第3話 さあ、異世界転生の時間だ
今回長めです
アテナのぶっ飛んだ発言に、草太と花奈はぽかんと口を開けた。
花奈は何を言っているのか全くわかっていないような目で、草太は半信半疑と痛い子を見るような目で、アテナを凝視する。
アテナもそれに気づいて少々自信なさげになる。
「あ、えと、ここ盛り上がるとこなんだけど」
「……とりあえず、病院行こう? …………頭の」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 別に私はそういうことじゃないの! これは本気で言ってるのよ! どうして信じてくれないの!?」
草太の優しい声かけに、アテナは慌てて手をふる。
「どうしてって、そんな簡単に異世界転生なんてこと信じられるかよ。信じかけたけど、所詮フィクションの話だろ」
「それができるのよ! だって私は女神だから!」
「それが一番信じられない」
「むきーっ!! あんたほんとなんなの!? これ以上神を冒涜するようなこと言ったらただじゃおかないわよ!」
アテナが何やら喚くが、草太は明後日の方角を向いてスルーしている。その二人の様子を見かねた花奈が助け舟を出した。
「あの、とりあえず詳しい話を聞かせてくれませんか?」
花奈の言葉を聞いてちょっと落ち着きを取り戻したアテナは、ふーーーっと息を吐いた。
「そうね、私としたことが取り乱したわ。でも、ハナは本当に素晴らしい人物ね。どっかのクソ童貞とは大違いだわ」
「あ、アテナさんも煽るのはやめてください……」
なおも言い争いを続けようとするアテナを花奈が必死になだめた。草太はジト目でアテナを睨んでいる。
なぜかさっきから二人の仲を取り持つような立場に置かれている花奈は、胃が痛むのを感じた。
三分ほどして、ようやく完全に落ち着きを取り戻したアテナは、二人に『異世界転生』の説明を始めた。
「実は、あなた達が住んでいる世界の他にも、数多の世界が存在するのよ。それは例えば日本でいうファンタジーな世界、または科学技術が発達している世界、逆にほとんど発達していない世界、あとは、男女比が一対九の世界などなど……。まあとにかく色々ね。そこで、天に召すことができない、そのまま生き返らせることもできないあなた達を異世界に転生させて、証拠隠滅しちゃおうってわけなの」
「わけなのじゃねーよ」
草太のツッコミを、アテナは軽くスルーした。
「どうかしら? あ、記憶と体はそのまま引き継げるわよ。異世界の言語も私の力で話して読むことができるようにするし、私のミスで二人は死んじゃったわけだから色々サービスするし」
アテナの提案に、草太は少し考え込む。
(もしこの自称女神が本当に女神で、異世界転生の話が本当だったら、それはかなり魅力的な話だな)
日頃からそういうジャンルのラノベを読んできた草太にとって、ファンタジーのような異世界に行くことは捨てても捨てきれない夢なのだ。
「……わかった。ただし、お前が本当に女神なのか証拠を見せてくれ。それがないとやっぱりまだ信じられない」
草太の言葉に、アテナは顎に手を当て少し考えてから、一つ頷いた。
「これでどうかしら?」
そして、指をパチンとならした。
するとなんということだろうか。アテナの背後の空間に様々な種類の武器が現れたのだ!
「「ええええ!?!!?!!」」
いきなりの超次元な光景に、草太と花奈が揃って驚きの声を上げる。
そんな二人を見て、アテナが得意げに笑う。
「どう? 信じてもらえた?」
これには草太も頷くしかない。それほどに、無数の武器が浮かぶ光景は非現実的で幻想的だった。
もう一度指を鳴らして武器を消し、アテナが話を再開する。
「じゃあ、そろそろどんな異世界に行きたいか聞こうかしら。ソウタはどんな異世界に行きたいの?」
「もちろん、ファンタジー世界で」
迷うことなく即答する草太。
「そ。まあ、予想通りね。ハナは?」
「え、えっと……、私も、草壁くんと同じような世界でお願いします」
花奈の答えに草太が意外そうに目を丸くした。
「森園さんってファンタジーとかに興味あったの?」
「うん、昔絵本とかで読んだし、指輪物語とか好きなんだ」
「あーなんか想像できるわ」
草太が納得したように頷いた。
「……よし、あなた達を送る世界が決まったわ。それじゃあ今度は、その世界での天職を教えるわね」
「「てんしょく?」」
草太と花奈が首をかしげると、アテナは簡潔に説明した。
「天職っていうのは、その人に一番合っている職業のことよ。どうせ転生するなら、なんかすごいことやってみたいでしょ?」
「まあ、チートもらって俺TUEEEEとかには憧れるな。あと、商人とかになってボロ儲けとかもできる可能性があるってことか」
「そういうことね。それじゃあハナ、こっちに来てくれる?」
アテナの指示に花奈が素直に従い、アテナの前に立った。花奈の身長は女子の平均ぐらいなのだが、アテナが小柄なので花奈を少し見上げる形になる。
「けっこう大きいわね……」
それは、身長のことを言ったのか。ある一点をじっと見ていても真偽は定かではない。
たとえちらりと自分の胸元をみてしゅんとなっていても、アテナが何について呟いたかは定かではないのだ。
「くっ………それじゃあ目を閉じて。リラックスしていいわよ」
「は、はい……」
目を閉じた花奈の額に、アテナが手を置と、淡く青白い光が生まれた。
……少しして、黙っていたアテナが目を丸くする。
「こ、これは……っ!?」
「え、なんですか? 何かまずいことでも起きましたか!?」
目をつぶったままの花奈が怯える様に声を上げた。
「あ、だ、大丈夫よ。別に悪いことじゃないわ。むしろいいことよ。……はい、目開けていいわよ」
花奈が恐る恐る目を開く。
「……ハナの天職は大魔導師ね」
「大魔導師? つまり魔法使いですか?」
「そうね。しかも魔法使い系の職業で最強の職業よ。その身に膨大な魔力を持ち、他とは桁違いの威力の魔法を放つことができるわ」
「何そのチート……」
横で話を聞いていた草太が呆れた様に呟いた。
「ええ、正直私も予想外だったわ。でも、とても強力な職業だから、冒険者として成功しやすいわね」
「そうなんですか。……ふふ、なんだか嬉しいな」
ほわっと笑う花奈にアテナも笑いかえし、ついでじろっと草太を見る。
「じゃあ次そこの童貞」
「おい、随分扱いの差が大きいな? 神様のくせに男女差別するとかどうよ」
かなり失礼な呼びかけに草太が抗議するが、アテナは平気な顔だ。
「あんたが、『私が悪うございました、お許しくださいアテナ様』って言ったら扱いも平等にしてあげるわよ……はい、さっさと私の前に立って」
「死んでも言わねえぞ、そんなこと!!」
不満をもらしながらも草太はアテナの言う通りにする。
目を瞑ると、額に温もりが生まれた。その心地よさに、少し眠くなってくる。
そんな草太の眠気は、アテナの二回目の驚きの声によって吹き飛ばされた。
「はあーーーーー!?!? ありえない、ありえないんだけど!! なんでこんな生意気童貞が……!」
「今まで我慢していた分を今ここで発散してもいいんだぞ? ……ていうかなんだよ、俺の天職ってなんなんだよ」
草太が目を開くと、目の前には花奈の時以上に驚いているアテナの姿があった。わなわなと震えてさえいる。
「あの、アテナさん?」
「……………はっ! しまったいきなりの衝撃に意識を失いかけたわ!」
「どんだけ驚いてるだよ」
草太が呆れ口調でつっこんだ。
アテナは気を取り直す様に一つ咳払いをした。
「……こほんっ……クサカベソウタ、あなたの天職は、『天使』よ」
「てんし? それって天の使いの天使?」
「そう。魔法が使え、武器も操れ、さらには召喚魔法なんていう特殊な魔法も使える、最上級職の一つよ」
「なにそれチートすぎんだろ。……でも俺もチートゲットか、やったぜ!」
草太はアテナの説明に最初は呆れ顔になったが、すぐに嬉しそうにガッツポーズをとる。
それを見たアテナがうんざりとした表情でボソボソと。
「ありえないわ、どうしてこんな常識知らず礼儀知らずの生意気童貞が天使なんて……」
「やっぱお前を一発叩いていいよな。最強職の力を見せてやるよ」
ついにプッツンした草太とアテナが手四つの状態で睨み合う。
「神に手を挙げるとはなかなかいい度胸じゃない。そのことを私にボコボコにされながら後悔するがいいわ! ……ああ後、天使は最強職じゃないわよ?」
「は? そうなの?」
アテナの指摘に草太がアテナから離れて訝しげに問う。
「ええ、三番目ってところね」
「ふーん。じゃあ、上二つの職業ってどんな職業なんだよ?」
「二番目が『眷属』。これは神からの寵愛を受けた者が自動的になる職業よ。天使は戦い専門なんだけど、眷属はそれに加えて商いとか勉学とかにも秀でているわ。……そしてトップは『亜神』という職業よ。神の血肉を食べることで自動的になる職業ね。これは眷属の能力に加えて傷を負っても再生するっていう能力を得るの。たとえ心臓を貫かれても、頭をかち割られても、死ぬことはなくなるわ。つまり不死になるのよ。……ただ、亜神は――」
「ふーん、なあアテナ、俺にお前の血を少しだけくれよ」
なおも何かを説明しようとするアテナの言葉を遮って、草太がそんな提案をした。
と、アテナがガッと草太の胸ぐらをつかんだ。
「あんた次そんなバカなこと口走ったら、問答無用で異世界転生取り消してタルタロスにぶちこむわよ!!!!」
「な、なんだよそんなに怒んなよ。悪かったって」
さすがの草太も、アテナの剣幕に押されて素直に謝った。アテナはふーふーと呼吸を落ち着かせて、草太を解放する。
「ほんとに無礼者ね、あんたは。こんな死者初めてだわ」
「おいおいいきなり褒めるなよ」
「褒めてない! ……さて、それじゃあ転職も決まったわけだし、今度は装備をあげるわね。まずは防具よ!」
アテナがまた指を鳴らす。すると、草太と花奈の体を光が包み、光が消えると二人の服装は一変していた。
花奈は白を基調としたゆったりとしたローブだ。ところどころに金色や水色の刺繍が施されていて、神秘的な印象を与える。
「わあ……素敵です! ありがとうございますアテナさん」
「大事にしてね」
美少女二人が互いに笑いあい、柔らかな空気が生まれた。
「おい、これはどういうことだよ」
そんなに穏やかな空間に、うんざりとした声が響いた。
声の主はもちろん草太だ。目を眇めてアテナを睨んでいる。
その格好は、黒のシャツに黒のズボンを合わせ、さらにその上から黒のコートを羽織っている。黒髪黒目と合わさって、小学生が見たら「あ、まっくろ○ろすけ!」と言われてしまうだろう。
「なんで俺はこんな黒ずくめなんだよ! センスおかしいだろ! 後、天使が黒ずくめってどうなんだよ!?」
草太の抗議に、アテナはツインテールをさっと払うと得意げに言った。
「なに言ってんの? わざとダサい格好にしたに決まってるでしょ? あと、あんたは堕天使がお似合いよこの生意気童貞」
「なんだとこの貧乳女神!」
「あんた今言っちゃいけないこと言ったわね! そこに直りなさい、天罰をくれてやるわ!」
もはや普通に会話ができない二人。ちなみに花奈はもうなにを言っても無駄だと悟り、傍観することにしている。
「……ったく、あんたのせいでこんなに時間がかかっちゃったじゃない……それじゃあ最後に武器を与えるわね」
そう言ってアテナは再び指を鳴らした。先ほどと同じ様に無数の武器が現れる。何度見ても飽きない光景だ。
「さ、好きに選びなさい。ただし一人一個までよ」
アテナのあっさりとした指示に、草太と花奈は顔を見合わせて、恐る恐る、目を輝かせながら武器の群れに近づく。
そこからは、二人は夢中で自分の武器を探し始めた。
十分後。
「私、これにします」
花奈が一冊の本を持って来た。
「魔導書ね。魔導書は様々な魔法が載っているわ。その中でもそれは情報量がピカイチね。あと、魔導書は杖みたいにあなたの魔法の威力を上げてくれる効果も持つわ」
アテナは花奈に頷くと、未だ武器に囲まれている草太を見た。
「全くあいつはいつまで選ぶつもりかしら。ちゃっちゃと決めなさいよ」
「草壁くん、ああいうの好きらしいですから」
呆れ顔のアテナの言葉に、花奈が苦笑交じりの笑みを浮かべる。
一方草太は、数多の武器に囲まれながらうんうん唸っていた。
(やっぱファンタジー世界に行くなら剣とか使ってみたいよなー。でもでかい斧を振り回すのも悪くないし……ん?)
ふと、草太の視界に小さな金色の輝きが映った。
それは、一振りの剣だった。鮮やかな金色の光が目に眩しい。
刃の幅があまり広くない代わりに、刀身が少し長めになっている。持ってみると、程よい重みが伝わり、手によく馴染んだ。
「これにするか」
草太が呟くと、背後からアテナが覗き込み、おっ、と声を漏らす。
「『リコシフォス』ね。生意気童貞なあんただけど物を選ぶセンスはあるじゃない」
「そうだろうそうだろう」
いつの間にか出したのか、アテナが放った鞘を片手で受け止めて、リコシフォスをしまう。それを背中に背負ったところで花奈が草太の隣に立った。
「……それじゃあいよいよ異世界転生の時間ね。私が言うのもなんだけど、貴方達の新しい人生にいいことがあることを願っているわ」
「おいおいいきなり随分と真面目になったな」
「うるさいわね、お別れの時ぐらい真面目にやるに決まってんでしょ。……さ、肩の力を抜いて、呼吸を落ち着かせなさい」
「あ、ちょっとタンマ」
厳かに語るアテナに、唐突に草太が待ったをかける。
「? なによ?」
「……いや、なんだかんだ言って、お前には色々やってもらったからさ、そのなに、感謝の気持ちというか……。……ありがとな、アテナ」
いきなりの、あの草太からのお礼に、アテナが明らかに狼狽えた。
「な、なによいきなり、だ、だって私のせいであんた達は死んじゃったんだから、これくらいするのは当たり前でしょっ。お礼を言われる筋合いなんてないわ」
「それでもだよ。ありがとう」
「私も……ありがとうございます」
揃って頭をさげる二人に、アテナがあうあうと声を漏らしながら顔を赤くする。
「も、もういいでしょ!? ほら、そろそろ転生を開始するからじっとしてて!」
テンパるアテナを見て、草太と花奈が顔を見合わせてクスリと笑った。
「はい、行くわよ。………………元気でやりなさい」
アテナのその言葉を合図に、草太と花奈の体が眩い光に包まれる。
――さあ、異世界転生の時間だ。
二人を転生させたアテナは、しばらくぼーっとつっ立っていた。その視線は、先ほどまで草太が立っていた場所へと注がれている。
「ほんと、なんなのあいつ……いきなりお礼言うとか反則でしょ……さっきまであんなに言い争っていたのに、なんであんな優しい顔で微笑むことができるのよ……」
アテナにとって、男は取るに足らない存在であり、興味など微塵もなかった。ましてや、異性を好きになったことなど、一度もなかった。
「そもそも女神の私をあんなにバカにする人間なんて今まで見たことなかった……」
だから、アテナは知らない。生まれて初めて経験するこの感情の名を。
「いいえアテナ、騙されちゃダメよ。こんなこと別にどうってことないんだから。男なんてバカばっかよ、そうでしょう?」
ゆえに、アテナは気づいていない。草太の職業がすでに天使から眷属にクラスチェンジしていることを。
「クサカベソウタ…………ソウタか……」
アテナが自らの想いに気づくのは、もう少し先の話……。
読んでくださりありがとうございます!
誤字脱字報告、感想お待ちしております。
ようやく次回から異世界です。




