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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第27話 誓い、月明かりの下で

二章最終話となります。

 冷たい風が頬に当たり、草太は目を覚ました。

 ざらりとした感覚が背中をなでる。砂に寝転んでいる感覚だ。

「ここ、は……」

 草太は自分がどこにいるのか思い出した。

 先ほどヴィルフリートと試合をした修練場だ。そばには自分が使っていた木剣が転がっていた。


「……どんだけ気絶していたんだ……」

 天井のない修練場から覗く空は赤くなり始めていた。半日ほど眠っていたということか。

 ため息をついて、腹に手を乗せた。ヴィルフリートに攻撃された場所が痛みの悲鳴を上げる。


「……最近、気絶してばかりだな」

 自嘲気味につぶやく。だが、上手く笑えなかった。

「笑えねぇよ……」

 小さな呟きは、虚空へと消えていった。



 木剣をそれらしき所にしまい、草太は修練場をあとにした。

 ふらふらとおぼつかない足取りで、元きた道を戻る。

 だが、そもそも来る時にあてもなく歩いていたので、帰りの道のりが分からない。しょうがないので、草太は帰りもあてずっぽうに歩くことにした。


 燭台に乗ったロウソクが僅かに照らす城内を、音もたてずに進む。誰もいない真っ暗な廊下を進むと、なんとなく心細くなってしまう。

 迷子とはまた違うのだが、道が分からないというのは、こんなにも不安なものなのか、と草太は思った。


(あの時の花奈も、こんな風に不安だったのかな)

 思い出すのは、高校入学の日。道に迷っていた花奈を助けたことが、彼女と知り合うきっかけとなった。

(たったそれだけのことだったのに、今じゃこんなに親しくなるなんてな……)

 少しだけ、笑みが浮かぶ。人の縁とは不思議な物だ。



 そして、そんなつい最近の出来事を遠い昔に感じてしまうほど、異世界での生活は濃いものだった。

 それこそ道無き道を、最初は花奈と二人で歩いてきたのだ。

 そこからキットやリフィアを加え、今ここにいる。


「……俺には、重すぎたんだ」

 口をついた言葉は、とても小さかった。



 城内を進む。重い足取りが、ヴィルフリートに与えられた痛みが、草太の衰弱を加速させる。

 耐えきれなくなって、草太は足を止めて壁に寄りかかった。近くの窓から、月明かりが差し込んでいる。

 青白い光は儚くも美しく、幻想的だった。


「……綺麗だ」

 月の輝きに見とれながら、草太はかすれた声で呟いた。


「――草太、くん?」


 その時、背後で声がした。暖かく、柔らかい響きの声だった。草太はゆっくりと振り向く。

 その先で、差し込む月明かりに照らされた花奈を見つけた。

「……花奈? どうして、こんなところに?」

「あはは……エミリアさんの授業が終わって帰ってきたんだけど、道がわからなくなっちゃって……このお城、広いよね」

 草太の質問に、花奈は苦笑して答えた。なんとも花奈らしい答えだと、草太は軋んだ笑みを浮かべた。



「草太くんは? こんなところでどうしたの?」

「俺? ……まあなんというか……」

 なんと言えばいいかわからず、草太は言いよどんだ。ヴィルフリートにぼこぼこにされたことを知られたくない、というプライドもあった。


 答えに窮する草太を見て、花奈がからかいまじりの口調で。

「あ、もしかして草太くんも迷ってたの? えへへ、もう私のこと方向音痴って馬鹿にできないね!」

「ちがっ……」

 とっさに否定しようとして、草太は口をつぐんだ。


「……いや、そう、なのなかもな……」

 草太は力のない声でつぶやき、項垂れる。

「草太くん……?」

 花奈が草太の態度に気付いたようで、窺うように名前を呼んだ。



 ゆっくり、ゆっくりと草太に近づいてくる。

「……どうしたの? いつもなら、もっと私に言い返してくるのに。……何か、嫌なことでもあった?」

 労わるような花奈の声に、草太の心が締め付けられた。


 そんな優しい声を出さないでくれ。そんな心配するような表情をしないでくれ。そんな暖かい目をしないでくれ。

 花奈が草太の目の前まで近付く。そこで草太の体の状態に気付き、顔をこわばらせた。

「……うそ、草太くん傷だらけだよ!? だ、大丈夫? 痛くない?」

 アザの残る草太の顔に、花奈がそっと手を伸ばす。憂いを含んだ、慈悲深い表情が、草太の精神をさらに揺るがす。



 だめだ、だめだ、だめだ! 俺に近づかないでくれ、俺に優しくしないでくれ。

 花奈の優しさに触れたら、俺は、俺は――


 ――縋りたくなってしまう。


「……花奈、ここから逃げよう」

「…………え?」

 草太の言葉に、花奈は意味をはかりきれずきょとんとした。


「逃げよう、ここから、この城から。黒の巨人からも、戦いからも逃げるんだ」

「そ、草太くん?」

「全部捨てて、どこか誰もいない場所で暮らそう。窮屈かもしれないけど、今の状況よりはよっぽどましになると思う。もちろんリフィアも一緒だ。きっと幸せになれる。だから……」

「草太くんどうしたの!? おかしいよ、草太くんはそんなこと……」

「おかしかったのは今までの俺のほうだよ!」

 止めようとした花奈の声に、草太は声を重ねた。


「俺が間違っていたんだ。この世界だったらなんでもできる気がしていた。どんなこともできると思っていた! でも、それは間違いだった。勘違いだったんだよ……俺の、勘違いだったんだ」



 万能の力を手に入れたと思っていた。今の自分になら、なんだってできると思っていた。

 けれど、世界は、人々は、草太にそれを許さない。

 メアリも、アベンテラーも、ヴィルフリートも、あまりにも強大すぎる。この広い世界には、まだまだ彼ら彼女らの様な怪物などいくらでもいるのだろう。

 鍛錬に鍛錬を重ね、それでもなお邁進(まいしん)する人々が大勢いる。

 それは、草太が知っている異世界転生とは全く違うものだ。

 だから、勝てない。だから、草太は負け続ける。



 平凡な現代人の彼が異世界に来たって、やれることは大きくは変わらない。

 なのに、首を突っ込んでしまった。ラノベやゲームでみた冒険にあこがれを抱いてしまった。あこがれていたから、理解ができていなかった。


 冒険と戦闘の世界なんて、いつだって死と隣り合わせだ。戦って勝たなければ、生き延びることはできない。それに気付かないまま、草太はこの世界に来て、冒険者になってしまった。

 生半可に強大な力を持っていて、驕ってしまってもいた。だから、引き返すべきところを見失ってしまうところまで来てしまった。



 『黒の巨人』という強大な組織と敵対し、王国の権威に巻き込まれ、いつの間にか草太ははるか遠くまで来てしまった。いつの間にか、草太一人ではどうにもできないところまで、世界は広がったいたのだ。

「憧れは、憧れのままにしておくべきだったんだ! そうすれば、こんなことにならなかったのに……」


 草太は膝から崩れ落ちた。わなわなと小刻みに震え、ぽたりぽたりと涙の滴をこぼす。

「転生するときに、ファンタジーな世界を選ばなければよかった。もっと平和で、安全な世界だってあったはずだ。……この世界に来たとしても、最初から非戦闘職に就くべきだったんだ」



 口をつくのは、後悔の念。どうにもできない過去を嘆いて、みっともなく愚痴をこぼす。

 そして、目の前の少女に懇願する。

「……頼む、花奈。俺と一緒に逃げてくれ……」


 あまりにも情けない姿に、花奈は何を思うだろう。見たこともないほど弱々しく、哀れなこの少年は、

花奈の瞳にどう映っているのだろう。

 花奈はしばらく無言で草太を見つめた。



 暗くて冷たい城内に、草太のかすかな嗚咽が響く。

「……」

 やがて花奈が動いた。無言のまま、静かにしゃがみこみ、草太にそっと腕を伸ばす。


 触れたのは、草太の顔についた傷跡だった。触った時にぴくんと草太が反応した。

「……痛かったんだね」

 腕を草太の顔から肩に。肩から腕に。そして腕から手の平に持っていく。ところどころに傷があり、手の平には剣を握ってできたタコがあった。


「……辛かったんだね」

 穏やかなか顔で、花奈は微笑んだ。それは、母が子に見せる慈愛に満ちた笑みのようだった。

 ぎゅっ。と花奈が草太の手を握った。


 温かくて柔らかい手が、草太の手を包み込む。

「うん、草太くんがもう戦いたくないなら、それでいいと思うよ」

「……花奈」

 花奈の言葉に、草太は希望を得たように顔を上げた。



「――でも、目をそらしたら駄目だよ。黒の巨人から、誰かを守ることから」

「……え」

「ペリオスさんとも約束したでしょ? 黒の巨人をこ……倒すって。その約束をまもらなきゃ。それに、黒の巨人が色んな人たちを傷つけていくのを、黙って見過ごしたら駄目でしょう?」

「でも、でも……」

 駄々をこねるように首を振る草太に、花奈はなおも優しい笑顔を向けながら。


「……草太くんは、それをちゃんと見なきゃダメだと思うよ?」

 あまりにも残酷なことを言い放った。

 叱咤する声ではない。威圧もしていない。ただ諭しているだけなのに、花奈のその言葉は草太に重くのしかかった。



「でも……俺は……もう、戦いたく、ないんだ……」

「うん、だから草太くんはもう戦わなくていいよ」

「え……?」

「これからは、私が戦って草太くんを守るから。草太くんは、後ろで見守っていてくれればいい」

「なん……だよそれ」

 あまりにも唐突なその言葉に、草太は息をのんだ。


 花奈は表情を崩さず、言葉を続ける。

「私ね、コロージョンワームと戦った時に草太くんに頼りきりだったでしょ? もう、それは嫌なの。私は、草太くんの背中を見ているだけで終わりたくない。草太くんの隣に立って、草太くんを守りたい。草太くんの力になりたい」

「それは、今までで充分じゃ……」

「私は、納得してない。私はもっと強くなりたい。そのために、エミリアさんに色々教えてもらうんだ。……だから、草太くんはもう戦わなくていいよ。私に任せてくれればいい。私が、草太くんもリフィアも守れるくらいに強くなって……それで黒の巨人も倒して見せる」



 花奈の言葉には、強い決意が込められていた。何をしても折れることのない、不屈の意志だ。

「花奈……」

 草太は、花奈が自分よりはるか遠い場所にいることに、ようやく気付いた。

 草太が今感じている恐怖なんてとっくに乗り越えて、もっと先の未来を見ている。

 少女は可憐な花などではなく、戦う意志を持った戦士だったのだ。


 その姿は苛烈と威厳に満ち、見る者の瞳を焼いてしまうほどに美しい。

 穏やかな彼女の心は、きっと草太の何倍も強い。



 だが、たとえ花奈がこの世界に順応していたとしても、彼女にその選択を強いたのは間違いなく草太だ。一緒に冒険者をやろうと言って、彼女を巻き込んだのは草太だったのだから。


 だと言うのに、今の草太はどうだ。彼女の隣に、草太が立つ資格があるのか。

 心は折れ、プライドは砕け、自信を見事に失った。敗者にふさわしい末路だといえる。

(俺は負けた。ほかでもない、この世界に負けたんだ。惨めに無様に、敗北の沼に突き落とされた。――なら、だったら!)


 ――敗北(それ)が草太の終わりか?


(……違う)

 違う。否、否だ。負けたのなら、地の底に叩き落されたのなら、勝つために這い上がるのだ。

 草太に足りなかったのは、その心だった。花奈のような強い志を、草太は持ち合わせていなかったのだ。



 けれど、今は違う。目の前の少女が、崖の上から手を伸ばしてくれた。這い上がることを手伝ってくれる、心強い手だ。

 ぎゅっと花奈の手を握り返す。花奈が一瞬驚いて目を見張ったが、すぐに満面の笑顔を浮かべた。うれしいことがあったときによく見せる、ありふれた、宝石のような笑顔だった。


 ――この笑顔を守りたい。

 以前のような義務で動かされるものではなく、草太は心からそう思った。

 敗北者の草太は燃えて消え、今、新たな境地に足を踏み入れる。



 草太はゆっくりと立ち上がり、まっすぐに花奈を見据えた。

「……ありがとう、花奈。……ようやく、目が覚めた気分だ」

「……うん、よかった」

 草太の言葉に、花奈は笑顔を返す。


「……俺は弱くて、情けなくて、大事なことから目をそらしてばかりで……こんな俺でも、一緒に歩いてくれるか?」

「うん、もちろん。草太くんが弱いのなら、私が守ってあげなくちゃ」

「……そうか」

 ならば、これ以上問いかけはいらない。あとは、前に進むだけだ。


「……戻ろう。新しい明日を迎えるために」

 草太と花奈は二人並んで、月明かりに照らされた城内を進み始めた。



 翌日。

「……何の用だ」

 昨日と同じ修練場で、昨日と同じように剣を振りに来たヴィルフリートは、先客を見て顔をしかめた。


 その先客――草太は、直立不動の状態でヴィルフリートをまっすぐに見据えていた。

「……すぐに立ち去れ。剣を握る資格を持たない者には、この場所に立つ資格も当然ない」

 ヴィルフリートは不機嫌そうに言い放ち、木剣が置いてある場所に向かい始めた。その場所は草太の後ろにある。なので、必然的にヴィルフリートは草太に少しずつ近づいていく。



 そして、丁度剣の間合いに入ったところで、草太はガバっと頭を下げた。

「――昨日は、すみませんでした!」

 唐突の謝罪に、ヴィルフリートは若干目を丸くした。だが、すぐに表情を厳しいものに戻す。

「……なんのマネだ」

「……あなたの言った通りだった。俺は……弱い。このままじゃ、俺は倒さなきゃいけない奴らに一生勝てない。……それを、認めたくなかったんだ……」


 草太は頭を下げながら語る。嘘偽りのない心情だ。

「……なるほどな。昨日の今日で自身を顧みたことは評価しよう。……それで、お前の狙いはなんだ? お前はどうしてここまで来た?」

「――俺に、剣を教えてください」

「――なに?」

 草太の言葉に、ヴィルフリートはまた少し驚いた表情になる。



「……俺は、まだ剣を触って一か月しか経ってなくて……でも、それを逃げる理由になんてできないんです。俺はもっと強く剣を振りたい。もっと上に行かなきゃいけないんです」

「……ふむ、分かった」

 ヴィルフリートが頷く気配がして、草太は期待に満ちた顔を浮かべた。


「――だが、その願いは聞き入れることはできない」

「っ!」

 ヴィルフリートは憮然とした表情ではっきりと草太の頼みを拒んだ。草太の表情が即座に陰る。

「どうしてですか……」

「お前は剣を握れる人間ではないからだ。どんな名剣も、使う者が脆ければ力を発揮することはできない」

「そ、そうならないように俺は……あなたに修行を……」

「私がいくら教えようとも、お前にはもう伸び代がない。昨日お前の剣技を見て確信した」

「っ……そんな……」

 ヴィルフリートの迷いのない断定に、草太は絶望した表情で項垂れた。


「……幸い、お前は魔法も使えるようだからな。そちらの道に進むのがいいだろう。……気がすんだらもう帰れ。お前がいると気が散る」

 ダメ押しでそう言い残し、ヴィルフリートは草太の横を通り過ぎた。



(駄目なのか……俺が変わろうとしても、それを認めてくれる人がいなきゃ意味はないのか……)

 草太の思いは通じない。通せるほどの人間性を草太が持ち合わせていないから。

(ヴィルフリートの言う通り、魔法使いになったほうが良いのか? そっちで強くなればいいのか……?)

 確かに、それは現実的な方法だろう。伸び代がないと言われる剣術より、まだ希望を持てる魔法を極めた方が、草太や花奈達のためになるのかもしれない。


(――駄目だ! ここで折れるな!)

 だが、それでも、草太は自分の意志を貫かなければいけない。ここで簡単に折れてしまえば、いつまでも弱いままだ。

 魔法の道に進んだとしても、それは妥協であり、逃避だ。逃げた先で何かを極めても、心が満たされることはない。


 ――だから、今。今こそ貫く時なのだ。自分を、自分の信念を。



「……っ!」

 草太はヴィルフリートの前に回り込み、その場に跪いた。思わぬ行動に、ヴィルフリートが目を見張る。

「お願いします! 俺を弟子にしてください! どんな無理難題もこなします! どんな厳しい修行でも耐えて見せます! だから……だから俺を――強くしてください!!」

 恥も外聞もなく、土下座の体勢で草太は叫んだ。なりふり構わないがむしゃらな行動。それこそが、草太が心の底から頼み込んでいるという何よりの証明。

 折れるな。逃げるな。迷うな。変わると決めたのなら、すぐに行動に起こせ。世界の流れは速く、躊躇している人間は容赦なく置いて行ってしまうのだから。


「……見苦しいな」

 草太を見下ろしながら、ヴィルフリートはため息とともに呟いた。 

「……何がお前をそこまで駆り立てる? お前がそこまで意固地になる理由はなんだ? 名誉を得るためか? 自己保身のためか? 復讐したい者がいるからか?」

 ヴィルフリートが質問を重ねる。押し寄せる波のようなプレッシャーが、老騎士から発せられる。

(臆するな、本心を言え!)



 草太は顔を上げる。まっすぐに、迷いのない瞳で、ヴィルフリートを見つめた。

「……たいものが」

「なに?」

「――守りたいものが、あるからです……っ!」

「――」

 その答えに、ヴィルフリートははっと表情を変えた。


 何かに気が付いたような、そんな表情であった。

「……お前は……」

 小さく声を漏らす。脳裏に、古い記憶が流れる。

 男は、大切なものを守りたかった。けれど、守れなかった。自分の手のひらでは、砂漠の砂をすくい切ることはできなかった。


 目の前の少年が語っているのは、かつて男が果たしきれなかった理想だ。秩序を切り離して、なんとかその欠片だけ手に入れることができた――それほどまでに、大きく無謀な願いだ。

 今、鏡のようにその男が――かつてのヴィルフリートが目の前にいる。



「……まったく、馬鹿げた話だ」

 ヴィルフリートは、ほんの少しだけ頬を緩めた。草太が不安げにヴィルフリートをうかがう。


「……今のお前を弟子にすることはできない」

「っ……そう……ですか」

 草太は震える声で、顔を上げないで答えた。



「ただし!」

 間髪入れずにヴィルフリートが喝を入れる。そして木剣が置いてある場所に行き二本の木剣を持ってきた。

 そのうち一本を草太に手渡して、構えの状態に入る。

 草太が怪訝な表情になる。ヴィルフリートは少し挑発的な笑みを浮かべた。


「魔法を使わず、剣だけで私に一撃を入れられたなら、お前に稽古をつけてやろう。何度でも立ち向かってこい。」

「……!」

 草太がはっと顔を上げた。そこにあるのは、以前までの弱々しい少年の表情ではなく、戦士の片鱗を見せる勇ましさ。

 ヴィルフリートはそれを見て、初めて笑顔を見せた。


「まずは入口にまで来い。そうすれば、私は必ずお前を強くする」


「――っ、ありがとうございます! よろしくお願いします、師匠!」

「まだ師匠になっとらん! 甘えるな!」

「すいません!」

 即座に頭を下げる草太を見て、ヴィルフリートは呆れたように笑った。


「ふん、わかればいい……では、やるか」

「はい! ――行きます!」

「――来い!」


 二人の剣と剣がぶつかりあう。――その剣戟は、運命に導かれた師弟関係の始まりであった。


読んでいただきありがとうございます!

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