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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第24話 入城



 馬車が大きく揺れて、草太は目を覚ました。

 どうやらあの後いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


 どれぐらい眠っていたのだろう。

 そう思って起き上がろうとして、草太は自分の頭が何かやわらかい物の上にあることに気付いた。

「……?」

 怪訝に思い、頭が乗っている何かを撫でる。


「ひゃっ!? そ、草太くん!?」

 すると、頭上から声が聞こえた。見上げると、花奈が顔を赤らめながら草太を覗き込んでいた。

 どうやら、花奈に膝枕をしてもらっていたらしい。


 と、自分が花奈の太ももを撫でまわしていたことに気付いた。

「……ごめん」

「う、ううん、いいよ……?」

 草太が小さな声で謝ると、花奈は照れたように首を振った。


「…………」

「…………」


 しばらく馬車の中が静まり返った。

「……あ、降りたほうがいいか? 膝枕って結構きついだろ?」

「あっ……えと、草太くんが良ければ、私はまだ大丈夫だよ」

「……そっか。じゃあ、もう少しこのままでいいか? ……なんていうか、居心地がいい」

「ふえええ!? そ、そうかな!?」

「うん、花奈は膝枕の才能があるよ」

「喜んでいいのかわからない!」

 草太は目を閉じて、静かにそんなことを言った。真面目なのか冗談なのかわかりにくい。


 花奈はしばらく顔を赤くしていたが、不意に頬を緩めた。

「……少しは、楽になった?」

 その声は優しくて、暖かかった。


「……心の整理が、出来てないんだ。メアリにやられてから、ずっと、色んなことが頭の中をぐるぐると渦巻いていて……迷惑かけて、ごめん」

「……ううん、迷惑だなんて思ってないよ。……ただ、ちょっと怖かったけどね」


 そう言って、花奈が戸惑ったように微笑んだ。初めて会ったときに見た時から変わらない笑顔だ。

 どうしてかはわからないが、彼女はずっと自分についてきてくれている。花奈がいることで安心しているし自分がいるのを、草太は感じていた。


 ほんの少しだけ、心がほぐれた気がした。

 だから、そんな花奈を見ながら、草太はらしくないことを呟いた。


「……花奈、もし俺がおかしくなっちゃったら、遠慮なく怒ってくれ」

「お、怒るってどうやって?」

 花奈が戸惑ったように聞き返す。もちろん、草太にもそんなことは分からない。

 だから、草太は苦笑いを返した。


「……俺も具体的にはわからないんだけど……まあ、花奈なら大丈夫な気がする」

「よくわからない信頼だなぁ……でも、うん、わかった。その時になったら、遠慮なく怒るね」

 花奈はまた困ったように笑って頷いた。

 二人を柔らかい声が包み込む。いつまでも続きそうな穏やかな時が生まれる。



「――二人とも、私のことを忘れていませんか?」


 そんな二人の耳に、冷めきったリフィアの声が届いた。

 見ると、彼女は馬車の隅っこでジトーっと草太と花奈を睨んでいた。

「あっ、ご、ごめんねリフィア! 別に忘れていたわけじゃないよ?」

「そうだな。別に忘れていたわけじゃない」

「そーですかー! 私はお邪魔なようなので隅に固まっていますね! 失礼しました!」


 仲間はずれにされて完全に拗ねてしまったリフィアを宥めるのに、二人はかなり苦労するのであった。



 ほんの少しだけ緩和した空気の中、草太達はついに王都『グローアル』に到着した。

「皆さん、着きましたよ。ここが誉れ高き王都、グローアルです」

 御者の騎士が、誇らしげに声をかけた。


 馬車から顔を出して見上げると、スードのものより立派な大門をくぐり抜けるところだった。

 煉瓦のアーチを通り抜け、グローアルの中に入る。


 街並みはスードとそんなに変わらない。だが、屋台や露店などは無く、整った印象を受けた。

 高級そうな馬車とすれ違う。王都だけあって、住んでいる人も富裕層が多いのだろう。


「どうです? いい雰囲気でしょう。なんたってこの街は『繁栄の象徴』と呼ばれているくらいですからね」

 騎士が自慢げに話す。騎士なだけあって愛国心は人一倍強いのだろう。

「はい、いい街だと思います。……って、あれは!?」


 と、草太は視線の先の高台にある建造物に目を奪われた。

「うわぁ……」

「これは……」

 花奈とリフィアも感動して声を漏らした。


 高台の上、街の中央にそびえ立つのは、一つの城だった。

 白い外観に、青色の屋根。美麗さの中に荘厳を含む圧巻の迫力を持って、草太達を睥睨していた。


「あれが、我がフェリア王国の城、『フェリア城』です」

 そう語る騎士の声は、先程よりも一層誇らしげであった。



 騎士達が城門にたどり着くと、厳かな音を立てて跳ね橋が降りた。

 木製の橋を渡って、周りの堀を超える。

 三人は感動した様子で、その様子を窓から眺めていた。


 城内に入って、しばらく進んだ所で馬車が止まった。

「到着しました。ここで一度馬車を降りてください」

 御者の騎士の指示に従い、三人は馬車から降りた。


 降りた場所には、給仕係と思われる服装に身を包んだ人達が何人か立っていた。

「この人達が、ソウタ達の世話係です。なんでも言ってください」

 近寄って来たクリストフが給仕係達に手を向けると、皆揃った動きで頭を下げた。


「おお……すごい……これがお城クオリティ……」

 草太の横で、花奈が良く分からない感動の言葉を述べる。


 三人が呆気に取られていると、給仕係の中から燕尾服に身を包んだ初老の男性が一歩進み出た。

「ソウタ様、ハナ様、そしてリフィア様ですね。私、給仕長のシュワルツと申します。それでは早速ですが、皆様をお部屋に案内いたします」


 シュワルツと名乗った男性は、完璧な仕草でお辞儀をすると、草太達の顔を見て微笑んだ。

「「「よ、よろしくお願いします!」」」

 それを見て、三人は緊張した様子で頭を下げるのであった。


 広大な城の内部に目を回しながら、草太達はシュワルツの案内で城の中を歩き回った。

 というか、今までまともに入った建物がやすらぎの宿かギルドかペリオス商会の本部しかないため、城の内装は草太達にとって別世界だ。

 窓の大きさや床の光沢が、庶民的な感性の三人に殴りかかってくる。

「……私達は、どうしてこのような場所にいるのでしょう……」

「わかんない……」



 そんなこんなで、三人は一つの部屋に到着した。精緻な飾り付けがされた、品の良い扉が草太達を出迎える。

「ここが、皆様に泊まっていただくお部屋となっております」

 シュワルツはそう言って、扉を開け、中に入った。


 三人もそれに続いて中に入る。

 内装も、外に負けず劣らず豪華だった。


 赤いカーペットが敷かれた床の上には、ティーセットの乗ったテーブル、座り心地のよさそうなソファ、天涯付きのベッドなど、これぞ王家の城といった家具が並んでいる。

 取り付けらた大きな窓からは、王都を一望できるバルコニーに出られる様だ。

 あまりにも場違いな部屋に、草太は恐る恐るシュワルツに尋ねる。


「…………あの、ここが俺達の部屋なんですか?」

「はい。食客の皆様にはこの並びの部屋を使っていただいております」

「……もうちょっと、狭い部屋って……」

「ありません。ですが、三人で使うなら丁度いい大きさだと思われますよ」

「いやそういうことじゃ……あれ? ちょ、ちょと待ってください。三人で使うって言いましたか……?」


 草太はふととんでもないことに気が付いて、震える声でシュワルツに質問した。

 シュワルツは穏やかな表情で。

「ええ。この部屋は三人で使っていただきます」


 室内が凍り付く。ピシィッという音が聞こえてくるようであった。

「皆様は恋人同士であると聞いております。夜にすべきことも多いでしょう。……あ、ご安心ください。壁は厚くて声が漏れることはありません」

「いやそういうの要らない気遣いですからね!? 俺達はそういう関係じゃ……っていうかそんな情報誰から聞いたんですか!?

「クリストフ殿からです」

「あんにゃろう……!」

 敬意も忘れて、草太はここにいないクリストフに悪態をついた。


「それに、実はすべての部屋が埋まってしまっていまして……今更変えることは出来ないのです……」

「なんか前にも似た様なことあったな……」

 草太はドリの村の事を思い出した。


「まあまあ、私は別に気にしないよ? リフィアは?」

「私も特には。ソウタなら間違いが起きることも無いでしょう」

「うちの女性陣が強すぎる……はあ、じゃあそういうことで良いです」

 あっけらかんとしている花奈とリフィアを見て、草太は肩を落とすのであった。


 なんだかんだありながら、三人がそれぞれにくつろぎ始めた頃。

「それでは、午後に国王との謁見がありますので、準備をしておいてください」

 ドアの前に立ったシュワルツが言った。


「準備っていうと……何か着替えたりするべきですか? と言っても、俺達は正装なんて持ってないんですけど……」

「いえ、そのままの格好で構いません。準備というのは、心の準備でございます」

「心の準備……?」

 シュワルツの言葉に、リフィアが訝しげに首を傾げた。


「はい。アベンテラー国王は苛烈な方ですので、威圧に潰されないようになさってください」

「……それはまた……」

「ですが、公平な方でもあります。よっぽどな事をなされない限り、命の安全は保証されるでしょう」

「…………」

 涼しい顔でそんなことをのたまうシュワルツに、三人は唖然とした表情をかえすのであった。


「では、私はこれで失礼致します。別の者が迎えに来ますので、それまでごゆっくりおくつろぎ下さい」

 シュワルツは慇懃(いんぎん)に頭を下げて、部屋から出ていった。


 それを確認して、三人がたはーっと息を吐く。

「王様ってそんなに危ない人なのかな……」

「フェリア王国は軍事国家でも侵略国家でも無いと言う話ですから、そこまで好戦的な人では無いと思いますが」

「まあ確かに……どうせあと数時間で会うわけだし、心配していても仕方ないな」

 草太はもう一度ため息をつき、うろうろと部屋の中を物色し始めた。


「……やっぱすごいな……お、二人とも、風呂があるぞ。これで旅の疲れを洗い流したらどうだ?」

 部屋の一角にあるバスルームを見つけ、草太は花奈とリフィアに入浴を勧めた。


 が、二人の反応は芳しくなかった。

 花奈はまるで我が身を守るかのように抱きしめながら、草太とバスルームを交互に睨む。

 リフィアはそんな花奈と草太を見比べながら、困ったように苦笑いを浮かべる。


「……え、え? な、なんかまずい事言った?」

「……覗かない?」

 花奈のその問いに、草太はようやく花奈が心配していることに思い当たった。

 思い当たると同時に慌てて首を振る。


「――の、覗かねえよ! あれは事故だって説明しただろ!?」

「そ、そうだけど……うーん……」

「ていうか……一緒の部屋で泊まるのはいいのに、なんでその事は気にするんだよ……」

「そ、それとこれとは話が別というか……!」


 花奈は悩ましげに首を捻った。

 乙女の心情はわからん……と草太は何度目か分からないため息をついたのであった。


 なんだかんだありながらも、三人とも一風呂(ひとっぷろ)浴びて、全員さっぱりした気分になった。

「魔力で動く風呂かぁ……異世界も侮れないな……」

「だね……きもちよかった……」

 草太と花奈が、だらーんとソファの背もたれにもたれかかる。


「お二人とも、しゃきっとした方がいいですよ。これから王と会うんですからね」

 タオルで髪を拭くリフィアが、そんな二人をたしなめた。


「あー……そうだったな……っし、気持ちも切り替えたし、準備しとくか」

 完全に休息モードだった草太は、リフィアの言葉に腰を上げた。

 花奈も遅れながら続く。


 と、そんな時部屋のドアがノックされた。

「ん? 思ったより早いな……はーい、どうぞー!」

 訝しみながらも、草太はドアに向かって呼びかけた。


 キィィ……と静かにドアが開けられる。

 開いた扉の先にいたのは、一人の女性だった。

 純金を溶かしたようなブロンドの髪に、赤い眼鏡をかけた美女だ。白衣のようなものを着ており、学者の様な外見である。


「……? あの、どちら様ですか?」

 白衣の女性を見て、花奈が不安げに首を傾げた。

 するとようやく、女性が口を開いた。

「……『ハナ』という方は、どなたかしら?」

 理知的な声が、女性から発せられる。


 突然の質問に、三人は目を見合わせた。そして、おずおずと花奈が手を上げる。

「あ、わ、私です……」

「っ!!」

 手を上げた花奈を見て、その女性がカッッと目を見開いた。


 直後、目にも留まらぬ速度で花奈の目の前に接近する。

「ふぇ!?」

「あなたがハナね! クリストフから話を聞いてからずっと会いたかったのよ! ――ああ、わかるわわかるわ! あなたからとんでもない魔力を感じるわ! ねね、少しだけお話ししてもいいかしら!」

「え、えええ!?」

 怒涛のようにまくし立てる金髪の女性に、花奈は完全に面食らった様で困り声を上げた。


「……すみません、あなたはどなたですか? あまりハナを怯えさせないようにしてください」

 と、女の後ろからリフィアが肩を掴んだ。凛々しい声が彼女を制す。

「……あ、そうだったわね! ごめんなさい、取り乱してしまったわ」

 女性は意外にも簡単に引き下がり、花奈に頭を下げた。


 女は花奈から一歩離れると、ぱんぱんと白衣の裾を払ってもう一度頭を下げた。

「改めて初めまして。私はエミリア・アルバ。フェリア王国魔法研究室の室長よ」

 そう名乗った女性――エミリアは、長い金の髪をサラッとなびかせた。


「エミリア……さんですね。私は花奈と言います。よ、よろしくお願いします」

「ええさっき確認したから知ってるわ。よろしくね、ハナ」

 エミリアはにっこり笑って花奈の手を握った。思ったよりも社交的な人の様だ。


「それで、そこの金髪の女の子がリフィアで、そっちの黒いのが……ホウタだっけ?」

「……草太です」

「あ、そうだったわね! ごめんなさい」

 不満げに草太が訂正すると、エミリアは変わらない様子で謝った。


「……あ、あの……それで私にどんな用なんでしょうか……?」

「ふっふっふ……ハナ、あなたが全属性の魔法を使えるというのは本当?」

「え、あ、はい……」

「それに加えて、【唯一魔法】も?」

「は、はい……」

「――っ!」

 花奈の返答に、エミリアは感極まったように息を詰まらせた。

 三人がギョッと目を見開く。


「完っっ璧だわ! ここまでの逸材に出会えるなんて! ねえハナ! あなた、私の弟子になりなさい!」

「えええええ!? で、弟子ってどういうことですか!?」

「言葉通りの意味よ。私があなたに色々魔法について教えてあげるわ。だから、私の弟子になりなさいな!」

「え、ええ……そんなこと言われても……」

 花奈は困り顔で草太とリフィアに助けを求めた。草太は小さくため息をついて、エミリアに話しかけた。


「あのーエミリアさん、どうして花奈を弟子にするんですか?」

「決まっているじゃない! この子が素晴らしい輝きを秘めた原石だからよ! いずれ偉大なる大魔導士になるであろうこの子を、私がこの手で育て上げたいの!」

 熱のこもった口調で、エミリアが語る。三人はさっきから彼女のテンションについていけない。


「そ、そうですか……」

「ええそうよ! だからハナ……私を信じて、私の弟子になってくれるかしら?」

「え、ええっと……」

 花奈は相変わらず戸惑った様子で答えかねている。いきなり現れた人物に突然そんなことを言われたら、そうなるのも無理はないだろう。


 エミリアは返事に窮する花奈を見て、若干苛立ったように。

「ハナ。あなただって、もっと魔法について詳しく知りたいと思っているでしょう? もっと魔法を知って、色々なことがやりたいでしょう?」

 エミリアの言葉に、花奈は目を見開いた。


 花奈はまだ、魔法について何も知らない。これだけしか取り柄が無いのに、その長所でさえ先日のカブールとの戦いではほとんど封じられた。

 花奈はもっと強くなりたい。そのためには――もっと魔法を知らなければならない。


「……エミリアさん」

「何かしら?」

「魔法を知れば……もっと上手く魔法を使えますか?」

「ええ、使えるわ」

「魔法を知れば、もっと上手に戦えますか?」

「当たり前じゃない」

 間髪入れずに、エミリアは首肯する。

 花奈はそれを見て、大きく息を吸い込んだ。


 これは千載一遇のチャンスだ。自分がもっと強くなれる――自分が草太を守れるようになる好機だ。

 それを逃すわけには行かない。もう、あんな悔しい思いはしたくない。

 だから、花奈は一番聞きたいことを尋ねた。


「魔法を知れば……私は、もっと強くなれますか?」

 花奈のその問いに、草太は目を見張った。

 だって、花奈がそんなことを聞くだなんて思わなかったから。彼女は今の自分に満足していると思ってしまっていたから。


(花奈は、前に進もうとしているのか……)

 草太はどうしてか、自分が取り残されたような気分になった。

(なんだ、この気持ち……)


 考え込みそうになる草太の意識を、エミリアの声が引き戻した。

「――ええ、なれるわ。あなたは大陸で……いいえ、世界で一番強い魔法使いになれる」

 それは自信に満ち溢れた、すがすがしくも突拍子のない答えだった。エミリアはきらきらと輝く瞳で、花奈を見つめた。

 先ほどまでの花奈なら、思わず視線を逸らしていたところだろう。

 だが、今は違う。花奈も同じような視線を、エミリアに返す。


「――エミリアさん、弟子にしてください! よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくね、ハナ!」

 二人の天才魔法使いが、手を取り合った瞬間だった。


「じゃあ用は済ませたし私はこれで失礼するわね! それじゃ!」

 その後エミリアは特に何かをすることもせず、嵐のように去っていった。


「……また濃い人間が現れたな……」

 エミリアが出て行った扉を眺めながら、草太はため息交じりに呟いた。

「うん、でも……たぶんいい人だと思う」

 花奈は苦笑しながらも、エミリアと握手した手をぎゅっと握った。

「ハナがそう言うのでしたら、間違いはないでしょうね」

 リフィアがやさしい表情で花奈を見つめる。


「ま、そうだな。損にはならないだろうし、この城にいる間はあの人から魔法を教わるのがいいだろうな」

「ご、ごめんね、勝手に決めちゃって」

「いいって、気にすることでもないし。花奈がそうしたかったんだったら、頭ごなしに否定しないさ」

「……なんか、草太くん優しくなった?」

「なんでそうなるんだよ……」

 ぽかん、と呆気にとられる花奈を見て、草太は苦笑した。


 と、扉がコンコンと静かにノックされた。

「お、今度こそお迎えかな? どうぞー」

 草太がドアに向かって呼びかける。すると、ゆっくりと扉が開けられた。


「ソウタ様、ハナ様、リフィア様、お迎えに上がりました」

 そこには、給仕服に身を包んだ少女が立っていた。少女は三人を見遣ってからぺこりと頭を下げる。

「みなさんを王の間までご案内させていただく、リーシャと申します。……ご用意はできておりますか?」

 リーシャと名乗った少女の質問に、三人は身だしなみを確認して頷いた。


 部屋を出て、再び城の中を歩き始める。

「どれくらいで到着するんですか?」

「すぐですよ。それと、私に敬語を使う必要はございません。召し使いだと思って話しかけてきてください」

 花奈の問いに、リーシャは緑の瞳を向けながら静かに答えた。


 無愛想とは言わないが、あまり喋らない子のようだ。エリザと同じにおいがする。

「……わかった。何かしなきゃいけないことってある?」

「いえ、ありません」

「そ、そっか……あははー」

 すげなく答えられ、花奈は苦笑した。


 そんな様子を眺めながら、リフィアと草太がひそひそと話し合う。

「ソウタ、気づきましたか」

「……ああ。あのリーシャって子、足音がしない」

 リフィアの確認に、草太は頷いた。リーシャの身のこなしは只者ではない。


「恐らく、彼女は戦闘員の一人でしょう。迂闊な行動はできませんね」

「……まあ、特に何かする予定もないけどな……」

 悪人っぽいことを言うリフィアに、草太は苦笑いを返した。


 しばらく歩いた所で、一際大きくて豪奢な扉が目に入った。

「もしかして、ここが……?」

「はい。玉座となっております」

 リーシャはそう言いながら、扉を押し始めた。


 ギギギギィ……と重い音が響き渡る。

 やがて観音開きの扉が完全に開かれた。


「「「おお……」」」

 目の前に広がる光景に、三人は同時に感嘆の声を漏らした。


 広大な一室。窓には色とりどりのステンドグラスが飾られ、鮮やかに輝いている。天井にはいくつものシャンデリアがつるされていて、温かい橙色の光を発している。

 部屋の両端には数多の人々が整列していた。騎士、宰相、魔道士……この国にいる一線級の人々が一堂に会している。その中にはエミリアやクリストフの姿もあった。


 そして、草太達の正面。黄金に輝く玉座の上。

 豪奢な冠と正装に身を包んだ一人の男性が、草太達をまっすぐに見据えていた。


 彼から発せられる言葉にできない圧力に、草太は若干押されそうになるも、踏ん張って耐えた。そして、まっすぐに視線を返す。

(……この人が、フェリア王国現国王、そして現『金』の冒険者の一人――『冒険王』アベンテラー・ケーニヒ……!)


「――よく来たな、冒険者よ。……さあ、話を聞かせてもらおうか」

 一国の主と最強の冒険者を兼ねるアベンテラーは、厳かな声でそう言って、口元をわずかに歪めた。



読んでいただき、ありがとうございます!

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