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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第25話 謁見

短めです



「……以上です。これが、今回の『ルージェン強奪事件』の概要となります」

 大勢が見守る中で、草太はつっかえながらも事件のあらましを伝え終えた。


「……ふむ、なるほど」

 草太が話し合えると、質問者兼記録者の男が小さく頷いた。

「アインズ・カブール・バルシュミーデらによる犯行は、巧妙に計画されており、事前に予期することは不可能であった……ということだな?」

「はい」


 記録者の確認に、草太が答え、花奈とリフィアも頷いた。

「……よろしい。アベンテラー国王、なにかご質問はございますか?」

「……」

 男の問に、アベンテラーは無言で考え込んだ。室内を沈黙が満たす。


「……ソウタ、お前はその賊――『黒の巨人』について何を知っている?」

「……よく分かっていません。彼らの目的も、彼らの規模も……」

 草太は悔いるように答えた。

 彼らは尻尾を掴ませてくれない。その事がたまらなく口惜しい。


「…………嘘はついていないようだな。何か有益な情報を持っていれば、対策の練りようもあったものだが……奴らの正体を探るのは手詰まりか」

 アベンテラーが落胆したようにため息をつく。

 その姿は、国のために悩む王の姿として相応しいものと言えた。


「……では、これで冒険者ソウタ達の報告を終わりにしてよろしいですか?」

「……ああ、いや。最後に一つだけ聞きたいことがあった」

 切り上げようとした記録者を、アベンテラーが制した。


「……なんでしょうか?」

 気を抜きかけていた草太は、慌てて持ち直す。


 アベンテラーは黄金の瞳を鋭利に尖らせ、冷ややかな声で、その問いを口にした。


「――今回の件で、お前達は何を償うつもりだ?」



 ぞわり、と草太の背筋に悪寒が走った。

 それは、先程までとは比べ物にならない威圧。アベンテラーがその気になりさえすれば、今すぐにでも草太を殺せそうな気迫だった。


 周囲の人間が身を正したのが見えた。氷の中のような冷たさが、周囲に広がる。

 斜め後ろに構えていた花奈とリフィアが、息を呑むのを感じた。


 それは草太も同じ。重厚なプレッシャーに、うまく呼吸ができなくなる。

 寒いはずなのに額に大量の汗が浮かぶ。


(これが、『冒険王』の――『金』の冒険者の力……!)

 アベンテラーは、メアリとはまた違う類の強者だ。

 その威光と実力で、多くの人々の頂点に立っている。


 そんな彼を前に、草太が一体何を言えるというのだろうか。


「……償う……とは……」

「言葉通りの意味だ」

 口から零れた草太の言葉に、アベンテラーはにべも無く答えた。


「国宝『ルージェン』を賊に奪われ、場合によっては国家が転覆するほどの事態を招いた貴様らの失態を、どう償うのかと聞いている」

 冷酷な視線が、草太を射抜く。



「……時間をください。そうすれば、必ずルージェンを取り返し――」

「そのようなことを言っている余裕が、お前にあると思っているのか?」

 草太の言葉が、アベンテラーによって一蹴される。


「お前達は重大な罪を犯した。ならば、お前達が受ける罰は、最も重いものでなければならない」

「まさ、か――」

 アベンテラーのその言葉に草太が息を飲んだ瞬間。


 チャキリ。

 と、草太の首元に鋭利な刃物が当てられた。

「――!」

 視線を走らせると、リーシャが冷たい眼差しをたたえながら、草太の斜め後ろに立っていた。


「草太くん……!」

 花奈の声が聞こえる。見ると、花奈とリフィアの後ろにも見知らぬ少女達が立っていて、草太と同様に首に刃物を突きつけていた。


「この子達は……」

「お前達の処刑人だ。不審な行動をすれば、即座にその首を叩き斬る」

 尚も冷徹な、アベンテラーの声が響く。


 気が付けば、周りの人間達も各々の武器に手をかけていた。

(囲まれた……! この状況で逃げるのなんて無理だ!)

 抵抗する意志が、あっという間になくなってしまった。それほどまでに絶望的な状況だ。


「……さて、咎人のお前達にどのような罪を与えればいいか。一番手っ取り早いのは死罪だが……」

 アベンテラーの言葉に反応して、首元の刃が少し動く。


(死ぬ……? ダメだ、俺は……俺達はまだ、死ぬわけにはいかない……!)

 焦燥が募る。このままでは、草太達は為す術もないままに首を断たれるだろう。


 だが、この状況から逃げることは出来ない。たった三人で、王国の最高戦力達に勝てるわけがない。

 だから、躱すしかない。王に与えられる死を、回避するしかない。


「――し、死刑はやめてください」

 そう考えて出てきた言葉は、とても情けないものだった。

 草太の懇願に、アベンテラーが眉を顰める。

「――ほう? 何か理由があるのか?」


「あ、あります!」

 草太は少しだけ強くなった声で答えた。

「ほう? 言ってみろ」

「ルージェンを奪った者を倒せるのは、俺達だけです! ここで俺達を殺しては、誰も『黒の巨人』を止められなくなります!」


 根拠のない、言い訳紛いの宣言。草太の言葉に、辺りが静まる。

 やけくそで言った当の本人は緊張でそんなことを気にしている余裕もないが。


「――ばかばかしい! 無様にルージェンを奪われておいて、どの口がそのようなことを言うのか!」

 家臣の一人が見下すように草太を糾弾した。他の者たちも草太の無謀な発言に嘲笑を漏らした。

「倒して見せます! だから、時間をください!」

 草太はそれでも変わらずに同じことを言った。

 頑なな草太に、周りの者達は一層戸惑ったようにざわめく。


 そして、意見をうかがおうと国王に注目した。

 アベンテラーは吟味するように草太の顔を眺めた。そらさないように、草太もまっすぐに視線を返す。

「……ふっ」

 不意に、アベンテラーが顔を緩めた。


「ふはははははは! お前達にしか倒せないと来たか。……自尊もここまでくればいっそ清々しいな!」

 アベンテラーは高笑いを上げ、あきれたように首を振った。


「なるほど……くくく……いい答えだ。この場で……加えてその状態で、そこまで言える胆力があれば、賊を討伐するのは出来るかもしれないな」

「じゃあ……!」

「ああ。お前達の刑は保留にしておこう。今のところはな」

「……ありがとうございます!」

 草太はこれ以上ないほどに頭を下げた。どうにかこれで、一命を取り留めたようだ。


「お前達ももういいぞ、下がれ」

 アベンテラーが言うと、草太達に刃を構えていた少女たちが静かに引き下がった。


 その瞬間、どっと疲れが押し寄せて草太は深くため息をついた。

「草太くん!」

 慌てて花奈とリフィアが近付く。


「ふふっ、本当によくもまあそんな状態であんなことを言えたものだ」

 その様子を眺めていたアベンテラーは、また面白そうにつぶやいた。

「……でも、ハッタリなんかじゃありませんから」

「理解しているとも。お前の眼は怯えていたが、騙そうとしてはいなかった。……まあ、騙していたのは私のほうだがな」

「……え?」

 アベンテラーの言葉に、草太は目を丸くした。


「処刑すると言ったのは嘘だ。お前達を試してみた」

「……な、え、ど、どういうことですか」

「お前達の人柄を知るには窮地に立たせるのが一番いいと思ってな。そこで今のような状況を作り出したというわけだ」

 アベンテラーがあっけらかんと暴露する。その顔にはにやにやと意地の悪い笑みが浮かんでいた。

「じゃ、じゃあ……今までのは全部、演技だった……?」

「その通りだ」

「……はぁあああああああああああああああああああああああ……」

 草太はその場にしゃがみ込んだ。あまりにも衝撃の事実が過ぎる。


「アベンテラー国王は演技がお上手ですね……」

「はっはっは。お前はいちいち反応が面白いな」

 草太の皮肉など意に介さず、アベンテラーはもう一度笑った。


「……王よ、そろそろ彼らの待遇を決めてはいかがでしょうか」

 見かねた一人の老騎士が、アベンテラーをたしなめる。

「ああ、そうだったな。……冒険者ソウタとその仲間達よ」

 アベンテラーの呼びかけに、三人とも姿勢を正した。


「お前達には一か月間この城で生活してもらう。来賓として扱う故、肩の力は抜くようにな」

「……どうして、一か月なのでしょうか?」

「ん? 聞いてないのか? 我が国の魔法研究室がそちらの女……ハナに興味津々でな。いろいろ話したいことがあるらしい」

「あっ……」

 草太は先ほど部屋に押しかけてきたエミリアのことを思い出した。


 エミリアの方を見ると、バチーンと可愛らしいウインクを返してきた。

「……人体実験とかはしないですよね?」

「しない。それは私が保障しよう」

「……花奈も、いいんだよな?」

「うん、もちろん」

 一応と思い確認すると、花奈も問題なさそうに頷いた。


「……わかりました。そういうことでお願いします」

「交渉成立だな。……よし、今日はもう部屋に戻ってゆっくり旅の疲れを癒すがいい。なかなか有意義な時間だった。褒めて遣わす」

「ありがたき幸せ」

 最後によく見るやり取りをして、波乱の謁見は幕を閉じた。



「――だぁっはあーー! 疲れたー!!」

 部屋に戻るなり、草太はベッドにダイブしてはー! と息をついた。

「お疲れ様でした。……矢面に立たせるようにしてしまって申し訳ありません」

 リフィアが申し訳なさそうに謝った。

 草太は苦笑を返しながら慰める。


「いいって。前衛は俺の担当だからな」

「でも、本当にあの時はひやひやしたね……演技だなんて気づかなかったよ……」

 草太同様に疲れた表情の花奈が、ソファにもたれかかりながら言った。


「家臣の人達も騙されてたっぽいからな。あの王様はただものじゃない」

「豪傑とは、ああいう人のことを言うのでしょうね……」

 リフィアが眉を顰めながら言う。どうやら苦手な類の人間だったようだ。


「国王でありながら、金の冒険者だしな……」

「改めて考えると、凄い経歴だよね……」

 アベンテラーの凄まじさに、草太と花奈は感心のため息をついた。


「……まあ、とりあえず今日はもう休もうか。明日から花奈は魔法研究室……だっけか? に行くんだよな」

「うん、さっき話を聞いたら、午前中に魔法学を勉強して、午後に実践する感じでやるらしいよ」

「うへえ……学校みたい……」

「なんだか懐かしいね」

 聞くだけで顔をしかめる草太とは対照的に、花奈は楽しみなようだ。


「ソウタはどうなさるのですか?」

「俺は騎士の人達に混ざって、剣の扱いについて色々学ぼうと思ってる。……今の俺には、色々足りてないからな」

「なるほど……」

「リフィアは?」

「私は、近くの森で訓練も兼ねて狩りでもしようかと。何もしないままでは鈍ってしまいますし」

「この城の中だったら、弓を撃てる場所もたくさんあるだろ?」

「そうなのですが……やはり、弓術は動きながらやらなければ実戦では使い物になりませんから」

「それもそうか。気をつけろよ」

「はい。暗くなる前には帰ります」

「ふふ、最後の二人の会話が親子みたいだったよ」

 花奈が微笑ましげ言った。


「私がソウタの娘ですか……私のほうがしっかりしていると思いますが……」

「リフィアも結構抜けてるところあると思うんですけど……」

 納得がいかない様子のリフィアに、草太は苦笑いでツッコんだ。

 三人は夜が更けるまで、楽しげに会話を続けた。






読んでいただき、ありがとうございます!

今回を含めて3話で2章完結となります。3章からは色々と新しい展開をお見せできると思うので、期待してお待ちください!

感想等あれば遠慮なく書いちゃってください!

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