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童貞男子高生の紡ぐ転生神話  作者: 大庭青葉
第2章 異世界探索・初級
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第20話 悪の火種

短めです。

 王都グローアルから南に進んだ森にあった空き地で、調査隊の面々は野営の準備を進めていた。

 騎士たちはみな、慣れた手つきで各々の仕事に従事している。


 その騎士たちの指揮を執るクリストフは、満足そうにその様子を眺めていた。もちろん、彼も一生懸命に薪拾いをしている。


 と、一人の騎士がクリストフに声をかけた。

「クリストフ隊長、見回りをしていた騎士たちが戻ってきました!」

「ああ、ご苦労。何か異変はあったか?」

 クリストフは労いの言葉をかけ、その騎士に尋ねた。


「いえ、森は平穏そのものでした。魔物も近くには居ないようでしたので、安全だと思います」

「そうか、ありがとう。じゃあお前達は少し休んでから他の人達に加わってくれ」

「「「はい!」」」


 支持を出した騎士達が去っていく。それを確認して、クリストフはほっと一息ついた。

(懸念事項だった魔物も問題が無いようで良かった。予定通りの距離を進めたし、明日にはスードに着けるだろう)


 クリストフがそう考えて安心していたとき。


 彼の視線の先で、一条の稲妻が閃いた。

 次いで、ピシャア! という轟音。


「なんだ!?」

「雷か!?」

「まさか、こんなに晴れているのに!?」


 作業をしていた騎士達が警戒態勢に入った。

 辺りの空は雲一つない星空だ。自然現象の雷とは考えにくい。

 ならば、何者かが雷系の魔法を使ったと考えるのが自然だろう。


「みんな、落ち着いてくれ。雷が落ちたのはかなり遠い場所みたいだ」

 そんな彼らを、どこに雷が落ちたのか唯一見ていたクリストフが鎮める。


「雷を落とした本人がここに来る可能性は低いだろう。ただ、放っておくわけにはいかない。俺を含めた何人かで調べに行こう」

 クリストフの提案に、騎士たちは頷いた。


「それじゃあ……ジャック、グレイ、デールは俺についてきてくれ」

「「「はっ!」」」

「残った者達は警戒態勢を解かないように。野営の準備も一旦やめていい」

『はい!』


 全員に支持を出し、クリストフは馬に跨った。

 そして、雷の落ちたほうに向かって走り出したのであった。



「………………!」

 遠く向こうから、声が聞こえる。


 うるさいなあとぎゅっと眉間にしわを寄せた。

 今は疲れているのだ。大きな事件を終えて、起き上がるのも億劫なのだ。


 そこまで考えて、花奈に一つの疑問が浮かんだ。

 ――あれ? 自分はいったい、何をしていたのだろうか?


「…………ナ……ナ! ……ハナ!」


「――りふぃ、あ……?」

 目を開いた花奈は、彼女を覗き込むリフィアを見て呟いた。

「ハナ! 良かった、目をさましましたね!」


 花奈が覚醒したことを確認して、リフィアは安心したようにほっと息を吐いた。

「あれ……私……」

 寝起きでぼーっとする頭を必死に働かせる。


「……そうだっ! 私、カブールと戦って……っ! ごめん、リフィア。私、あの人たちの目的を防げなかった……」

「その話はまたあとで聞きます。それより、ソウタがまだ戻ってきていません。……何かがあったのかもしれません」

「っ! 急いで草太くんの所に行こう」


 リフィアの言葉を聞いて、花奈はがばっと起き上がった。だが、すぐにふらふらとへたり込んでしまった。

「ハナ!? 大丈夫ですか!?」

「あ、あはは……ちょっと疲れちゃったみたい……リフィア、肩を貸してもらえる?」

「もちろんです。さあ、つかまってください」


 リフィアの肩につかまり、花奈はなんとか立ち上がった。

「ありがとう……あれ? コニーさんとケニーさんは? リフィアの応援に行ってもらったはずなんだけど」

「そうなのですか? 私は会いませんでしたが……」

「すれ違っちゃったのかな……」

 花奈が不安そうに表情を曇らせる。あの二人に何かあったのだろうか。


「二人のことも心配ですが、今はソウタを探しに行きましょう」

「……うん、そうだね」

 リフィアの忠告に、花奈は不安を振り払って森の中に向かって歩き始めた。



 落雷を確認してから十分ほどで、クリストフ達はその場所に到着した。

 そこは既に火の手が広がり始めていた。


「これはやばいな……どんだけ強力な魔法を使ったんだ?」

 パチパチと燃える木々を見て、銀髪を短く切りそろえたジャックが深刻な表情で呟いた。


「ひとまず火を消すのが最優先だな。グレイ、頼めるか?」

「あいよー」


 クリストフの指示に、青髪のグレイが魔法を唱える。

「【レインフォール】」


 辺りに雨雲が広がり、次第に火を消していった。

 これで一安心だな、とクリストフは頷いた。


「んで、こっからどうするんだ、クリストフ隊長?」

「……今は隊長なんて呼ばないでくれ、デール。俺達の仲だろ?」

 茶髪のデールが砕けた口調でからかってきた。クリストフは苦笑いでそれに返す。


 実は、この四人は同じ時期に宮廷騎士団に入った、いわば同期なのだ。なので、普段から四人でつるむことが多い。今回三人が調査隊に入っているのは、クリストフが意図的に入れたからだ。


「お前は相変わらず小心者だなぁ。もう少し自信を持てよ」

 ジャックが困った顔で言った。


 クリストフは苦笑を返す。

「俺は隊長に向いてないんだよ……まあそれは置いておこう。今は人がいないか探さなきゃな」

「辺りに警戒しておかなきゃな。雷魔法を使った奴が近くにいるかもしれない」

 デールの言葉に、四人が気を引き締めた。



 しばらく辺りを歩き回った。焦げた枝葉の匂いが鼻をつく。

「……っ! おい、人が倒れているぞ!」

 不意に、ジャックが声を上げた。

 指差す方を見やると、確かに人影が倒れているように見える。


「……行ってみよう」

 クリストフが言うと、他の三人も頷いた。


 そこにいたのは一人の少年だった。歳は十六ぐらいで、この辺りでは珍しい真っ黒な髪色をしている。

 少年は血だまりの中で気絶していた。


 仰向けにすると、その腹には大きな切り傷が刻まれていた。それを見て、みな一様に顔をしかめる。

「出血がひどいな……かろうじて息はしているようだが」

「とりあえず血を止めよう。……【呼ぶは光・天上の癒し・エンジェルヒール】」

 グレイが上級の回復魔法を使うと、少年の傷はみるみる塞がっていた。少年の顔色も少しだけよくなったようだ。


「ありがとう、グレイ」

 グレイにお礼を言って、クリストフは少年を地面に下した。


「他には…………おい、あれは……なんだ……」

 辺りを見渡したデールが、はっと息をのんだ。

 他の三人も同じ方向を見る。


『っ!』

 そして、同時に声を詰まらせた。


 三つの死骸があった。あるものは腹を切り裂かれ、あるものは首を刎ねられ、あるものは両腕を切り落とされていた。

「惨いな……」

「誰がこんなことを……」

 ジャックとグレイが苦い顔で呟いた。


 クリストフがそっと遺体の近くにしゃがんで、冒険者の証を見つけた。

「ダニエル・ベルファスト、オディロン・リングステン、ユリアーネ・グレンジャー……全員、『赤』の冒険者だな。それなりの手練れだったのだろう」

「あっちの黒ずくめの彼は『緑』の冒険者だったな。……名前は、ソウタ……? 変な名前だな。しかも姓が無いとは……相当な訳ありみたいだな」


 ジャックが付け加える。

「彼……ソウタがこの冒険者たちを殺したとは考えにくいな。『緑』の冒険者が『赤』の冒険者三人を相手にできるとは考えにくい」

「デールの意見に同意するぜ。まあなんにせよ、黒ずくめ君が起きないことには何があったかも聞けないけどな」

「そうだな……ひとまず、野営地に戻ろう。あまり待たせると皆が心配するだろうし」


 クリストフの提案に三人が頷いた。そして、止めてある馬に向かおうとしたとき。


「そ、草太くん!」

 不安に駆られた少女の声が聞こえた。


 声をした方を向くと、二人の少女が立っていた。

 一人は茶髪の大人しそうな少女。服装から見るに魔法使いだろう。もう一人は彼女より少し背が高い金髪の少女であった。背中には弓と矢筒を背負っている。

 二人とも、どうしてか激しく汚れていた。


「ん? おお、可愛いな! 俺は背が高い方が好みだ」

「ジャック、そういうのは後にしろ……」

 好色のジャックをたしなめて、クリストフは少女たちに一歩近づいた。


 と、彼女たちは一斉に警戒態勢に入った。

 なるほど、どうやら自分たちを敵だと思っているらしい。

 クリストフは両手を上げて敵対意識がないことを示して、優しい口調で少女たちに語りかけた。


「初めまして。私たちはフェリア王国宮廷騎士団の騎士です。私の名前はクリストフ。……敵対するつもりはありません。……あなた達は、こちらの冒険者――ソウタの知り合いですか?」

 クリストフの質問に、少女たちは恐る恐るといった風に頷いた。


 その反応に、クリストフは柔和な笑みを作り。

「そうですか、ちょうどよかった……あなた達に聞きたいことがあります。この森で何があったのか――教えていただけませんか?」

 優しく二人に尋ねた。



 深く暗い森の中。そこに、三人の男女が立っていた。

 そのうち二人は、コニーとケニーだ。もう一人の人物は真っ黒なフードを目深に被っていた。


「では……そのソウタという人物は、二つの白魔法を使ったのだな」

「はい、この目でしっかりと見ました」

 フードを被った人物の声は、男とも女ともとれない無機質なものだった。


「そうか……それでは彼が……」

「ウィルフレド様、彼をお迎えいたしますか?」

 ケニーがフードの人物に尋ねる。

 ウィルフレドと呼ばれた彼は、その問いに首を振った。


「今はまだいい。『黒の巨人』の連中を相手にする時期ではないからな」

「わかりました。では、僕達は引き続きフェリア王国で布教(ふきょう)活動を続けるべきでしょうか?」

「ああ、それももう十分だ。お前たちのおかげで、この国にいる多くの迷える人々が我が教会に辿り着いた。よくやったな、サンデル兄妹」

「「ありがとうございます!」」

 ウィルフレドの言葉に、コニーとケニーが頭を下げた。


「我々はこれから、この国を出て隣のノルデーン王国に向かう。そこに、早急に救うべき人物がいると分かったからだ」

「その人物とは誰なのですか?」

 コニーの問いに、ウィルフレドはフードから覗く口元を歪ませた。


「『殺戮道化』――ジョネス・キングだ」

「なっ……殺戮道化……!? クリシュ大陸中で指名手配されている猟奇殺人者ですか!? いつの間にサラス大陸に!?」

 その名前を聞いて、ケニーが顔を驚愕の表情で歪めた。


「ああ、その男だ。罪なき我々の同胞も何人か彼に殺されたな」

「そんな男をどうして……!」

 コニーが声を荒げる。自分たちの仲間に、そんな下劣な悪党を迎え入れる必要はない。そう訴えるかのように。


 だが、ウィルフレドは芯の通った声で告げた。


「――ラモール様は、彼を赦すと仰られた」

「「っ!!」」

「慈悲深い我らの主は、極悪非道を尽くした彼にも慈悲を与えるという神託を下したのだ。故に我々は、ジョネス・キングをラモール教に迎え入れる!」


 ウィルフレドは高らかに宣言した。黒く染まった森に、彼の声が響く。

 その言葉を聞いて……コニーとケニーもまた、感動に声を震わせた。


「おお……! さすがは私たちのラモール様……! 罪人でさえも、その慈悲深き心でで包み込んでしまうというのですね……」

「……ラモール様が赦すのならば、僕たちも赦しましょう。……きっと、ジョネス・キングも救いを求めている哀れな一人なのです。ええ、救いましょう。それが主の意思であるというのならば!」

 二人がその場に跪いて天に向けて祈った。


 感動の涙を流しながら自らの主を讃えるその姿は、傍から見れば狂気そのものだった。

 だが、それが彼らの――『ラモール教』の信者の日常なのだ。


「さあ、行こうか……『白銀の女神』に選ばれた戦士たちよ。(ラモール)の意思の元に!」

「「(ラモール)の意思の元に!!」」


 歓喜に満ちた笑みを浮かべながら、三人は森の中を進み始めたのであった。



 スードに蔓延っていた『黒の巨人』は壊滅した。

 強大な悪が居なくなったスードには、再び平穏が訪れるであろう。


 しかし、同時に。


 ――スードで燻っていた悪の火種が、大陸に燃え広がり始めていたのである。



読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字報告お待ちしております。

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