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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第21話 状況整理

 暗い、暗い、暗い。


 その空間は途方もなく暗くて、そして寒かった。


 少年は――草太はその空間に一人で立っていた。

 立っていた、というのは間違いかもしれない。この空間には地面なんて無かったから。


 あたりを見渡す。けれど、何もなかった。

 とりあえずどこかに行こうと思って、足を踏み出す。

 すると、ポツリと何かが掌に落ちた。


「――っ!」

 草太は息を飲んだ。それは真っ赤な血だった。


 ばっと上を見る。途端に、おぞましい量の血の雨が降り注いできた。

「――!」

 草太はその血の正体が直感的にわかった。わかってしまった。


 これは、ダニエル達の血だ。自分が見殺しにした彼らの血が、草太を生き埋めにしようと降り注いでいるのだ。


「…………! ……!」

 恐怖に叫び声を上げる。けれど、音を失ってしまったように草太の口からは声が出なかった。


 いやだいやだいやだいやだいやだいやだ――。

 喚く。いや、喚けない。声が出ることは無い。


 血はどんどん溜まっていき、やがて広大な血の海を生み出した。

 草太の体が血の海に沈む。やがて、どっぷりと頭まで血の海に沈んだ。


 どろどろの血の海では、息が出来るはずもない。

 酸素を求めて海面に出ようともがく。けれど、もうどちらが上かわからなくなってしまっていた。

 苦しい。助けて。助けて。怖い、怖い……!


 涙を流しながら、草太は必死に手を伸ばす。

 誰か、誰か――。



 ばちゃん、と。

 頭上で誰かの手が伸ばされた。

 必死にその手に向かう。少しずつ、少しずつ、その手に近づいていった。


 そしてようやく、その手をつかんだ。

 柔らかく冷たい手だった。


 その手はもの凄い力で草太を引っ張り上げた。血の海から草太の体が引き上げられる。

 苦しそうに息をしながら、お礼を言おうと草太はひっぱてくれた人の顔を見た。


 そこには。

「――さァ、殺しあいましょウ」

 鮮血に染まりながら笑うメアリの顔が、草太を覗き込んでいた。



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! ――いっってぇ……」

 悲鳴を上げながら草太は跳ね起きた。


 同時に、ズキン! と腹に鋭い痛みが襲い、うめき声とともにうずくまった。

「はあ、はあ……夢、か……」

 呼吸を整えて、草太は呟いた。額から滝のような汗が流れる。


「……あんな夢は二度とみたくないな……」

 深くため息をついて呟く。そして、自分の状況を顧みた。


「俺……死んではない……んだよな?」

 半信半疑だが、草太は自分が生きていることを確認した。次いで周りを見渡す。

 自分が寝ていたのは、やすらぎの宿の寝室だったようだ。壁際にはリコシフォスが立て掛けられている。


「……」

 ぼふん、とベッドに横たわり、包帯が巻かれた腹部をさすった。


「あんな状況から、よく生きていられたよな……」

 記憶を探ってみるが、あの森の中でメアリに殺されかけたところまでしか思い出せない。

 一体、あの後自分の身に何が起こったのだろうか。


「……そうだ、花奈とリフィアは!?」

 二人の存在を思い出して、草太はベッドからはね起きた。


「いってぇええええ……」

 その直後に性懲りも無く、腹の痛みに呻いた。


 腹をさすりながらゆっくりと扉を開けた。廊下は無人で、しんと静まり返っている。

「……下かな?」

 きょろきょろと見回して、草太は階段に向かった。


 と、降りようとした瞬間に。

 草太の目の前の扉――花奈とリフィアが泊まっていた部屋の扉が開いた。

 その中から、髪を濡らして肌を露出した花奈がひょっこりと顔を出した。


「り、リフィアー? 拭くものまだ…………」

 辺りを不安げに見ていた花奈は、目の前で固まっている草太を見ると――。


「いやぁああああああああ!!!」

「ごめんなさあああああい!?!」


 涙目で悲鳴を上げた。

 草太は慌てて目をそらして、同じぐらいに大きな声で謝った。

 すると、階下から慌ただしく誰かが駆けてくる音がした。


「ハナ!? どうしました!? ……ってソウタ!? 目が覚めたのですね! 二日も起きなかったので心配しましたよ!」

 血相を変えて走ってきたリフィアは、草太を見ると安心したようにほっと息を吐いた。


「あ、ああ……えっと、これは一体どういう状況なんでしょうか……」

「ええ、話すと長くなります。それに、私たちもあなたに聞きたいことがいくつかありますから」


 草太の質問に、リフィアが神妙な面持ちで答えた。場に緊張が走る。


「それより拭くものを渡してよぉ!!」

 そんな雰囲気をぶち壊すかのように、花奈の悲痛な叫び声が上がるのであった。



「いやあすいません、ハナ。探している時に少し手間取ってしまって……」

「うぅ……もうお嫁にいけない……」

「あ、あの、肩ぐらいまでしか見てないからさ! 大事なところは何も……」

「そうですよハナ! 気にすぎです。私なんて以前、ソウタに全身を見られたことも――」

「俺に追い打ちをかけるのはやめろぉ!」


 場所は変わって、今三人がいるのはやすらぎの宿の一階にある食堂である。

 ひとまずここで状況の整理を行おうということになった。


 ちなみにロゼッタはコクヤとブレアと共に買い出しに出かけていて、現在やすらぎの宿に居るのはエリザだけだ。

 そのエリザも特に話に加わろうとせず、宿内の掃除に勤しんでいる。


「えーっと、話をまとめると……花奈はカブールを追い詰めたけど、ギリギリで逃してしまったと」

「うん……」

 花奈が落ち込んだ様子で頷いた。彼女にとって、かなり悔しい出来事のようだった。


「まあ……一人でそこまで追い詰めたってのは、凄いことだよな。お疲れさん」

 いたたまれなくなって、草太が軽いフォローを入れる。


「んで、リフィアはミレーラを……殺したと」

「……はい」

 リフィアは真っ直ぐな瞳で、草太の確認に頷いた。


「……リフィア、ありがとうな」

「――いえ」

 リフィアの表情は変わらない。この中で一番「殺すこと」に精通しているのはリフィアだ。

 考えていることも、草太や花奈とは違っているのだろう。


「……それで、俺はメアリにボコボコにされたと……」

 自分で言っておいて、草太は肩を落とした。余りにも情けない自分の戦績が嫌になる。


「……ソウタが手も足も出なかったとは……メアリという女性は一体何者なのですか……?」

「わからない。ただ、あいつの強さは別次元だった。それこそ――」

 ――それこそ、異世界転生チート級の強さだった。


 そう言いかけて、草太は口を噤んだ。こんなことを言ったら、リフィアを混乱させてしまうだろう。

「それこそ……なんですか?」

「……いや、なんでもない。そうだ、聞きたかったんだけど、あいつらとの戦いが終わった後、俺達はどうやって帰って来たんだ? 馬車も無かっただろ?」


 話を変えようと、草太は二人に気になっていたことを尋ねた。

「ああ、それはね――」

 花奈が答えようとしたところで、食堂の入口からエリザが顔を覗かせた。

「皆さんに、お客様が来ています」



 やすらぎの宿の玄関に出ると、そこには四人の男達が居た。

「あなたたちは……?」

 訝しむ草太に、花奈が耳打ちをする。


「この人達が、私達をここまで送ってくれたフェリア王国宮廷騎士団の人達だよ」

「宮廷騎士団……!」

 また大物が出てきたものだ、と草太は息をのんだ。


 その騎士たちの内の一人が、一歩前に進み出て草太に話しかけた。

「はじめまして、ソウタ。無事目が覚めた様ですね」

「あ、ああはい。どうも……」

 思ったよりも慇懃な態度に、草太は目を丸くした。騎士とはもっと傲慢な人種だと思っていた。


「俺はクリストフと言います。後ろの三人が左から、ジャック、グレイ、デールです」

「ご丁寧にありがとうございます。……それと、俺達をここまで運んでくれたことも……感謝しています」

「いえ、民草を守るのは騎士の責務ですから」

 クリストフは柔和な笑みを崩さずに答えた。


「……でも、もちろんそれだけでは無いのでしょう? あなたたちの目的はなんですか?」

 草太は真っ直ぐにクリストフを見つめた。

 すると、クリストフはその笑みを悪戯めいたものに変える。


「はい。お察しの通り、俺達が君達を助けたのは訳が有ります。……単刀直入に聞きます。あなたたちは、近頃スードで起こっている事件について、何か知っていますね?」

 クリストフからほんの少しだけ威圧が発せられる。


 それは微量ながらも、鋭利な刃物の様に鋭かった。

 「お前達は答えなければならない」。そう言われている様だった。


 瞬間、草太の背筋が凍る。メアリと対峙した時の様に悪寒が走る。

(……こんなこと、今まで無かったのに)

 草太は戸惑いながらも、平静を装って頷いた。


「――わかりました。ここではなんですし、奥で話します」



「なるほど……『黒の巨人』という謎の組織ですか……それが、スードに異変を起こしていた元凶という訳ですね」

 場所は再び食堂。

 草太達から説明を聞いたクリストフは、納得したように頷いた。


「はい。あいつらの目的はよくわかっていませんが、関係ない人達を襲う非道な人間であることは確かです」

「……わかりました。それで、スードの街で活動していた彼等の長が、アインズ・カブール・バルシュミーデということですね……やっかいなことになったな……」

 クリストフは難しい表情で考え込み始めた。


「……どうかしました?」

 草太の質問に、クリストフは「いえ」と呟いた。


「アインズ・カブール・バルシュミーデの遺体が、北の林道で見つかったのですよ」

「「「え!?」」」

 三人が驚きに目を丸くする。


「そんな……だって、私はあのひとを取り逃がして……」

 花奈が呆然と呟く。

「ええ、俺もそう聞いていました。ですが、事実として彼は死んでいた。何者かに殺されたのでしょう」

「何者か……」

 草太には、思い当たる人間が一人だけいた。メアリだ。彼女なら、カブールを簡単に屠れるだろう。


「……実は、あなた達と共にいた二人の冒険者――コニー・サンデルとケニー・サンデルの行方がわかっていません。もしかしたら、あの二人が『黒の巨人』の一員で、カブールを始末したのかも知れません」

「あの二人が!? そんなはずは……」


 否定しようとしても、その可能性が捨てきれないのが現状だ。あの中に他の『黒の巨人』のメンバーが紛れていても不思議ではない。


「ですがもちろん、そのような証拠はありません。……彼等はなかなか尻尾を掴ませたくないようですね。ですが、君達が生きていてくれて良かった。彼等の情報を知っているのは、君達だけですから」

「……でもよぉ、そんなに用意周到な奴らなら、こいつらをみすみす見逃すわけがなくねーか?」

 と、今まで黙っていたジャックが口を開いた。


「確かに不自然だな。でも、もしかしたら彼等は既に大きな目的を果たしてしまったのかもしれない。それこそ、ソウタ達を生かしておいても問題が無いような目的をね」

「っ……それは、もしかしたら私の血を得ることなのかもしれません」

 その話を聞いた花奈が、苦しそうに口を開いた。


「ああ……『ルージェン』の事ですね。かの宝刀にそんな力が有るとは知りませんでしたが……カブールは、ルージェンを使ってハナの血を手に入れたのですよね。そしてそれが彼の目的であったと……」

 クリストフが思案顔で呟く。


「ルージェンは、カブールの側には無かったんですか?」

「はい。恐らく、カブールを殺した人物が持っていったのでしょうね」


(つまり、結局は奴らの狙い通りになったというわけか……)

 話を聞きながら、草太は悔しさに歯を食いしばった。


 あんなに犠牲を払ったのに、何も変えられなかったのだ。

(ダニエル……オディロン……ユリアーネ……ごめん……)

 自分が見殺しにした三人の顔を思い出す。

 そして、彼等を殺したメアリの顔も。


「――っ」

 彼女の顔を思い出すだけで、身がすくむ。恐怖が足を這って全身を絡めとる感覚が襲う。


(あいつは、どうして俺を殺さなかったんだ……)

 草太の頭に、そんな疑問が浮かんだ。


「草太くん、どうしたの?」

「ん? ああ、メアリはどうして俺を見逃したのかって思って……俺が気絶する直前まで、あいつは俺を殺そうとしていたと思うんだけど……」

「丁度良かった。そのことについても聞きたかったのです」

 草太と花奈の会話に、クリストフが割って入った。


「ソウタ、あの時雷を落としたのはあなたですか?」

「…………かみ、なり?」

 クリストフの質問に、草太はきょとんと首を傾げた。


「ええ。あの日、晴れ渡った空から雷が落ちました。それも、一度だけです。そして、その雷が落ちた場所にあなたが倒れていた。……身に覚えは無いですか?」

「いえ、何も……花奈とリフィアも見たのか?」

「うん」

「はい」

 草太の確認に、花奈とリフィアが頷く。どうやら、草太だけが知らないことらしい。


「俺達はソウタが雷を落としたものだと思っていたのですが……」

「多分俺はもうその時は気絶していたと思います。……そういえば、確かにあの時、途切れそうな意識の中で稲光と雷鳴を感じたような……?」

 うーん、とうなりながら、草太は自分の記憶を辿る。


「……では、あの雷を落としたのはメアリということですか?」

「……いえ、それもないと思います。あそこであいつが雷を落とす必要性が無い」

「それもそうですね……」


 正体不明の落雷に、全員がうーんと頭を悩ませた。


「はいはい、もうすぐお昼ご飯の時間よ! そんな難しい顔は止めましょう?」

 そんな中、手を叩く音と共にロゼッタが笑顔で食堂に入って来た。

 後ろには大量の荷物を持ったコクヤとブレアが息を切らしながら立っている。買い出しでこき使われたのだろう。


「あ、ロゼッタさん……」

「おはよう、ソウタ君。目が覚めて良かったわ。もう二日間も何も食べていないのだし、今日は腕によりをかけて作っちゃうわよ」

「あ、ありがとうございます!」

 ロゼッタの相変わらずの様子に、草太はつい笑顔で頭を下げた。


「騎士の方々もいかがかしら? 多分食材は足りると思うけれど」

「いえ、他の仲間たちが待っているので、俺達はここで帰ります。お気持ちだけで十分です」

「あらそうなの? それじゃあブレア、皆様をお見送りしてくれる?」

「はぁ!? なんで俺が……少し休ませてくれ――」

「い・き・な・さ・い?」

「はい! 皆さま、こちらへ!」


 口答えしようとしていたブレアは、ロゼッタの言い知れぬ迫力に態度を一変させた。

「へ、ざまぁねぇな。俺は少し休ませてもらうぜ」

「……コクヤは下ごしらえ」

「え? は? ちょ、ま、いやあああああああああああああああ……」

 ブレアを笑っていたコクヤは、エリザにガシッと掴まれてズルズルと厨房に引きずられていった。


 ブレアの案内で、クリストフ達が食堂を出ていく。と、扉にさしかかった所でクリストフが振り返った。

「ソウタ、俺達は貴族区の憲兵詰所に普段はいます。三日ほど滞在するつもりです。何か思い出したことがあったら、いつでも顔を出してください」


「はい。何から何までありがとうございます」

 クリストフに頭を下げて、草太は素直な感謝の気持ちを言った。



 ロゼッタの宣言通り豪華な食事を済ませて、草太はふうと一息ついた。

「美味かった……」

「なんていうか、帰って来た感じがするよね……」

「ああ……って言っても、花奈とリフィアは二日前に飯を食っただろ?」

「うん。そうなんだけど……でも、それどころじゃなくて味がわからなかったって言うか……」

「んえ? なんで?」

「そ、それは……」

 草太の(無神経な)質問に、花奈は顔を赤くして言い淀んだ。


「ソウタ、ハナはあなたのことを心配していたのですよ。それはもうとても切なそうでしたよ」

「り、リフィア!!」

 見かねたリフィアの助け船に、花奈が顔を真っ赤にした。


「……ああ、そっか。うん、そうだよな。ごめんな、心配かけて。それと……心配してくれてありがとう」

「……うん」

 草太がそう言うと、花奈は赤い顔のまま小さく頷いた。


(世話が焼ける……)

 その様子を見ながら、リフィアはやれやれとお茶を啜ったのであった。



「――ところで、午後はどうしますか? もし草太が良ければ、行きたいところが有るのですが……」

「行きたいって言うか、行かなきゃいけない所かな」

 リフィアと花奈が、伺うように草太を見つめた。


 その視線を受けて、草太も頷いた。

 きっと、三人とも考えていることは同じだろう。

 今回の事件で一番の被害者と言える者の場所。草太達はそこに行かなければいけない。


「ああ、俺も行こうと思っていたところだ。……行こう、ペリオスさんの所に」

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