつけあがることもなかったんだ! 余計なことしやがって!」

「そんなの八つ当たりでしょ! アフロディーテがヘパイストスを選んだのは完全にあんたの実力不足でしょ! ……あ、実力っていうか、サイズ不足か」

「ああああああああああああああ!!!??? てめぇ、傷口に塩を塗りやがって!!」

 ぷぷぷとアテナが嘲笑すると、アレスの怒りのボルテージが更に上がった。


「大体おまえは俺と同じ『闘いの神』だろうが! 俺に肩入れするのが普通だろう!?」

「お生憎様、私は『戦いの神』よ! 戦略を練り、戦況を見極め、戦術に沿って勝利をつかみ取る――『美しい戦い』こそが私の庇護するものよ。血で血を洗うような『野蛮な闘い』と一緒にしないでくれる?」

「言わせておけばこのくそまな板女神が! 今日という今日はお前に吠え面かかせてやる!」

「望むところよ! 私もあんたのそういう横暴なところを前々から叩き直したいって思っていたんだから!」


 アテナとアレスがお互いににらみ合いながら対峙した。さっきから喧嘩やいざこざばかり起きている気がするが、これがオリュンポスの日常である。

 他の神々も、退屈な会議の前の余興とばかりに面白そうに二神の様子を眺めている。


 だが、アテナとアレスがぶつかり合うことはなかった。

 一触即発の雰囲気の中、会議室の扉が大きな音を立てて開かれたからだ。

 次いで、野太い声が雷のように轟いた。


「わははははははは!! 今日も騒がしいなお前たち!! だが俺が来たからにはもう終わりにしろ!」

「……あなた、遅刻したのは私達だけみたいですから、まずは謝らないと……」

 入ってきたのは、金髪を逆立てた若い男神と、黒紫の長い髪を艶やかに揺らす女神だった。



 男神のほうが愉快そうに大声で笑い、女神が疲れ切った表情でため息をつく。

「よし、謝ろう! 遅れてすまなかったな! 昨日の夜までアニメ実況していたら、今朝寝坊してしまったんだ!」

「またアニメなんていうものを見て……私だけを見てくださればいいのに……」

 男神が悪びれもせずに笑い、女神がハイライトの失いかけた瞳を浮かべる。


「……相変わらずね」

「……そりゃそうだろ」

 入り口で好き勝手にし始める二神を見て、アテナとアレスは先ほどまでの勢いをそがれ、同時にため息をついた。

 そんなアテナとアレスのことは意に介さないまま、男神は豪快な笑みで高らかに宣言する。


「主神ゼウスと、その妻ヘラがここに降り立った! ――では、これから『オリュンポス十二神会議』を始める!!」

 その言葉が嵐の始まりであることを、アテナはまだ知らない。

読んでいただき、ありがとうございます!

新キャラ続々登場で新章が始まります!

よかったら感想などをください!

今年もよろしくお願いします!

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